オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2007.01.31

小説の過去記事置き場なんて、webサイトで作ったら便利かなあ、なんてことを考えている訳です。
数が増えてくると、過去記事で中間のとか見たい時があっても、探すのが結構不便かもしれないな、なんて。
ええ、主に椎名本人の感想ですが。
まあ椎名本人は過去の作品は全部自分で取っておいてるからいいんだけど、もしも読んでくださってる人が「あの辺ってどうだっったっけ」と探してくださるようなことがあった場合に、ちょっと見つけにくいかも、なんて。ブログパーツとか入れればある程度は解消できるにしてもねー。

もちろん、せっかくブログで連載してるんだから、更新はあくまでこっちで、過去記事置き場は過去記事置き場として存在してればいいかな、とか。
ブログで更新された作品をすぐにUPするわけじゃなくて、ある程度時間を置いてからまとめて、みたいな。ひと月前までの作品、とか、せいぜい半月前までの、とかね。でないとやっぱりブログの意味なくなっちゃうし~。
ちょっと検討している次第です。
椎名がPC用サイトしか作れないんで、携帯端末の方には全てに対応できないのが申し訳ないんですけども;;

でもって、普段連載しながらちまちま作業してるんで、出来上がるのはちょっと先になると思うんですけど。
自己満足とも言える話だから、「ふ~ん」くらいで読み流してくださいませねw


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2007.01.30

 やっとだ。
 やっとの思いでポーラス中央地区繁華街に到着。
 行程的にはさほどの苦はないはずなのだけど、何しろモンスターに出遭いまくったのは痛かった。こちとらそんなに殺生趣味はないってのに、向こうが襲い掛かってくるんだから仕方がない。もっとも、モンスターってのは、大多数が攻撃的に出来ているからそれも当然なんだけどね。とにかくモンスターの数自体が増えてたからなあ。
「とりあえずは、オレの家に行こうかあ」
 中央に住み着いて以来暮らしている家は、そんなに広いわけじゃない。3人でくつろぐにはちょっと窮屈な感もあるんだけど、せっかく自宅があるのに宿を取るなんてもったいないことはしたくない。
 て、くつろいでる場合じゃないと思うんだけど、とにかく今は小休止したいんだよ。もう、ほんっと、疲れた。


「思ってたより狭いな……」
 シイナ、はっきり言いすぎだ。
 オレの家は賃貸の住宅が多くある住宅地にある一戸建てだけど、部屋はひとつしかない。飯を食うのもくつろぐのも睡眠をとるのも、この部屋ひとつで済ます。
 ひとりで暮らすには、このくらいで充分なんですよーだ。
「いじけるな。別に悪く思ってるわけじゃない。お前城に住んでたくせに、こんな狭いところで生きていけてるのか」
 今まで散々安宿に一緒に寝泊りしてて、今更何を言うか。
「別に、オレこれでも庶民派だもん。ていうか、衣食住は最低限でも華美でも、どっちでも問題ないよ、オレの場合は」
 生まれて以来ずっと暮らしていた城での生活は、あの頃はそれが普通で何の疑問も持たなかったけど、今の生活も別に不自由を感じるわけじゃない。ぶっちゃけ、生きていられりゃ何でもいいんじゃないかと思うね、オレは。固くて狭いベッドでも、天蓋つきの巨大寝具でも安らかに眠れる自信があるよ。
 昔と違って、今はちゃんと働かないと飯も食えないけど、城にいた頃だって、今と同じくらい身体は動かしてたし、勉強も山ほどしてたし。

「茶でも入れようか……って、しまった、酒しかない」
 誰かを家に呼んだことがない訳じゃないけど、大抵それはハンター仲間だったりするから、大体において酒で済ませてたんだよな。この面子でも問題はないはずなんだけど、これからハンターギルドに向かうのに、酒はまずいだろう。多少なら、酔っ払って出入りしちゃいけない決まりはギルドにはないけど、おそらく事務のおねーさんに張り手を喰らう。
「ディク先生から分けてもらった茶葉があるぞ」
「お、シイナ、ナイス。でもポットがない」
「いいから湯を沸かせ。何とかなる」
 ゴトゴトと並べた木製のタンブラーに、シイナは茶葉をひとつまみずつ直に散らした。
 なるほど、その中に湯を注げば茶にはなるわな。
「この茶葉は、葉のまま噛みしめても清涼剤になるって言ってたから、別に湯と一緒に飲み込んだってかまわないだろ」
「アクセントになるかな」
 湯を沸かしてそれぞれの容器に注ぐと、独特のハーブの香りがたち上がった。うーん、上出来じゃないか。
「……ホントに、お前ら一緒にしとくと何やらかすかわからんな……」
 ソルダム、片手で頭を押さえてる。なんでだよー。
「この光景ディクに見られたら、尻叩きモンだぞ」
 うわ、似合いすぎる。
「でも飲めればそれでいいじゃん。なかなか美味いよーこれ」
 顔を近づければ、ハーブの芳香がふんわりと鼻をくすぐるし、一口飲んでみれば、独特の青臭さと香草のさわやかさが絶妙なブレンドで口に広がる。む、葉っぱが口に入った。モグモグ。お、ちょっと舌に当たる苦味がこれまたなかなか……。
「お前なあ……」
「これがダメならコーラスにポットでも買ってやりなよ。そうすればもう少しマシな茶は入れられるようになる」
「自分で買う気はナシか……」
 シイナのダメ押しに、ソルダム撃沈。ところで問題はそこですか、おふたりさん。
「コンビでボケられたら手のつけようがない。いいコンビだよ、お前らは」
 別にボケてないけどなあ。
「別にボケてない」
 俺の思考とシイナの台詞、見事にかぶった。
「まあいい、もういい。ところでこれからハンターギルドに行くのか」
 ソルダムは、オレたちの中で一番常識人に見えるけど、立ち直りも相当に早い。この思考の柔軟さでオレを拾って帰ってくれたんだから、感謝しなくちゃなあ。
「うん、事務のおねーさんにグラスセット渡して、それからちょっとヤボ用を済ませて、かな?」
「ヤボ用?」
「まあ、行けばわかるよ。それより、ここまで来たんだから、ソルダムもギルドに顔出すだろ? ソルダムの商品の常連のおねーさんがいるんだから、挨拶のひとつもしてくればいいじゃん」
「それもそうだなあ」
 噂では、中央ギルドの事務所内では、ソルダムのイエローストーンのグラスが一大勢力を誇っているらしいよ。女性中心に、自分専用を決めて名札をつけているとかいないとか。これが微妙に色具合や形が違うものだから、微々たる争奪戦も勃発するらしい。実際その光景を見たことはないけど、オレが配達したグラス、通算10セットくらいはあるもんなあ。

 グラスセットを届けて無事を報告して。
 それからオレは、彼に、会わなければならない。
 今日、いるといいけどなあ。





==椎名の呟き==
コーラスとシイナのお育ちの良さを、作者である椎名が忘れがちです。
これはもう、彼らの性格でしょうからねえw

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2007.01.29

 はあはあ、ひいひい、ふうふう。
 ゼエゼエ、ゲホゲホ。

 西地区でディク先生と別れてからのオレたちの息遣いは、ずっとこんなだ。
「一体……なんだってこんなに凶暴化してるのかねえ?」
 ぜえぜえ、はあはあ。
「知るかそんなの……往路ではこんなに激しくなかったのに……」
 ひいふう。シイナの息も上がっている。
「ポーラスだけじゃないのか、こんなんなってるのって。エンデリックではこんなことなかったぞ?」
 ソルダムが、手にした斧を杖代わりにして寄りかかる。

 何だか妙に、森の中のモンスターが好戦的なのだ。中央に近づくにつれ、ことさら激しくなっているような。何つうかもう、休む暇があまりないというか。
 シイナも言ってた通り、エンデリックに向かう時は、こんなにモンスターに襲われることなんてなかったんだけどなあ?
「もしかしてアレかな、ミリネをさらったってヤツ、アイツが何か陰で動いてたりするのかね。ちょっと尋常じゃないというか」
 はあああ。
 今日だけでも、朝から蜂の大群に追いかけられて、大熊に退路をふさがれ、魔法ぶっ放して焼き払ったところで豚の大行列に遭遇し、その後バッタに叩き付かれ、そして……ああ、キリがない。
 ちなみにそれらはもちろん全部モンスターだ。一般の生物じゃない。
 夜は交代で眠ってはいるけど、これじゃ身が持たないぞ。
 さすがのオレも、へたり込みます。
「これぞ街から街への旅って感じだなあ」
 斧に寄りかかっていたソルダムが、開き直った笑顔で背筋を伸ばした。
 すがすがしいにも程があるぞ。
「オレたちハンターと魔法師だからいいけど、これじゃ一般人は近隣の街にも出歩けないぞ。今街中どうなってるんだろうな」

 瞬間、深緑色の物体がシイナの頭上に現れた。
 ドスンとその頭頂部に着地する。
 サウロだ。
「痛ぇ、このバカ鳥!! 髪が解けたらどうしてくれる!! 今日も苦労して上げたってのに!!」
 腕が完治していないシイナ、彼の長い髪を結い上げるのに3人がかりだった。モンスターのいない合間に、何をやってるんだろうね、オレたちは。
「文句を言うな、人間。街の様子を知らせてやろうと飛んできてやったんだ、ありがたく思え」
 フン、とふんぞり返るサウロ。
 まあできれば頭からはどいてやってくれ。マジで重そうだ。

 バサ、と羽を広げたサウロは、シイナの足許に着地して、横柄にオレたちを見上げた。
「中央地区の街中は、平穏なものだ。各地でモンスターが凶暴化しているようだが、人の多い地域ではまだそれほど活動していないようだな。ヤツが原因なのだとすれば、時間の問題かもしれんが、目的も定かでない」
「そっか……」
 とりあえず、街中はまだ安全なんだな。ああ、早く静かな所に行きたい。
「坊主の所属する機関、ハンターギルドか? 各地でモンスター討伐の触書は出しているようだが、手が回らん状態らしいな。こうなったのは、ここ数日の話のようだ」
 だろうなあ。オレが中央を出た時は、こんなに派手じゃなかったもんね。ちょうど、中央に向かって西を出るかどうかって時期からかな?
「まあ、中央に帰ったらハンターギルドに行くし、その時に状況を聞いてみるけどさ」
 やっぱり、そろそろ頃合ということかな。
 3年間の潜伏期間ってのは、長いのか短いのか。
 わからないけど、向こうが動き始めたのなら、こちらももう止まれないってことだ。勝てるとか勝てないとか、そういう計算の前に、動かなければ、どうにもならない。
「とにかく早く街に向かった方がいいな。オレは背負ったグラスセットを守るのに神経使いっぱなしだ」
 干し肉やら若干の生活道具やらと一緒にねじ込んであるグラスセット、一応守ってたのか、ソルダム。
「この期に及んで土産物の心配かよー」
「重要な事だぞお。オレはこっちが本職だからな。注文品を傷つけるわけにはいかないって。しかも常連さんの物なんだから」
 いつも注文を伝えて持ち帰ってたのはオレだけどな。
「とにかく一気に行くぞ、中央へ!!」
「せいぜい気張れ」
 サウロ、オレたちの気合を一蹴して一瞬で消え去った。

「コンチクショ――――ッ!! オレも早く街で休みてえ――!!」
「右に同じ――ッ!!」
「グラスセットが壊れませんように――ッ!!」
 中央まで、後半日ほどだ。





==椎名の呟き==
そういやこれまでモンスターとの戦闘って、殆ど出てないような……。

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2007.01.28

 そういえば。
「なあサウロ。ミリネをさらった奴ってのは、今どこにいるのかわかるのか?」
 サウロは目を伏せて首を振る。その仕草、やっぱり何だか妙だってば。
「わからん。そいつはここ最近気配を感じたりそうでなかったりと波があったからな。こちらが限定して気配を追おうとしているにも関わらず、召喚師や召喚獣から気配を隠しおおせるなんてのは、通常人間では無理だ。だとすれば、奴が隠れているのはサンレイクということになるな、やはり」
「……」
 サンレイクはほぼ精霊石でその国が出来ていると言っても過言じゃない島国だ。そこで精霊石の力をつかって結界を作っているんだから、そこを根城にしている限りは、召喚師たちでも気配を追えないって話だな。
 ある意味、こちらに召喚師がいる限り、どこに隠れているのか凄くわかりやすいけどね。
「本拠地にするためにサンレイクを襲撃したって話なのかね……。表面的な精霊石はあの時焼け落ちたように見えたけど、サンレイクは島自体がほぼ精霊石だし」
 他の精霊石産出地域も襲撃を受けて、そこの精霊石は全部焼き払われてたから、精霊石を失くすのが目的かとも思ったけど、そうでもなかったのかな。
「自分たちに精霊石は必要だが、それ以外の人間が精霊石を手に入れるのは困ると、つまりそういうことじゃないか?」
 自分も精霊石を手に入れるのに困ったシイナの言葉は、多分そのままで間違いない。さすがにその辺の察しは良いな。
「そういうことだろうね。白の塔のことも考えれば、つまり力を持ちそうな部分を排除しようとしたってことなんだろうから」
 まあとりあえず、だ。
「オレたちはこれから中央に戻るんだけど、ミリネはその姿を晒して外をうろつかない方が賢明だろうな」
 サウロはうむ、と深く頷く。
「当然だな。警戒するに越したことはない。むしろお前らと一緒では目立って仕方ないわ」
 どうも話を聞いてると、今現在向こうがミリネを付け狙ったって訳じゃなさそうなんだけど、一度召喚師の存在をあらわにしたからには、用心はしたほうがいい。
「大体なんで、ミリネをさらっておいて、その傍をはなれたりしたんだ?」
「結界があれば安全だと油断したんだろう。各所移動している気配があったから、他に召喚師が生き残っていないかと焦って探してたんじゃないか。これだから人間ってのは浅はかだと言われるんだ」
 そんな風に言われてるんですか、人間は。
 つまりまあそれで、捕らえてるはずのミリネの姿がないのを確認して、自分も姿を隠したってわけかな? 最初からサンレイクの結界の中に連れて行っちまえば、ミリネも逃げ出すことなんてできなかったかもしれないけどなあ。
「じゃあミリネとサウロは別行動だな。先に中央に向かって……って、別に一瞬で移動できるなら、どこにいても一緒なのか」
「左様。だがお前らの動向をより精密に知るには、やはり近くにいた方が何かと便利かもしれんから、中央には向かうがな」

「待ちたまえ」

 なんだなんだ。
「ディク先生?」
「そこの従属、サウロとやら。キミはここに残る気はないかね」
「何ィ!?」
 サウロ仰天。ディク先生は苦手そうだな、お前。
 でも、どうしてサウロを残すんだ?
「状況を逐一私に伝えることの出来る存在がひとり欲しいところだ」
「どうして?」
 オレの言葉に、ディク先生は相変わらずのクールフェイスで軽く首を傾げる。
「事情を知ったからには、私にだって何か協力できることがあるはずだと模索中だ。仲間は多い方がいいだろう? コーラス」
「え、でも……」
 それは危険も伴うってことなんだけど。
「私もこの国の一員なのでね。得体の知れない輩に、好き勝手されて黙っているほど日和見主義ではないのだよ。場合によっては、私もかなり使える人間だと思うぞ? だが現状、私はすぐにここから動ける状態ではない。だから、キミたちの事やおかしな動きを知らせてくれるサウロが必要だ」
「冗談じゃない!! オレ様はお嬢を守るという重大な使命があるんだ!!」
「窓代だと思えば安いものだろう」
 ディク先生の家の窓、一体いくらなんですか……。
「……ううむ。ならオレ様ではなく、他の召喚獣でよかろう」
 なんですって。
「召喚獣、この辺にいるのか?」
「間抜けなことを言うな!! お嬢が持っている召喚獣はオレ様だけではない!! お嬢はその身体の中に、7召喚獣を抱えているんだぞ!!」
 ななもいるんですか、そのからだのなかに!?
「この人間と気が合うとすれば……エラールあたりが良かろう。お嬢、それでいいか?」
 ミリネが黙って頷く。
 その額が、カッと縦に割れた。

 うひいいい。
 いつ見てもその光景、慣れないんですけど。

 割れた額は深紅の宝石がはめ込まれたみたいに輝いて、その宝石のようにつややかな赤色は、ミリネの額からドロドロとアメーバ状になってミリネの前に流れ出してきた。
 それがうねうねと動いて、何かの形をとり始める。
 それは何ですか、ウサギですか?
 腐るのが早いあのモンスターとは違って、普通のウサギのように見えなくもないけど。深紅のウサギってのも凄いな。

「ご対面は初めてですね、皆様。アタクシ、ミリネの召喚獣いちの美女エラールと申しますのよ。以後お見知りおきを」
 自分で美女とか言うかな。美女とかいう単語で表現するのもちょっとズレというか、そもそもウサギのどこを取って美女かそうでないか判断するのが難しいんですけど。
 でもまあつまり、女性なのだな。
 ミリネの召喚獣って、みんなこんななのかな……。
「ディクさんというのはアナタですね。まあ、聡明そうな方。確かにアタクシとセンスが合いそうですわね。彼らのことは、アタクシにお任せくだされば、いつでも新鮮な情報を差し上げましてよ」
「そうか。よろしく頼む」
 ディク先生、もうウサギな彼女を受け入れている姿勢。この人って、物凄く思考が柔軟なのかな……。
 ていうかサウロ、気が合うというよりは、ディク先生に負けなそうな人選してないか、もしかして。
「とりあえずは、これで決まりだな」
「うん」

 しかし、こうやって仲間って増えていくものなのかね。
 事態が変わってきてるってのもあるんだろうけど、オレがシイナと知り合ったのだって、まだつい最近の話なのに。

 でもまあ、じゃあオレたちは中央に向かうことにしようかね。




==椎名の呟き==
ディクとサウロも、それなりに合いそうな気がするんですけどね?

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2007.01.27

 洗いざらい話すというのがどこいらからとなると、サンレイクや白の塔や大樹海の壊滅からということになる。ここから行かないと、どうせ話の途中で訳のわからない部分が出てきて、話が前後することになるからね。
 結構……込み入ってる事情なんだよなあ。結局シイナの正体とかもバラさなきゃならないだろうし。


 オレやシイナやソルダムがかわるがわる話している間、ディク先生は時々微妙に表情を変えていたりしたけど、気付いた時には部屋の中にミリネがいたりして、召喚師なんて存在を疑ってかかってるような雰囲気だった彼女も、さすがに信じざるを得なかったみたいだ。
 だってすでに、サウロの存在がおかしいでしょって。
 しゃべる鳥ですよお?

「ていうかミリネ、無事で良かった」
 何事もなかったかのように、いつの間にかそこに姿を現した少女に声をかけてみれば、本当に消え入るような声で「ごめんなさい」と聞こえた。
 宝石をはめ込んだような額の割れ目はその存在を隠していて、今の彼女はただの人間の子供のようにしか見えない。
「召喚師……か」
 ディク先生が、しげしげとミリネを眺める。
 まあ、当然の反応だよなあ。召喚師だとかエルフだとかなんて、おとぎ話みたいに根拠のない噂として語り継がれてきただけで、大樹海の中に本当にそんな種族が存在してるなんて、誰も実際には知らなかっただろうから。オレだってそのひとりだもんね。
 クワッと、サウロが両羽を扇形に開いていきり立った。
「ぶしつけな目でお嬢を見るな、人間!! 無礼な!!」
「他人に偉そうに命令する前に、窓代を弁償したまえ、従属」
「グ……」
 サウロの威嚇も、ディク先生にはまるで通用しない。サウロが言葉に詰まるなんてこともあるんだねえ。ははは。愉快愉快。って、ちっちゃいぞ、オレ。
「なあ、ディク」
 ソルダムが、ディク先生の隣に立つ。
「コーラスやシイナのこととか、召喚師のこととか、できれば他の人間には他言しないでもらえるか? 色々と、不都合な事態が起こることも考えられるから」
「ふむ……」
 ディク先生、チラリとオレの方を見る。
「知り得た情報を必要以上にベラベラとふれ回る趣味はもともとないが……人に知れれば色々と困ることも生じるかね? コーラス」
 うーん。どうだろう。でも。
「……多分。サンレイクも白の塔も大樹海も、一般に知られてないことが多いし、水面下で起こってることに関しても、あまり多くに知れると、無用の混乱を招く可能性もあるしね。だから、3年前から事の成り行きを監視調査してる機関もあるけど、それについてはまったく情報を公開してない状態だし」
 ディク先生は、納得したように頷く。
「なるほど。では私も今聞いたことは他言しないと誓っておこう。困るのがソルダムなら滑稽だが、キミも困るのでは気の毒だからね」
「あ、ありがとう……」
 ソルダム、お前とディク先生の関係って、本当にどんな状態なんだ。
「ディク、お前な。滑稽とはなんだ」
 憮然とするソルダムの抗議も、ディク先生にはどこ吹く風らしい。肩をすくめて目を眇める彼女には、何だか誰も勝てるような気がしないんだけど。
「そんな重要な事を3年間も黙っていたお前が悪い」
「それはだな……」
 海辺で亡国の王様を拾いました――なんて。確かにそうそう口に出せることでもないような気はする。大体まったく本当の話に聞こえないしね。
 ディク先生もそれはわかっているらしく、あえて追求はせずに視線をこちらに切り替えてきた。
「それでだ。今になってその召喚師のお嬢さんが何者かにさらわれたというのは、やはり3年前の事件はそれだけでは終わっていないということになるんだろうな?」
 そういうことだろう。
 目的がよくわからないってのは事実なんだけど、あの事件の当事者としては、あのままで終わるはずがないって確信はある。まだその犯人の目的は果たされてはいないと、そう思う。そして、召喚師たちが感知した気の異常ってことを鑑みれば、今になってまたそいつらは、新たな動きを見せ始めたってことなんだろう。

「ミリネ、キミをさらった人間っていうの、どんなだったか憶えてる?」
 ミリネはただフルフルと首を降った。
「お嬢をさらったのは、姿かたちはコートやフードで隠していたが、種族で言えば間違いなく人間だ。結界を張っていたようだから、魔法が使えるのだろう。人間の中では、相当高いレベルだな。閉じ込められていたのは、ポーラス中央地区の北の森の、おそらくは使われていない猟師小屋だ」
「ミリネは、そいつのことを探ろうと思ったんだな?」
「……」
 無言で頷く。
「お嬢はまず、そいつが召喚師を見た時に、どんな反応をするのかを確認したかったらしい。予想通り、相当驚愕したようだな。やはり3年前のあの日に、召喚師をすべて滅ぼしたつもりでいたんだろう。バカめ。ほとんどの召喚師が逃げ延びていることも未だに知るまい」
 てことはやっぱり、ミリネをさらった人間は、3年前の事件に何らかの形で関わっていると見て間違いないんだろうなあ。
 しかし同時通訳のごとくまくし立てるサウロを見ていると、ミリネは心の中では物凄くおしゃべりなんじゃないかなあ、なんて思ってしまう。彼らの意識下での会話を聞いてみたいような、でも何だか怖いような。
 なんて、今はそんな場合じゃないですってば、オレ。

 兆しが見えたからには、オレも動き出さないとな。向こうの実体はまだ全然見えてきてはいないけど。
 ぜーったい、暴き出してやるもんね。





==椎名の呟き==
ソルダムとディクは仲良しですよ。これでも。
ディクみたいな人は、気に入らない人間には近寄りもしないんだろうなあ。

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2007.01.26

 ディク先生の家で、思い出話なんかに花を咲かせるソルダムたちを眺めていたオレだけれども、そろそろ心配になってきた。
「なあ、ソルダム。ミリネ大丈夫かなあ」
 コソリと呟くと、ソルダムも首を傾げる。
「うん……ちょっと気になるよな。明確にどこで待ち合わせ、なんてしてるわけじゃないから、隠密で動いてるミリネをこっちは待つしかないし」
 ミリネも召喚獣と額をカムフラージュすれば、ただの人間にしか見えないから、きっとおかしなことに巻き込まれたりなんてことはないと思うんだけどね。気配消すの上手いし。
 なんてコソコソと話をしていたら。

 ガシャ―――――――ン!!!

 背後で硬質な破壊音。
 一斉に振り返るオレたちの視界で、家の窓がブチ破られて、深緑色の物体が転がり込んできた。

「大変だァ――――ッ!!」
 叫ぶと同時に、バサッと羽を大きく広げるそれ。
「サウロ!?」
「大変だァ――――ッ!!」
 左右の羽を扇形に広げて、サウロはなおも叫んだ。
 むしろお前が大変だ。
「どうしたんだよ、サウロ!! ミリネは?」
「お嬢がかどわかされた――――!!」
「はあ!?」
 何がどうしてそんなことになった。
 これまで単独で隠れ暮らしてても何とかやってきたはずのミリネが、なんでこのタイミングでさらわれたりするかな。
「落ち着け、サウロ。さらわれたって、誰に?」
「知るかそんなこと――――!!」
 やかましいっつうに。
「大体なんでミリネがさらわれるんだよ。お前なにやってたの!?」
「オレ様はお嬢の中にいたんだ!! 召喚獣は主人に呼び出されるか、主人の危機を感知しなければ表には出てこない!! オレ様がお嬢の身体から開放された時には、もうお嬢は薄暗い部屋の中に捕らわれてたんだ――!!」
 どういうことだ、それ。
「主人の危機を感知って、それが出来なかったのはどうしてだ?」
「お嬢が恐怖や畏怖を召喚獣に伝えなかったということだ!!」
 なんでそんなことになるんだ?
 オレたちの前に現れた時ですら、ミリネは緊張しまくって怖がって、額からこいつを吐き出したってのに、なんで今回は黙ってさらわれたりする?
「ミリネはちゃんと意識を持ってたか?」
「意識はあった。オレ様が外に出た時には、さらわれた、とひとこと言っただけだ。その時には辺りに何者かの気配はなかった」
 なんでミリネはそんなことになっても恐怖を覚えないで平常心でいるんだ?
「大体、お前ら人間と違って空間移動できるんだろ? なんでそれで逃げ出さないわけ? そういうのが通用しない結界でも張られてる?」
 オレの言葉に、サウロはクワッと目を見開いた。
「そりゃそうだ――!! なんでお嬢は逃げ出さないんだ――!!」
 忘れてたのかよ!!
 でもまあ召喚師を閉じ込められる結界なんてのが張られてたとしたら、サウロだってここまで来ることなんて出来なかったと思うけどさ。
「人間なんぞに召喚師が拘束されるわけがないんだ!! お嬢は何でそんな事態を甘んじて受け入れているんだ!!」
 ていうか少し落ち着け。
「ミリネに訊けないのか?」
「やかましい!! 今訊こうと思ってたところだ!!」
 やかましいのはお前だ。
 叫ぶや否や、サウロは急に無言になった。彼ら独自の方法で、ミリネと話をしているらしい。相手がそこにいるわけでもないのに、しきりに頷いたり妙な独り言を洩らしたりしている。お前、人前に出たら人目は気にした方がいいぞ。
「なんてこった……」
 はあああああ、とサウロはため息をつく。なんだなんだ。
「お嬢は、自分をさらった人間に、大樹海を潰した犯人の気配を感じたらしい。その人間を探るために、あえて姿を晒して捕まり、そのままになっているんだそうだ」
 おいおいおい。
 大樹海を潰したって、それはあの3年前の事件だろ? サンレイクや白の塔と、同列の事件のはずだ。それを引き起こした犯人の気配を感じる人間に、あえて捕らわれている、だって?
「ちょっと、それはまずいんじゃないか。いくら何でも危険だろ。逃げ出すように言ってくれ」
「当然だ!!」
 事件を引き起こした張本人かそうでないかはわからないけど、いくらなんでもそんな人物の懐に、単独でいるのは危険すぎる。だって相手は、ミリネのことを、大樹海を潰したときに滅ぼしきれなかった召喚師だって気付いてさらってるってことだろ?
 下手すりゃ殺されるじゃないか。
「ふむ……」
 サウロが意味ありげに声を洩らす。
「お前らには一応感謝しとくべきだろうな」
「何が」
「お前らに危険が及ぶのを恐れて、お嬢は思いなおして逃げ出してくれたようだ」
 それは何より……。
 でもなあ。サンレイクも丸ごと潰して、白の塔を壊滅に追いやって、しかもシイナの身体を奪ったり、大樹海を丸焼きにしたような連中の仲間かもしれない人間から、じゃあさよなら、なんて簡単に逃げ出せるものなのか?
 オレの疑問に、サウロは安心したのか、いつもの通りに偉そうに鼻を鳴らした。
「人間と召喚師じゃ、生きている次元がまったく違う。連中はそれにまだ気付かないと見える。攻撃されれば痛くはあるが、空間を泳ぎ渡る召喚師を、人間の力や結界で閉じ込めることなど不可能だ。唯一それができるとすれば、大自然の驚異である精霊石の加護を受けている強大な力のみだな。それも、お前らが持つような生半可な精霊石ではダメだ」
 生半可で悪うございましたね。
 しかし、召喚師ってのは、話だけ聞いてると、確かに人間から逃げることに関しては無敵っぽいな。
「あえて自分から正体をさらさなければ、人間に召喚師を見分けることは出来んから、もう安全だろう。ここにお嬢を呼んでも大丈夫だな?」
「ああ」
 オレたちは、もしかしたらかなり心強い仲間を手に入れてることになるのかな?

「色々と取り込んでるところ、話の腰を折るようで申し訳ないんだが」
 背後から、突然低いトーンの声が掛かった。
「事の顛末を、説明してもらえるかな……?」

 あ。

 忘れてた。ここ、ディク先生の家なんでした……。
 説明を求めて歩み寄ってくるディク先生は、据わった目をサウロに向けて、口許だけで笑った。
「ブチ破られた窓の修繕費の請求先は、このしゃべる鳥でいいのかね?」
 ディク先生、怖い……。
 ていうか、微妙に論点ズレてますけど。
 どうしたもんかとソルダムを振り返れば、彼は諦めたようにただ首を振った。
 どうやら、洗いざらい話さなければならないらしい……。





==椎名の呟き==
この面子の中で、最強人物って誰なんでしょう。

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2007.01.25

最近になって、ようやく主人公であるコーラスの外見特徴が少しだけ出てきました。
主人公本人の一人称で話を進めていくと、どうしてもその人の特長を文章にしにくいというか、何というか……。
他の人物にしても、あんまりその辺のことを詳しく書きすぎても、テンポが悪くなって場が白けそうな気もして。
一人称って結構難しかったんだね。普段椎名は、三人称で割と小難しい言い回しで小説を書くタイプなので。ここまではっきりとした一人称で書くのは初めてかもしれません。
まあ、コーラスの外見だって、触れられる機会はいくらでもあったはずなんですけどねー。とりあえずやり過ごしてきたわけですが、さすがにそろそろ出しといた方がいいだろうと。

コーラスの髪が黒いのは、別に特別黒が好きだとかいう理由でもなく、単にMMOで使ってた時の外見をそのまま使っちゃってるだけなんですけどw
実際黒髪の主人公ってのは、こういうノリの小説では定番なのかそうでもないのか。よくわからないけどね。

ちなみに椎名の好きなRPGの主人公ベスト3。

ネス。
ぼっちゃん。
エイト。

うお、みんな似たようなタイプだ。
案外黒髪主人公、好きなのかもしれない……。
好きな小説の主人公タイプは……実は検証できるほど最近小説読んでない椎名です。
強いて言うなら○マ?
……黒髪じゃん……orz


とりあえず、今回も日付が変わった後くらいで朝までに更新できればいいなーみたいな感じです。
いつも変な時間でごめんなさいねー。
(変じゃない時間っていつなんだろう・笑)


2007.01.24

 今回は、道中おかしな魔女に出会うことも無く、笑い茸を食すこともなく(危うかったけど)、予定通り夕方には西地区にたどり着くことが出来た。
「けど、ミリネどこにいるんだろうな」
 グルリ街中を徘徊してみても、それらしき人影が見当たらない。あの子のことだから、賑やかな街の中でひとりでウロウロしないとは思うんだけど、こっちも街の外を当てもなく探すわけにもいかない。まあ、彼女はオレたちの気配みたいなのを読めるみたいだから、どこにいても勝手に探し当ててくれるとは思うんだけどね。

「ディク先生ー。お届けものでーす」
 ゴンゴンゴン。
 ノックをしたら、ガチリと内側で鍵を開ける音がした。おお、いたんだ。すぐに扉が開いて数日振りの男前が顔を出す。その目が、ほんの少し見開かれた。
「私は本体を注文した憶えはないんだが」
 ソルダムを見ながら。
 ディク先生。本体って。ならグラスは分裂したソルダムの一部か何かですか。
「よう。元気そうだな。故あってグラスセットはオレが直参してやったんだよ。ありがたく思えよ」
「別にありがたがるいわれはないが」
 言いながら、ディク先生は扉を大きく開けてオレたちを迎え入れてくれた。
「急にどうしたんだ、ソルダム。ここまで出てくるなんて珍しいじゃないか。そんなに私に会いたかったのか、暇人」
 ソルダムに似たマメさでハーブの香りのするお茶を出してくれながら、ディク先生はソルダムを一瞥する。
「そりゃあ会いたかったさ。お前だってオレの顔見たかっただろ?」
「張り倒される前に黙れ」
 言い合いながらも、ソルダムは勝手知ったるわが家のようにくつろいでるし、ディク先生はそれを気にするようなこともない。けど。
「なあ、シイナ」
「うん?」
 隣に座るシイナに声をかけると、茶をすすっていたシイナは視線だけをこっちに向けた。
「ソルダムとディク先生って、昔から仲いいみたいだし、もしかして何つうか、そういういい関係なのかなあ、なんてちょっとだけ想像したりしてたんだけど、なんか違うみたいだなあ」
「同感だ」
 過去にソルダムから、恋人がいるなんて話は確かに聞いたことがなかったんだけど、そういうことって聞きもしないうちから自分から話す男でもなかったし。
 なんて思ってたら、ソルダムとディク先生が、揃ってこっちにクワッと視線を向けた。
「「気色の悪いことを言わないでくれ」」
 ハモッた。息はぴったりだな。
 まあ何というか、男女の仲って感じで並ぶ二人ってのも、ちょっとヴィジュアル的に想像しにくかったんだけど、こうも完璧に否定されると……仲がいいんだか悪いんだか。完全に、遠慮知らずの男同士の友達にしか見えない。確かに。
「ディクはねえよ、ディクは。仕事でそんな暇ないってのも事実だけど」
「こちらもそういう話にかまけていられる時間の余裕はない」
 ホントに気が合うな。仕事人。
「むしろ」
 ディク先生は、椅子から立ってオレの方へと近づいてきた。腰をかがめて、座る俺の顔を意地悪そうに覗き込む。
「どうしてもと言うなら、ソルダムよりはキミの方が好みだが? コーラス」
 ぎゃは。ニヤリと微笑まれた。
 とてもその、好みの男性に言い寄る女性の仕草には思えないんですけど、ディク先生。
「まあ、安心したまえよ。キミにはシイナがいるんだろうから、別に最初から懸想を抱くようなことは考えつかないさ。ああ、キミたちは生き別れの兄妹だったか。失礼失礼。それにさっきも言ったとおり、私もそれなりに忙しい」
「いや、シイナは違……」
 言いかけたところで、ソルダムが口許に人差し指を当ててオレを見た。
 黙ってろって? なんで?
「シイナは茶を飲むペースが速いな。気に入ったかい?」
「ハーブのお茶はあまり縁がないけど、これはとても美味しいです。ディク先生は薬師だけあって、お茶もとても美味しく入れられるんですね。茶葉を売ったりはしてないんですか?」
 シイナ、まんざら社交辞令な感じでもなく言う。まあ、こいつはそういうとこ素直だから、不味い物に美味いとは言わないだろう。
「お茶のおかわりをあげよう。正直な子は好きだよ。オリジナルブレンドの茶葉はこれから商品化も考えているところだが、あとでキミには少し分けてあげよう」
 ディク先生が素直に嬉しそうなのも、初めて見たな。あんまり長く付き合ってるわけでもないけど。
 そうか、茶葉のブレンドにはひとかたならぬ愛着があるんだな。
 ディク先生がお茶を入れなおすために少し離れたところで、ソルダムがオレに囁きかけた。
「シイナのことは黙ってろ。あいつは……ちょっと好意を持つ方向が変わってるからな。気に入られると大変だぞ」
「……」
 どんな風に大変なんだろう。
「まあ見た目どおり、女だと思って接しない方がいい」
「ははあ……」
 その方向性に興味はあるけど、自分がその対象になって検証するのは、ちょっと怖い気もしないでもない。だってソルダム、何か目がマジだ。

「何をコソコソと話してるんだね?」
 ボスっと、ディク先生はソルダムの頭の上に茶を入れたポットを置いた。
「あちいいい!!」
 うわーーー。

「なんでもないでーす」
 オレたちは、貼り付けた笑顔で声をそろえた。





==椎名の呟き==
これだけ登場人物が出てきても、どうもロマンスには発展しにくい面々。
まあ、よく考えればそういう話でもないですしねw

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2007.01.23

 ディク先生のいる西地区への道中も、もちろん行きと同じく徒歩だ。きっと街にたどり着くのは、何事もなかったとしても夕方になる。だからまあ、一回くらいは食休みをとりたい。
 というか、素直に腹が減った。
「やっぱり腹が減ってきたなあ」
 丁度いいタイミングで、オレではなくソルダムがそう呟いた。
 けど、ソルダムの荷物をあさっても、僅かな干し肉しかないらしい。もしかしてソルダム、これ噛みながら街まで行くつもりだったのかな。それも不可能じゃないんだけど、やっぱり食べられる時にはちゃんと食べた方がいいと思う訳だよ、オレは。
「何か食べられるもの採ってくればいいじゃん」
 森の中では結構色々と食材が見つかるものだ。もちろんその中にはあの笑い茸も含まれているわけだけど、あれだけ酷い目に遭ったのだから、いくらオレでもさすがにもう同じ間違いはしない。
「オレ、その辺探してくるからさ、ちゃんとしたもの食おうぜー」
「それもそうだな。手分けするか」
 オレはエンデリックに行く時この森を通過するから、どこいらに何があるのかの見当がだいたいついている。確か冬場に美味いキノコと山菜が、この付近には多いはず。
 ひとりで入り込んだ藪の中で、落ち葉を払い除けてみれば、やっぱり。食用キノコの群生発見。近所には冬限定山菜も点在している。
 これだけあれば、充分一食分にはなる。

 バシバシとその辺のものを収穫して数分程度で戻れば、シイナとソルダムはもう元の場所に戻ってきていた。早いな、随分。
「コーラス、そんなに採ってきたのか? 3人で集めるんだから、そんなに大量に持ち帰らなくても良かったのに」
 あ、そりゃそうか。
 この辺は冬でも食材豊かだから、それぞれ草だの木の実だのを持ち帰ってきていた。
 んー、でも、立派な体格の割に暴食しないソルダムと違って、オレやシイナはやたら食うから大丈夫だよ。
「だいじょーぶ、大丈夫。これくらいペロリだって。これあわせて煮込んだら、きっと美味いぜー」
「おいおい、煮込むって、どうやって。オレさすがに鍋やらフライパンやらなんて持ってきてないぞ」
 そう言うソルダム、なるほど、彼は生でも食べられるものしか取ってきていない。
「んー、こうやって」
 その辺に転がっている肩幅ほどの石を、広い場所まで移動する。
「シイナ、よろしく」
「はいよ」
 その石に向かって、シイナは片手をかざした。ブワッと、青い光がその掌を覆う。瞬時にその光が大きな石に向かって発射されて、大きな石の中央部に直撃、粉砕。そこに丸い窪みができた。
「で、こう」
 再びシイナの青い光。今度はその窪んだ石を、光が隙間無く包み込んだ。
「もういいぞ」
 そこに持ってきた飲み水を注げば、瞬時に沸騰して気泡と湯気を一気に放出した。
「はい、食べ物入れて入れてー。肉とキノコでいい出汁とれるよー」
 これぞ、瞬間石焼鍋だ。魔法で石に穴を開けて、そこを高温で熱する。石は焼けるとしばらく熱を保つから、火を起こす手間もないし、魔法を使いっぱなしでシイナが疲れる、なんてこともないしね。もっとも、シイナ自身はこんなことで疲れるほどヤワじゃないと主張してはいるけど。
「……」
 ソルダム、無言でぼんやりと即席石鍋を眺める。
「お前ら、いつもこんな調子なのか……」
 フウ、とため息。
 何か色々と納得されてしまったような雰囲気なんですけど。いいじゃんよ、旅のさなかで食べる鍋ってのも、結構美味いんだぞ。そしてこの石鍋だって、そこいらに放置しておけば、きっと雨が降った後とか、小鳥たちのいい水場になるって。
「ほらほら、まずは肉~」
 ふつふつと沸騰している石鍋に、次々と食材を放り込む。
「……っと、コーラス!」
「え?」
 シイナにガシッと手を掴まれて、動きが止まる。
「お前……これは、なんだ?」
 今まさに鍋に入れようとしていたキノコを指差された。
 なにってこれは、あ。
「もしかして、笑い……」
「もしかしてじゃねーだろ!!」
 うわー、あっぶねえ。これ笑い茸か! ついさっき同じ間違いはやらないと豪語したばかりなのに!! まあ、心の中でだけだから、誰に聞かれてるわけでもないから安心。
「いやでもだって、何かこれ笑ってる顔ってよりは、ちょっと歪んでるから怒ってるみたいに見えたんだよ!! だから気付かず……」
「顔みたいな模様が入ってる時点で疑え、ボケ!!」
 ゴメンナサイ、スミマセン。でも。
「そんなに怒ることないじゃんかー」
 ちょっとした間違いじゃないか。……あ、シイナの目つき、変わった。
「そうか、なら責任とってお前、これ食うか? 遠慮はいらないぞ? ただし、薬代は一切出さないがな?」
「ホント、すいません……反省してます……」
 笑ってるシイナは怖い。どのくらい怖いって、オレたちが爆発させた魚の内臓を拭き取っていた時のソルダムくらい怖い。
 素直に謝るオレの手からもぎ取られたキノコは、シイナの魔法で一瞬にして粉砕された。
 ゴメンな、笑い茸。きっとお前も、採られたからには能力発揮して人を笑わせたかっただろうに。
 ……そんなわけないか。

「ホントにお前らって、いつも、こうなのか……」

 ソルダム、本日何度目かの大きなため息をついた。
 大丈夫、きっとすぐ慣れるよ。うん。





==椎名の呟き==
もうこうなってくると、誰がツッコミで誰がボケなのかわかりません。
ぶっちゃけ持ち回りですかね。

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2007.01.22

「そろそろ行くんだろ。準備は進んでるのか?」
 ソルダムから声がかかる。
 準備って言っても、もともと持ってきてるものってそんなに多くないんだよね。
「あ、グラスセットの土産忘れちゃいけない……って、ソルダム?」
「なんだ」
「オレの気のせいじゃなければ、なんかお前、旅支度してるように見えるんだけど」
 肩から荷物ぶら下げて、愛用の斧まで出してきて。
「その通りだよ。このオレが直々に土産配達してやるよ。ありがたいだろ?」
「えええ!?」
「一緒に行くよ。お前と初めて会って、各所で起きた凶行のことを知ってから、決めてた。何がしかの変化が起きた時には、オレも行こうって。これでもハンターの端くれだぜ」
 ソルダムは鍛冶屋を本業としながら、ハンターの資格も持っている。それなりの能力さえあれば、資格を持っていたほうが何かと便利だ。ソルダムの場合は、進んでハンター稼業に精を出しているわけでもないけど、近所でモンスターの被害とかが出た時には、エンデリックギルドから依頼が出てないか確認に行く、みたいなやり方をしてた。
 傍で聞いていたシイナが肩をすくめる。
「なんとなく、予想はしてたがな」
 え、そうなの? ソルダムが旅支度してるのに今まで気付かなかったオレがおかしい!?
「けど初めて会った時って、岩場に打ち上げられてた正体不明の男がサンレイクの王だなんて、よく信じられたな、ソルダム」
 シイナ、ふと思いついたようにソルダムに視線を向ける。しかし普通に痛いトコ突いてくるな。
「そんなの、シイナだってそうじゃないか」
 ケラケラと笑うソルダムに、シイナは「そりゃそうだけど」とかなんとか口ごもる。
「オレの場合は、まあ、ね。こいつの持ってた精霊石が尋常じゃなかったってこともあるけど、この顔が、さ」
「顔?」
「コーラスの髪って見た目黒いだろ? 黒髪の多い国なんて沢山あるけどさ、陽に透かした時にこう、サビみたいな色とか薄茶とか、色々に変化するのって、サンレイク特有なんだ。この黒に近い青色の瞳も」
 そんなわかりにくい特徴を知っていたソルダムに、驚かされたもんだ。サンレイクなんて、国の存在すら知らない人間だって多いってのに。確かにサンレイクは他と交流が少なかったから、この特徴は外にはあまり広がってないんだよな。
 こいつのこういう洞察力には感心する。外見だけじゃなくて、人の本心なんて簡単に見抜くし。まさかシイナの中身が外見と違うってトコまで見分けるとは思わなかったけど。
「少しは力になれると思うぜ。ていうかもう、お前ら放っておくのは心臓に悪い」
 そりゃあ、オレだけならともかく、オレみたいなのがふたりになったら、不安にもなるよなあ。この数日で、実績作りまくりだし。
 ってシイナ、そんな、オレと一緒にされたことが心底ショックだとでもいうような蒼白な表情はやめてくれ。
「でもソルダム、仕事は放っていいのか?」
「いつかこういう日が来るのを念頭に置いてたからな。お前たちが来てから今日までで、持ってた仕事はみんな片付けたよ」
 そいつは知らなんだ。
 オレたちがイモを血に染めたりアザラシ釣ったりしてる間に、凄い頑張りだったのね。さすがは凄腕、ソルダムさん。

「それで、お前らはどこに向かうつもりなんだ」
 ミリネ、めっちゃ偉そうに発言。
 しているように見えるだけで、実際にしゃべってるのは、ミリネの額に巣食うサウロだけど。その会話方法、非常にグロテスクですってば。
「まずはポーラス西地区南西4番街。そこで知り合いに届け物」
「ふん……あの森に囲まれたへんぴな街の4番街か」
 サウロ、何事かを考え込むように、目を細める。ミリネの額に埋め込まれた物体の点目が細められると、ただの横棒みたいな窪みに見えるけど。
 パカリと、その棒が点になった。
「お前らに付き合って歩かせるには、お嬢は体力が追いつかない。オレ様とお嬢は先に行って街付近で待ってるぞ」
「あ、そう?」
 先に行く、なんて選択肢があるなら、それはその方がいいかもしれない。普通に一日くらいかかる道のりだから、ミリネみたいなちっちゃい子が歩くのは大変だろうし。
「お前らが来るまでに、引き続き召喚師らの情報でも集めておくとしよう」
「助かるよ」
 各地に散らばっているという召喚師の情報が聞けるのは、かなり心強い。普通に人が察知できない方面を補ってもらえるのが嬉しいね。

 ぺこりと頭を下げたミリネ。その姿が、あっという間に掻き消えてしまった。
「……どうなってんのかね」
 謎の多いエルフのことは、よくわからない。瞬時に移動できるってのは色々便利だと思うけど、ひとりで行ったってことは、シイナと同じで他人を連れては無理なんだろうなあ。

「それじゃあ、オレたちも行くか」
「ああ」
 まずは西地区のディク先生の許へ。
 オレたちは三人揃って、ソルダムの工房を後にした。





==椎名の呟き==
前回ポニテの話なんてしたけど、よく考えてみたら、そんな髪型して人様にお見せできる年頃でもなかったですね。椎名。えへへへ。
(今回の話に関するコメントはないのか)

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2007.01.21

 何をするにしてもまず、やらなければならないことが、オレにはある。
 とりあえず一度ポーラス西地区に戻って、ディク先生にイエローストーンのグラスセットを届けて、その後中央ギルドに帰って、事務のおねーさんにもグラスセットを渡さなければならない。
 やっぱり約束は守らないとなあ。

「コーラス」
 ミリネと出会って一晩経って、これからのことなんかをぼんやりと考えていたら、テーブルを挟んだ向かいに座るシイナから声が掛かった。
「なんだー?」
「悪いけど、ちょっと手伝ってくれ。左手がうまく使えないんだ」
 何をやっているのかと思えば。いつもは頭のてっぺん付近で馬の尻尾みたいにまとめ上げている長い髪の毛を、下ろした状態からうまく持ち上げられなくてシイナは難儀している。
「うまく使えないって、昨日折ったから? お前怪我とか魔法力で治せるんじゃないのかよ? てか昨日なおしてなかったっけ」
「応急的な処置をしただけだ。緊急事態でもない限り、あんまり治癒魔法を乱用するのは良くないんだよ。それを続けていたら、身体そのものの治癒能力が落ちる」
 そういうモンなのか。オレがそんな能力持ってたら、ポンポン使っちまいそうな気がするけどな。
 この前のデコクラッシュとか、切った指の止血ってのは、やってもいいことなのかな? ていうか、アレもある意味では緊急事態って言えるのかもしれないけど。
「魔法ってのは小難しいもんだねえ。で、髪を縛るの手伝えばいいんだろ? ちょっとお前床に座れよ」
 シイナを床の上に座らせて、オレはその背後に椅子を引っ張って、そこに腰掛ける。こうすると高さ的にちょうどいいんだよね。
「こう、でいいのか?」
「あだだだだ! 違う! 急にまとめて引っ張るな!!」
 んなこと言ったって。
「オレやったことないんだよ。お前器用だよな。いつもこんな量の多い髪縛り上げてるんだから。面倒くさくない訳? いっそ手が治るまで、解いたままでいるとかさ。そもそもなんでこんな面倒な髪型してるんだよ」
 まとめて引っ張るなと言われたって、じゃあどうやって少しずつ持ち上げればいいのかさっぱりわからない。
「なんでって、この髪を解いてたら、何をやるにも邪魔で仕方ないだろう。もともとオレがこの身体に入る前からケティがやってた髪型だから、それに倣ってるだけだ。実際動くにはいい。まとめている部分が痛くなるのはちょっと困りものだが」
 そりゃあ、長い髪ならまとめておいた方が便利かもしれないけどさあ。
「切っちまおうって思わないわけ?」
「……」
 あれ。
 オレの言葉に振り向いたシイナ、その顔が、なんかポカンとしてる。
「……いや、故人のものとはいえ、一応、他人の身体だし、生前の意思を尊重するなら、やっぱり無闇にそれを変えるってのは、色々と……」
 ああ……。
 必死だなシイナ。つまり、切れば楽になるなんて事実、これまでこれっぽっちも思いつきもしなかったって訳だ、この顔は。変なところで天然なヤツ。というか思考が固すぎるのか。
「何ニヤニヤしてる!」
「べーつにー」
 面白いけど、変につつくと何だか燃え上がりそうだからやめとこう。
「まあ、別にこのままでいいけどなー。長いの似合うし、お前言うところの女ならではの武器ってヤツには、長い髪ってのも入ってるし。色気を演出するには有効だぞー」
 髪の短いシイナなんて、ただの暴れ馬以外の何ものでもない。そうでなくとも中身が大雑把なんだから、見せ掛けだけでも磨いておけ。
「もっともらしいことを言いながら、髪で遊ぶな! 絡まる!!」
「いや、遊んでるわけじゃ」
 結構必死なんですけど。
 しかし、うん、なんかどんどんどツボにはまって行きそうな気配ではあるな。

 ふと、視界の隅に小さな影が現れた。
「あれ、ミリネ」
 相変わらず気配のないままに、ミリネがそっと傍に立ち尽くしている。
「……」
 無言、無表情のまま、ミリネはオレたちに近づくと、オレの脇からそっとシイナの髪に手を伸ばした。
 横から静かに、スイと髪をすくい上げる。
 おお、器用だな。
 ミリネが何をやろうとしているのかを理解して、オレは彼女に場所を譲った。オレは椅子に座っていたけど、ミリネは立ったままくらいの高さが丁度いいらしい。
 大して時間もかけずに、ミリネはシイナの髪を綺麗にアップでまとめ上げてしまった。
 さすがだ。女の子ならではか、それともシイナやミリネに比べて、オレが不器用すぎるのか? いやでもこれって、結構難しいような気がするんだけど。
「ありがとうな」
 シイナが声をかけたが、ミリネは無言のまま一歩下がる。
 相変わらず、しゃべることに関しては不器用なんだな。
 割れたままになっている額には、サウロの身体と同じ色の石が嵌め込まれてるみたいになってるんだけど、それって本当に石なのかな。それとも何か違う物体なのだろうか。ここに初めて来た時には額に割れ目なんてなかったはずだけど、こっちのが普段の姿なのかな?

 その額の石らしきものが、急にちょっとだけ蠢いたように見えた。
「お嬢は一応怪我させた詫びに世話してやってるだけだぞ! いつもこんな風に使っていい存在だと思うなよ!!」
 げ、サウロ。
 ていうか、額の石に点目と小さい口が浮かび上がってそれがしゃべってる。気持ち悪いぞ、それ……。

 ミリネはきっといい子なんだろうし、顔も可愛いんだけど、使ってる召喚能力のセンスだけは最悪なんだよな。
 絶対口に出しては言えないけど。
 召喚師って、みんなそうなのかなあ……。





==椎名の呟き==
面倒くさいですよ。ポニテ。
個人的には好きな髪形ですけどね。自分では面倒くさくてできない。ていうか、ここ数年髪短いから、そもそも不可能ですけどね。

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2007.01.19

 彼らの話を要約すると。
 つまるところ、横柄で口の悪いオレ様鳥は、召喚師である少女の所有する召喚獣であるらしい。
 召喚師というのは人間ではなく、オレたち言うところのエルフという種族だけど、本人たちは自分たちの種族としての「名」を意識してはいない。だから人間が自分たちのことをエルフだとか呼ぶのをそのまま採用しているらしい。少なくとも、人間とは違う種族だってことだけは確かみたいだ。
 で、そのエルフってのは、仲間同士や召喚関係の間では、声を出さずに意思の疎通というのが可能なんだそうだ。だから必然的に、生まれながらにして召喚師は無口なんだって。
 なるほど、だからあの少女は全然口をきかないのか。

「召喚師ってのはしゃべり慣れてない上に、長い歴史を召喚師の集落だけで暮らしてきたのさ。だから人間との交流には大変な勇気と緊張が伴う。だからこのオレ様が、こうやってお嬢の代わりにお前らと話をしてやってるって訳だ」
 いちいち「やってやってる」発言はよせ、鳥。
 大きさ的に目線が合うようにと、工房のテーブルの上に鳥を乗せて、オレたちはその周りを囲むように椅子に座っているから、何というか、彼の偉そう加減が倍増。
「それで本題だがな」
 鳥の声音がちょっと真面目な方向に変わった。けど、なにぶん表情が変わらないもんだから、今イチ雰囲気が伝わりにくいなあ。
「お嬢が言うには、最近になって、急に大きく気が揺れたんだそうだ」
「気?」
「人間のものだ。でかい力が一瞬放出されたような、そういう類のものじゃないかと、各地に散らばった召喚師たちが感じ取ったらしい」
 でかい力?
 それってアレかな。シイナみたいな魔法師のもつ、魔法力みたいなものかな?
「場所はサンレイク」
「!!」
 サンレイク……。
「お前らも知っているかもしれないが、サンレイクも大樹海同様、魔法師の襲撃を受けて土地を壊された場所だ。そこにはこれまで、ずっと結界が張られていた。その結界の揺らぎのようなものも、その時に感じたらしい」
「結界の揺らぎ!? それは結界がなくなるとか弱まるとか、そういう!?」
 思わず乗り出して鳥に食いつくように近づいたら、思いっきりくちばしで小突かれた。かなり痛いぞ、鳥のくちばし!
「気安く近寄るな、人間。……結界が揺れたのは一度だけだ。今はまたこれまで通りにしっかりと強固な壁を作っとるわ」
 ……なんだあ。
「だが、微かだが、今でも乱れた気が各所で蠢いている。この3年間、そんなことは一度だって無かった。3年前に各地が襲撃に遭ったきり沈黙を続けていた何かが、動き出したかもしれない。だからお嬢は、その何かと対抗できる方法を探しに動き始めたって寸法だ。そしたらここで、普通ありえない強さの精霊石の反応が現れた」
 そういうことかあ。精霊石の気みたいなものを読む力は、人間の魔法師にもあるけど、召喚師ってのは離れててもそれが可能なのか。確かに凄い能力だな。
「で、まあ、お嬢が言うには……お嬢だぞ? オレ様の意見じゃねえぞ? お嬢が言うには、精霊石の近くにあるお前らの気が、素晴らしく綺麗なものに感じられたんだそうだ。これは絶対に、悪しき者の気ではないと。だから、とにもかくにもこうやって会いに来た、と」
 そういうことか。それならそうだと早く言ってくれればいいのに。って、それが出来ないから困っちゃった訳なんだろうけど。
「お嬢は極度の恐怖や緊張や驚愕で無意識に召喚獣を呼んじまうタイプだから、扱いには気をつけてもらわんと困るぞ」
 それはいくらなんでも不可抗力だったろうよ。
「悪くすれば世界の危機だ。それを危惧する同士なら、手を組むべきだ。そうすべき相手であるかどうかを我々は確認に来た。お前らにそのつもりがあるのなら、黙って我々に協力するが良い」
 またもや鳥、ふんぞり返る。
「随分とお偉い物言いしてくれるじゃないか。お前ら、どっちが主人だかわからないじゃんよ」
 正直に意見を述べたら、鳥、かなり憤慨した模様。クワッと羽を広げて食って掛かられる。
「オレ様はお嬢の従属だ!! お嬢より偉いわけがなかろう!! オレ様はお嬢の意思を代弁しているだけであって、あくまで主人はお嬢だ!! 大体だ、大した能力も持たない人間と召喚師とじゃあ、生まれ持った格が違うんだ!! 偉い者が偉い物言いをして何が悪い!!」
 あらあ、はっきりと言い切ってくれたなあ。
 面白いからもう少しつつきたい衝動にも駆られたけど、当の召喚師である彼女が、泣きそうな顔で鳥を押さえてフルフルと首を振っている。かわいそうだからやめておこうか。
「まあ、お前らがオレたちより偉いなら、それはそれでいいけどね。確かに召喚師の持っている能力ってのは、色々と貴重みたいだしな。オレたちは協力し合った方がいいと思うよ」
 言いながらシイナとソルダムを伺い見てみれば、ずっと無言のままそこにいるふたりは、そろって小さく頷いた。
 召喚師なんて、実物を見たのは初めてだけど、メンタルな面の能力値が高いだけに、実践となると弱そうだ。だからこそ、彼らだけではどうにもならずに、こうやって策を見つけに来たんだろうし。同じ目的があるなら、助け合わない手はない。
 と、ずっと黙っていた少女が、座っていた椅子から腰を上げた。身長が低いから、目の高さがあんまり変わらないんだけどね。
「ご無礼を……お許しください……。サウロも……悪気は、ないんです……」
 か細い、消え入りそうな声だ。なるほど、召喚獣が必要以上におしゃべりになるのもわかるような気がする。
 そうか、その偉い鳥はサウロって名前なのか。

「じゃあサウロ。オレたちはこれから、どうするべきなのかな?」
 サウロに向き直れば、彼(でいいよな)は、フンと鼻を鳴らす。だから、鳥がそういう仕草をするのって変だってば。
「お嬢と合い見えたからには、お前らはお嬢を守る義務がある」
 そうですかそうですか。
 ああ、オロオロする様子がわかりすぎるくらいの彼女が痛々しい。横柄な相棒を持つと大変だなあ。
「で、とりあえずはその各地で蠢いてる気ってのが何なのか気になるよな」
 サウロが頷く。
「それが何なのかを見極めるのが先決だろう。召喚師たちも目立たぬよう動いていることだしな」
「うん」
 オレは椅子から立ち上がって、テーブルをまわりこんで少女に近づいた。
 なるべく脅かさないように、ゆっくりと。
 触れないような距離で膝を突く。よしよし、逃げないな。
「協力をお願いするよ。オレはコーラス。キミはなんて名前?」
「……」
 こぼれそうな水色の瞳が、床を見る。
「……ミリネ」
 ミリネ、か。見た目に似合う可愛らしい名前だなあ。
「よろしくな。頼りにしてるよ」
 と、ついつい勢いで彼女の頭に手を置いてしまったら、テーブルの上から物凄い威力でくちばし攻撃が降ってきた。
 お前のくちばしも頼りになりそうだね……ホントに。





==椎名の呟き==
そこにいるのに出番のない人が二名ほどいます。
次回からは普通に動きますよー、多分!

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2007.01.18

 うねうねとうごめく謎のゼリー状物体(色は深緑色)は、常にグニャグニャと形を変えつつ、口と思しき部分の上に、小さなくぼみをふたつ作り出した。
 ……目ですか。それ。

「チッ……コーラス、ここ、ちょっと押さえてくれ」
 シイナが相手を見据えたまま、つい、と左腕をオレの目の前に差し出した。手首に近い部分が、妙に腫れている。
「え、ここって、ここか」
 そっと触ったつもりだったけど、触れただけでシイナの眉間に皺が刻まれて、びびった。
「折れた」
 うえええええ!?
「大丈夫だから押さえてろ。とりあえずくっつける」
 くっつけるって。そりゃお前は治癒魔法使えるかもしれないけど、相当痛いんじゃないのか、それ。って、そんなこと言ってる場合でもないのか。
 見たところ、折れたって言ってもポッキリふたつになっちまった訳でもないらしいから、これ以上おかしな方向に折れる前に、できるだけ痛みのないように、その手を支える。
「新しい槍さまさまだな……。精霊石がなかったら、腕一本持ってかれてた」
 精霊石の魔法力増幅、実感してますね。
 いやいやいや、そんな呑気なことを考えてる場合じゃない、オレ!
「もういいぞ」
 早。
 あんまり腫れはひいてないように見えるけど。

 しかしそんなやり取りをしている間、おかしなヘドロはぐにゃぐにゃとうごめいたまま、目なんだか何だかわからない部分を右往左往させていた。その後方では、謎の少女がそのヘドロを必死の眼差しで見つめている。
「なんだお嬢。違うのか? ふん? ふん。はあー」
 お前、誰としゃべってるんだ。
「迷子と勘違い? そりゃバカだなあ。ははははははは。うんうん。なんだ、そうかそうか」
 バカとはなんだあ!
 というか、状況から考えて、ヘドロは後ろにいる少女と話しているように見えなくもないんだけど、終始無言の彼女とどうやって意思の疎通をしているのか謎だ。
 そのくぼんだ目が、ぐるりとオレたちに向けられた。
 また来るか!?
 咄嗟に身構えたけど、そのヘドロはぐにゃぐにゃと形を変えはじめた。
「不用意にお嬢に近づこうとするから、勘違いしちまったじゃねーか。これに懲りたら、オレ様の許可無くお嬢に触るんじゃねーぞ、坊主」
 まだ指一本触れてないが!
 大体、勘違いってナンだ。そもそもお前らは一体何なんだ。

 うごめいていたヘドロは、徐々に形を変えて行き、両手で一抱えくらいの大きさの鳥へと変化した。相変わらず、色は深緑なまま。
 あの状態のヘドロから、羽一枚までどうやって形成してるんだ……。
「お前ら一体なんだよ!!」
 急に現れて、いきなり物騒な光ぶっ放して、なんか自己完結してるし。
「なんなんだとは、こっちも訊きたいところだ坊主。なんでそんなでかい精霊石ふたつも揃えてやがるんだ? そいつの気配を辿って、お嬢はここまで来ちまったんだよ」
「それでいきなり腕落としかねない攻撃かよ!?」
「お嬢に危害を加えるヤツは、有無を言わさずオレ様の攻撃対象よ。まあ勘違いだったらしいから、それはすまなかったがなあ」
 腕折られて、勘違いですまなかったって何だ。
「お嬢が言うには、精霊石の力を頼りにここまで来ちまったんだとよ。お嬢はそりゃあ力の強い召喚師だ。精霊石の気配には敏感なんだぜ」

 召喚師……?

 召喚師って、あの召喚師か?
「大樹海で暮らしてたっていう?」
 オレの言葉に、もとヘドロの鳥はふんぞり返った。
「召喚師が他にどこにいるよ」
 偉そうだな。鳥。
 召喚師って存在は聞いたことはあるけど、お目にかかったことなんて一度だってないんだから仕方ないだろ。北の国の大樹海に住んでるってのだって噂程度の情報だし、正直そんなのが本当に存在してるのかだってわからなかったんだから。
「でも大樹海って言ったら……3年前に、襲撃受けて壊滅した場所だよな?」
 彼女も、その時の生き残りってことなのか?
「大樹海は大破したぜえ。だが人間とエルフを一緒にするなよ。召喚師連中は襲撃の時、それぞれが各地に散らばって逃げおおせたさ」
 エルフって……。
「召喚師がエルフの末裔って、本当なのか?」
「末裔っつー言い方でいいんか? 召喚師は全員、生粋のエルフだ。高貴な存在だ。もっとも、エルフなんて呼び方は人間が作り出したものだけどな。お前、大体人間なんぞに召喚獣が扱えるわけねーだろ」
 いちいちカンに障る物言いをする鳥だなー。
 しかしなるほど、人間じゃないのか……。なら額がパックリ割れて変なものが出てきたのも納得。別にエルフにそんな特技があるって知ってたわけじゃないけど、少なくとも人間の額は、そう滅多な事では割れたりヘドロを出したりしない。ていうか絶対しない。

 押し問答をしていたら、シイナがズイッと俺を押し退けて前に出た。
「で、その召喚師とやらは、なんだってこんなところにやってきたんだ」
 シイナの言葉には、鳥は妙にそわそわというか、バツの悪そうな雰囲気でキョロキョロと目を動かす。
「そいつは……アレだよ。たまたまひっそり身を隠してた近所ででかい精霊石の気配があったから、お嬢が……。別にオレ様は人間なんざと話をする必要はまったく無えと考えてる訳だが、なんだその、そういうことを言ってる事態でもなくなってきたってーか……」
 意味がわからん。

「あなたたちの、色が……綺麗……だったから」
 うお、たまげた。
 鳥の後ろで縮こまってた女の子が、突然口を開いた。
「あー、つまりだなー」
 ゴホンと、鳥が咳払いをする。
 その姿で咳払いって、なんか変だぞ。
「つまり、お嬢とお前らの敵とするところが同じなんじゃないかと、お嬢はそう判断したんだとよ。で、話をすることが出来ないかと、ここまでやってきたんだそーだ。そういうことは早めに言ってくれよなあ、お嬢」
 その暇も与えなかったんじゃないのか、ひょっとして。
 それより、さっきからほとんどしゃべってない少女から、それだけの情報を引き出してるって事実も凄いけどな。どんな対話方法だ、それ。
「とにかくだ、そういうことだから、ちっと話をしねえか、坊主ども」
「……」
 こっちはひとり腕を折られてるってのに、いけしゃあしゃあと言ってくれる。

 しかし、だ。
 これはその、どうしたらいいんだろう?





==椎名の呟き==
エルフ~なんて言ってますけど、実際正体がわからないからエルフだの精霊だの言ってるだけで、別にそういう種族名があるわけじゃないっぽいね。彼らの場合。単に人間とは違うだけで。
(ここで解説してどうする)

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2007.01.17

 今になってふと思いついた。
 ソルダムの工房でやっかいになっている間、それなりの礼は尽くそうと、雑用は自分たちに言いつけてくれと申し出たオレだけど。その言いつけられる用事ってのがイモ堀だったり魚釣りだったり草刈だったりしたのはつまり、作業している間、オレたちが家の中でどっかんどっかん暴れるのが邪魔だったんじゃないかと。
 さすがはソルダム、抜かりがない。
 シイナに言ってみたら、そんな自慢にもならないようなことを嬉しそうに報告するなと殴られた。

「コーラス、シイナ。来いよ」

 薪割りをしながらやいやい言い合っていたら、そこにソルダムが顔を出した。
「ご所望の品、出来上がったぜ」
「え、マジ」
 ここに来てから3日。暇を持て余して迷惑行動を繰り広げていた毎日だったけど、ようやくお目にかかれる訳だ。新しい武器。

「うわー。カッコいいなあ」
 それなりの装飾を施された槍の柄に、遜色ない美しさで取り付けられた精霊石の刃先。精霊石自体が高価なものだけど、それを最大限に活かすソルダムの仕事は一級品だ。オレが長年愛用している剣も、見てわかるくらいにその輝きを変えた。
 精霊石を扱える鍛冶屋ってのは、本当に数が少ないんだよね。ソルダムはそれを扱える技術があるって点を公にしていない。さすがに剣だの槍だのって大物は無いにしろ、小型のナイフだの装飾品だのの加工の依頼で忙殺されてしまうこと間違いなしだからだ。金を儲けるにはイイ話だが、ソルダムはそういう生活は、あまり望んでいないらしい。
「言っておくけど、金は取らないからな」
 ソルダムの先制攻撃に、シイナが目を見開いた。
「でも」
 精霊石はただでくれてやるって話だったけど、シイナは技術料は払うつもりでいたんだろう。
「オレはこれでもコーラスには期待してるんだよ。得体の知れない敵を前にして、いつか起こるかもしれないその凶行を止めようなんて動きをしている男にね。だからコーラスからは金は取らない。そのコーラスと同じ目的で一緒に行動してるお前さんだって同じことだ。……まあ理屈云々は抜きにしても、それが友達ってモンだよ」
 いい友を持ったよ、オレは。
 正直、ここでもし技術料をソルダムに支払ったとすれば、オレたちはまた一文無しに返り咲きだぜ。シイナはそのつもりだったかもしれないけど。
 シイナは、加工の施された槍を食い入るように見つめた。
「……ありがとう。本当に助かった。心から感謝する。ソルダム、コーラス」
 感謝しなければならないのはこっちかもしれないんだって。きっとこの先、シイナのその力は物凄く必要になるもので、お互いひとりでいたら、どうにもならなかったかもしれないんだから。

「でさあ」
 ソルダムが、ふと思いついたように声をたてた。
「それ、誰?」
「え?」
 オレたちの方を向いていたソルダム、正確にはその視線はオレたちの背後を捉えていたようで、つられて振り返ったオレたちは、開け放たれたままだった外への扉を見た。

 え?
 誰?

 いつの間にか、本当にいつの間にか、オレに気配すら読ませずに、そこに小さな少女が立っていた。
 耳の下でふたつにまとめられている髪は濃いこげ茶で、それに対して薄い水色の目がかなりミスマッチな少女。正直、その目はクリクリと大きすぎて、今にも零れ落ちそうだ。
 オレたちの腰ほどしかない身長のその少女は、一見普通の子供だけど、見たこともない瞳の色と、オレに一切気配を悟らせないその立ち姿は、一種異様だ。
 でもどういうわけか、自分の意志でそこまで来たであろう少女の瞳は、まるで脅えているかのように揺れている。
「あの、どちらさま?」
 うっかり出た間抜けな問いにも、少女は無言。
 無害……なのかなあ?
 一歩を踏み出したら、その少女の身体がビクンと跳ね上がった。うわ、マジで脅えてるよ。最初にオレたちを驚かせたのはそっちでしょうが。
 警戒しつつさらに一歩を踏み出すと、ジリ、と少女の片足が後退する。いやあの、勝手に現れて、速攻逃げられても困るんですけど。残されたオレたちが怖いじゃん。
「えーと、オレたちは別に怖い人じゃないから大丈夫だよ。っていうかむしろ、キミが怖い人じゃないかの方が不安なくらいなんだけどさ。キミ、どこから来たの?」
 なるべく脅えさせないように、じりじりと愛想よく近づいていく。それ以上は後退しないけど、一層色濃くなっていく脅えの色が、なんか理不尽だ。
「ここに、何か用事?」
「あ……」
 やっと一言。
 言うというより漏れたその声は、普通に子供の女の子の声で、しかもたった一言なのに、震えているのがわかりすぎるくらいで。ホントに何者ですか、キミは。
「もしかして、迷子なのかな?」
 嘘くさい笑顔を貼り付けつつ。おおよそ手を伸ばせば届くくらいまで近づいたら、今度こそ彼女は動きを見せた。
「あ……あ、あ……」
 一歩退いて、その勢いで数歩飛び退る。うわ、異様に俊敏。
 泣き出しそうに、彼女の顔が歪められた。
「せ……いれ……」
 震えながら、何かを呟いて。
 で。
 うわーあああああああ。

 こっちをまっすぐに見つめる彼女の額が、額が……縦にぱっくり割れた。
 うそおおおおおお。
「コーラス、気をつけろ!」
 シイナが素早くオレの隣に駆け寄ってきたと同時に、その割れた額が、いきなりカッと輝いた。うぎゃ、ハゲオヤジのつるピカフラッシュも勝てない輝き!? ってそんな場合じゃない、オレ!!
 その輝きから何が飛び出してくるのかと身構えた瞬間、額の割れ目から、なにかこう、ドロドロとした、ヘドロ状のものがダラーっと流れ出して、モリモリと地上にゼリー状の山を築き上げていく。彼女の目は、脅えたように見開かれたままだ。
 うそおおお……。
 趣味悪うう。

 何が起こっているのかわからないまま、その光景に目を見張っているオレたち三人の目前で、地上に山になったヘドロが、急にうねうねと動き出して、にょろっと立ち上がった。多分。
 バカンと、その一部に穴があいたように見えた。
「お嬢に危害を加えるヤツは、どこのどいつじゃーい!!」
 その穴、口ですか――ッ!?
 ていうか、生きてる!?
 驚愕に固まってしまったオレの目の前で、そのしゃべったであろう口らしき部分が、不可思議な色で輝き始めた。
「許さんぞお――――――ッ!!」

「コーラス、避けろ!!」
 カカカッと強烈な光が直線になって、その口から放たれた。
「グ……ッ!!」
 咄嗟にシイナがオレの前に立ちはだかって、出来上がったばかりの槍を構えてその光を受け止めた。シイナの全身が、すでに魔法力で青白く覆われている。
「クソ……ッ!!」
 大振りの槍を振りかぶって、シイナが渾身込めてその光を跳ね返す。
 あらぬ方向へと力の矛先を変えたその光は、工房の前の木にぶち当たって、その部分を瞬時に焼ききった。
 ばさばさばさばさ、と、その木の立派な枝々が、支えをなくして地上へと落下した。

 一体、何が起こってるんですかあー!?





==椎名の呟き==
こっちが聞きたいわ。あははは。

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2007.01.16

 遥か遠くまで広がる大海原を目の前にして、岩場に立ったオレは、足許の岩をコツンと蹴った。
「この辺だな、オレが打ち上げられてたのは」
 オレの言葉に、シイナがその場を凝視する。
「この辺って、だってここ、海面からの高さ、結構あるぞ」
 その通り。今は、俺たちが立っている場所から海面までの距離は、少なくとも俺の身長分くらいはある。
 漂着したって話だけ聞けば、どこぞの砂浜にでも打ち上げられて、こう、物語っぽくうつ伏せで倒れてたり、なんてのを想像するのかもしれないけど。現実はそんなに絵になる状況にはなってくれないんだよなあ。
「あの時は海が満ち潮でさ。波が結構高かったんだろうな。オレは意識飛ばしてたから知らないんだけど、この岩の上で、船の残骸だかなんだかの板をドッカリ身体の上に乗せて、、大の字で伸びてたらしい」
 シイナ、多分無意識に口が半開きになる。
「笑うなっつーのー」
 オレはヒュンと釣竿を振って、餌をつけた釣り針を海面に投げ込んだ。

 晩飯のおかずを釣って帰るのが、今日のオレたちの仕事だ。ぼやぼやしている訳にはいかない。
 ずっと精霊石を加工させてるんだから、なるべく手間なことはオレたちでやらないと。余計に仕事を増やしてるんじゃないかって話は言いっこなしだ。
 竿を握ったままその場に座り込むと、シイナもそれにならって腰掛けた。自分で持っている竿を海に向けて振る。

「精霊石が……」
 僅かな沈黙の後、シイナが静かに口を開いた。
「精霊石の加工が終わったら……探さないとな」
「……」
 オレたちの敵を、ということだろう。
 とっとと見つけてそれ対決、というわけにはさすがにいかないが、手掛かりは探す必要がある。
「ヤツ……アーザスとか名乗っていた……あれから少しも尻尾がつかめない」
 シイナの身体を乗っ取ったとか言うヤツか。
「アーザス、ねえ……もしかしてさ、そいつ『偉大なる魔道師、我が名はアーザス』とか言ったりした?」
 シイナが驚いてオレを見る。
「何でわかった? いや、ちょっと違うが『大いなる力を持つ、我が名はアーザス』とは言ってたな」
「やっぱり徒党組んでる連中なのかなあ。サンレイク襲ったヤツがさ、名前は……トロイアとか言ってたけど、そいつが偉大なる魔道師、とか言ってたんだよね」
「仲間か……」
 少なくとも二人はいるってことか。
 だっさい称号つきで名乗るのは、連中の流儀かな?
 アーザスってヤツはもちろん知らないけど、トロイア、あいつの名前と姿だけは忘れない。獲物を睨む蛇みたいな、灰緑の瞳だけは。
「正直、サンレイクの結界の中に立て篭もってるのがトロイア本人かどうかもわからないんだけどね。結界を確認したのは俺がこの国に来てからだし、何しろ近付けない訳だし」
「時間をかけても、情報を掴むしかないな……おいコーラス。お前さっきから何回餌取られてるんだよ、へたくそ」
 へたくそ言うな。まだ4……5回くらいしか餌付け替えてない!
「そういうシイナだってまだ一回も竿引いてないじゃないか」
「かからないんだから仕方ないだろ!」
「かかっても気付いてないだけなんじゃないのか!?」
 このままじゃ夕飯から海の幸が消える。
「だったらいっそ、てめえが餌になって魚引っ張ってきやがれ!」

「うぎゃあ!!」
 シイナ、座ったまま器用に蹴り落とした。オレを。
「シイナてめえ~~!!」

 ドボン。ごぼごぼごぼごぼ。

 落とされた方は良くわからないが、きっと派手な水音がしたに違いない。
 って、そんな場合じゃなくて。
 おーまーえーなー。
 オレが海に飛び込んで魚が捕獲できりゃ世話ないってのー。まったく女の身体だからって、女みたいにヒステリックになるなってーの。
 とっとと岩場にあがろうとして、妙な気配に気付く。
 んん?
 何かが、背後にいるんですけど……。

「ぎゃ――――――ッ!!」

 岩場に手をかけずにバシバシと猛スピードで泳ぎ始めたオレに、さすがのシイナも驚いたらしい。
「コーラス!?」
「なんかいる! なんかでかいのが追いかけてくる――!!」
「お前どこまで行く気だ!?」
「わかんねーよ!! でも岩場登ってる余裕ねえって!!」
 バシャバシャバシャバシャ。
 かなりのハイスピードで逃げ回ったオレの服の裾を、何かの大きな口がガブリとくわえて引っ張った。


「元いた場所に戻して来い」
 ソルダム兄さん、目が据わってる。

 俺の服をくわえて結局砂浜までのし上がってきたのは、エンデリックにしかいないエンデアザラシだった。
 とりあえず人間は食わない。が、何しろでかい。
 オレが背中に乗れるほどの巨体を引きずって、アザラシはソルダムの工房にまでついてきてしまった。この海の生物、こんな陸にまであがってきて平気だったんだ。
「これ、食えない?」
「食えるわけねーだろ!! 干物にしたって何年も困らんくらいのこの巨体を、誰がさばくんだ!! 弱らないうちにさっさと海に戻して来い!!」
 でもオレ冬のさなかにずぶ濡れで寒いんだけどー。そもそもオレを海に突き落としたのはシイナだぞ。
「大体魚はどうしたんだ? 飯のおかず」
 ソルダムは腰に手を当てて呆れ顔。成果がないのは一目でわかるだろう。
 て。なんか。むずむずむずむず。
 重ね着したままずぶ濡れになった服のボタンを外したら、服の中から5、6匹、魚が滑り落ちた。
 シイナが面白そうに目を見張る。
「釣れるもんだな。お前が餌でも。良かったじゃないか」
 シイナ……。
 つうかこれは餌じゃなくて、逃げ回ったときに入り込んで来ただけだろがー。

 はああああ。
 ソルダムさん、でかいため息。なんか顔笑ってますけど。
「仕方ないな。こいつはオレが戻してくるから、お前らはその魚焼いて待ってろよ。くれぐれも焦がしたり爆発させたりするんじゃないぞ!」
 爆発って、どうやって。
「わかったよー。ごめん」
 ソルダムがアザラシと肩を並べて歩いて行くのを見送って、とりあえずオレは体の水分をざっと取った。
「じゃあこれ焼いちゃうかね」
 棚にしまってあった網を取り出す。これ、魚用だよな? 多分。
「このままで焼いていいのか?」
 シイナが魚の尻尾をつまんで顔の前でプラプラさせている。
「多分」
 このままで焼いちゃダメだったとしても、他に方法を知らないから仕方ない。まあ、普通に火を通せば食えなくはないだろ。
 海まで出張させたソルダムには、一番大きいのを食わせてやろう、なんて考えながら、魚をまとめて網の上に乗せた。

 まあ見事に焼いてる最中、魚の内臓が破裂して辺り一面に飛び散ったんだけどね。




==椎名の呟き==
あの、ソルダムに会って以来、迷惑しかかけてない気がするんですけど。
コーラスって、昔からこんなだったんだろうか。

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2007.01.15

 林の中の土の上を凝視していたシイナが、ふと思いついたようにオレの顔を見た。
「ソルダムとはいつからの知り合いなんだ?」
「ん? 国がなくなってすぐの頃だよ」
 シイナの方をチラリと見て、あ、見つけた。
 シイナの後方の土の上にひっそりと顔をのぞかせている細い葉っぱに近づいて、それを引っこ抜く。
『むきゃあ!』
 その隣にあった同じ葉っぱを、シイナも引き抜いた。
『むきゃあ!』
「大体、お前はどうやってサンレイクからここまでたどり着いたんだ?」
 もひとつみっけ。
『むきゃあ!』
「最初にさ、海ポチャした時にはさすがにオレも意識喪失状態だったわけよ。精霊石の守りのおかげか知らないけど、気付いた時には無人島に流れ着いててさ」
 もっとも、そこが無人島だったってのを知ったのは、後になってからの話だ。無人島っていっても人がいないってだけで、実際にはポーラスやエンデリックの属するレーデンバルム国の国土なんだけど。
『むきゃッ』
 ……あ、折れた。
「で、そこで目を覚ましたオレ、とりあえずこんなところでのたれ死ぬ訳にはいかないと、そこにあった、多分昔本土の漁師が使ってた小船を拝借して、レーデンバルムの方角へと漕ぎ出したんだな」
「よくレーデンバルムの方角がわかったな」
「簡単な天文学と地理だわな。サンレイクの位置を考えると、どこの海に放り出されたとしても、東に向かった方が早く陸地に着くんだ。サンレイクの西側は大海が広がってて、相当の時間をかけないと陸には行けない。だから空を見て方角を判断して、で、レーデンバルムの国土は広いからさ、東に向かって着くのはこの国だろうって予測はついた」
「ふうん……」
「けどまあ、いつ乗り捨てられたのかもわからないような小船だからさ、ボロいわけだよ。で、ボロいってのは、海の上でガンガン水とか入って来るんだよな。結局どんぶら海を流されながら、何度も沈みかかって結局沈んだりして、陸地が見える前にまた溺れたりして」
「……」
「結局意識不明のまま打ち上げられたのがエンデリックの海辺で、そこでソルダムに拾われたってわけ」
『むきゃあ!』
「精霊石の守りってのは、眉唾な話でもないんだな……よっと」
『むきゃあ!』
「そりゃそうだよ」
 魔法師の魔法力増幅、なんてのにも使える精霊石、お守りになるなんて話も普通に聞くけど、それはでたらめじゃない。意志を持つ無機物の名は伊達じゃないんだからな。だから城から海に投げ出されても、何日も海を漂流しても、こうやってオレは生きてる。オレ自身の運がいいとか、それだけじゃ生きちゃいられなかったよ、多分。

「びっくりしたもんだぜ。たまには魚でも食おうと思って海辺に来てみたら、こいつが転がってたんだから」

 ザクザクと落ち葉を踏みしめて歩いてくる音に、オレとシイナは揃って振り向いた。
「ソルダム」
「食えもしないモン拾ってもしょうがないとは思ったけど、そのままにしとくわけにもいかないしな。食えないどころかまたこいつがよく食うもんだから、食費のかさむこと」
 だからー。悪いと思ったから仕事も手伝ったしー。魚も釣ったし食い物もいっぱい収穫したじゃんよー、毎日。
「お前ら随分採ったな。それ全部食う気か?」
 大丈夫。オレも食うけど、シイナもかなりの大食漢だ。

 オレたちがさっきから引っこ抜いていたのは鳴きイモの一種だ。
 イモの部分にいくつも空洞があって、その作用だか何だかで、引っこ抜く時にいちいち悲鳴のような音をたてるんだけど、別に動物のように生きているだとか、その悲鳴を聞くと死んでしまうだとかいう逸話がある訳じゃない。決して。
「まあいいや。そろそろ戻れよ。オレも腹が減ってきた」
 ソルダムが親指でちょいと家の方を指すから、オレたちも屈めていた腰を上げて伸びた。確かにこれだけあれば充分か。

 精霊石の加工には、それなりに時間がかかる。オレの剣も鍛えてもらうんだから、その間くらいはオレとシイナで飯の用意くらいはしようってんで、イモの収穫に出かけて来たんだけど。
 確かにソルダムに呼ばれなかったら、話に任せて超大量収穫してたかもしれないな。危ない危ない。自然は大切に。


 工房の隅にある調理場で、鳴きイモに包丁を入れる。
『むひゃあ』
 最後の断末魔的な音。
 ゾリゾリとイモの皮をむきながら、適当な大きさに切ったイモをポイポイと鍋に放り入れる。
「コーラス! まだ鍋の肉に火が通ってないんだからちょっと待て! ……ってェ!」
「ぎゃ、シイナ指切ったのかよ」
「切ってねえよ。気のせいだ」
「嘘つくな! イモが赤い! みるみる赤くなってる! とんでもスプラッタ料理になる前に血を止めろ!」
「今止めたよ、うるさいな。それよりそっちの香草忘れるな! あああ、焦げてる、焦げてるぞ!」
「わーかってるよ、こんなのさっさと鍋に移せば問題ない……ぶわあーッ、煙が目に、目にー!」

 ぐい。
 オレとシイナ、急に首根っこをつかまれて後方に引っ張られた。

「お前ら、オレを食中毒死させるのが目的か? それとも台所壊滅が狙いか?」
 ふたりの間に、ソルダムの笑顔。
 そんな、滅相もない……。
「危ないものこしらえてないで、おまえらはあっちで遊んでなさい。ここはオレがやるから」
「はーい……」
 有無を言わさず、調理場から追い出された。

 シイナと野宿なんかしてた時には、案外うまくいってたんだけどなあ。
 というより、何とか口に入れられるものが出来れば問題なかったというか。
 やっぱり、よく食う人間は、胃も丈夫に出来てるんだよ、多分……。





==椎名の呟き==
ホントにお育ちのいいふたり組なんですかね。あまりにも味覚が大雑把。
まるで椎名みたいです。

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2007.01.15

これまで出てきた主要キャラは、今のところ全員既存のキャラだって話は、時々してきましたが。

例えばコーラスは、某MMOで使用していたものの、殆ど動かしてやれなかったキャラで、だから今回主人公に持ってきたという気の毒君。
最初は剣士系のPCとして作ってたんだけど、途中で飽きちゃって、後にシーフ系だの魔術師系だの聖職者系だのを経験した結果、結局まともに動かせてないという、かなりお遊びキャラ。
そして、椎名のDQ8の主人公の名前はコーラスですw

シイナは同じゲームでの、私のメインキャラですね。聖職者やってました。実際私の名を取ってシイナにしたというわけではなく、シイナが私の中で定着してしまったのでHNにしたという……。椎名シイという名前を使っているのはこのブログでだけなんですよ。椎名、他にいくつかHN持ってますし。
なのに、コーラスを使ったらシイナも使いたくなるじゃんという事実に気付いたのは、ブログページを作り上げてから……。
でもまあ、それもいいじゃんって事で据え置き。

ソルダムも同じMMO出身。
実は椎名のファーストキャラですよ。小説と同じく、鍛冶屋なんてやってます。商売ばかりですが。

とまあ、ここまで書いた時点で、このMMO経験者の方には何のゲームか大体わかってしまうと思うのですけど、ここはひとつ知らない振りでw
今も課金はしてるのですけど、忙しくて遊んでいる時間がないのが現実ですね~。こんなブログやってるしw

ディクは、最近も書きましたが、ずっと昔にやってたPBMというゲームで使用していたキャラです。まだネットとかそんなに普及してなくてね。メインは郵便だったんですよ。ディクはメールでの参加が始まった頃のキャラですけど。
ひとつの会社が用意した「元の小説」というのがあって、オープニングノベルというのが配布されます。その中から自分が参加したい話を選んでキャラ作成。そしてOPノベルを読んで、その後自分のキャラにどんな行動をさせたいかを考えて、文章で提出。同じ小説の中に何十人かの参加者がいるので、その参加者の行動も合わせて、マスターと呼ばれる人がそれを小説にして返してくれるというもので、ひとつの話で10回の参加が可能でした。つまり10話完結ね。参加者が多いので、うっかり地味な行動を取ってると小説に名前すら載らないなんてこともある世界でしたが;; 椎名はけっこう名前載せてもらってました。この会社のは、比較的参加しやすいシステムだったみたいでね。結構頑張って参加者全員を出そうとしてたみたいだし。
ディクはやっぱり旅の薬師をやってる女性でしたが、このブログで見るのと同じ感じでやってたので、その世界で生きるキャラクターたちにはほぼ男と思われてたみたいです。小説書いてるマスターとか、何人かの参加者さんのリアルの人は女性だって知ってましたけど。
「私のキャラはディクさんを女だって気付いてないですよ~」なんて話もあったり。

カタカナの名前でPBMに出てたのなら、もうひとりいるんですけどね。全然別の話ですけど。
そいつも出そうかなと思ったんだけど、そいつは未来のアメリカ合衆国で外科医をやってて……。
職業がかぶるじゃん!
ディクは薬師だし、シイナも治癒魔法使えるし、よく考えたら椎名の作るキャラ、みんな癒し系かよ! と……。
職業変えればいいだけの話なんだけど。別物のキャラを考えるのが面倒くさかった、と……。

主要キャラは、まだ全員じゃないかもしれません。
そのうちまた、増えるかもね? でも増えないかもね?

あ、追伸。
朝になるまでに、できれば小説更新します。
2007.01.13

 山積みにされたパンをキレイに平らげた後、腕組みをしたままシイナの話を聞いていたソルダムは、呆れたようにケタケタと笑い出した。
「そりゃ難儀な話だなあ。類友っていうのかね、こういうの。かたやとてもそうには見えない亡国の王様で、かたや中身は男の美少女魔法師なんて、狙ってるとしか思えねーぞ、それ」
 とてもそうには見えないって、あんまりだソルダム。
「まあ仕方ないわな。そうなっちまったモンは、うん、仕方ないから、あとはいかに有効にそれを使うかだな」
「有効に?」
 シイナの言葉に、ソルダムは立ち上がって、作りつけの棚の奥をゴソゴソと漁り始めた。
「コーラスもシイナも、そうなっちまったのには理由がある。その理由ってのは多分かなりえげつない目的であって、おそらくお前たちだけの問題では済まないものなんだろう。その目的を潰すためにお前たちは動いているのであって、それなら、生きるために与えられたその仮の身体も遺された武器も、最大限に使っていいものだ」
 それは、その通りだ。
 だからオレもシイナもこれまで生きてきたし、出会ってからここまで来た。
「シイナ、お前さんがその身体で最大限の魔法を使えるように努力したこともしかり、コーラスがこれを取りに来たこともしかり」
 湖の色に輝く透明な石の塊を、ソルダムはテーブルの上に置いた。
「精霊石……」
「そう。コーラスは、これをシイナにあげるために来たんだろ?」
 オレは頷く。
 シイナがオレを見た。
「こんなに大きな、純度の高いものを、どうやって」
 確かにまあ、でかい。片手に乗せて、両端がはみ出るくらいの、なんつうか、絞った雑巾くらいな?
「だってそれ、オレが城から投げ出された時に持たされた、サンレイク産の精霊石だもん。そりゃあ大きさにも純度にも自信あるさあ」
 なかなか無いぞ。今時博物館にも置いてない、こんな立派な原石は。だからおいそれとお気軽に表に出せなかったんだけど、砕いて売っちまうのも勿体ない代物だったし。一度砕いたら元に戻らないだろ。
「だってこんなものを、お前」
「ストーップ、やめ」
 絶対そう言うと思ったんだけどさ。だから出所は言わずにここまで連れて来ちまった訳だけど。
「使い道が無いけど、もったいないからこうして取っておいたわけよ。売ったら金になるけど、金にしかならないの。それで金になったとして、暮らしが楽になるだけだ」
 ソルダムが再び部屋の奥へと向かい、ガチャガチャと茶器を並べて沸かした茶を注ぎ始めた。ホント職人ってのはマメだな。
「そして生活が楽になったところで、それもいつかは壊されてしまうかもしれない状況な訳だよな、今は。この精霊石にしたって、使わないままここに置いておいても、使えないまま壊れてしまうことになるかもしれない。この世界ごと」
 サンレイクのように。白の塔のように。
 他の壊滅させられた地域のように、いつか、ここもどこも壊されてしまうかもしれない。
 だから、それを何とかしようとしている人間がこれを必要としてるなら、これはその人の許にあるべきだ。
「素晴らしい宝物なんだよ、これは。だから、使わなければ意味がない。そして使うべき時と使うべき人を、コーラスが決めたんだよ」
 そんな時が来るまでと、オレはソルダムに精霊石を預けた。あの時一番信頼できた、唯一の友。
 ……ぶっちゃけ、自分で持ってると、失くしそうだったからなんだけど。
「シイナ、お前がこれを使ってくれ。それが一番いい」
「けどな」
 だーかーらー、最初からタダであげるって言ったし、お前だってタダで欲しくてついて来たんじゃんよー。
「ただし、条件付きなんだよ」
「条件?」
「もしかしたら、その石は鍵になるかもしれないんだ。サンレイクに乗り込むための鍵」
「鍵……?」
「うまくすれば、国に張られた結界も解けるかもしれない」
 ソルダムが、大げさに額に手を当てた。
「コーラス。お前、オレにはそんなこと、ひとっ言も言わなかったじゃないかよ。うっかりすりゃ、オレそれ売ってたぞ」
「結果オーライじゃん」
 冗談みたいに、生活に困ったら売っていいよ、なんて言ったけど、そうしない男だってのは良くわかってたし。
 それにもし売ったり失くしたりしたとして、別にオレはそれでソルダムを責めたりはしないし。あの時はオレひとりで途方に暮れてて、シイナと出会う予定も無かったし、結界を張ったサンレイクに乗り込む予定なんて、まったくと言っていいくらい無かった。
 本当に使い道を見出せなかったんだ。この石は。
 もしも必要になった時にこの石が無かったとして、そしたらその時にオレは別の方法を考えるよ。
「だからシイナ。その石をあげる代わりに、もしもこの先サンレイクに接触できる機会が出来た時に、俺を助けて欲しい。お前がお前の敵と対峙しなければならないような時には、オレがお前を助けるから」
「……」
 どうにもならないかもしれないけど、でも、どうにかできるかもしれない可能性の高い道を選んでいくことは出来るはずだよ。オレも、お前も。
「……オレがこの石を持っていたほうが、持っていないよりも状況は良くなるか?」
「なるでしょ、もちろん」
 この石がシイナの力を引き出してくれるなら。そしてシイナがオレを助けてくれるなら、それは大きな力になる。そういうことだ。

「……ありがとう」

 シイナの小さな声。
「マジな顔で礼なんて、気持ち悪いぞー」
「お前は……! 人がたまに下手に出れば!」
 痛ーい。また殴った。
「ははははは。……じゃあこの石は……その槍に合うように、少し加工すればいいかな? おふたりさん」
 ソルダムが再び精霊石を手に持った。
「任せた!」
 オレがグッと親指を立てれば、ソルダムは唇の端をちょっと上げて、手に持った精霊石を掲げる。
「人に助けてもらうのも、人を助けてやれるのも悪くない。命があって、その命の中にあったかい力を持った心があるってことだな。コーラス」
「そうだよ」

 悪くない。
 だからオレは、出会えて良かったよ。シイナにも、みんなにも。





==椎名の呟き==
前回も今回も、ボケツッコミが少ないですね。
ライトシリアスな展開ですか、これ。でもまだドタバタは続きます。
どこまでも~(えー)。

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2007.01.12

「ソルダムくーん」
 ドンドンドン。
「ソールダームくーん。あーけてー」
 ドンドンドンガン。

 ……返事がないなあ。

「ソールダー」
 ガコン。
「いってええ!」
 急に扉開けるなよなあ。またデコ打ち付けたじゃん。
「コーラス、てめえ人が飯カッ食らってる時にこっぱずかしい呼び方してんじゃねーよ。夕飯タカりに来たのか、ええ!?」
 おー、出てきた出てきた。見下ろしてくる目が据わってるぞ。
 久しぶりに見たソルダム。相も変わらず輝くヒヨコ色の髪と、この寒い陽気に一枚だけ引っ掛けた白のシャツが眩しい。風邪引かないのかね。鍛冶屋なんてやってるから体格もいいし、無駄に丈夫なのかもしれないけど。
「タカりに来た訳じゃないけど、飯あるなら食わせて。腹減った」
「お前なあ……」
 陽も落ちきった頃、ようやくエンデリックの街に着いたオレたちは、街外れの林の中にひっそりと佇むソルダムの工房に、そのまま足を運んだ。
「まあいいや、入れよ」
 扉を大きく開けてくれたソルダムは、あれ、という顔をして俺の後ろに立つシイナを眺めた。
「どうしたコーちゃん、可愛い子連れて。とうとう彼女ができたのか?」
 ぶは。
 噴き出しそうなソルダムの台詞も怖いが、一瞬にして変わったシイナの表情も怖い。待って待って、早まらないで。
「ちが……」
「ああ、そうじゃないか、悪い悪い。……キミ、それホントの姿じゃないんだね」
「な……」
 シイナ、心底驚いてる。そりゃそうだ。オレもさすがに驚いた。
「なんで……」
 シイナの驚愕をよそに、ソルダムはオレたちを招きいれた後、棚の袋からガサガサと黒パンを出してテーブルに積み上げる。さらにドライフルーツだのスープだのをゴトゴト並べながら、悪びれなく笑って見せた。
「商売柄、目には自信があるんだ。素材も人も、内側まで見通せないといい仕事が出来ないからね」
 って言ってもな。その説明じゃ曖昧すぎるんだよ、お兄さん。
「それでもソルダムは特別なんだよ。審美眼とかいうレベルじゃなくて、すでに特殊能力の域だから」
 モノの良し悪しも、人の本質も簡単に見抜く、不思議で鋭い感性を持っている。オレが初めて会った時からそうだった。
 さすがに、こうも即座にシイナの正体を見破るとは思ってなかったけど。
「まあ人間生きてりゃ色々な事情もあるもんさ。とりあえず食べなよ。腹減ってるんだろ?」
 工房の中に無造作に置かれたテーブルを手で指し示して、ソルダムはオレたちを椅子に座らせた。
「いただきまーす」
 お言葉に甘えてモサモサとパンに手をつけるオレを横目で見ながら、シイナはどうしたものかと動きを止めている。
 はははは、戸惑ってる戸惑ってる。おもしろーい。
「食べなって。遠慮は要らない」
 唇の端を上げて笑うソルダムに、ようやくシイナは頷く。
「いただきます……」
 なんでわかったのかが気になってるんだろうなあ。でもそれがソルダムだから、仕方がない。むしろ無駄に偽らなくていいんだから、これ幸いと力を抜けばいいんだけど。要は魔法と一緒だし。他人にない特技を持ってるってだけの話だ。

「それでコーラス? 今日は何の用だ? 剣でも鍛えに来たか」
 それだけじゃないだろうって口ぶりだな。オレが誰かを連れてきたのは初めてだし。
「それもあるけどさ。とりあえず、預かり物があるんだよ。ディク先生から薬品一式。それとイエローストーンのグラスセットみっつおくれ」
「お前はいくつ用事を持ってきてるんだよ……」
 しょうがないじゃん。何だか芋蔓式に増えちゃったんだから。
「西地区でディクに会ったのか」
「うん。偶然だけど、ソルダムの知り合いだとは思わなかったよ」
 ははは、とソルダムは笑う。
「歳はあっちが上だけどな、あいつとは学生時代に薬品やら地学やらの専攻で同期だったんだよ」
 あ、なるほどなあ。ソルダムは専門知識、学校でも長いこと学んでたって言ってたもんな。その時からの知り合いって訳か。で、その後も持ちつ持たれつか。納得。
 と、あと肝心な用事をまだ言ってない。

「いちばんの用事は別。ソルダム、精霊石まだ持ってるよな。あれちょーだい」
 ソルダムは、キョトンと目を見開いた。
「精霊石?」
 マジ、とオレの顔を見た後で、シイナの方に視線を移す。
「あー……、そういうことか」
 フンフンと納得したように頷いて、ソルダムは自分もパンに手を伸ばした。
「そういや、名前もまだ聞いてなかったな。オレはソルダム・フォルセントザーク。見た通り、自営業の鍛冶屋だよ。キミは?」
 見つめられたシイナは、一瞬身体を硬直させる。
「シイナ、隠さないで大丈夫だよ。ソルダムはオレの事も全部知ってるし。知っておいてもらった方がいいかもよ。何かと便利だ」
「便利扱いかよ」
 ゴン、と拳を側頭部に押し付けられる。
 う、本格的に殴られキャラだ、オレ。そんなに手を出しやすいですか、オレの頭。

「……わかった」

 オレたちのやり取りを眺めていたシイナ、少し戸惑いが取れたみたいだ。
「シイナ、か。了解。長い話はまあ、飯食ってからにしようぜ」
 屈託のないソルダムの笑顔に、オレたちも頷いた。
 とりあえず腹は満たさないとね。せっかくのタダ飯、もったいないから。





==椎名の呟き==
更新しようと思ったらプロバイダが落ちてた? っぽくて回線がつながらなかったので、変な時間の更新です~;;
さて、これまで名前だけ出ていたソルダム、やっと登場。
冬場にシャツ一枚って、見ている方が寒いわ。書くのも寒い。

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2007.01.11

 ガタガタと身体を揺さぶったら、寝起きの良いシイナはすぐに目を開いた。
 いや、この場合寝起きの良さは関係ないか。

「……悪い。思った以上に無理があった」
 赤くなった額を押さえつつ、珍しく殊勝な態度のシイナだ。
 うーん、でもこう見ると、やっぱりシイナなんだよな。さっきまでの……ケティさんとは別人に見える。不思議なもんだ。
「この身体で、ここまで長距離を一息に試したことがなかったからな……コーラスを見つけたとき、力の抑制が効かなくて、速度を殺しきれずに突っ込んだ」
「あっぶねえ……」
 お互いよく無事だったもんだ。石頭コンビで名が売れるかもよ。ていうか、その勢いでもし地面に突っ込んでたら、デコ赤くなるくらいじゃ済まないんじゃないかなあ。頭同士でゴッツンコして首の骨とか折らなかった俺たちの丈夫さなら、問題ないかもしれないけど。
「まさか空から人が降ってくると思わなかったもんなー。てっきりこう、目の前にヒュン、とか現れるものかと」
「そんなわけあるか。超高速だからそういう風に見えることもあるかもしれないが。この身体で地上の高速移動は不利なんだ。障害物を避け切れない。だから空に上がってから移動してたんだ」
 あーなるほど。そうでなくとも森抜けなくちゃならないもんな。進路木だらけだ。って、普通に空飛べるってのも凄い話だけど。
「シイナ自身の身体なら森の中の移動も平気だったのか?」
「全然問題ない。余裕」
 わー、相変わらず気持ちいいくらい自信満々だ。
 ケティさんて、白の塔にいても魔法師じゃなかったのかな?
「シイナにその身体くれた人って、どんな人?」
 オレの言葉に、シイナは眉を寄せる。
「なんだよ、急に」
「いや、何となく今思いついただけだけど」
 言わない方がいいんだろうな、多分。
 身体をくれた人が生きてるなんて知ったら、きっとその身体に居辛くなる。かといって出て行く方法がある訳でもないし、出て行ってもどうにもできない。そしてそれは、ケティさんの望むところじゃないだろう。

「この身体の持ち主は、ケティ・マイヤといって、白の塔のマスター、セロの世話係であり、彼の孫娘でもある。魔法師だが、力はあまりなかったな」
 えっ!?
「え? じゃあ何? シイナとその人、兄妹か従兄妹?」
「全然違う。オレはセロの爺さんの孫じゃないぞ」
「あれ? でも苗字同じじゃなかった? だからてっきり」
 やっぱり血縁は能力も受け継ぎやすいのかなとか思ってたのに。
「同じ苗字じゃない。セロの爺さんはセロ・マイヤで、オレはシイナ・ウエスコット。家名はそこまでだ。その下は、白の塔での称号だ。アン・ウィザーズはマスターである称号。デラ・ウィザーズは二位」
 なんだ、そうだったのか。
「もっとも、オレはウエスコットの養子だけどな」
「え?」
「捨て子ってヤツだよ。随分小さい頃だから、森の奥に置いて行かれた記憶はあるけど、本当の親の顔はもう思い出せない」
「……」

 オレは特殊な環境だったせいか、今いちピンと来ないんだけど。
 ごくごく普通な人々にとって、自分の血縁に魔法を使える人間がいるというのは、かなり許容範囲を超える事実であるらしい。
 魔法師一家なんていう環境であるならともかく、シイナはそうではなかった。普通の家にぽっと生まれた超強力な魔法力を持った人間。何をしでかすかわからないそんな子供を、喜んで育てる人間は多くないらしい。実際、力を持った子供というのは、加減なく力を暴走させることも多く、異質であることから周りと馴染めなかったり人を傷つけたりってこともままあって、扱いが難しいのだそうだ。それどころか、悪くすればその身内すら、その土地で暮らせなくなるような事件に発展することも度々あるのだと。

「っていうのは、後で聞いた白の塔の人間の話だけどな。それも、多分そういうことだろうってだけの裏付けのない話だ。でもまあそれで運よく白の塔に拾われて、それまで第二位の称号を持っていたガラック・ウエスコット・デラ・ウィザーズに引き取られて教育を受け、その後彼を押し退けて称号を奪い、次期マスターの地位を得た、と」
 多分、なんか、そこでも色々複雑な闘争なんかもあったりしそうだなあ……。聞くのが怖い気がするけど、シイナもあんまり話したくないんじゃないかな。
「言っておくが、お前が今考えてるほどグダグダした環境じゃないぞ。純然たる能力社会だから、力の強い者が上位に着くのは当然で、それは全員がわかっていることだ。ガラックだってオレの教育には惜しみなく情熱を注いでたしな。仮の親子だから、その辺の情はまるで皆無だったけど」
 ……いやいやいや。充分嫌な環境じゃないかね、それって。愛情のない親子関係なんて、あんまり理想的じゃあないだろうがよ。親子っていう関係自体が成り立ってないのかもしれないけど、それはそれで寂しいもんがあると思う訳よ、オレは。
 ケティさんの言ってたこと、わかる気がするよ。

 でもまあ、その辺のことをつついても仕方ないよな。
 本音はどうあれシイナはそれを納得して生きてきたんだって言ってるんだし、彼らの仇を取りたいとも言っていた。そう言えるのは、理想的ではないにしろ、そこで受けた恩恵のようなものだって沢山あったってことなんだろう。
 大体、そんなに最上級に理想的な環境で生きてる人間なんて、多分そうそういないよな。そんなもんだ。うん。

 唐突に、シイナがオレの額に手を伸ばしてきた。
 空いた方の手は、自分の額に当てている。
「お、お。すげえ」
 額にあった痛みが、嘘みたいに消えた。赤くなっていたシイナの額も、当てた手を外した時にはまるで元通り。オレもあれくらい赤くなってたんだろうなあ。
「これで歩くのにも支障ないだろ。話もいいが、街はもうすぐか?」
「あーうん。でも平気か? 疲れてるんじゃねーの?」
 そもそも、力のコントロールが出来なくて墜落してきたんだから、結構消耗してると思うんだけど。
「疲れてるよ。本屋で力いっぱい働いた後だしな。だから早く、街に入って休みたいんだよ」
 なるほど。一理ある。
「じゃあそろそろ行こうか」
「ああ」

 やれやれ。
 毒は食わなかったけど、ガチンコ勝負で昏倒はしましたよ、ディクさん。なんか色々と深い出来事もあったしね。
 でもとにかく、今日のうちにソルダムの工房には辿りつけそうだ。
 元気にしてるかなあ?





==椎名の呟き==
本当に、今日中に次の街に着くんですかと彼らに問いたい。
ていうか着きますけどね、次回にやっと目的地にw

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2007.01.10

「私は実際、いつまでこの身体で生きていられるかわかりません」
「……そう、なの?」
「魂の秘術は、あくまでもとの魂を器から追い出して成り立つものですから」
 そうなんですか。
 魔法の方面に疎いオレは、いちいち言われることを鵜呑みにするくらいしか出来ない。
 そりゃまあ確かにね。ひとつの身体の中にふたつの意識があるなんて、色々無理があるようには思う。そもそも他人の身体に取り憑くなんていう行為自体、オレ的には理解の範疇外だったりするわけで。
「多分、人の生き死にって、そんなに簡単にどうにかできるものではないはずです。それを捻じ曲げてでも、生き残るのはシイナ様でないと」

 彼女の話から察するに、彼女は自分の魂が消えてしまうこと自体には、何の抵抗もないらしい。シイナに身体を明け渡したときから、それは覚悟の上で。
 それは、自己犠牲ということではなく、純粋に、力の強いものを残すために。
「ですが、シイナ様に残された時間も、そう長いものではありません」
「え」
「他人の身体で一生を過ごすのは、やはり無理です。一時しのぎにしかならないんです。それを知っていてもなお、あの男はシイナ様の身体を奪った。そこに何の目論見があるのか見当もつきませんけど」
 あの男ってのは、シイナの魂を追い出した張本人、だよな。
 短い時間でもなお、何かを成し遂げる勝算があるのか、それともその法則を打ち破れる何かを、持っているのか。

 それよりも、だ。
 シイナは、そのことを知っているのか?
 オレの疑問に、彼女は頷いて肯定の意を示した。
「知っています。だから、生きていられるうちに進める場所まで進もうと、焦っていたんです」
 あいたあ……。ヤなこと聞いちゃったなあ。
「でもシイナ様自身は、あまり自分の命を永らえさせることには執着がないようで」
 うげ。
「だから、目的のためには無茶も出来ます。自分の命を諦めているから……だから」
 あなたにお願いしたいんです。
 そう、赤毛の彼女は言う。
「できれば、シイナ様の身体を取り戻す方向で、協力してはいただけませんか」
「身体を取り戻す?」
 その、シイナから身体を奪ったとかいう非常識な能力の持ち主から?
 ていうか、身体を奪うって行為自体が謎なのに、それを取り戻すなんてことが、そもそも可能なのかどうか、オレにはまったく判別が不可能なんですけど。
 そんなにうまく行くものなのかな?
「可能性はまったく無い訳ではありません。何よりも、このまま手をこまねいていれば、結局シイナ様は助からないんです。だから」
「ああ、わかったわかった。言わなくてもいーよ」
 何もしないよりは何かをやって無駄足を踏んだ方がマシってのはさ。オレの持論ですよ? そしてそれはシイナも同じだったはずだ。で、その持論を持って、シイナが目的のために命を捨てるのも厭わないっていうのなら、そんなあいつを引き戻しフォローするのは、今はオレしかいない。
 すなわちオレの役目って訳だ。

 だって、あの事件から3年。
 オレだってただぼんやりと時を過ごしてたわけじゃない。
 黙っていれば多分、目に見えない速度で、かなり嫌な方向に変わっていくであろう世界の変化にどうにか抵抗するために、オレは今を生きていて。
 同じ目的を持っていたのが、シイナだから。
 ひとりなら捨てなければならなかったものでも、ひとりじゃなければ何とかなるかもしれないじゃん。
「シイナを本来の身体に戻して助けられたらさ、もしかしたら、君も助かるかもしれないしね?」
 オレの言葉には、彼女はブルブルと首を振る。
「私のことはいいんです! もともと捨てた、いえ、生き抜くだけの力がなかった命です! それよりも」
「いーからいーから。死ぬよりは生きてる方がいいでしょうよって話だよ。オレだって全部を保障できるわけじゃないし? でもさー、物事はいい方に考えるに越したことはないよ。これ絶対」
 彼女は、酷く驚いたように大きく目を見開いた。
 えーと、オレそんなにおかしなこと、言ったかなあ。
「出会ったのがあなたで、良かった……あの人も、これまであまり幸せな生き方を出来なかった人ですけど」
 んー。聞かなかったことにした方がいいのかな?
「そんな人生のまま終わってしまうのでなくて、良かった。やっぱりコーラスさん、あなたは信頼と尊敬に値する方です」
 えええ? オレそんなに、何かよろしい発言しちゃった!?

 あ。
 彼女、笑った。

 あー、わかった。あの時、夜中。
 オレを見て笑ってたのは、この人だったんだ。同じ笑顔だ。
 納得いった。そうか、なるほど。ああ良かった。奇怪な寝ぼけでも呪いでもなくて。

「そういえば、君の名前聞いてもいい?」
「あ……失礼しました……ケティ・マイヤと申しま……あ」
「え?」
「もう、意識が……」
 ありゃ。
「まだ……いちばん伝えなければならないことが……」
「え、うそ。何!?」
 今度はいつ、また彼女の意識が外に出てくるかわからないのに。
「私は……いくら甘い物好きでも、まんじゅうみっつは食べな……」

 それかよ! いちばん伝えなきゃならないこと!!

 ……パタリ。
 とりあえず言いたいことをそれなりに言い切った彼女は、意識を失って前のめりに倒れ込んだ。
 ああ、今度は地面に額打ち付けたなあ……。ゴメン。





==椎名の呟き==
彼女、新登場人物と言っていいのでしょうかね。
今後も出るんですか? <誰に聞いてる

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2007.01.09

今日の日付で夜中のうちに小説を更新しようと思っていたのに、気付けばガッツリ眠りこんでのち、朝になっておりました;;
最近夜更かしがきついのは、やっぱり歳のせいかなあ?
正月も1日から普通に仕事だったしなあ……。

つまりが、椎名はこのブログ小説を書き貯めしていないということですねー。
全てその場でテキストファイルとして打ち込み、確認修正の後に即座にUPして、その後またガリガリと修正している毎日です。
大筋と登場人物、結末はもう決まっているのですが、せっかくブログなのだから、やっぱり毎日リアルタイムで書いていくほうが面白いかなあ……と。
だからいつも、書くのに思いのほか時間がかかったりして、毎日ありえない更新時間だったりするのですよねー。
これでも普通に昼間仕事に行ってる人なのですけど。
(更新の前に、案外変な時間にうたた寝したりしている)

ところでちょっと、共有プラグインで時計なんぞを入れてみました。
提供者様、ありがとうございます。
マウスで魚を動かせたりするんですよー。
かーめかーめ。
カメをすーっと下に持って行くと、プカーっと浮き上がっていくのが大変イイ……w
椎名さん、カメ好きなんです。一番好きなのはペンギンですけど。
「この海洋生物好きが!!」と言われました。
いえ、陸上のものも大抵は好きなんですけどね。

今日も、日付が変わってからになりますが更新入れたいと思います~。


テーマ : 日記

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2007.01.08

 ひとりの旅路は、なかなかに静かだ。
 シイナと知り合ってまだそう長い訳じゃないし、道中ヤツがそうやかましい訳でもないんだけどね。
 でもひとりだからつい、なんてのんびり歩いていたら、想定外に道がふさがっていたりなんかして、迂回してたら予想以上に遅れてしまった。夕方になってやっと、エンデリックの街が見えるか見えないかって地点だ。シイナがオレのいる場所に飛んで来るって打ち合わせで良かった。うっかり先を行かれちまうところだった。
 そろそろ、あいつも追いついてきて良い頃なんだけどな?
 なんて、思っていたら。

「コーラス……ッ!!」

 切羽詰った声に、えっ、と振り返ったその瞬間。

 ゴ―――――――――――――ン。

「ガハ……ッ」
 何かが、オレの額を直撃した。
 それは、空から降ってきた人間の、というかシイナの額。
 人間ミサイルかという勢いで、直立不動のまま斜め上方から突き刺すように飛来した人間の威力は凄まじかった。なんつうか、この角度を時計の針で表すなら、二時半ちょうど、くらいな? オレが長針で、シイナが短針ね。
 なんて。なーんて。
 冷静に角度分析なんて脳内で巡らせながら、俺の身体は、後方へと倒れ込んで行った。と思われる。
 それはさながら安っぽい喜劇のように、スローモーションで(オレ感覚)。
 あはははははは。何故笑う。しかも思考の中だけで。で。

 ――暗転。


「……さん」
 声が、聞こえる。
「しっかりしてください……大丈夫ですか? コーラスさん!!」
 どちらさまですかー。すごく知ってる声に似てるんですけど。
「コーラスさん!!」
 振らないで。頭を打った人間を揺す振らないでー。
「起きて下さい!! こんなところで死んじゃ嫌ですー!!」
「し、死んでない、死んでないって」
 力を込めて瞼を開く。うおお、目の上の辺りが……痛ぇ。ガンガンする。
「コーラスさん!!」
 ようやく目を開ければ、なんだかもう辺りは夕闇。まあ日は暮れかけてたから、それが沈むのなんてすぐだけど。
 多分さっきの衝撃で昏倒してたと思うんだけど、そう長い時間でもなかったみたいだ。
 ていうかシイナ?
 シイナが涙目になって、オレの襟元を引っ掴んでいる。
「コーラスさん! 大丈夫ですか!?」
「あんま大丈夫じゃない……て、シイナ?」
 なんかさっきから、お前おかしくないか?
「良かった……こんなところでひとり果てられてしまったら、私もう、どうしていいか……」
 果てるってお前な。
「つかシイナ、なんでお前変な言葉遣いしてるんだ? 誰か他に人がいる?」
 見回しても、辺りに人影はない。

「あの……あのッ、私、シイナ様ではないんです……」

「はあ?」
 頭ゴッツンした衝撃でどうにかなっちまったか。それともオレ同様気でも失って、その隙に変なものにでもとり憑かれたか。そんな前例は聞いたこともないけど。
「あの、私……私は、シイナ様にこの身体を提供した者……です」
 ……へ?
「三年前の、事件の折に……」
「ナンだって!?」
 あの、シイナが自分の身体を追い出されたときにシイナをその身体に引き込んだっていう、えーと、白の塔のマスターの世話係!?
「うそ!? だって、その人ってもう亡くなったんじゃ」
 ていうか、シイナ、オレをからかってるんじゃないだろうな?
「私もそのつもりで、シイナ様をこの身体に呼び寄せたんですけど……すぐにシイナ様が治癒の魔法を使われたせいなのか、原因はわかりませんが、私自身もこうやって生きたままで」
「だって、そんなことが可能なの? ふたりでひとつの身体……なんて」
「私の知る限り、前例はありません」
 そうだろうよ。もっとも、オレだって魂の秘術なんてものがあることすら、シイナに会うまで知らなかったんだから。
「私の意識がこうやって戻ったのも、つい最近なんです」
 あ、そうなんだ。
「私の意識が目覚めるのは、必ずシイナ様の意識が無いときで、それも必ず毎回というわけではありません。何かの拍子に、といった感じで」
「あーうーん? ふたりの意識が同時にあるわけじゃないんだ?」
「はい。シイナ様の活動中は、私の意識はありません。ただ私が目覚めたときには、それまでのシイナ様の記憶が私の中に流れ込んでくるので、何があったのかを記憶として知ることはできます。だから、あなたと出会ったことも」
「え、でも……待って、わからなくなってきた。シイナはそのこと知ってる?」
 知ってたら、オレにあんな説明しないと思うんだけどなあ。
「知りません。私が私として誰かと接触したのは、シイナ様に身体を差し上げてからはこれが初めてですが、これまで私が意識を取り戻したときの僅かな時間の記憶も、シイナ様には残っていないようなので」
「……なんでだ?」
「わかりません……元が、私の身体だから、でしょうか?」
 どうしてこんなことになってるんだろ? ふたりでひとつの身体に、なんて、無理があるもんなんじゃないのかなあ? それとも案外平気なもんなのか?
「おっしゃりたいことはわかります。だから……やっとお話できたから急ぎで申しわけないのですが、お願いしたいことがあるんです」
 彼女は眉をひそめて俯いた。

「お願いしたいこと?」
 なんか、結構深刻そう、だなあ?





==椎名の呟き==
もう自分でもどうコメントしていいやらわからなくなってきました。
なんか、何を言ってもこの先のネタバレに繋がってしまいそうだし(苦笑

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2007.01.06

 ディク先生にお金をもらって、早速出発……と思ったら、そううまくはいかなかった。

「一日二日働いて、ハイサヨナラと辞められるとでも思っているのか?」
 オレたちの行く手をふさいだのは、街外れの本屋の亭主。
 て、ちょっと待てよお。
「だって給金は日払いだし、オレたちは旅に困らないだけの金が欲しかったんだし、それももう都合できたわけだから……」
 もともと、長期での契約なんてしてなかったはずだ。
「お前には言っておらん!! むしろお前のような役立たずはどこへなりと行くがいい!!」
 オッサン、多感な年頃の青年(オレ)に、なんてことを。
「いやじゃー! ワシはまだシイナちゃんと一緒に働きたいんじゃあ~~!! 行かんでくれえぇ~~!!」
 グワシッと、店主はシイナの両手を取って、砕く勢いで握りしめる。
 このエロじじい!!
「このエロじじい!!」
 あ、なんか心の声が表に出てしまった。……って、今の台詞、オレじゃないぞ。
「あんたの若い子好きは傍迷惑なんだよ! むしろ私に迷惑だ! そのベタベタ触っているゴツい手をとっととお放し!!」
 オレの背後からご登場、つややかな菓子パンと見まごうような丸々としたお顔と、丸めた布団のようなふくよかさがチャームポイントの……店主のおかみさん。
 ぶっちゃけ、迫力あります。満点です。
「毎日代わり映えの無い砂袋みたいなかあちゃんとの生活に咲いた、一輪の花じゃああ!! ワシはまだこの潤いを手放したくはないんじゃあああ!!!」
 なんかすでに半ベソ。
 樽みたいな腹を揺らして童がえりするな、オッサン!!
 ていうか、奥さんを砂袋扱いって……いや、納得しかけてるオレなんだけども、ここで同意を示してしまったら、この迫力満点のおかみさんから鉄拳が飛んできそうだ。このままでは殴られキャラに堕ちてしまう。
「あんたみたいなエロじじいに長年連れ添ってきた心優しい連れ合いに、なんて言い草だい!!」
「年増は黙っとれい!!」
「年増ぁ~!?」
 ヤバい……何かが勃発しようとしている。
「コーラス……」
 手をグイグイと引っ張られながら、シイナが珍しく助けを求めるようにオレを見る。握られた手が振り解けないんだろうけど、ここで魔法とかぶっ放すわけにもいかないし。
 ん? 魔法?
「シイナ」
 こっそりと小さな声で話しかける。
「お前、ひとりなら長距離ひとっ飛びできるって言ってたじゃん? この街の真西の方角にエンデリックがあるんだけどさ、そこまで、ひとりなら飛んで移動できる?」
「……? ひとっ飛びって言っても、魔法力と気の力を使った超高速移動だから、一瞬では済まない。けど出来ることは出来るぞ?」
 それなら。
「じゃあさ、オレひとりで先にエンデリックに向かうからさ、お前、あと一日くらい本屋で働いて、オッサンなだめてから飛んできたらどうだ?」
 総体的に、その方が早く目的地に到着できる。ここで捕まったままギャアギャア言い合っているより、よっぽど早く事が済みそうだ。
「それなら、街じゃなくてお前のいる場所にピンポイントで飛んでいけるぞ。気配を辿っていけるから、知らない街に行くよりは正確に到達できる」
「あ、それいいじゃん」
 オレが素直に同意すると、シイナはしかし微妙な顔つきになる。
 まあね、そりゃね、このオッサンにあと一日付き合うのかと思えば気も重くなるわな。でもエロじじいのお気に入りはオレじゃなくてシイナだからな。何しろオレは男だし。
 ……こいつも中身は男なんだって知ったら、オッサンどうなるんだろうなあ。それとも、外見が女ならどうでもいいかな?
「……まあ、金は多いに越したことはないし……」
 シイナは自分を納得させているようだ。
「あの、おじさん」
「おお、なんだいシイナちゃん!?」
 オッサン……。
「そこまで言って下さるのでしたら、あと一日だけなら……私、お世話になります。コーラスには先に行ってもらいますから」
「おおお!! そうか!!」
「いいのかい? そりゃうちは助かるけど」
「はい、私も金銭的に助かりますし」
 シイナはニッコリと頷く。役者め……。
 ていうか、いいも何もおかみさん、あなたの旦那さん、未だにシイナの手をギッチリ掴んだまま離してくれないんですけどねー。
「そうと決まれば、早速開店じゃあああ!! 今日の給金は奮発しちゃうぞおお!」
『ラッキー!』

 ……今、シイナの心の声が聞こえてしまった。気がする。

「なるべく先まで進んでろ。夕方まで働いたら、すぐに追いつくから」
 小さな声でそれだけ言い置いて、シイナは全速力で走り出す本屋のオヤジにあっという間に連れ去られてしまった。
 順調に進めれば、シイナの仕事が終わる頃にはエンデリックに到着できてると思うけどね。
 まあ、頑張れよお。

「あの店主には、誰も逆らえた例がないな」
 クスクスと笑いながら物陰から姿を現したのは、ディク先生。
 いつからいたんだ、この人は。一部始終見てたのなら、助けてくれても良さそうなものなのになあ。
「君はともかく、彼女にひとりで旅をさせて心配じゃないかい?」
 ニヒルに笑うディク先生の言うことはもっともだけど、これには首を横に振るしかない。
「大丈夫だよ。あいつは中身全然女じゃないから。旅慣れてるしね」
 嘘は言ってない。
 ディク先生は『女らしくない』みたいな意味で取っただろうけどね。
 実際シイナは旅慣れてるだろうし、ディク先生は思ってもみないだろうけど、今回は魔法で飛んで来るから旅のうちにも入らないだろう。
「君がそういうなら大丈夫なんだろう。では君も気をつけてな。もうおかしなものを口に入れるんじゃないぞ」
 面目ない……。

 サラリと片手を上げて見送ってくれるディク先生にこちらも片手を振って挨拶をして、オレは小さな街を出た。
 そうか、帰りには土産を持ってまたこの街に立ち寄るんだった。
 ……今度は、本屋の店主に捕まらなくて済むようにしたいなあ。





==椎名の呟き==
本屋の店主夫妻がふたり並んだら、コーラスの4倍くらいの幅になります。
迫力あります。でも本好きなんだろうねえ、きっと。

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2007.01.05

 明日になればディク先生からお小遣い(違う)がもらえるから、この街に留まるのも今日までだ。ディク先生の家に寄ってから出て行くから、そんなに朝早く出るわけじゃないけど、とりあえず旅に備えて早めに休むことにする。
 ディク先生の家の道向かいに宿があるから便利だ。っていっても、狭い街だから宿だの酒場だの食事処だのが隣接してるのは当然か。

 いつの間にか自称兄妹になっていたオレとシイナ、当然宿でも節約のために同じ部屋に詰まっているわけだけど。
 奥の壁側のベッドの上でスポーンとシャツを脱ぐシイナに、思いっきり宿の部屋着を投げつけて、慌てて窓のカーテンを閉める。相変わらず自覚に欠けてる男女め。
「次の森を抜けるのに、どのくらいかかるんだ?」
 ひょうひょうとそんなことを訊いてくるシイナは、そんなオレの態度にはお構いナシだ。
「急がないで行っても、明後日の昼間には街に入れるんじゃないかな」
 途中で妙なキノコとか食べなければ。
 シイナはふうん、と頷いた後、すぐにゴロンとベッドに寝転んで上掛けを被った。
「じゃあキノコは食べないようにしないと、な……」
 オレの考えてたのと同じことを呟きながら、早ッ、もう寝てる。
 温泉で一度たぬき寝入りしてたけど、こいつの寝つきのよさは実際一級品だよな。寝つきと寝起きがいい体質ってのは、何かと重宝するモンだ。
 オレもさっさと寝よう。


 多分、深夜だと思う。
 何となく目が覚めた。月明かりが眩しいからかな?
 カーテンの隙間から漏れる小さな光を何となく目で追いかけたら、奥のベッドに横たわるシイナが視界に入る。
 うん?
 よく目を凝らしてみたら、シイナは布団に芋虫状にくるまったまま、目を開けてこっちを見ていた。
 あれ、起きてるのか?
 どうかしたのかと思って名前を呼ぼうとして、オレの全身が凝固した。

 ジッとオレを見つめていたシイナが、声も立てずに笑ったのだ。
 ニッコリと。

 キモッ!! ていうかキモ!!!

 ただニコニコと微笑んでいたシイナは、そのまま何も言わずに目を閉じて、再び眠りについてしまった。ようだ。
 ナンだ? 何ですか?
 一体……何の嫌がらせだ。
 オレは起き上がる力も抜けたまま、シイナに背を向けて寝返りを打った。
 何の嫌がらせって、そんな身体を張った嫌がらせをされるほど、なにかやったっけな? というか、それでシイナに何の得があるって言うんだ。性格上謎の多いヤツではあるけど、にしたってどうにもこうにも理解できない。
 オレ、変な夢でも見てるのかな? それともアレか、シイナが変な夢でも見て、おかしな寝ぼけ方でもしてたってか? そうか、その線が有力か。
 グダグダと思考を巡らせつつ、オレは自分の意識を眠りの方向へ持っていくのに、全精力を注ぎ込むことになった。


「……シイナさー、昨日、夜中起きてた?」
 起き抜けで、ついつい、それとなく訊いてしまった。
 だって、あのキモさはハンパじゃない。寝ぼけてたんじゃなければ、何かの企みがあるとしか思えない。
 当のシイナは、キョトンとオレを見る。
「夜中? 別に一度も起きてないぞ。今お前を叩き起こす直前まで」
 起きてすぐにオレをベッドから叩き出したのか。寝つきもいいが、寝起きも凄まじくいいな、やっぱり。
 じゃなくて。
 てことは、やっぱり寝ぼけてたのかな? にしても、一体どんな状況であんな妙な行動に至るんだ、この男は。
 よほど変な顔をしていたんだろう。シイナがオレの顔を覗き込んできた。
「何かあったのか?」
「あー、いやー……あったというか、いたというか」
「いた? おかしなものでも侵入してきたのか? オレは気付かなかったぞ」
 いやまあ確かにおかしなものだけど、侵入してきたんじゃなくて最初からいたんで、お前は気付かなかったと思うよ、うん。
「いや、なんか笑って……いやいや、でかいネズミかなんかだと思うよ、多分」
 すまん、ネズミ扱いしてしまった。
「ネズミが笑って? お前、寝ぼけてたんじゃないのか」
 寝ぼけてたのはお前だろー。
 いや、やっぱりオレが寝ぼけてたのかな……? なんかもう自信がなくなってきた。
 まあいいや。なんかシイナいつも通りだし、気にしてても仕方が無い。オレかシイナが寝ぼけてたってことで。
「なんでもないない。さて、さっさとディク先生のとこにいって、出かけようぜ」
 ブイブイと手を振って話を切り替えると、訝しげな顔をしていたシイナもとりあえず納得したように頷いた。

 変な生物の事は忘れて、明日にはソルダムの工房だ!
 多分。





==椎名の呟き==
こうして見る限り、コーラスの普段のシイナ像って、結構酷いんじゃないでしょうか(そんな他人事みたいに)。
さて、シイナの謎の微笑みのワケは。

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2007.01.04

「そういえば、君たちはどこに行くんだ?」
 酒場でパンの盛り合わせなんぞをシイナと取り合いつつパクついていたら、ディク先生に会った。まあ先生の家の真下にある酒場なんだから、会ってもおかしくはないんだけど。
 どこにと訊かれて、シイナがオレの顔を見る。詳しい行き先はオレしか知らない。
「この街の西の森を抜けてエンデリックまでね。ちょっと武器を叩きに」
 この街はまだポーラスの一部だけど、エンデリックは違う自治区になる。
「武器を叩きに? なんだ。かけおちの最中か何かかと」
「ブはッ」
「吐き出さないで、コーラス!」
「男女ふたりで森の中、なんて、身内か恋人同士くらいじゃないか? 旅行にしては軽装だったし、だからてっきり」
 かけおち中の女性は槍引っさげてないと思うよ。
 と、シイナがふと俯き加減になった。
「実は私たち、兄妹なんです」
 似てねえ兄妹だな、おい!
「似てない兄妹だな」
 まんま言われた。そりゃそうだ。
「実は母親が違うんです。私は父の妾腹の子で、そのせいでこれまでずっと離ればなれで暮らしてたんですけど、父もそれぞれの母も次々と他界してしまって、やっと何日か前に再会できたばかりなんです。けれど、再会を喜ぶ暇もなく兄が違う地区まで出かけなければならないと言うので、じゃあ一緒に旅をして親睦を深めようと、こうしてついてきてしまったんです」
 もう少し、マシな事を言えないか、シイナ。
「そうか。大変だったようだね」
 もう少し疑ってくれませんか、ディク先生!!

 世話になった人に嘘をつくってのもアレな感じなんだけど、いきさつや理由を最初から説明するのはかなり面倒というか複雑というか。オレのことはともかく、白の塔のこととか公にしていいものかどうかも迷うしなあ。
 ハンター仲間、とか言ってしまうには、シイナが資格持ってないし。

「エンデリックに武器を叩きに……もしかして、ソルダムの工房か?」
「ええ!?」
 いきなり知っている人物の名前を出されて驚いた。
 まさに今、向かおうとしているのは鍛冶屋ソルダムの工房だ。
「ディク先生、ソルダム知ってるの?」
「実は、彼と私は生き別れの姉弟でね」
「えええええ!?」
「嘘だよ」
 ニヤリ。人の悪い笑みだ。
 ああ、バレてますね、さっきの嘘……。
「私は鍛冶屋が必要とする薬品も扱っているし、私が使用する金属類も鍛えてもらっているしね。持ちつ持たれつで長い付き合いだ」
 これは驚いた。
 確かにここからだとエンデリックはそう遠くないし、むこうとこの街で知り合い同士がいても全然おかしくはないんだけどさ。
「そうか、ソルダムのところに行くのか」
「でも、すぐには無理っぽいんだけどねー。ここで食料買い足しときたいし、何かと要りようだから、あと何日か稼いでからじゃないと」
 解毒剤、宿代に匹敵する金額だったよ、ディク先生……。
 自業自得だけどね。ええ、自業自得なんですが。
「ふーん……」
 ディク先生、ちょっと視線を彷徨わせた。
「彼のところに行くのなら、少々使いをお願いできないかな。その代わり、行程に困らないくらいの報酬は出そう」
「え、いいの?」
「いいも何も、使いを頼むんだから当然じゃないか」
 そりゃそうだけど。
 でも何かオレたちに都合がいいような。
「彼のところに薬品をいくつか届けなければならなかったんだが、ちょっと仕事が終わらなくてね。風邪薬に必要な材料を採りに行った先で、旅人が笑い転げていたものだから」
 それはオレたちのことですか……。
「代金はもらっているし、急ぎじゃないからゆっくりでいい。それとついでに彼のところでイエローストーンのグラスセットを買ってきてくれ」
 土産依頼再び。
 何ゆえイエローストーンのグラスセット大人気。
 中央ギルドのおねーさんは、前に土産で持って行ってやったらえらく気に入ってしまったようなんだけど、もしかして何気に女性に人気アイテム?
 ソルダム、食器屋に転職した方がいいんじゃないか。

 にしたって、急ぎでないならわざわざオレたちに頼まなくてもいいような気もするんだけどな。
 もしかして、金のことで気を遣ってくれたのかな?
「まあ今日くらいゆっくりすればいいだろう。あとで金を取りに来てくれ」
 質問する間も与えずに、ディク先生は踵を返して酒場から出て行った。

「助けられたな」
 シイナがポツリと呟いた。オレも頷く。
「うん……まあね」
「薬代の出費は自業自得なのにな」
 それは一応お前も同罪だっつーのー。




==椎名の呟き==
ディクも実は、昔椎名がゲームで使用していたキャラの名前です。
コーラスたちとは違いますが、郵便やメールを使ったネットワークゲーム(通称PBM)の中で動かしていた雄々しき女性薬師ですw<まんまだ
ついでに言うと、外見のモデルは某吸血鬼漫画のインテグラ様ですw

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2007.01.03

 ズルリと棚から落ちかけた本を慌てて押さえて、ふとその背表紙に目が留まる。
 なんだこれ。
「世界のモンスター その歴史と生態……?」
 へえ。
 モンスターに対抗するために、多少の知識は詰め込んでるけど、歴史とかまで詳しく勉強したことがなかったな。こんな分厚い本とか出てたんだ。
 調べる奴っているもんだなあ。
 興味本位でページをめくってみる。おお、モンスターごとに挿絵まで付いてるんじゃん。
「……世界中に生息する生物とモンスターとでは、確実に異なる点があり……そもそも彼らは……」
 うーん、でも歴史っていってもなあ、当面俺には必要ないことだし、結構ここに載ってるの、知ってるヤツが多いなあ。なんて、こんなこと言ってるから勉強不足になるのかもしれないけどさ。

「お前は仕事中に何をやってるんだ……」

 うおっと。
 シイナ、そっと背後に立つな。
 しかめっ面で仁王立ちする赤毛の美少女、すすけた前掛けが似合うんだか似合わないんだか。
 そうでした。今は街の片隅の本屋さんでアルバイト中なんでした。
「ほらシイナ。モンスターの生態だってさ。この前遭ったこいつ、やっぱり水が嫌いだったんだよ。盲点だったなあ」
「どれ? ああ。じゃああんなに手こずることもなかったんだな」
「ていうかよく観察してるよなあ。オレこいつに爪が6本あるなんて初めて知ったよ」
「どれ?」

「お前さんがた……?」

 うおっ!
 今度こそ、うおっ! 雇い主の店主様!!
 たっぷり出っ張った腹と片方つりあがった眉がワイルドで印象的デスヨ。
「サボっているとみなしていいのかね?」
 いや待って、違、いや違くないけど、あのね。
 あたあたしているうちに、シイナがオレを押しのけて、ズイと前に出た。
「すみません! 私、今コーラスにサボっちゃダメよって注意してたんです! でも彼ったら……いえ、ちゃんと止めることのできない私が悪いんですね。ごめんなさい、こんな役立たずで……」
 おいおいおいおい、シイナさんてば?
 そんなシイナの言葉に、店主のオッサンは目尻を下げまくる。
「いやいやいや、わかってるよ、ちゃーんと。シイナちゃんはいい子だ、なーんにも悪くない。坊主の給金半額にして、シイナちゃんに上乗せちゃおうかねえ」
「本当!? いいんですかあ!?」
 何を言ってる、オッサン!
「おいこら待て待て!!」
「一番エライのはワシじゃあ! その決定に不満なんぞ受け入れんぞお!」
「横暴だあ! 何だよシイナ、わざとらしく涙ぐみやがって……」
「コーラス、怖ぁい」
「少女に暴言を吐くお前が横暴じゃあ!」
 横暴に横暴って言われたああ! オレは断固抗議するぞ!!

「……何をやってるんだ、君たちは……」

 うひゃ。
 シイナ、店主ときて、次に背後に立っていたのは。
「あれ、ディク先生」
「おや、ディク先生」
 長身の青年、じゃなくて女性、ディク先生がいつの間にか店内に来ていた。
「随分楽しそうだが、一体君たちは何をやっているんだ?」
「何って、バイト」
「なんでまた」
 そりゃ先生、アナタに薬代払ったら、飯食う金も無くなっちゃったからですってば。
 解毒剤があんなに高いなんて知らなかったよ。オレこれまですこぶる健康体だったし、前に笑い茸食ったのはまだサンレイクにいる時で、自分で薬代払わなかったしさ。
 この先無一文じゃ当然困るし、ここは給金日払いでくれるって話だったから、好都合と飛びついた訳だ。
「先生の知り合いですかい?」
 店主のオッサン、キョトンとしてる。
「知り合いというか……昨日薬を売ったばかりでね。それはともかく、頼んであった本は見つけていただけましたか?」
 ああハイハイもちろん、と、店主は愛想よく頷く。さすが接客業、切り替えが早いなあ。
「お前さんがた、今日はもう仕舞いにしていいぞ。家内から給金もらってってくれ」
「はーい」
 もうそんな時間だったのか。窓の無い店の奥に詰まってると、時間の感覚なくなるな。
 でもこれで今日は、まともな飯が食えるー。


「てかシイナ、お前ズルイぞ。ついでにキモいぞ」
 本屋を出て、開口一番で文句が出てしまった。そりゃーあ、最初にサボってたのはオレだけどさー?
「キモいって言うな」
 ゴツン。痛ェ。最近鉄拳多いぞシイナ。
 彼は人に拳を喰らわせた後で、呆れたように肩をすくめる。
「どうせお前の給金がオレに来たところで、結果は同じなんだからいいだろ。それに女の容姿ってのは、ああいう場面でも使えることがあるって見本を見せてやったんじゃないか」
 良くない良くない。
 それにオレはこの先女をやる予定はないから、見本見せてもらっても困るっての。そんなこと言ってると、お前をずんどこ利用しちゃうぞ。
 ……利用のしどころが、イマイチわからんけど。
「とにかく飯食おうぜ。鍋焼き麺が美味そうな店見つけたんだよ。それに小鳥まんじゅうってのもあって、それもかなり美味そうな」
「金が飛んでくから!」
 またみっつとかよっつとか食うんじゃないだろうな。せっかく稼いだ給金、貯めなくちゃ意味がないだろうがー。
 一体その身体のどこに入っていくんだ、大量の主食と更に大量のデザートは。つうか、まんじゅう愛好家ですか、キミは。
「心配しなくてもひとつにしておくよ、小鳥まんじゅうは」
 あ、そう?
「おごりじゃないしな」
「……」

 もう、絶対、こいつにはおごらない……。





==椎名の呟き==
バイトで終わった……。
いやむしろ、きっとこんなんばっかですよ、この話。

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2007.01.02

 街に戻れば薬があるというのはつまり、街に戻らなければならないということで。
 当然のことなのだが、結局はバカ面さらして街に入らなくてはならないのだと気付いたのは、街に入ってからだった。

「ディク先生。森にお出かけ?」
「ええ。今帰ったところです」
「先生! こんにちはー!」
「はい、こんにちは。風邪はもう良いようだね」
「ディク先生! 昨日は助かりました!」
「あれからどうかな? もしも痛みがひかないようなら……」
 街のあちこちから声がかかる。何だか人気者っぽいイメージだなあ。
 でもあの、できれば早くどこか人目につかない場所に、避難したいんですけど……。
「ははははは、ディク先生?」
 歩きながら、颯爽と前を行く背中に問うてみた。
「ディクスン・ラックといいます。ディクで結構」
「そうなんだ。あははははは」
 いちいち笑う自分が鬱陶しい。というか、いい加減疲れてきた。お腹が痛いとかもう通り越して、なんか痙攣みたいの起こしてるよー。

「ほら、そこの建物の二階が私の家ですよ」
 指されてその建物を見てみれば、そこは通りから店中が見渡せるような作りの酒場であるらしい。昼間から客を入れてるようだけど、悪い雰囲気の場所じゃない。外の階段を登って行ける二階と三階が、間借りスペースになっているらしい。
 とにかく家とやらに着いたわけだな。助かったああ。

 招き入れられて、ディク先生とやらは、オレとシイナにひとつずつ小さな包みをよこした。
「まずは即効性のそれを飲んで。すぐ笑いは止まるから。そのあと毒を消すこれを」
 さらに、もうひとつずつ。
「あはははーい」
 大量生産じゃない手作りの薬だから、オレの鼻も利きやすい。妙なものは入っていないようだと素直に口に含んだら、シイナも続いてそれを飲んだ。
 さりげなくオレを毒見役にしたな、お前。
 て、おお、これは確かに。
 見る間に笑いがひいて行く。ずっと顔に張り付いていた笑みが消えて、どんどん人生に疲れた若者のような顔になって行くオレたち。
 いやもうマジで……疲れたし。
「助かった……」
 グラスに注いでもらった水でもうひとつの薬も飲み干して、ようやく安堵のため息が出た。笑ってたのは一時間にも満たないくらいだと思うんだけど、それでも凄いよ、笑いの消耗ってのは。これが数時間続くと思うと、笑い茸の毒も侮れない。
「えーと、ありがとう、本当に助かった。オレはポーラス中央地区でハンターやってるコーラス。で、こっちがシイナ」
 薬の容器を片付けながら、長身の美形は頷いた。
「先ほども言ったが、私はディクスン・ラック。もともと旅の薬師だが、今は少しここで落ち着いて薬売りをしているのだよ」
「街の人の信頼が厚いようですね。声が沢山掛かっていた」
 シイナの言葉に、彼は肩をすくめる。
「仕事柄ね。この街は小さくて、まともな医者もいないから」
 だから、ここに留まってるのかな?
 真相のほどはわからないけど、悪い人間ではないように見える。あくまで一見の話だけど。人望もあるようだしね。
「先生、女の子にモテそうだよね。カッコイイし、薬師なんてやってて」
 自然に出てしまった言葉に、シイナの鉄拳が後頭部に炸裂。
 いったーい。素直な感想述べただけじゃんよー。
「うーん……人に好かれるのはありがたいことだが、女性にモテても困るな。私には興味がないし」
「え、そうなんだ? もったいない」
「それどころではないんでしょう。あまり頭の悪そうな会話を展開しないで」
 人前だから微妙に女言葉。あはは、気持ち悪ーい。
 ……あ、こめかみに怒りの四つ角。また思ってることを読まれたっぽい。
「……」
 ディク先生、口許に手を軽くあてて、少し視線を泳がせた。
「えーと、コーラス君」
「コーラスでいいよ」
「ではコーラス。無理も無いから一応きちんと説明しておくが……」
「うん?」

「私は女だよ」

 え?
「初対面では大抵間違われるから仕方ないが」
「えええええええ!?」
 うそお!
 オレより頭ひとつ分も身長あって、クールビューティーで精悍なその顔でもって、全体的にその、立ち居振る舞いなんかもワイルドで、洋服の趣味だってそれ、ちょっとインテリ男子だぞ!?
 さすがにこれにはシイナも驚いている。めっちゃディク先生凝視してるぞ、お前。
「マジ!?」
「マジだ」
 信じられない。言われても、どう見ても男なんですけど。
 ここにも魂の秘術の実践例が!?
「てうか、どうして俺の周りにこういうのが集まってくるわけ!? 女かと思えば中身男だったり、今度は男の見た目で」
「やかましい!」
 う、シイナ首はやめて首は。そこは絞められたら死ぬ。
「……」
 ディク先生、無言でオレとシイナの手をとった。
「キミにはちょっとサービスになるが」
 ゆっくりと、その手を自分の胸元へと導く。
「う……」
 ふわっと。これは微かながら、やわっと。女性特有の……。ふわふーわ。コートの上から見ただけではわからない、柔らかさが……。
 ていうか先生、片方のコギャルも、中身男ですから。
 じゃなくて!
「一応身体もそれなりに女なんだが。見るかい?」
「わー! ごめんなさい! もうわかった、わかりましたから!!」
 慌てて手を振り払って引っ込めた。
 やわやわやわ。ああ、なんか感触が消えない……。
 シイナ、微妙に顔赤いぞ。これでわかっただろ、もうオレの前でポンポン服脱ぐなよなーって、そういう問題でもないのかもしれないが。
「まあ、わかってくれればよろしい」
 ニヤリと人の悪そうな笑顔を浮かべ、彼もとい彼女は机の上に置かれた紙の束にペンを走らせた。
 そう言われても触っても、やっぱりこう見ると男みたいなんだけどなあ。
「では、これをよろしく」
 ス、とその紙を差し出される。
 なんだこれ。

「薬の請求書だ」

 その台詞と同時に目に飛び込んできた紙面の金額に、本日二度目の精神的クリティカルヒット。
「ご、ごはんが!」
 食べられなくなっちゃう……。

 先生、お触り代とか入ってないんだよね、これ……?





==椎名の呟き==
妙な薬売り登場。果たしてレギュラーなのかイレギュラーなのか。
まあ、そんなに深く考えるような話でもないんですけどねw

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2007.01.01
明けましておめでとうございます。

今年も地道に……。
更新も極力ほぼ毎日できるように頑張りたいと……。
なんでそんなに弱気ですか。

そうそう上手くいくものでも無いですが、今年が良い年になるといいですね。
お風邪など召されませんように!


テーマ : 新年の挨拶

ジャンル : 日記

プロフィール

Author:椎名シイ
 
オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
一部微妙に腐女子向けかも!

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pixivは二次創作腐向け小説と絵。ジャンルは雑多。

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