青い空。白い雲。輝く緑の大地。
なあんて穏やかな午後のひと時だろう。
……って、なあ。
目的も無く(いや、あるんだけど)こうやって外でゴロゴロ過ごすようになって、今日で何日目だ? 3日目か。まだそんなに経っているわけでもないか。うん。……いやいや、充分だってば。3日も何もせずにうすらぼんやりと空を眺めてられるオレって、実際凄いって。
朝からぶらりと散策に出かけて、日が落ちるまでぬたぬたと過ごし、夜になったらひっそりと佇む街外れの酒場で一杯ひっかけて深夜帰宅、なんて。
働き者のオレ様、飽きます。そろそろ限界です。
噂の魔女ってヤツ、いい加減現れてくれないものかなあ。
向こうがどこにいるのかわからないから、こっちはただ待つしかないってのに。わざわざわかりやすいように、精霊石で出来たブレイド、腰から引っさげて日がな一日寝転んでるんだからさ。
穏やかに晴れた日が続いてるけど、今は一応冬真っ只中なんだぜ? すがすがしいを通り越して、けっこう寒いんだけどな。
「暇すぎる……」
ついつい独り言を洩らして、寝転んでいた草地から身体を起こせば、目の前に広がる湖が反射する光に目を射抜かれる。
なかなかの絶景、と思う暇も無く、ザクリと鈍い音が背後から聞こえた。
つい今しがたまでオレの頭があった場所に、いや、正確に言えばギリギリはずれた、頬を掠めそうな位置に、大振りな槍の鋭い刃が突き立っていた。
「運が良いこと」
鈴を転がすような声と共に、なかなかの細工を施された槍が、強い力で引き抜かれる。
オレの後方2メートルほどの場所に、黒に近い紺色の外套を羽織った人物が、槍を構えて立っていた。
あああ……やあっと現れてくれましたか。
「それとも、運ではなくて? 私の気配を読んで避けたのだとしたら、大したものなのだけれどね」
なるほど、情報はデマではなかったらしい。
フードを深く被っていて顔は見えないけど、小柄な身体や高い声は確かに女性特有のそれだ。でも魔女だなんていうから、ついうっかりワシ鼻の婆さん的なものを想像しちまってたのに、思ってたより若そうというか、むしろ、少女? 的な?
「その身に着けている精霊石を渡しなさい」
言葉と共に、魔女が槍を構えた。
見かけによらず力持ちィ~。
というか。
「なんで魔女が槍なわけ? 魔法使いは杖を振るモンなんじゃないの?」
そんな物騒なもんを振り回す魔法師なんて、聞いたことないよー?
オレが疑問を投げかけても、魔女は槍を構えた手許を緩ませたりはしない。
「いつの時代の先入観で物を言っているの? 時代遅れもいいところ」
はあー、そうなのか。
なにぶん、魔法師自体の人口が少ないもんで、あまり本物にお目にかかったことがないんですよ。
「いいから精霊石を置いて去りなさい!」
いきなり、魔女はブンと槍を振り回した。
オレごと空気をなぎ払うような勢いだが、避けられないほどのスピードじゃない。身体を使った戦闘は、本業じゃないんだろうになあ。
ヒョイとかわすと、魔女は顔色を変えた。多分。
「やはりさっきのは運じゃないってことね? 何者……」
「普通の人間だったらヤバいくらいの威力はあるけどね~。オレハンターだもん」
「ハンター!?」
一般人は、こんなでかい精霊石を使った剣なんて持ってませんて。もっとも、中央ギルドの中でもこんなものを持ってるのはオレくらいだけど。
「ハンター相手にいさかい起こさない方がいいと思うけど。面倒なことになるよ?」
「うるさい!」
ブンッとまたひと振り。
おおっと、今度は危ない。なかなかどうして、槍の扱いに慣れているようではあるけど。
「あれだよね。魔法力が足りないから、精霊石が欲しいわけだろ? そんでもって、その精霊石は手に入ってないんだから、魔法力不足を補うためには、実戦で使える武器も技術も必要って、つまりそういうことだよね。その槍は」
「……ッ!!」
瞬時にして、槍を構える魔女の両手に青い光が生まれた。
みるみる槍全体を覆いつくしたその光は、まといきれない輝きを、空気中に散らしながら、力を蓄える。
「甘く見ないで!!」
うわー、ヤバい。当たったら痛い。
槍を真正面に構えて向かってくる魔女の身は軽い。ウエイトはないだろうけど、スピードは超能力級じゃないか!? さっきのはやっぱり多少手加減してたって訳か。
間一髪横に避けたけど、まとった魔法力だけは、完全には避け切れなかった。
「……ッだあアァ!!」
喰らう衝撃は想像以上。いってえええ~。感電、に近いのか、これは?
衝撃で吹っ飛んだ身体を即座に立て直すと、真正面に低い姿勢で立つ魔女のフードが、オレとは逆の方向への力のあおりを食らって、ふわりと肩に落ちた。
あらわになる魔女の赤みの勝った長い髪と、大きな茶色の瞳。
俺は痛みも忘れてきょとんと見入ってしまった。
あーらら。かわいい顔してるんじゃないかあ。
==椎名の呟き==
なんつーかもう、日記形式で連載ってのは無理があるものだと、早々に諦めてしまった感があります。はい。
短くて面白い話が書ける人がうらやましいんですよね~TT
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