オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2007.03.31

思いのほか時間が出来たので、ちょこっと立て続けに日記とか。

前回の記事で、スキャナが使えないような話をしましたけど、携帯での撮影なら可能かなと思って、試しにラフ書きしたものを撮影してUPしてみました。
逢魔が時ではなくて、コーラス・ブレイドの方ですけど。しかも主人公差し置いて、シイナ'sですけど!
かぼとか巡も無い訳ではないんですけど、一番撮影しやすいのがこれだったという……。
ちょっと暗いから、補正かけたりでぼんやりしてるんですけどね。
それにあくまでラフだから、シャーペンの一発書きですよw
画像アップロードではなくて、リンクにしてみました。
よろしければ見てみてくださいw
こんな感じなのか、程度で!

男シイナ
女シイナ

そんでもってやっぱり、ちょっと暗いんですけどねー。
スキャナ欲しいけど、今絵を描いている余裕はないですなあ。

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2007.03.31

3月に入って更新少なかったですよね~。ほんっとごめんなさい。
月の初めに職場の新装オープンなんて行事が入りまして、そのオープン以来の忙しさがハンパなく……(何が目指せ県内最大級専門店なんだか)軒並み増える作業量と人員不足で死にそうな毎日ですた;;
どんな職場かはご想像にお任せしますが!
夜は結構寝ちゃってました。
年取ると無理は出来んですね。しみじみ。
これからもこんな毎日が続くのか……はああ。
今日はたまたま、父親の具合が悪くなってしまったので病院に行くために欠勤、にわかに時間が出来てしまったわけでして。家にはいなくてはならないけど、時間はある。素直に喜べない休み時間だなあ。
最近になってやりかけてるサモナイ3もいつ終わるんだか。
ていうか12章の敵強すぎるんですが。どうしよう。

それはともかく!

『逢魔が時!』ですが、本当は、これ小説よりも漫画向けの構成なんですよね~。ビジュアル面がでかいというか。
かぼや、黒猫や、これから出てくる登場人物もそうですけど、本当は絵柄で一発外見出しした方がわかりやすいんですよね。キャラ設定時に絵柄で描いてしまっているので、それを文章で説明するのが大変に面倒くさく……。
第一話で説明するはずの部分、ところどころ抜けてしまってますし。
ここで説明するよりも、追々やって行った方がいいんだろうな~。
でも漫画を描かなくなって数年、今更漫画形式で描くのも大変というか、正統派長編漫画をネットでUPし続ける自信もないし、一番の問題は、漫画に耐えうる画力を持ち合わせていないという……。
第一、今スキャナーないじゃん。ダメじゃん。
線描きはPCで出来ない人です。

正直、前作に比べると主人公がつまんないんですよね。
あくまで私個人の主観なんですけど。
歳の割に大人しい、みたいな設定って、実は扱いにくいです。特に小説だと。今時の思春期なんて、特にね~。
周囲あっての主人公なんで、周りに助けられることも多いかと思います。せめて、脇に出てくる登場人物で、読んでくださる方のお気に入りみたいなものが出てくれればいいのですけど。
(本当は椎名、主人公至上主義なんで、主人公が好きになれない作品なんて絶対に読まないんですけどね、自分では)
第二話から巡も馴染んでくると思いますので、どうかお見捨てなきようお願い申し上げる次第です。
お願いも何も、自分が見捨てられないような面白いもの書かなきゃダメじゃんね。

すぐに第二章開始となりますので、またよろしくお願いいたします。
(ホントはコーラス・ブレイドの番外編みたいなのもやりたいんだけど、頭の切り替えが難しい~)


2007.03.31

 巡が出て行ってすぐ、かぼは部屋の窓を開けて、外に身を乗り出していた。
「雨、止まんの……」
 かぼは昔から、雨に当たるのを極端なくらいに避ける。
 振り落ちてくる雨粒がその身体に当たるたびに、その内側にある温かさが失われていくような、そんな感覚があった。
 そんな雨の中、巡は出て行ってしまった。
 怒られるからついて行くことはできなかったけれど。でも一番に見えるところで待っているのなら構わないかなと。そんな風に思って、窓から外に出る。
 雨は嫌いだけど。
 少し当たるくらいなら、大丈夫だろう。
 雨に当たることよりも、巡がそこにいてくれないことの方が。
 だって巡は、かぼが目覚めたときに、最初に見つけた、真っ直ぐな瞳だから。かぼに名前をつけてくれたり、何も言わなくても黒猫を家に連れ帰ってくれたり。かぼに世話を押し付けるのは、これからも、かぼが巡の家で暮らしていいって、そう言ってくれているのだ。とても、優しい子なのだ。
 だから早く巡を見つけられるように、雨の当たる玄関先に、かぼは座り込んだ。
 それでもやっぱり雨は冷たくて。
 流れ落ちる水と一緒に、自分の中の何かもこぼれ落ちていくようで。

 早く巡を見つけようとする意志と裏腹に、かぼの瞼はゆっくりと、閉じていった。


 天笠和菓子店は、巡の家の近所ではあるけれど、それでも数百メートルは離れている。家を出てからむっつりと歩いて雨に濡れてしまった道を、巡は今度は走って帰った。
 あの時、結局買ってやらなかったシュークリーム。これを見たら、かぼは喜ぶだろうか。知ってはいても、食べたことのないような素振りではあったし。そしてかぼが喜んだとしたら、やっぱり自分も嬉しかったりするんだろうか。それはどうだかわからないけれど、今、巡はかぼの喜ぶことをしようとしている。
 喜ばせたいと思った訳ではないけれど、喜ぶだろうな、とは考えた。
 そしたらまた上機嫌で、魔物のウンチク語りなんて始めるだろうか。そうすれば、巡はもっとかぼやあの黒猫のことを知ることが出来る。それは、悪くない。
 巡は、その勢いのまま、家の小さな門に駆け込んだ。
 その足が、止まる。

 かぼが、いた。

 門から少しだけ離れた玄関先で、うつ伏せになって倒れていた。
「……かぼ?」
 返事はない。
 雨の中、雨の中なのに、かぼはその場にうつ伏せになったまま、ピクリとも動かなかった。
 身体に当たる雨のしずくが、何の抵抗もなしに流れ落ちる。まるで石の上でも滑り落ちるように。
 こんな光景を、巡は以前にも目にしたことがある。
 あれは確か、車にひかれて道路で死んでいた、小さな猫だ。
 硬くなった身体の上を、冷たい水がただただ流れていたあの光景。

 かぼは、何と言っていた?
 雨は嫌いだと、言っていなかったか。

 ――そいつは水に当たっただけで消えてしまう。

 かぼのあの時の声が、今聞こえた。
 そんな物の怪がかぼのことではないと、誰も、言っていない。

 動かないかぼを見つめたまま、巡は手に持っていたシュークリームの袋を、バサリと取り落とした。
 なんだよ。
「なんだよ……」
 なんで、雨の中待ってたりするんだよ。
 命を懸けてまでやらなきゃいけないようなことじゃないだろう!?
 雨に当たるだけで死んでしまうような身体だったら、それを本人が知らないはずがない。でももし、もし、知らなかったら? ただ本能で嫌っていたのが、実は命に関わることだからだって、本人が知らないことだって、あるかもしれない。
 だけど、嫌いだって言ってたのに。
 嫌いだけど、それでも巡を待つために、こんなところで、ずっと。
 だけど死んでしまったら、何の意味もないのに!

「ばっかじゃないのか、お前!!」

 雨の中、立ち尽くしたまま。
 巡は動かないかぼに向かって叫んだ。
 悪態をついても文句のひとつも返ってこないことが、こんなにも胸に衝撃を与えるなんて。喧嘩なんかしたって。文句を言い合ってたって良かったのだ。
 こんな風に、動かなくなるより、ずっと、ずっと良かった。
 どうして、もっと前に気付けなかったのか。
 失くすのはあっという間だって、さっき聞いたばかりだ。もっと前に聞いていたら。でももっと前に聞いていたとしたって、きっとその時の自分には、やっぱりわからなかっただろう。
 絶対に戻ってこないものなんて、この世界にはいくらだって、あるのだ。


 この時。
 この、一見普通の少女と変わらない、陽気な物の怪との出会いと、別れが。
 巡のこれからの人生を、大きく変えることになる――。










 ――なんて訳はなくて。
「……しゅーくりーむ!!!!」
 ガバリと、少女が頭を持ち上げた。
「!!!!!!!!」
 巡、唖然。
「しゅ、しゅーくりーむがあ、水溜りにいいい!!」
 うつ伏せになったまま顔だけ上げたかぼは、まるで脂ぎった黒い羽と長い触角を持つアレのごとくに、カサカサとほふく前進でシュークリームの袋に這い寄った。
「もったいないじゃないか! このかぐわしき匂い、これはしゅーくりーむだろう!?」

 ……なんだ。何が起こった。

「お、お……」
「お?」
「お前、死んでたんじゃないのかよ!?」
 巡の叫びにポカンとしたかぼは、さすがに仰天の表情を作った。この少女には珍しい現象。
「何を言うか、失礼な!!」
「だって!!」
 頭の中を巡った様々なことを、取りとめもなくわめき散らす巡に、かぼはますます目を見開いた。
「メグ……ぬし、案外慌て者だの」
「なんだよ……」
 バツの悪そうな巡に、かぼは這いずった格好のまま、呆れたようなため息をつく。
「生きるか死ぬかの問題だったら『好き嫌い』で済むわけがなかろうよ」
 それはそうだが、巡は、かぼが無自覚なんじゃないかとまで考えたのだ。難しく考えすぎだと言われたとしても、雨の中倒れられていたら、誰だって驚く。
「それになあ、わちら物の怪は、魂が消えれば身体も残らんよ」
「そんなことを知ってるわけがないだろ!!」
 そりゃそうかと、かぼはナハナハと笑う。
「思いついたときに、話してやるぞ。わちらの色々なことはな」
 一度に全てを話すには、情報量が大きすぎるのだ。
 しかしそうか、とかぼはニヤつく。かぼが死んだら、巡は慌てるか、と。そう考えたら、自然と笑みがこぼれてしまうかぼだ。まだ、嫌われているわけじゃなかったと。
「ていうか」
 巡は一度、大きく息を吸った。
「大体なんでこんなところで倒れてるんだ、お前は!!」
 もっともな意見だ。
「あー……わち、雨は嫌いだからの。当たっているうちに、ついつい眠気がきてしまったのだ」
 巡には意味がわからない。
「それも追々な」
 かぼが雨の中で眠気を来たしてしまったのは、完全な逃避の表れだ。彼女が何かから逃避するには、眠るのが一番良いのを、かぼの本能は一番良く知っている。
 そして、彼女が雨を嫌うのも、ちゃんと理由があってのことなのだが。
 それもいつか、話す時もあるだろう。
「そのうち話してやるから、まずはこれを食べていいかの」
 ずっと抱えているシュークリームの袋を、かぼはきらめく眼差しで見つめる。
「その前に風呂に入れ」
 かぼの首根っこを捕まえて起き上がらせると、巡はその手からシュークリームを奪い取った。しかし果たしてこのシュークリームは、まだ食べられるのだろうか。
「メグのケチんぼ!!」
 その言葉も何度聞いたことか。
 何と言われても、こんな濡れ鼠のまま菓子を食うことを優先させるのは許さない。

 ケチと罵られても――生きてて、良かった。

 正確には、彼ら魔物は生きてはないらしいけど。
 動いてしゃべっているのだから、それはそれで良しとしよう。

 手足をバタつかせて抗議するかぼを引きずって、巡は雨の当たらない家の中へ入って行った。

 二人が住む、雨の届かない場所へ。





==椎名の呟き==
一応、この回で第一話終了となります。
最近更新少なくなっててごめんなさいでした。
出来るだけ多く更新できるように、頑張りますからね!!
しっかし、目指すハートフルにはあまりに遠い。案外難しいものですよね~。もっときちんと話を練って、丁寧に構築しないと。むむ、要精進。
第二話からは、もっと登場人物も増えると思いますので、またご覧になってやってください!

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2007.03.30

 なんで、あんな風に怒ったかな。
 家を出てそう経たないうちに、巡はすでに後悔の中にいた。雨の中、傘も持たずに出てきてしまったせいもある。深く考えずに家を飛び出したせいで、不必要に濡れるハメになってしまうなんて。
「かぼのせいだ」
 呟いてみても。
 本当は、こんな風に怒る必要なんて無かったと、今では思う。反射で行動してしまってからしまったと思うことは誰にだってある。

 かぼにとっては、巡は弱点を見せられる相手ではなかった。

 それが、悔しいのか?
 なんで?
 まるで、自分が仲良くしてもらいたがってるみたいじゃないか。

 巡的には、ただかぼに巻き込まれるだけ巻き込まれて、いちいち反応するのも面倒くさくなってしまったから馴れ合うようになってしまったんだって、そんなつもりでいたのだけど。だって魔物だとか妖怪だとか逢魔が時だとかって、そんな非常識なことをまくしたてられたあげくに、それが冗談でもなんでもなくて、逃げることも叶わずに、状況はこれからどんどん変わっていく。
 だったら、反抗し続けるよりは、受け入れた方が遥かに楽だ。
 でも、それこそ、そういうつもりでいたのだとしたら、心を許していないという点ではお互い様ということになる。思えば、自分だってそういう態度でいたのだから、かぼのことばかり悪くは言えない。

 まだ、出会ったばかりだ。

 自分にとっても、かぼにとっても。
 お互いがまだ出会ったばかりで、そしてそれは、魔物同士でも、人間同士でもなくて。理解するのに時間がかかるのは当然だ。
 そしてどうやら、これからこの世界では、それが不可欠になるのであろうし。
 特に、自分にとっては。

「はあ……」
 考えれば考えるほど、巡の頭の中は混濁してくる。

「坊主、どうした」
 声をかけられて、巡はその方向へ顔を向ける。
 そこは天笠和菓子店の店先で、店の主人が店先に出したシュークリームを片付けていることろだった。
「こんな雨の中傘も差さんで。散歩か?」
 今時珍しい、和装に身を包んだ初老の主人がシュークリームの入った籠をしまう姿というのは、和風建築の店先にあって一種異様だ。
「親戚の子だとかいう小さな子供は、今日は一緒じゃないのか」
 母親、かぼのことを親戚の子だとふれ回っているらしい。妥当なラインだ。
「喧嘩でもしたか」
 巡の顔色で、天笠の主人はそう判断したらしい。
「なんで、シュークリームなんて始めたの?」
 主人の質問に答えず、巡は疑問に思っていたことを口にした。話をそらすつもりがあったわけではないけれど、そう取られたかもしれない。
「シュークリームが食べたいという子がいたのでな。頑固に主義を通すのも悪くはないが、需要に応えるのも時には必要だろう」
 まさか、その子供というのはかぼのことではないだろうな。
 巡は考えた。
 タイミング的には微妙だが、彼女は巡の知らない外で何をやっているかわかったものではないし。だが、店の主人は言った。
「あの子もシュークリームは好きなんじゃないか? 持って行って早く仲直りするがよかろう」
 あの子も、ということは、主人の言うシュークリーム好きの子供というのはかぼのことではないらしい。なんてことを考えているうちに、主人はシュークリームをいくつか、店の商品袋に詰め込み始めた。
「特別だ。タダでくれてやるから持って行け」
「いや……」
 断わりかけたが、子供が遠慮などするなと強引に渡された。
「早く仲直りするに越したことはない。せっかくあんなに楽しそうにしていたのに、そんなつまらん状態をいつまでも続けても損なだけだぞ」
 巡は何も言わなかったが、主人は巡とかぼが喧嘩をしていると断定したらしい。
「楽しそう?」
 確かに、かぼはいつでもおおはしゃぎだったような気がしなくもないが。
「あの子も、お前さんもな。笑って話せる相手というのは、かけがえのないものだぞ。若いうちにはわからんかもしれんがな。そして失うのもあっという間だ。そうなってからでは遅い」
 経験豊富であろう主人の言葉には、それなりの重みがあるが、それ以上に。
 かぼだけでなく、自分も楽しそうにしていたらしい事実の方に、巡は驚いていた。少なくとも、傍からはそう見えていたようで。
「……でも」
 かぼと自分は、心を許しあってるわけじゃない。
 主人は知らないだろうが、彼女は人間ではないのだ。
「子供のくせに、深く考える素振りなど見せんでよろしい。嫌いでないのなら、一緒に楽しいことをせんか。それだけで充分だ」
「……」
 一緒に楽しく、だた、それだけを?

 本当は、かぼの実年齢の高さが、巡との感性の違いを作っている原因にもなっているのだが、巡自身はそのことに気付いていない。
 もともと少し大人びた子供だったから、負けん気が先に立つことが多い。
 損とか得とか、楽とかじゃなくて。
 せっかくの新しい出会い、友達がひとり増えた分だけ、楽しさも増やせばいいだけなのに。
「ありがと……」
 巡はシュークリームの袋の取っ手を、握りしめた。





==椎名の呟き==
こういうロジックは、書いてて訳わからなくなってきます。うははは。
今回は日付が変わったら、次の回も早めにUPしますね。

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2007.03.27

 外は、生憎の雨。
 雨の多い6月なのだから仕方がないが、それにしてもこの時期の湿った空気は、身体中にまとわりつくような感がある。
 実習をやった月曜日までは晴れた日が多かったのに、次の日からもう3日、ずっとこんな天気だ。学校から帰っても外に出かけるのもおっくうで、巡はこの3日間、学校から帰ると家に閉じこもりっきりだ。
「雨だのー。退屈だのー。こう湿気っていると、気分まで湿ってくるのー」
 かぼはずっとそんなことを呟きながら、巡のベッドの上でゴロゴロしている。月曜日に拾ってきた黒猫も一緒だ。
「退屈ならどこかに遊びに行って来ればいいだろ」
 魔物にも湿気なんて関係あるのだろうかと、巡は思う。
「む。メグはこんな雨の中、かぼを追い出しにかかるつもりか」
「そんなことは言ってない」
 言ってはいないが、こう何日も同じ部屋の中で、暇だ退屈だと呟かれ続けるのには、さすがに辟易している。そうでなくとも、これまでずっとひとりで過ごしてきた部屋の中に、毎日かぼや猫がいるのだ。慣れない環境に苛つくのも道理で。
「雨はきらいだ」
 かぼがぼそりと呟いた。
「メグは知らんだろうが、わちら物の怪にとっては、天候も重要な場合があるのだぞー」
 かぼは、ベッドの上で猫と共にゴロゴロと転がる。
「物の怪は、何かの属性から生まれて来る者が多いからな。生きている者のように、寿命や病気で死ぬことがないかわりに、そういった外部からの影響で簡単に消えてしまう者だって多いのだぞ。例えば炎から生まれた物の怪がいるとすれば、そいつは水に当たっただけで消えてしまう。逆に水辺で生まれた者は、長い間水と離れていれば、やはり消えてしまうしの」
 それは初耳だ。初耳だが、それとかぼとは関係ないだろう、と巡は思う。思ってから、ふと気付いた。
 かぼは、一体何の物の化だ?
「お前は、何から生まれたんだ?」
 ふとした拍子の質問だった。けれど、意外やかぼは、巡のその質問に対して、珍しく静かになった。
「……」
「なんだよ」
 別に悪いことを訊いたつもりはないのに、だんまりを決め込まれて、巡は眉をひそめた。しかしかぼは、その一瞬後にはヘラッといつものように笑う。
「別に何でも良いではないか。わざわざ弱点になるようなことを、そう簡単に教えるヤツなどおらんぞ」
 かぼの率直な言葉に、巡は憮然とした。
 何だよ、弱点って。
「調子がいいな、お前は」
 眉間にしわを作って呟く巡に、かぼの瞳がキョトンと見開かれる。
「仲良くしたいだとか言ってるけど、結局そんな気さらさら無いだろ。弱点を教える気がないとかって、まるで敵でも相手にしてるみたいだよな」
 そりゃあ、自分と異なるものを排除しようとする人間の本能のせいで、物の怪は迫害され続けたんだろうけど。そのせいで人間を信用できないというのなら、わざわざ人間の前に出てきて、馴れ合うことなんて考えなければいい。
「別に、わちはそんなつもりで」
「そんなつもり無くたって、そう聞こえるよ」
 かぼは、大事なことを何も言わない。
 自分の都合ばかりを押し付ける。そんな態度で仲良くしたいなんて言われたって、少しも説得力がないと巡は思う。
 かぼに対して怒ってばかりだけど。怒らせているのは彼女の方だと。
「別にそれで構わないよ。好きにすればいい。結局理解し合うことなんてできっこないんだから。どうせ人間は心が狭いんだからな」
 かぼが出て行かないなら、自分が出て行けばいい。
 巡は、座っていた椅子から腰を上げた。
「出かけてくる。絶対ついて来るなよ」
 言い残して部屋を出ると、バタンと力強くドアを閉めた。

「……」

 ポカンとしていたかぼは、ゴロゴロと転がっていたベッドの上で仰向けになると、黒猫を腹の上に乗せた。
「メグは幸せな中にいるからの……」
 生の刻と魔の刻の移り変わりという現実を、人間が本当の意味で知ることは、多分これまでもこれからも、ない。
 それだけで幸せなことだと、かぼは思う。
 生の刻の住人たちは、ひとつの時代をまたぐことなく寿命を迎えるではないか。その永さを自分の身体と心で痛感することは、決してない。
 魔の刻の住人たちは、それこそ千年二千年という永き年月の中を、半分は強制的に眠りながら過ごさねばならないのだ。
 この年月の、重圧。
 その中で起こる、様々な出来事。
 これまで、かぼが経験してきた数え切れない、出来事。
 かぼが何から生まれたのかを知っても、巡はかぼを迫害したりしないだろうか。
 そう信じたくたって、そうでないかもしれないという不安は拭いようがない。信用するとかしないとか、そういう話以前に、もう少し一緒にいて、長く時を過ごして、それから自然な話の流れで明かして行きたいことだってあるのだけれど。

 ああそうか。
 自分と人間では、生きている時間が違いすぎる。
 人間は、きっとのんびりと待ってなどいられないのだろう。
 短い時を生きる人間は、環境の急激な変化にも弱いのだろうし。

「メグ、怒ったかの……」
 ポツリと、かぼは呟いた。
 かぼのたった一言だったけれど、きっとずっと溜めていたものだってあったのだろうし。
 けど、だけど。
 仲良くしたいという言葉に、嘘なんてない。
 むしろ、巡の方が仲よくしたがっていないように見えなくもなかったのだけど。
「雨の中、メグはどこに行って時間を潰す気なのかの」
 探そうかとも思ったけども、そうすればきっとまた巡は怒ってしまう。
 かぼは、ベッドの上で寝転んだまま、寝返りを打ってうつぶせになった。

 やっぱり、雨は嫌いだ。





==椎名の呟き==
巡、キレるの早い。まあお子ですし。色々溜まってますし。
ひとりの部屋に同居人出来たら……うわー、大変だわー。

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2007.03.26
 放課後になって、巡は職員室に顔を出した。
 朝比奈に言われた通り、両手に持つ箱の中にはクラスメイトたちが採集してきた植物の残りが入っている。のはいいのだが、こんなものを集めて担任が何をしようとしているのか、巡には今イチわからない。捨てるのならそのまま焼却炉行きでも構わないと思う。
 それとも、巡に説教するための大義名分だろうか。それならただ職員室に呼び出せば良いだけの話だ。
「先生、持って来ました」
 巡が朝比奈の机に向かうと、担任は事務椅子をグルリと回転させてにこやかに巡を迎えた。何気に巡の足許にくっついて来ているかぼの方には、視線さえも投げかけない。気付かれることはない、とかぼは言っていたが、なんだか不思議な感じがする巡。すでにかぼの存在から不思議なのだから仕方がないのだが。
「おお、ごくろーさん」
 巡から受け取った箱の中を、早速ガサガサとあさり出す朝比奈。
「それ、どうするの?」
「んー、採るだけ採って無駄にするのも、こいつらに申し訳ないからな。使えるものは使おうと……ああ、これとかな」
 朝比奈が取り出したのは、どうやらよもぎの一種。使い切れなかったが、結構な人数がこれを持ち帰っていた。
「よもぎは色々と使い道あるからな~。っと、この辺は押し葉にでもしといて、栞でも作らせるか……」
 朝比奈、新たな案が浮かんだらしい。
「ところでな、成瀬。お前今日はどうした? 何か悩み事か?」
 急にトイレには立つし、実習中もやたら挙動不審だったし、教室では突然怒鳴り出す。詰問されても仕方のない今日一日の巡だ。
「勉学の態度がなっとらんの~」
 お前にだけは、言われたくない!!
 腕を組んでうんうんと頷くかぼを怒鳴りつけそうになるが、巡は何とか飲み込んだ。今このタイミングでそんなことを叫んだら、本当にシャレにならない。
「すみませんでした。悩み事とかじゃないです」
 少々しおらしい口調で否定してみると、朝比奈はハハハと軽快に笑った。
「まあなあ、成瀬だって男だもんなー。他人に言えない悩みのひとつやふたつ、あったっておかしくないけどな!」
 そんなんじゃない、と言いかけたが、巡は一瞬躊躇した。男だからかどうかはわからないが、確かにこれも人に言えない悩みと言えなくもない……かもしれない。
 このままでは血管のひとつも切れてしまいかねない勢いだし。
「ま、悟られたくなければ冷静に対処できるようにするんだな。そうでないと周りに心配かけちまうぞ」
 軽い口調だが、朝比奈、何気に子供に難しい注文を出す。それともひとりの人間としての意志を尊重しているということだろうか。
「手ぇ出しな」
「?」
 言われて素直に手を出すと、朝比奈は巡の掌の上に、小さな茶色の塊をふたつ転がした。
「何これ……」
「キャラメル。オレが作ったの。それでも食って機嫌直せ。……あ、学校では食うなよ。それと、みんなには内緒な」
 巡はしげしげと、オブラートにくるまれたそれを眺める。
 いちいち小器用な担任だ。


「メグの先生は優しいの~。かぼに飴をくれたぞ」
 帰り道、巡に渡されたキャラメルを口の中で転がしながら、かぼは上機嫌で両頬を押さえる。
「お前にくれた訳じゃないよ……」
 むしろ自分が今あげたんじゃないかと、憮然とした面持ちで、巡はもうひとつのキャラメルを口に入れる。帰り道だが、学校では食べるなと言われたのだから、まあいいとする。へ理屈だと文句をつける人間は、ここにはいない。
 キャラメルは、当然だが甘い。
 口に広がる甘さで、ここ数日の疲れが何となく取れていくように感じるのは、あまりにジジくさすぎるだろうか。けれど、心身共に疲れていたのは事実で。
 キャラメル効果だろうか、何だか色々考えすぎるのが面倒に思えてきた。
 ありのままを受け止めてみた方が、建設的なんじゃないか、と。
 けれどやはり、かぼに学校に来られるのは困る。じっとしてないし、いつ誰に見られるかもわからないし。巡が持つという逢魔の力とかいうのを、持っている人間だっているかもしれない。
「もう、メグの学校には用がなければ行かんよ」
 思っていたことに、そのまま返答されて巡は驚いた。
「わちが行くと、メグは困るようだからの。わちはメグと仲良くしたいだけだ。嫌われてしまったら、意味がないからのー」
 散々やってくれた後で、よく言う。
「逢魔が時など、そう深く考えることもあるまいよ。どうあがいたところで、なるようにしかならんし、なるようになる。でも、案外世界は優しいぞ」
「優しい?」
 眉を寄せて聞き返す巡に、かぼはいつものごとく笑いかけた。
「世界は命ある者にもなき者にも、平等に存在する力を与えてくれてるだろ。ほれ、こんなに小さい者にもな」
 かぼの視線の先に、いつの間にか真っ黒な猫が座っていた。
 いつからいたのか。
 ニャーとなく声も、翡翠みたいな目の色も普通の猫とまったく変わらないが――長い尻尾が、半分ほど二股に分かれている。
「!?」
 かぼがそれを抱き上げた。
「こやつも魔の刻の住人だの。見たことのないヤツだが……こんな風に、至極本物に近く、力のない者もいる」
 ペロペロとかぼの顔を舐める黒猫は、尻尾が二股に分かれている以外はどこからどう見ても普通の猫で、突然人間の言葉をしゃべりだしたり、飛んだり消えたりする様子は見せない。
 これも、他の人間には見えないのだろうか。
 巡は、かぼからその猫を受け取って抱き上げた。
 人懐こく、巡の顔も舐め出す黒猫。ゴロゴロという喉の音が、巡の胸の辺りに振動となって伝わる。こうやって抱き上げているのを他の人間に見られたら、この猫の姿も見えてしまうのだろうけど、この猫くらいなら、きっと問題はないだろう。
「な、優しいだろう? 生きる気さえあれば、何とかなるんだものな。そんでもって、そうやって猫を抱き上げるメグも優しい子なんだって、わちは勝手に信じておるのだがの」
「……」
 一瞬目を見開いて、すぐに巡はかぼから視線を外した。
 多分赤くなっている頬を、あまり見られたくはない。
「優しくなんかないよ。この猫、かぼが面倒見るんだからな」
 ぷいと顔を背けて歩き出した巡に、かぼはグルグルとまとわりついた。
「なんだ、ケチんぼだの、メグは! 共同作業でいいじゃないか!」
「かぼがやるんだよ」

 やいやいと騒ぐ、かぼの声ばかりがうるさい帰り道を。
 少しだけ。
 ほんの少しだけ楽しいと感じたのは――ひとりはしゃぐかぼには。
 まだ、秘密にしておくことにする。





==椎名の呟き==
いちいち突っ込むことに疲れてしまって諦めのついたメグ、ですかねw

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2007.03.25

 実習の最初に、巡たち6年1組の面々が向かったのは、巡がかぼと出会ったあの雑木林だった。
 確かに学校のすぐ裏手だし、野生の植物も多い。ちなみにこの辺りの土地の所有者は、藤乃木学園の理事長だったりする。事前承諾も完璧だ。
「先生の目の届かないところに行くんじゃないぞー。30分で集合な」
 朝比奈の合図と共に、持たされたストップウォッチを確認しつつ、それぞれの班があちこちに散る。が、この年頃の子供たちだけに、そこいらの雑草を引っこ抜けばいいと決め込んで遊びに走る者から、何とか食べられる物を探そうと必死になる者までと、反応はまちまちだ。
「採ったものは、一度は自分で口に入れてもらうからな~」
 朝比奈の言葉に、生徒たちは「うげ」と表情を変えて、そこそこ真面目に探し出す。もちろん毒性のある物は外すつもりだが、朝比奈はやると言ったことはやる教師だ。食わせると言ったからには、それが雑草でも本当に食わせる。

 まったく予習できなかった巡は、班で固まってあれこれと探しながらも、かぼの方をチラチラと気にする。この前まで眠りこけていたこの場で、かぼは楽しそうにひとりで遊んでいる。確かに皆にかぼの姿は見えていないようだが、逆に蹴り飛ばされたりしないのだろうかと思うが、これが器用にお互い避けているというか、自然と接触しない。

 いや、アレを心配している場合じゃない。

 巡は植物の採集に集中力を戻した。
「成瀬~。この赤い実って、良く見ない?」
 同じ班の女子に声をかけられて、巡はしげしげとそれを眺める。背の低い木に小さく実る柔らかい実は、確かにどこかの家の庭で見たことがあるような気がする。けれど、それが食べられるかどうかはわからない。一見食べられそうに見えなくもないが、今ここで試してみるのは厳禁されている。毒のある物だと困るからだ。
「取っていってみるか」
 いくつかの実を、潰さないように採ってビニールの袋に入れた。
 あちこちを目で追っていた朝比奈は、そんな巡たちの様子も視界に入れている。
 いいもの見つけたなあ。
 朝比奈は声に出さずにほくそ笑む。あの木は一箇所にしかないようだから、他の班は気付いていないようだが、あれはそのままで食べても甘いし、薬にもなる実だ。巡は全然予習など出来なかった様子だが、ひとつはクリアしたらしい。

「メグ~、メグ~」
 かぼに呼ばれて、巡は無言のまま彼女に近付いた。
 遠目では気付かなかったが、そこには小さな川が流れている。街に流れる河川と合流しているのかもしれない。
「この草、見たことあると思うんだがの~」
 気付けば植物採集に参加しているかぼだ。誰にも聞いてはいけないという決まりだが、結局かぼも植物には明るくないらしいから、まあいいだろう。
「たしか食べられると思ったんだがの。しかしこんな形だったかのー?」
 怪しいことこの上ない。が、突っ込みたくてもこの場では叶わない。
 まあいいやと、それを根ごと引っこ抜いて、数本を仲間の元に持って帰る。

 そうこうしているうちに、30分が経過した。

 全員を集合させて、学校に帰るまでで一時限終了。それから、後半の植物選別が始まる。大したことをする訳でもないのだが、全員スモッグと三角巾着用だ。

「この班は……変わったもの持ってきたなあ」
 各班をまわる朝比奈は、巡の班に来て面白そうに顎に手を当てた。
「ユスラウメにマコモに、こりゃパセリか。あんなところに生えてるんだな。ほぼ当たりだが……惜しいな。マコモは、秋になれば何にでも使える食材なんだけどな」
 かぼが言っていた草を手にしつつ講釈する朝比奈。しかしこの担任、何気に野草に詳しい。
「ユスラウメはそのまま口に入れてみろ。甘いぞ。同量位の塩で漬けておいても薬になる。パセリは……言わずと知れた、だな。ルールだから一度は食ってみな」
 うえ、と嫌な顔をする面々。パセリが単独で好きだという人間は少ない。いわゆる付け合わせのパセリとは姿が違ったから気付かなかった。わかっていたら採って来なかったのに。でも試食からマコモは外してくれたのだから良しとしなければ。マコモは薬草にもなるが、若干刺激が強いから扱いに注意が必要なのだ。
「一応かぼのも正解だったろ? 間違いじゃなかったろ? 季節が違っただけだものな。偉いだろ? な、メグ?」
「うるさいな、わかってるよ!! 少し黙ってろ!!」
 後ろからまくし立てるかぼに、振り向きもせずに怒鳴る巡。
 ピタリと止む、教室内の喧騒。
 しまった。
「……それはオレに言ってるのかな?」
 笑顔が引きつる朝比奈教諭様。
「いや、違……その」
 かろうじて気付かれなかったが、代わりに妙な誤解を生んでしまった。
「先生に意見してくれる勇者な成瀬君は、後片付け当番決定な。皆の取ってきた収穫物の残り回収して、放課後職員室に持って来いよ」
 バシバシと巡の肩を叩く朝比奈。そういう行動を取る時の担任が本気で怒っていないことを皆知っているから安堵するが、何故巡が急にあんなことを怒鳴ったのか、クラスメイトにはわからない。
「うっかりだの~、巡は」
 ニヤニヤと巡をつつくかぼ。
 ――誰のせいだと思ってる!!!
 巡は肩を震わせた。

 もう絶対に学校になんて連れて来ない。
 巡はかたく心に誓った。
 誓ったところで勝手についてきてしまうのだから、どうしようもないのだが。





==椎名の呟き==
ユスラウメって、私の子供の頃はユスラゴって言ってましたけどね。

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2007.03.23

 結局、週末はかぼの騒動のせいで予習どころの騒ぎではなかった。
 実習のために、図鑑でも眺めて食える草の目星をつけておこうとか思っていたのだが、出かける先にかぼがついて来て、あれこれとのべつまくなし話を始めるから、調査にならない。
 せっかくだからとかぼに野草について訊ねてみても、結果は芳しくなかった。かぼいわく、いくら彼女でも超自然的に様々なことを知っている訳ではなく、あくまで知識としては人生の先輩程度だ、ということだ。
 つまりが、野草についてはほとんど知らないらしい。

 まったく、おかしなものに取り憑かれてしまった。


 月曜日、実習となるのは3~4時限目。
「名簿順で班分けするぞー」
 授業の合間の休み時間の後、再び教室に入ってきた担任、朝比奈がやたらはりきって声を上げた瞬間。

「なんだ。行き当たりばったり食用植物を探す授業なのか。こんな時ばかり予習をするなんて、メグはズルっこだの」

「!!!!!!!!」
 自分の席に座っていた巡の真横に、かぼがいた。

 ガタン!!

 思いっきり立ち上がってしまう巡。
「静かにしとけ、メグ。心配せんでも、他の者にわちの姿は見えておらんよ。だがぬしがわちを、ここにいる者として扱えば、他の者にも見えてしまうぞ」
「~~~~!!」
「おいおい成瀬。どうしたあ?」
 急に立ち上がった巡に、朝比奈が呆れたように声をかける。クラスメイトも何事かと巡を見るが、確かに誰もかぼの存在に気付いていない。ように見える。
「……あ」
 引っ込みがつかなくて、巡は逡巡する。
「あの……トイレ」
 ドッと教室が沸いた。
「そりゃあ外に出る前にはトイレタイム取るつもりだけどな。今すぐか?」
 むしろ休み時間に行っておけと言わんばかりだ。実際その通りだが。
「が、ガマンできません!!」
 教室中から笑いが起こる。なんで自分がこんな目に。
 行って来いよと笑う担任を尻目に、巡は脱兎のごとく教室から逃げ出した。もちろん、その後にはかぼもついてくる。

「ついてくるなって言っただろ!!」
 授業中、誰もいない男子トイレの中で、巡はかぼに怒鳴りつける。いくら人がいないとはいえ、あまり大声を出すのはどうかと思うが、巡にそんなことを考える余裕はない。
「学校とやらを見てみたかっただけだ。ケチケチするな。さっきも言ったが、他の人間にかぼは見えておらんよ。ただ、メグがかぼに話しかけたりすれば、その場にいる皆に発見されてしまうだろうがの」
「どういう意味だ?」
 かぼは、どこで憶えたのかビシっと人差し指を立てる。
「わちらはぬしのように逢魔の力のない者にはまず姿から見えない。だが、見えにくい、というだけで、そこに存在するのは確かだ。ぬしにはわちが見えているだろ? だからな、ぬしが皆の前でかぼと話をしたとすると、皆そこに何かがいるものだと認識する。そうやって意識をされれば、ほとんどの人間にわちの姿は見えてしまうのだよ」
 もともと魔物を認識する力のある者には、その姿は視覚として捉えられる。だが、その力のない者でも、そこに誰かがいるのだと脳に情報を送って意識すると、見えてしまうものらしい。特に、これからの時期は。
 実に不安定な存在だ。
 それはともかく。
「だったらボロが出ないうちに帰れ!!」
 巡は怒鳴るが、かぼはどこ吹く風。
「いいじゃないか~。ボロを出すも出さないもメグ次第だぞ? わちのことは知らん振りを決め込めば良いだけの話だ」
 帰る気はさらさらないらしい。
 ここで長く話をしていても、何事かと疑いをかけられるだけだ。
「~~~~~~~……」
 問答していても仕方がない。というか、多分お話にならない。
「絶対、へんなちょっかいかけるなよ……」
 それだけ言うと、かぼは任せろとばかりに胸を張った。

 何というか……先が思いやられる。





==椎名の呟き==
我ながら、魔物の定義が面倒くさい……。いつもこんなことばかり言ってますがw

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2007.03.22

 ブラブラと道を歩く巡の後を、かぼはトコトコとついてくる。
 悶々とした体の巡とは正反対に、かぼの表情は呑気なものだ。何気に楽しそうでもある。
 昨日の夕方からの騒動のせいで、巡は夜もまともに寝付けなかったというのに、かぼの方は人間ではないと自称している割に、まさに爆睡状態だった。もっとも、最初に出会った時も幸せそうに眠り込んでいたのだけど。

「大体、なんでお前はあんな木の上に絡み付いてたんだ」
 後ろにいるかぼを振り返ると、彼女はキョトンと巡を見返した。
「別に、騒ぎが少なくて寝心地の良さそうなところを選んだだけだ? 何しろなあ、わちが眠りに就いたのは、これから生の刻が来るという時期だったからの」
「何の関係がある」
 なんだ、そんなこともわからんのか、とかぼはまた何かを悟ったような表情になる。わからないもなにも、巡にとっては魔物などという存在に出会ったのさえ初めてなのだから、その何たるかだってわかりようがない。
「生の刻が来て魔物の力が弱まるとはいえ、全ての人間に魔物が発見されないというわけではないからな。もしも生の刻にわちらが発見されて、それで騒動が起こったとしたら、人間の持つわちらに対する負の感情に勝てないからの」
 うっかりすれば、そのマイナスのパワーにかき消される魔物も出てくる。だから魔の刻に属する者たちは、生の刻には皆一様にその姿を隠そうとするのだ、とかぼは語った。
「それにわちらは、生の刻の住人を脅かさないように、気を遣ったりもしていたのだぞ~、これでも。急に見知らぬ物体が出てきたりしたら、人間は驚くだろ」
 それをやってくれたではないか、昨日。それとも魔の刻になるのだから、もう解禁という訳か。
「かぼは、千年間眠りっぱなしだったって訳か?」
「いやあ~、たまには目を覚ますがの。メグと会う前に目覚めたのは、うん、百年ほど前に一度……かの? そうやって永いこと眠って待つしかなかった身なのだからな、少しは労われ」
 と言われても、どのように労わればいいのか巡にはさっぱりわからない。
「む」
 急にかぼが、表情を険しくした。
「なんだよ」
「これは……この匂いは」
 これまでにない俊敏さで、かぼはグルリとかぶりを振った。
「あそこに見えるアレは」
 かぼの視線の先にあるのは、成瀬家御用達の天笠和菓子店だ。
「あれに見えるはもしや、しゅーくりーむというヤツではないか!?」
 かぼが、店頭に山積みに陳列されているビシッと商品を指差した。
 本当だ。巡はいぶかしげな顔をする。なんだって天笠、和菓子店のくせに洋菓子にまで手を出しているのか。
「しゅーくりーむとなーーーっ!!」
 かぼは、加速装置起動と言わんばかりの瞬発力で駆け出した。
 が。

 ドタ――――――ン。

 景気良く、前のめりに転ぶ。
 由美香にはかせてもらったフリルのワンピースのスカートがめくれ上がって、またもかぼちゃぱんつが丸出しになった。
 しかし屋根まで跳躍可能なこの幼女、なぜ普通に路上でコケるのか。狙っているのか。
「メグ……わちの……わちのことはいいから……早くぬしはしゅーくりーむを……」
「シュークリームは逃げないけどな。なんで僕がお前にシュークリームを買ってやらなきゃならないんだ」
 路上に倒れたままのかぼを、巡は冷たい視線で見下ろす。
「なんてケチんぼなんだ……」
「ていうかお前、最後に目覚めたのが百年前って嘘だろ」
 ギクリと、かぼが硬直した。
 シュークリームという存在を知っているあたり、結構最近外をウロついていたんじゃないのかと巡は想像する。
 かぼは、ははは、と乾いた笑いを洩らした。
「いや、そうだの、オホン。訂正するなら、メグの前に最後に人間と会話したのが百年前かの……多分、おそらくは……」
 まったく。
 巡はため息を洩らす。
 別に隠すようなことでもないのに、と思わなくもない。そうまでして人の同情を引きたい訳か?
 それにしても、殆ど眠って過ごしたと言う割に、あまりジェネレーションギャップを感じないということに、巡は今気付いた。
「なんでお前、それなりにこの世界に馴染んでるんだ? 全然生きてた時代が違うんじゃないか?」
 生きてた、という言葉が合っているかどうかはともかくとして。
「そりゃあ、わちらはいわゆる物の怪というか物の化だからの。世界の変動は、眠っていても勝手に吸収してしまうのだよ。だから世界への適応は早い」
 偉そうに語るが、とりあえずは起き上がってくれないものか。
「物の化?」
 かぼは、ようやく起き上がった。
 本人はまったく無頓着そうなので、巡は仕方なく身体についた砂を払ってやる。放っておいたら、通りすがりの人にどう思われるかわからない。
「魔物にも色々あるがの。最も多いわちらのような魔物は、いわゆるこの世界の物質が転じて魂を持った存在だ」
 木とか、火とか水とか石とか。人間が作った物から生まれる者もいる。
「人の言う座敷童子とかな。あれは家に憑く霊のように言われることもあるが、要は家から生まれた物の化だ。そういう、物質が転じて意志を持つようになった物の化は、世の情報を感知するのも得意なのだよ。もっとも、感知したくない変化さえも、取り入れなければならない例もあるが」
「なんだよ、それ」
「そのうちわかるだろう」
 ニヤリと笑ったかぼは、あらためて和菓子店を見やる。
「ぬしが植物採集に行きたいというから、こうして付き合ってやってるのだぞ。褒美のひとつも寄越してくれても良さそうなものだがの」
 こんな時ばかり子供らしい仕草で、かぼは指をくわえる。
 ひとりで出かけようとしていたのに勝手について来られた巡にしてみれば、不本意極まりない言い分だ。というか思い出した。週明けにある実習のために、巡は近所の雑草を観察に来たのだった。
「そうだ。こんなことをしてる場合じゃない」
 巡はさっさと歩き出した。
「メ~グ~」
「うるさいな。そんなに欲しければ、お前に甘い母さんにでも買ってもらえばいいだろ」
 歩みを止めない巡に、かぼは仕方なく再びトコトコと追いついて歩き出す。
「親睦を深めるために、二人でしゅーくりーむを食べたかったのにの~」
 そういうことは、自分で金を払って買ってから言ってくれ。
「メグはかぼに冷たいの。なんでだ?」
「常識で考えてくれ」
 普通、急に現れた得体の知れない者にたやすく心を許す人間は少ない。巡の家族が変わっているだけだ。だが、この魔物に常識などという言葉が通じるはずもないということを、巡はそれを口に出してから思い出した。
「今度の逢魔が時は……人間も魔物も苦労しそうだの」
 かぼはボソリと呟く。

 それはおそらく、頑なな人間のせいで。
 でもだからって。

 こんな時代が来ることへの覚悟なんて――少しも出来て、いないのに。





==椎名の呟き==
物の化という言葉は椎名の造語です。
でもって、座敷童子とか、物の怪の定義なんかも、ここでしか通用しないデタラメを含みますので、そこはご了承くださいませね!

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2007.03.20
 食ってる。本当に食ってるよ。

 結局夕食の時間になってもかぼを追い出すことが出来ず、巡は複雑な面持ちで一家の団らんの中にいた。
 初対面で居候を申し出る方もアレだが、本当に夕飯まで用意する由美香もナニだ。それとも、今日一日のお泊りごっことでも思っているのか。初対面の幼女なのに?
「最近の食べ物はよくわからんの。このやたら乳臭いトロトロしたのはなんだ?」
 かぼは、まるで生まれたときからの家族のように、躊躇も遠慮もなく夕食を楽しんでいる。
「それはシチューよ。食べたこと無い? おいしい?」
「初めてだが、これは美味いぞ、母上。もっともわちは、基本的に人間の食べ物であれば好き嫌いはないがの」
 なんでこの面々は、普通に会話が成り立っているのか。居候騒動を冗談だと思っているにしても、あまりにもノリが良すぎる。
「かぼちゃんって~、人間じゃないって、じゃあ犬? それとも猫なのかな」
 芽衣ですら、こんな調子だ。
 大体、人間じゃないとなれば犬か猫しか思いつかないのか、この姉は。
「犬も猫もマネ事くらいはできるが、あやつらと同じ飯を食わされるのはかなわんぞお~」
 かぼは、何気にオヤジっぽい。
 それにしても、巡のように決定的場面を見たわけでもないのに、母も姉もかぼの「人間じゃない」発言を、怪しがりもせずに受け止めているあたりが、巡には理解できない。信用しているいないはともかくとして、そんなおかしな発言をする少女を苦もなく受け入れているなんて。

 夕食後、巡はかぼを自分の部屋に押し込んで、夕食後の洗い物に精を出す由美香に詰め寄った。
「知らないヤツに夕飯まで作ってやるなんて、無用心だろ。人間じゃないなんて言葉、本当に信じてるの?」
 だとしても、そんな正体不明なものと一緒にいて平気な顔をしているなんて、巡には母や姉の感覚が、まったく理解できない。もしこの場に、今は単身赴任で留守にしている父がいたら、どう思うだろう。
 由美香はそんな巡にニッコリと微笑んでみせた。
「じゃあ~」
 あまりにも、のんびりとした口調。
「メグがちゃんと、おうちに送り届けてあげればいいじゃない」
 もっともな意見だが、それを出来れば苦労はない。が、由美香は無言のままの巡に、お構い無しに続けた。
「それが、できないんでしょ?」
 ギクリ。
「ご家族のもとに帰してあげられない事情があるんでしょう? それが出来るようならとっくにしているんじゃない? だとすれば、あの子には家に帰れない事情があるってことよね。例えば、本当に帰る家がないとか」
 もしもまったく知らない子にいきなりまとわり付かれているのなら、それを家に上げるような息子でないことを、由美香はよく理解している。何しろ母親なのだから。
「人間じゃないとか~、そういうこと、あの子が言った時だって、あなたはあんなにうろたえないわよね。それが冗談なのなら」
 ぼんやりしているように見える母親、これできっちり、巡のことを観察している。
「あなた、否定しなかったじゃない。お母さんは~、それがどれだけありえないことでも、バカバカしく思えることでも、息子のことは信じるわよ。世界中が信じてくれなくてもね」
 寛大すぎる母親だ。
 これほどに無心に、自分の息子のことを信じきることができるなんて。それともまさか、巡のわからないところで別の計算でもあるとか。でもそんな計算があったとして、それが何であるのか、それによって母にとって何か有益なことがあるのか、さっぱりわからない。
 多分本当に、息子を信じているのだろう。
 ここに魔物がいると息子が言うのなら、それさえも。
「じゃあ一応確認するけど、かぼちゃんをうちに置いておくとして、それで困る人が、どこかにいるかしら? 何か社会的に問題が生じる?」
 巡は、首を横に振るしかない。
 正直、かぼのことは何も知らない。知らないけれど、かぼの言うことを鵜呑みにするとすれば、彼女は現在天涯孤独で身寄りのない魔物だ。むしろ彼女の言うとおり、うちに居候させたとすれば、彼女が喜ぶ。それだけだ。
 魔物をうちに住まわせて、何か別の問題が起きるとしても、それは今の巡には想像だにできないことで。
「ならいいじゃない?」
「母さん!」
「かぼちゃんのことは、後でゆっくりと知っていくからいいわよ。それでもしも何か問題が起きたとして、お母さんは巡のせいになんかしないから大丈夫」
 それは充分すぎるほどわかっている。わかってはいるが、そういう問題だろうか。
「女の子の家族が増えるなんて、素敵じゃない」
 結局そこか!
 すでに女二人男ひとりの三人家族の中にあって、さらに女が増えるのか。
 第一、ご近所にはどう説明するつもりなのだろう。

「とにかく、あの子に帰る場所がないのなら、うちに置いてあげなさいな」
 巡には、返す言葉がない。
 母の発言は、この家の中において最大権力なのだ。
 そしてだからこそ、家族のためにならないようなことは、決してしない母でもある。

 でもあの子をなあ……。
 ここでも巡は、ただため息をつくしかなかった。





==椎名の呟き==
母はともかく、じゃあ姉は一体どういうつもりなのか。
本当に犬猫と思っている可能性が高いです。

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2007.03.18

 冗談だよ、と言ってくれる人間の代わりに、おやつを持った由美香が入ってきた。
「おまたせ~。天笠さんのとこの羊羹で良かった?」
 近所の天笠和菓子店は成瀬家の馴染みだ。にしても母、チョイスが渋すぎる。対して飲み物がアイスレモンティーというあたりが、何が何だか。
 由美香は持ってきたトレーを一度巡の勉強机に置くと、壁際に立てかけてあったローテーブルをいそいそと部屋の中央に設える。
「かわいいのね~。お嬢ちゃん、お名前は?」
 ニコニコと笑う由美香に、少女もニコニコと笑い返す。
 そしてクルリと、巡に向き直って囁いた。
「わちの名前、何がいいのかの」
「!!?」
「わち、特に名前など持っておらんでの。ぬし、適当に決めてくれ」
 なんだって!?
「そんなこと急に言われたって、無理に決まってるだろ!」
 あくまでボソボソと。何かを囁きあう二人を、由美香はニコニコと見守る。
「ほれほれ、早く決めんと、母に疑われてしまうぞ。人間には普通名前があるモノだからの。わちが人間でないなどと、どう説明する気かの」
「~~~~!!」
 友達として家に上がりこんだからには、名前くらい聞かれるのは当然かもしれないが、巡はそこまで考えていなかった。というか、相手に名前がないなどと、思いつきもしなかった。
 でも名前って。
 名前……。
 ……名前……。

「……………………かぼ」

 ようやく出た一言に、少女はくるりと由美香に向き直って笑った。
「かぼだ」
「かぼちゃん? 可愛らしい名前ね~」
 そうか?
「どこの子なの? この辺じゃ見ないわよね。最近引っ越してきたとか。こんな夕方までお出かけしてて大丈夫なの? おうちの方、心配してない?」
 由美香、母パワー炸裂。
 悪びれずに質問攻めにする由美香に、かぼはひたすら笑顔で対応した。
「家も家人もないから大丈夫だ。わちはずっと雑木林で木にぶら下がっていたからの~。おかげで衣食住にも困る勢いでな。良ければここに住まわせてもらっても全然かまわんのだが」
 おいおいおい!
 母親にバラしたくないんだろなんて脅しておいて、台無しじゃないか!!
 相変わらず、巡の叫びは声にならない。
「あらまあ……大変なのねえ」
「母さん!!」
「まあ別に、わちは人間と違って飲み食いせんでもちーとも困らんのだがの、やはり潤いは欲しいではないか」
 そうねそうねと、由美香は頷く。わかっているのか、この母親は。
「永い間寂しい思いをしてきたというのにの~、この男は、すこぶるわちを邪険に扱うのだよ、母上」
「まあ……ごめんなさいね、私の教育、何か間違ってたかしら」
 間違っているのはこれまでの教育ではなく、母自身の感覚ではないか。
「わちが人間ではないからと言っての~。人間でなくたって、犬でも猫でもクンクンにゃーにゃーと鳴いていたら、つい連れ帰ってしまうのが、健全な子供の精神というものではないかのお?」
「ああ、そうね、そうよね。でもゴメンね、私、子供たちが一度カモを拾ってきた時に、元の場所に戻して来なさいって怒っちゃったことがあったのよ~」
 数年前、それで巡は大泣きした。美しいというか、今となっては少々恥ずかしい思い出だ。
「カモは野生だでな。その判断は正しいよ、母上。だがわちは渡り鳥ではないのにの~」
 少女の言を素直に受けるなら彼女は野生ではないらしい。
「そうよね~。いいわよかぼちゃん。いくらでも我が家にいてちょうだい!!」
「母さん!! 何言ってんだよ!!」
「だってかわいそうじゃない。人間じゃないんなら別に大丈夫でしょ。養子縁組とかの必要もないんだし」
 母、あなたの脳はブラマンジェなのか。
 全部冗談だとでも思っているのだろうか。いやそうなんだろう。だが、ここで母が冗談のつもりで了解してしまえば、本当にこの魔物はここに住み着いてしまう。ような気がする。
「じゃあ今日からご飯はひとり分余計に作らないとね。腕が鳴るわ~。楽しみにしててね!!」
 由美香は上機嫌で、部屋を出て行った。
 一体どういうつもりか。母もこの少女も。
 本当にこいつがここに住みついたら、母はどんな反応をするのかと、巡はただただ頭を抱える。
「ものわかりの良い母上だの。とてもぬしの母とは思えん」
「冗談だと思ってるだけだ!!」
 多分、きっと。
「そうかの?」
 そんな巡に、少女はただ笑う。何気に余裕の笑みだ。
「ところで~。『かぼ』か、なかなか良い名前ではないか。良く思いついたの」
「考えに考え抜いた、お前にぴったりの名前だ。可愛いだろう」
 半ばやけくそになって、巡は返す。台詞に反して、その表情は大変に険悪だ。
「可愛いか、そうだの。かぼか、かぼ……。うん、可愛い名前だの」
 否。
 巡はこの少女を初めて目にした時に、最初に視覚で認識したものを、その口上に乗せてしまっただけだ。
 すなわち、巡の眼前に広がった「かぼちゃぱんつ」を。
 名前の由来がかぼぱんであることなど知る由もない少女は、自分についた名前にご満悦だ。

 聞きたいことなんてまだ山ほどあるのに。
 前途の多難を感じて、巡は深い深いため息をついた。





==椎名の呟き==
やっと少女の名前が出てきました。というかつきました。
これまで何度、「少女」や「幼女」の部分を「かぼ」と打ちかけたことか……w

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2007.03.17

 だけど人間じゃないって。
 人間にしか見えないのに、人間じゃないってどういうことだ?
 かといって、犬や猫みたいな動物だの、昆虫だのという訳でもない。

 少なくとも今はっきりわかるのは、巡にとって今まで見たことも会ったこともない種類の『人間じゃないもの』ということだ。
「人間じゃないって、魔物とかって、じゃあなんでそんなのが急に僕の目の前に出てくるんだ!」
 混乱する巡に、少女はニヤニヤと笑いながら答える。
「だからそれを説明してやろうというのに、ぬしが逃げるから余計な手間になるんだろうが」
「だけど!」
 当然の反応だ。そう言い返そうとした瞬間、玄関のドアがガチャリと開いた。

「巡なの? なあに? 家の前で騒いだりして」

 ひょっこりと顔を出したのは、巡の母、由美香(ゆみか)だ。
「母さん」
「んん? メグのお友達?」
 巡と(一方的に)言い争っていた少女を見とめて、由美香はキョトンとその少女を眺める。
「違……」
「そうだ、お友達だ。なんだ、ぬしの母親かの。これはまたぷりてぃーなおなごだの~」
 おなごという言葉でいいのか、少女よ。しかし「ぷりてぃー」とか言われた由美香の方は、あからさまに喜色満面になる。
「正直ないい子ね~。メグったら、こんなところで立ち話してないで、さっさと家に入りなさいよ」
 巡は頭を抱える。
 少しは疑ってくれないか、母親。こんな歳の離れた友人を見たことなんてないだろう。その辺で出会った子と、速攻打ち解ける性格でもないのだって知ってるだろうに。
 得意気に『お友達』だと、巡の足に腕を回す少女を振り払いにかかっていると、玄関で別の気配が動いた。
「メグ、帰ってきたの?」
 うわ。巡はげんなりとした顔になる。
 母の背後から顔を出したのは、姉の芽衣だ。別に姉を嫌っている訳ではないが、さらにこの場の混乱を増幅させそうな存在ではある。
「メグってば、私よりも先に帰っちゃって、どうしてこんなに遅くなるのぉ~? ……あら」
 ブンブンと足を振る巡に引っ付いている少女を、ぼんやりと眺める。
「もしかして、デートだった?」
 バカをいうな!!!
 心なしか寂しそうな表情を浮かべる姉。
 誤解だ寂しがるな!! いや、そうじゃなく!!
「部屋に行く!!」
 これ以上4人でやいやいと言い合っても仕方がない。そうでなくとも騒がしい家族がここに二人もいるのでは、とてもお話し合いなんて出来る訳がない。
 そもそもなんでお話し合いなんてしなければならないのか、その点が巡には本当に謎だったが、直面してしまった出来事は、解決しなければどうしようもない。
「おやつないからぁ~、買って来たらお茶持って行くからね~」
 少女を引きずって玄関を通過し、二階にある自室に向かう巡に、由美香が声をかける。が、巡はそれに返事もせずに、ズンズンと階上を目指した。

 自室に滑り込み、バタンと勢い良くドアを閉める。

「最近の家はでっかいの~。それに木の匂いはするのに、少しも姿が見えないではないか」
 巡の家は、木造二階建てだ。けれど確かに、目に見える場所にあからさまに発見できる木材はない。この家から木の匂い、とやらを感じるこの少女は、一体何なのか。
「お前、一体何なんだ。なんで僕をつけ狙う?」
「人聞きの悪い……」
 詰め寄る巡に、少女は呆れた顔を見せながらも、トコトコと部屋の奥にあるベッドに向かう。そこにボスンと跳ね上がって腰掛けた。どうやらそこが一番居心地が良さそうだと狙いを付けたらしい。
「わちがぬしと会ったのは、別にわちが狙ったからではないよ。むしろ、原因はぬしの方にあるんだがの」
「何だよ、それ」
「ぬしがわちを発見したのは、ぬしが持つ『逢魔』の力ゆえだ」
「逢魔?」
 巡は、オウム返しに聞き返すことしか出来ない。
「わちが人間ではないということは理解できただろう。そこから話を進めるがな。この世界は、千年ごとに時代を変えて、ふたつの存在の安定を保ってきたのだよ」
 生の刻と、魔の刻。少女はふたつの時代をそう称した。
「生の刻とは、ぬし等のような命ある者たちの繁栄の時代を差す。そして魔の刻とは、わちらのような器や命を持たず、魂だけを持つ存在の繁栄期のことだ」
 命が無く魂だけ、というのが、巡には言葉だけでは理解できない。だって普通に動いてしゃべってるじゃないか。
「まあ疑問もあろうが、大筋だけは最初に理解してくれ。つまり、これまで千年の間続いた生の刻が終わりを告げ、これからは魔の刻に移行する、その移り変わりの時代なのだよ、今は」
 生の刻においては、少女のような『魔物』と称される存在は、力が弱まり、ひっそりと姿を隠す。対してこれから来る魔の刻においては、その立場は逆転する。
 少女は、そう解説した。
「なんだそれ。じゃあ、これからの千年は、人間は消え去るとでも言うつもりか?」
 バカバカしいにも程がある。
 が、少女はそんな巡の言葉には、首を横に振った。
「生きている者というのは、魂だけのわちらとは存在する力自体が違うからの。世にはばかる生命力を持っているから、消えてしまうことはないよ。ただこれからは、魔物と呼ばれる存在の力が強まる。それらを実際に目にする人間も多くなるだろうよ。少なくとも、人間と同じくらいの数はいるであろう魔物が、徐々に目を覚ましだす。そしてそれらが世界を闊歩し出す。まあ、時代の影響で生きている者の数は少しは減るかもしれんな。これからの千年は、そんな時代だ」
 まあ良いではないか、と、少女は高笑いする。
「どうせぬしが生きているのは、せいぜい移行の期間だけではないか。その後の世界など、どうでも良かろうよ」
「……移行?」
 うむ、と少女は頷く。
「生の刻から魔の刻までの移行。これにはきっと百年くらいはかかる。本格的な魔の刻を迎える頃には、今この世に生きている人間の殆どは、残っておらんだろうよ」
 それはそうかもしれないけど。
 実際に、百年後の世界のことなんて考えたってピンとこないけど、だからといって「そんな未来の話なら、まあいいや~」と笑い飛ばせる訳はない。だって今自分は、人間の危機を宣告されているのではないか?
「なんでそんなことが起こらなきゃいけないんだ」
 食って掛かりそうな勢いの巡に、少女はプゥ、と膨れてみせる。
「わちに怒るな。そういう仕組みなのは、どうしようもなかろ。結局人間は自分本位だの。わちらは千年間もずっとこの時代を待っておったのだぞ。わちらの存在を隅に追いやって、記憶からも外してしまったのは人間の勝手ではないか。わちらはこの世に存在すらしてはならんということか?」
 そういうわけでは、ないけれど。
「昔から人間というのは、他の存在を許さなかったな。人間以外の生物の方が、人間より知能は少ないが、まだ友好的だったの。人間は己が世界の王者とでもいうような顔をして、少し異なるものは徹底的に排除しようとする。そんな強い精神を持つ者が力を持つ生の刻では、魔物など殆どこの世に姿を残すことなどできん。ずっとわちらは、目に見えぬ存在となって眠って待つことくらいしか出来んかったわな」
 だってそんな存在、自分はこれまでこれっぽっちも知らなくて。いや、知ってはいたけど、現実にあるものだなんて思いもしなくて。記憶していないことを人間自身のせいだと言われても、巡には素直に納得することが出来ない。
「これから増えるだろうが、まだ逢魔の力を持った人間は少ない。だが、いち早く時代の移り変わりを自覚できるぬしは幸運ではないか。しかも優し~いわちが、いちいち言葉で説明してやっているのだぞ」
 ありがたがれとでも言うつもりか。
 大体、巡には逢魔の力というのが何なのかわからない。
「わちらの様な存在は、生ある者には視覚で捉えにくい。そんなわちらを認識する力を『逢魔の力』というのだ。今は数が少ないが、これから世界が魔物を受け入れる体勢になれば、その力を持つ者も増えてくるだろうよ。それは生ある者が力を増すからではなく、わちらの存在が強くなって、認識しやすくなるからだが。ぬしはつまり、生ある者の中でも敏感な方だったと、そういう訳だな」

「……」
 一度に沢山の説明をされて、巡は混乱の渦の中にいた。
 即座に理解しろと言われても難しい。
「まあいい。本題はこれからだ。わちがどうしてもすぐにぬしに説明をしたかった訳はな、今後ぬしが困る事態に陥るだろうなと思ったからでな」
 そう言う割に、少女は悪びれもない様子でニヤニヤと笑っている。この少女、この表情がニュートラルなのだろうか。
「いちどわちという存在と接触したからにはな、ぬしはこれから次から次へと生無き者と出会うことになるだろうな」
「!?」
「一度開いた力のフタは、二度と閉まらんのだよ。覚悟しておくと良いぞ」
 覚悟と言われても!
 巡は唖然とする。
「そんなバカな話があるか!!」
「認めよ。そう深く考えることもない。わちのような、ちょっと人間とは違った存在との出会いがあるだけだ。賑やかになるな~くらいに思えば良いじゃないか。なんなら知り合いを紹介してやっても良いぞ」

 巡はめまいを覚えた。
 なんだ、この変な世界は。ここは本当に、自分がこれまで普通に生活していた空間なのか。
 考えれば考えるほど、混乱の渦に嵌まっていく。
 本当にこの幼女が人間ではないのかとか、そういうことさえ、どんどんわからなくなっていく。

 誰かが出てきて「冗談だよ」と言ってくれるのを、切に願った。
 もちろんそれは、叶うことはなかったけれど。





==椎名の呟き==
幼女の台詞、長いな……。
話も長い。切りどころが見つかりませんでした~。

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2007.03.16

 言っている意味がわからない。
 そう呟いた巡に、少女はやれやれと苦笑しつつ左右に首を振った。
「物わかりが悪いの~」
 その言葉に、いささかムッとする巡。
「人間じゃないって言うなら何なんだ」
 どこからどう見ても人間にしか見えないじゃないか。まあちょっと運動能力が高かったり、木にぶら下がったりはしていたけど。
 少女は、一瞬フッと遠くを見るような目を見せる。こういう見た目に似合わない大人びた仕草も、巡のカンに障るのだ。
「さあ、何なんだろな。人間にはよく、魔物だの鬼だのと言われておったがの」
 これのどこが魔物だ。それに、鬼なら角でも生えていそうなものだ。
 巡は、ごくごく一般的に魔物だの鬼だのと呼ばれる架空の姿を思い描いた。もっとも、魔物とひと括りにしてしまうと、それは曖昧すぎて良くわからない。けど少なくとも、魔物というのは恐ろしく人とは違う姿をしているものではないか。
「ああ、妖怪とも言われたな。わちは、遺伝子を継承してこの世に『生きる』存在ではないからの。生きてもいないし死ぬことも出来ん。そんな存在だ」

 つきあってられない。

 バカにするのも大概にしろ。
 魔物だの生きてないだの、意味不明な言動を臆面も無く言い募る少女に、巡、正直キレた。
「バカバカしい。僕は帰る」
 クルリと振り返って、歩き出す。
「そうだの。立ち話もナンだし、ぬしの住処へ連れて行け」
「冗談じゃない!!」
 巡は大人気なく(大人ではないが)、マジで少女を睨みつけた。絶対にそれは許さないと、その表情が語っている。あれだけ全力で走る巡に取り付いてきた少女だ。本気で家まで来る気なのだとしたら、それを止める対策は無いように思える。
「わちの話は聞いておいた方がいいと思うがの~」
「聞きたくない!」
 何が一番苦手って、話の通じない相手が一番苦手だ。
 巡はここに来て痛感する。今までそういう相手に出会ったことが無かった。否と申し立ててもスルリとかわされてしまうような経験など無いのだ。いやもちろん、違う、嫌だと思うことを聞き入れてもらえなかったことは何度だってあるが、それにはちゃんと、それなりの理由というものがある。今回相手にしている少女は、そういうケースからはかけ離れているのだ。
 何を言っても、のれんに手押し。
 もしもちゃんとした理由があるのだとしても。
 それは今、巡の理解の範疇外だ。

 結局巡は、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
 再び追いつかれてしまうのかもしれないが、今の巡には、他の方法を思いつくことが出来ない。

「仕方のない奴だの……」
 その場に立ち尽くしたままの少女は、その場から巡を追いかけるでもなく、ただ走り去る彼の姿を見送っていた。


 何なんだ、あの幼児は。
 巡がそう思ったのは、今日何度目だろう。
 家に駆け戻る間にも、時折ちょっと道を変えてみたりして、何度も振り返ったり辺りを見回したりした。自分の背後にも気を遣う。また気付かないうちに背中にぶら下がっているかもしれない。
 そんなこんなしながら、いつもの倍以上疲労して、巡は家の前までたどり着いた。
 あがった息を整えながら、何かの気配がないか、キョロキョロと家の周りを見回す。そして大きく振り返って、背後も確認した。誰もいないことを確認して、家の小さな門へと向き直った。
「ここがぬしの家かの」
「!!!!!!」
 目の前に、少女がいた。
「どッ……」
 どうしてとか、どうやって、と言いたかったのかもしれない。けれど動転した巡の口からそれらの言葉は出てこなかった。
「一度話をした人間の気配を追うのは簡単だ。それにわちはぬしらのように確たる器は持たん存在だからな。重力の束縛から逃れることも可能だし、形を変えることだってできなくはないのだぞ」
 ぬしは今いち信じられんようだからの、と、少女は勢いをつけることも無く、その場からヒョイと小さな門の上に飛び乗った。姿勢を崩しもせず、スッと飛び上がって音も無く、狭い門構えの上に揃えた両足で立ったのだから、それは尋常な能力ではない。
 驚愕で目を見開く巡を尻目に、さらに少女はストンとその足場を蹴った。
 一瞬後には、巡の家の玄関の遥か上、屋根の上に、その姿があった。
「な……ッ!!」
「これで、わちが人間でないこと位はわかっただろう?」
 ストーンと、少女は再びこともなげに巡の目の前に飛び降りた。
 驚いて一歩後退した拍子に、巡は体勢を崩して尻餅をついてしまう。

 本格的に、それは幼児に出来ることではない。いや、大人だって、多分。

 人間じゃない、なんてそんなありえない話を、本気で信じざるを得ないなんて。
 巡はぼんやりと座り込んだまま、目の前で胸を張る少女を眺めることしか出来なかった。





==椎名の呟き==
いつまで続く、未知との遭遇。
次回は他の人々も出てきます……w

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2007.03.14

 とりあえず、だ。
 未知との遭遇を果たした巡、思いつく選択肢はふたつあった。
 とにかく少女を枝から下ろしてやるか。もしくは、見なかったことにするか。
 迷わず後者を選びかけた。別に枝に絡まって難儀している訳でもなさそうだし、むしろ幸せそうな顔で眠っているのを、起こすのも申し訳ない。
 そうだ。知ったことではない。

 しかし、微笑む寝顔で逆さ吊りになっていた少女が、うっすらと瞼を開き始めた。

 手遅れだ。逃亡失敗。
 パカンと開ききった大きな瞳は、逃げ腰だった巡の姿をしっかりと捉えていた。

「おお~」
 逆さ吊りの少女。ニヤリと満面の笑みを作った。
「ひさしぶりだのぉ~」
 ひさしぶりと言われても。お前なんか見たことも会ったこともない。
 声にできずに心の中だけで反論する巡にはまるで構わずに、少女は下半身に絡まっていた枝から、実に簡単にスルリと抜け出した。今までずり落ちなかったのが不思議なくらいの滑らかさだ。
 そのままクルンと半回転して、ストンと地上に着地する。
 幼児のクセに器用な。いや、何でも体得するのが早い幼児なら、これ位のことは朝飯前なのか。
 着地した時に巡に背を向ける形になった少女は、元気にクルリと振り返った。
「元気にしていたかの」
 ニコニコと巡を見上げる満面の笑顔。
「誰だ、お前」
 見た通り自分は元気だが、見たこともない幼児に、そんなお伺いを立てられるいわれはない。木の枝に絡まって逆さで熟睡する知り合いなど、いないはずだ。心当たりがない。
「なんだ、冷たいな。……まあそうか、人間はいちいち面倒くさいからの」
 齢10年に満たなそうな幼児、まるでこの世を悟ったような口調だ。
「人間と話をしたのは、実に久しぶりだ。ぬしという個人に会ったのは、初めてかもしれんがの。どうだ。人間は元気かえ?」
「……」
 なんだ、こいつ。
 言動が、かなりヤバいんじゃないか。というか、何かを言われても、それが意味のある言葉として頭の中にまで届かない。
 巡は、ジリ、と足を後退させた。
 こんなおかしなヤツと、係わり合いになるのはマズい気がする。
 巡は、クルリと踵を返すと、物も言わずにその場から駆け出した。見なかったことにするのは手遅れになったが、とりあえず気持ちが逃げを打った。
 走りにくい雑木林だが、全力で逃げれば幼児に追いつかれるはずはない。ここで逃げればもう会うこともないだろう。家や学校の近所というのが少々引っかかるが。

「急に走り出すとは何事だ」
 耳元で、声が聞こえた。
「うわああああ!!」
 幼女が、いつの間にか自分の背中におぶさっている。巡は自然の成り行きで急停止した。
「せっかく会えたのに、話もしてくれんのか。というか、今逃げても困るのはぬしなんだがの」
「お前、誰だ! お前なんか知らない!!」
 どうやって追いついたのか。どうやって走る巡の背中に飛びついたのか。さっぱりわからない。気味が悪い。普通じゃない。
「だーから、ぬし個人と会うのは初めてだとちゃんと言っておるだろ。永い時間を眠って過ごすしかなかったわちを、少しくらい歓迎してくれても良さそうなものだ」
 歓迎しろと言われても。
「お前みたいなおかしなヤツに関わりたい訳ないだろ!」
 自分を背負ったまま怒鳴る巡に、少女はうーんと困った顔を見せる。
「そりゃあ、きちんと話も出来なければ理解のしようもあるまいよ。まだ先駆けのこの時代、ぬしがわちと出会ったのも、その力ゆえの縁なのだからして、話くらいしても損はないと思うぞ」
 言いながらも、少女はフウとやけに大人びたため息をもらす。
「もっとも、いつの世も人間というのは、他のものを受け入れがたい性質をしておるがの~。そうでなければ、いくら魔の刻が過ぎたとはいえ、こんなにわちらが隅に追いやられることもなかったろうに」
 巡には、言っていることが、まるでわからない。
 どこぞのオカルトマニアが喜びそうな単語が聞こえなくもないが、それを普通の小学生である巡が理解するのは難しい。

 ストンと、少女は巡の背から飛び降りて、素早く彼の正面に回った。
「ぬしにもわかりやすいように、結論から言ってやろう」
 相変わらずの、満面の笑顔。しかしこの状況では、つられて笑い返すこともできない。
「わちは、人間ではないよ」

 きた。
 きたきたきた、来ました。
 私は宇宙人ですとか伝説の戦士で世界を救うとか、そういう発言が得意な人種か。もちろん巡はそういった世界に明るいわけではないが、こんな子供がそんな怪しい言動をしてしまうのが、普通ではないこと位はわかる。一体この子親はどういう教育をしているのか。それとも親兄弟が伝説の戦士か。
「世も末だな……」
 つい、呟いてしまった。

「そうだの。生きる者の全盛の世は終わり、これからは魔の刻となる。その移り変わりの時代。今はまさに、逢魔が時、なのだよ」

 巡の言葉を受けて、正体不明の少女がにこやかに答えたらしいが、彼はそれをやけに遠くで聞いている感覚があった。
 結局やっぱり巡には、言葉の意味はさっぱりわからなかった。





==椎名の呟き==
どうもババくさいイメージの強い幼児登場。
主人公もジジくさそうだし、この小説、もしかして平均精神年齢が高いのか。

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2007.03.13

 掃除も済ませて終礼も終わった放課後。
 巡は校庭で活動するサッカークラブの面々を時々横目で見ながら、教室で本を広げていた。

 物静かな文学少年。

 に見えなくもないが、実際に机の上に広げていたのは「山菜・野草」のミニ図鑑だ。

「何だー、お前らまだ残ってたのか? 用事がないならさっさと帰れ」
 教室で無駄話に盛り上がりを見せていたクラスメイト数人は、言いながらのんびり教室に入ってきた担任教師を見とめて、仕方ないとばかりに教室を後にする。
 さよーならー、と間延びした挨拶がお決まりだ。
「で、成瀬。お前はなにやってんの」
 歳若い担任教師に広げていた本を覗き込まれて、成瀬巡(なるせ・めぐる)はパタンとそれを閉じた。
「山菜~?」
 首をひねるような仕草を見せた担任、朝比奈高之(あさひな・たかゆき)は、ああ、と思い出したように屈めていた背筋を伸ばす。
「もしかして、来週の実習のか」
 言われて巡は素直に頷く。
「予習を」
 しゃあしゃあと言い放つ少年に、朝比奈は微妙な苦笑いを返す。
「予習結構だが、それはむしろあんちょこってヤツだろが」
 来週の実習、と朝比奈が言ったのは、週明けにある家庭の授業での実習だ。
 誰にも聞かず頼らずそこいらにある草や木の実を自分の判断で持ち寄り、極力食べられるものは食べる。食せるものが何割あるかというちょっとした実験でもある。
 このおかしな実習案を出したのは、朝比奈本人だ。
 巡の通う私立藤乃木小学校では、授業案は担任に一任されている。一任と言っても、もちろん主任、教頭の検閲は入る訳だが、よほどやる気のない案以外は、するりと通ってしまうゆるい校風だ。良い案に関しては、学年を通して採用されたりもする。
 それなりに自由だが、教師の技量が試される環境でもある。
 もっとも検閲を通ったこの実習、もっと華やかなそれらしい料理を作りたい女子には、大変不評だが。菓子だの洋風料理だのを実習で作りたいお年頃、6年生だ。誰も、食えるんだかそうでもないんだかわからない葉っぱや木の実を煮たり焼いたりしたい訳じゃない。
 将来的に役に立ちそうなことほど、子供たちにはつまらないものなのは、世の定説。

 まあともかく、今回の実習に関して言えば、予習をするというのはつまりカンニング行為にあたるという訳で。
「別に、実習で見たりしないよ」
「そーゆう問題か」
 実習では、最初の一時間を校外での収穫に当て、あとの一時間で調理をする計画になっている。緑の多いこの地域ならではと言えようか。
「まあいいや、お前もさっさと帰れよ」
 授業が終わったら、用事のない者は居残り寄り道せずにまっすぐに帰る。これはまあ普通に学校にありがちなルールだ。
 仕方がないから、巡も読んでいた本を鞄にしまって席を立った。
「先生、さようなら」
「はいさよーなら。下見とか言って寄り道するんじゃねーぞ」
 ぎくり。巡、図星をつかれた。
「夕方ってのは、魔界と現世が繋がる時間帯だって言われるからなー」
 にこやかに言う担任教師に、巡はなんとも微妙な視線を送る。
「怪しいヤツを見る目つきをするな」
 怪しいヤツを見てるんだから仕方がない。
「人の心が狂う、犯罪の起きやすい時間でもあるってこった。変な事件に巻き込まれないように、とっとと帰りなって話。オレはまだマスコミに退路をふさがれたくはねーぞ」
 まだって、いつか未来ならいいんだろうか。ていうか、建前でももう少し自分の生徒を心配する発言は出来ないものか。
 まあ当の巡は、担任のそんな態度など微塵も気にしている風ではない。
「気をつけるよ」
 それだけ言い置いて、巡は鞄を肩からぶら下げて教室を出た。


「メーグー、帰ろ~」
 誰もいなくなった6年1組の教室に、ひょっこりと顔を出した少女がひとり。
 教室にはもちろん、だーれも残っていなかった。
「あれえ? 部活ないから一緒に帰ろうって言っておいたのに……」
 巡のふたつ上の姉、芽衣(めい)だ。
 暇な日を見つけては、わざわざ隣の敷地の中学校から顔を出す、弟大好きブラコン姉。
 完全エスカレーターではないが、小中高と隣接した場所に立つ藤乃木学園グループにおいて、その中学に通う多くの生徒はこの小学校の卒業生だが、卒業して2年も経つのに、勝手知ったる我が校のような顔でほっつき歩くのは、この芽衣くらいのものだ。
 まとめても、すぐに解けてしまいそうなサラサラのストレートヘアを指にクルクル巻きつけながら、芽衣は唇を尖らせる。
「最近メグって冷たいよねえ。寂しいなあ」
 いじける素振りで不満を漏らしてみたところで、他に誰もいないから意味がない。ブラコンに加え、天然だ。
 独り言の多発には気をつけろ。


 そしてそんな姉との約束など、キレイさっぱり忘れている弟、巡の方はというと。
 担任の注意など聞くはずも無く、学校の裏山の雑木林へと足を運んでいた。
 別に、実習にそんなに真面目に取り組みたいという情熱があるわけではないのだが、やはりせっかくむしり取って行くのなら、食べられるものの方がいい。自分の選んだものが食えない部類に分類されるのは、ちょっとシャクに障る。一応彼にも、なけなしのプライドのようなものはあるのだ。ウケ狙いに走れる性格だったなら、世渡りの面で将来有望なのだが。
 夕方とは言っても、夏も間近な6月の放課後は、まだ太陽が眩しい。今日は天気がいいから、ちょっと暑さも感じるが。

 朝比奈の言った、人の心も狂わせがちだという夕暮れ時。
 それを俗に、逢魔が時、と言うのだが。

 今のこの明るさが、そんな怪しげな雰囲気など、まったくと言っていいくらい感じさせない。もう少し日が落ちなければ。雑木林の中はそれなりに薄暗いが、それは夕闇のせいではなくて、単に木々の作る日陰のせいだ。
 一度は鞄にしまった図鑑を取り出しながら歩く。
 腰のあたりの高さにある鞄をあさっていたせいで、目の高さくらいの空間をふさぐ細い木の枝に気付くのが遅れた。
 危ない、とギリギリでかがみこんで、その枝をくぐり抜けた後に背筋を伸ばして。
 次の瞬間、バサリと目の前に降ってきた何かに驚く余裕も無く、巡はその物体にボスンと顔を埋めてしまった。
「ぶっ……」
 柔らかい、枕のような布の感触。
 2秒ほど固まってしまった後で、慌てて半歩退いた。が、目の前にある物体が何なのか、目視できない。
 さらにもう半歩下がってから『それ』をマジマジと眺めた。上から下まで。

 なんだ、これは。

 見たままを言うなら、それは、少女。というか幼女。
 そこいらの幼稚園にでも通っていそうな幼い少女が、絡み合った枝に器用に下半身を支えられて、逆さまにぶら下がっていた。

 ふわふわの長い髪。
 その髪をゆらゆらと揺らしながら、少女は幸せそうな顔で眠っている。ように見えた。逆さ吊り状態で、その顔は微妙に笑っている。
「パンツ丸見え……」
 真っ白な肌着らしきものは、重力にしたがって盛大にめくれ、今時見ないようなふっくらとギャザーの入った下着が丸出しになっていた。

 なんでこんなところに女の子が。
 なんで幸せそうにぶら下がってるんだ。
 大体、いくらちょっと余所見をしていたからって、コレに気付かない訳あるか。ずり下がって来たにしたって、こんなのがそう高くもない木の枝に絡まってたら、もっと早くに気付くはずだ。さっきまで確かにいなかったと思うのに。

 というか自分は今、このパンツに顔面から突っ込んだのか。
 いやパンツはともかく、何が何だかわからない。
 巡の思考の回転は続く。普段よりもかなり多く回しております。
 すべからく変化とは、唐突にやってくる。


 ――これが、巡と『少女』との出逢いだった。





==椎名の呟き==
本日から連載開始『逢魔が時!』でございます。
タイトル見たまんまの、変な物体がうようよ出てきそうな現代ファンタジーです。
ハートフルにコミカルに、を出来れば目指したいと思いますので、よろしければ、またしばらく、お付き合いくださいませ!


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2007.03.11

コーラスブレイドの連載を終えまして、一瞬腑抜けている椎名でございます。
本当は、もっときちんとエピソード化したいこととか、番外編みたいなノリでやりたかったこととか、沢山あったのですけどね。
なにぶん、ほぼ毎日の更新の中では、余計な作業が入る隙間がございませんでした。
連載の中でコーラスも結構頑張った方だと思うのですけど、それを表現するのが難しかったり。
だって彼の一人称なんだもん。
激しい喜怒哀楽で読者感情に訴えるのもままならなかったり。
だって彼の一人称なんだもん。
一人称を担っている主人公が、文章化されているモノローグで熱く語ってたりしたら、やっぱり読み手としては引いてしまうでしょ~。少なくとも、椎名はあまり得意としません。あははは。
そんなこんなで欠陥だらけの物語でしたけど、何とか終わりを迎えることが出来ました。けど、彼らの人生自体は終わってるわけじゃないので、いつかどこかでお目にかかることができればいいんですけどね。
とにかく、ありがとうございました!

それでまあ、すぐに次回作の連載に入ります。

今度は現代ファンタジーになるかと。
てかファンタジー?
そう言っていいのかは謎ですけど、少なくとも、非日常の何かは出てきます。恋愛物や学園物ではないのは確かです。学校は出てくるけど。
主人公は……主人公は、小学生男子……。
ノリはコミカルにしたいと思ってますが、いかんせん主人公が前作のように物事を笑い飛ばすタイプではないので、何かとシリアス展開に偏ったりするかもしれません。
ていうか、単に巻き込まれ体質なだけか。
多少痛かったり辛かったりもあるかもだけど、できれば人生楽しみたいし!
このブログの小説の基本は崩さないつもりです。
んで、短編連載をいくつか繋げた長編、みたいな形をとるんじゃないかと。
違うテーマでいくつか、みたいな。でもどうせ先でひとつにまとまるんでしょうよ。椎名の事ですから。
今度は三人称でいきますので、色々な人物の心理表現もできるかもしれないですね。

とりあえずまた、ご覧になってくださいませ!

2007.03.10

 エルベルンと決着をつけてからのオレがどうなったかというと。
 これが、まったくもって、これまでと変わらない日常の連続だった。

 そりゃあまあ、ね。

 サンレイクを再建するにしたって、一朝一夕で出来る仕事でもないしね。そうなれば、やっぱり普通に働いて生活するしかない訳で、働くしかないオレは、結局ポーラスでハンター稼業を続けている。
 ソルダムが作ってくれた二段ベッドの上から、シイナに叩き落とされて目覚める毎日(下段はシイナに乗っ取られた)。特に働こうとしないシイナは、その代わりに家でのことは良くこなしてくれている。と本人は主張している。オレの仕事が忙しい時は料理も頑張ってくれる彼のおかげで、大分胃が丈夫になった。多少の破壊音も気にならなくなった。慣れって怖い。というか、いい加減お前が家事に慣れろ、シイナ。

 変わったといえば、その仕事の合間にサンレイクに通うようになったってことくらいだろう。いや、くらいとかって言うほど小さい変化でもないか。
 まるで何も残されていないサンレイクの土地を、少しずつ、元の国に戻していけるように、小さなことから始めている。
 多分オレの一生をかけたって、あの頃と同じサンレイクに戻すのは不可能だろう。
 それでも、色々な人たちの協力を得て、サンレイクも人が暮らせるくらいの環境にはなりつつある。
 ハンターギルドのウェルバーさんは、サンレイクとエンデリックを行き来できる船を、オレに用意してくれた。
 サンレイクに行くには、どうしたって船は必要だ。トップクラス魔法師であるシイナなら、その程度の距離はひとっ飛びなんだけど、前に試しに連れて飛んでもらって、死にそうになった。シイナがオレを連れて飛ぶ程度はできなくはないが、連れられるオレが超高速の移動に耐えられないという結果。オレは普通の人間であるからして。それすらフォローできるような力の使い方を研究する、みたいなはりきりを見せてくれるシイナだけど、ちょっともう、あんな思いは御免被りたい。
 にしても、ウェルバーさんの好意に甘えっぱなしなのは、やはり気が引けたのだけど、結果的に世界を救うことになった功績への礼だと、無理やり押し付けるような形で、サンレイクへの航路を確保してくれた。そうまでしてくれているのを断わる手はない。世界を救ったなんて話はピンと来ないけど、せっかくの申し出を頑なに拒むのは、かえって失礼だよな。本当に、ありがたい話だ。国交についても、これから綿密に練り直してくれるそうだし。
 サンレイクの整地に力を尽くしてくれているのはエルフたちだ。
 人間の力では何年もかかりそうな仕事を、彼らは僅かな時間でこなしてくれる。本来エルフたちがこんなケースで力を使うことなんて滅多にないらしいんだけど、サウロいわく。こういう時があるのも、悪くはないんじゃないかと。エルフが表に出て、人間と一緒に協力しながら活動する、そういう国とそういう時代があるのも、それはそれで。歴史の1ページとしては、なかなか面白いと。
 そのおかげで、土と瓦礫と伸び放題の草ばかりだったサンレイクに、高原や牧草地が増えた。そうなればそこに生態系が生まれ、人の手だって加えやすくなる。
 ミリネの趣味で、川沿いには所々花畑があったりもする。精霊石がろ過する湧き水が作る川はすこぶる水質がいいから、そこに魚も暮らし始めるだろう。今は時々アッシェがたゆたっているけど。そうだった。昔は一日釣りで潰してみたい、なんてことも考えてたっけ。サンレイク唯一の美しい川。それもきっと、すぐに昔の姿に戻る。
 そんなサンレイクに、いくつかの小さな家を建ててくれたのは、ソルダム率いる建築家チームだ。いや、建築家じゃないけど。
 ソルダムやディク先生や力の有り余っているハンターたちが、協力し合って、コツコツと作り上げてくれた。
 オレや、他の人間がサンレイクに行く用事があった時に過ごせる家。これがあるから、何日も時間のかかる仕事だってやりやすくなった。それに事実上、家があれば人が暮らすことだって出来る。ちょっとまだ、食には困るかもしれないけどね。

 そのひとつひとつの行程に、オレは少しずつ関わってはいるけど。本当に、皆がいなかったら、こんな風にはならなかった。出来なかった。


 今日も、サンレイクの草地の上に、オレは立つ。
 皆でとり戻した、多くの手が作り上げてくれた、オレの国。
 最近作り始めた畑の管理のために、シイナと一緒に出かけてきた。何だか老後の別荘生活みたいだよな。それにしてはちょっとハードだったりもするけど。

 ポーラスほどの面積しかない小さな島国だけど。何にもないこの国は、こんなにも広かったんだなあ。
 沢山の人間がひしめき合っていたあの頃は、この国がこんなにも広いことに気付かなかった。気付かないくらいに、沢山の人が、ここで暮らしていた。
 次の瞬間に死を迎えることに気付かないまま、消えていった命たち。
 この国の、人々。
 今この国に立つのは、俺とシイナのふたりきり。

 エルベルンとの決着から、2年の時が経った。
 サンレイクが焼き落とされてから5年。最初の3年は、犯人を捜すために。あとの2年は国の再建のために。これまで、ただただ目的のためだけに動き回ってきたけど。
 今、少し心に隙間を空けて、この国を眺めてみれば。
 この国で生まれて散っていった命の形が、見え隠れする。
 彼らの営み。
 そして、それを自分の代で失い、その後をオレに託した当時の王。
 彼の思い。

 大きかったな。ここにあったものは。

 ちょっと泣けてくるよなあ。そろそろ泣いてもいいかなあ。
 ずっとずっと、忘れたみたいに動き回ってきたけどさ。
 てかダメじゃん。隣にシイナいるじゃん。そんな一生話のネタにされそうなこと、できませんて。人を鬼のように言うなとか言われそうだけど。
 別にいいや。泣くのは後でも出来る。
 いつでも出来ることってのは、後回しになりがちだけど。

「なー、シイナ」
「なんだよ」
 この土地にも風が吹く。
 結界の中にあってなお、それは海の匂いのする空気を運んでくる。
「ありがとな。本当に」
 まだきちんと礼を言えるほど、キリなんてついてないのかもしれないけど、それを言ってしまったら、きっと一生キリなんてつかないだろうし。
 何事かと目を見張るシイナに向き直る。
「別に、お前だけのおかげじゃないけどさ。でも、お前と会ってなかったら、何にも始まらなかった」
 あの時、オレの剣を狙うシイナに出会ってなかったら。
 オレは多分、今も何も始められずにいた。
 そして、オレに生きる責任を与えてくれたのもお前だ。お前が、オレという小さな国で生きていくことを決めてくれたから。
 シイナはただ、静かに、愉快そうに笑う。
「礼を言うのはこっちの方だ、なんて、お決まりな台詞はあんまり言いたくないけどな。いいじゃねえか。お互い様でさ。お前がお前の人生を捧げて継いだこの国に、オレたちは迎え入れてもらったんだ」
 シイナだけでなく。
 ソルダムもディク先生も、ケティさんも。それぞれが、2年前のあの時から、自分の国籍を、サンレイクだと名乗り上げるようになっていた。
 オレの国の国民だと、彼らはそう言ってくれる。
 ミリネやサウロも、多くの時間をサンレイクで過ごしてくれている。
「天涯孤独な連中を、お前が受け入れてくれたんだろ。小さなお前の国の、最初の国民たちはさ、まるで家族みたいじゃないか。コーラス、お前の」
 シイナやケティさんだけでなく、ソルダムもディク先生も、びっくりするくらいみんな揃って、ひとりきりだった。家族を失ったり、帰れなかったりする事情の中で飄々とひとりで暮らしてきた彼らと。
 家族みたいに暮らしていいんだな。オレは。
 今は、ソルダムはエンデリックで。ディク先生はポーラス西で。ケティさんはそのディク先生の家で。時々サンレイクを訪れながらそれぞれに暮らしているみんなと、いつかここで、家族になって。
 それでそれは、いつかどんどん、増えていくのかな?

「ますます本気で王様っぽくないな、オレは」
 冗談でもなくそんな風に言ってみれば、今度はシイナ、声を立てて笑った。
「今更言うな。種まきに浮かれたり木材と格闘する王様なんて、他でそうそうお目にかかれるものじゃないっての」
 そうですよ。どうせ庶民臭い方が似合う王様ですよ。
 ひとりじゃ何も出来ない王様だけどさ。
 ひとりじゃ、王様にだってなれないんだよ。
 オレを王様にしてくれる人々が、存在しなければ。

 成り行きの名前だけの国王だよ、オレは。
 だけどオレは、みんなを支えて、みんなに支えられて、生きて行く。


 シイナが求めた、オレの剣。
 オレが生まれた時から持ち続けていた、精霊石の剣。


 シイナとの出逢いを作ったこの剣から。オレ自身の、国作りが、始まった。





==椎名の呟き==
お疲れ様でございました。
始まった時のように、実にさりげなく終りを迎えます『コーラス・ブレイド』でございます。
これまで読んでくださった方に、心からの感謝を。
少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいのですけど。ドキドキ。

でもって、次回作もよろしくご愛顧いただければ光栄至極にございますw

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2007.03.09

 さあ、エルベルン。
 お前はこの剣に、何を見るか?
 俺がつき立てたこの剣に、お前は自分のもっとも望んでいた姿を見るはずだ。
 最愛のエルフの、眼差しを。

「……モーラ……」
 オレの剣を凝視したエルベルンから発せられた言葉は、予想通りの一言。
「モーラ……何故そんなところに……モーラ!!」
 距離を置くオレに近付こうとして、エルベルンは瓦礫の上で体勢を崩す。だからこれ以上その身体に傷なんてこしらえないでくれってば。
「そう、モーラの魂は、この剣に宿っているんだよ。お前が一番望んでいた魂が、ほらここに」
 オレはその剣をつき立てたまま。
 今、エルベルンの目には、剣の刃の輝きの中に、モーラの姿が映っているはずだ。ただじっとエルベルンを見つめる、その姿が。
「モーラ!!」
 エルベルンの意識が、完全に剣に固定された。

 この瞬間しかない。

 オレは、その剣を頭上に高く突き上げた。
 エルベルンの刺すような視線が、その動きを追う。
「東西南北、サンレイクの四方に眠る精霊石、その要石。その力をこの剣に集約せしめよ。主であるコーラス・サンレイクが、ここに命ずる」
 オレの言葉に、サンレイクの四隅に埋め込まれている精霊石が反応し、光を帯びた。それは瞬時に空まで届くような光の柱になったから、ここにいても肉眼で確認できる。
 その光の渦が、全てオレの持つ剣に集中して降り注いだ。
 強烈な、光の雨。
 その力は、この手から剣を弾き飛ばそうとするほどの勢いで。でもここで、集中を途切れさせる訳にはいかない。
「この力は、身体ではなく魂そのものを切り裂くよ」
「貴様、何を……」
 身体を傷つけずに、魂を切りつける秘剣。本来そう上手く使えるものではないけど、エルベルンの今の身体の奥にはケティさんの魂が眠っている。そしてここには、エルフもいる。サンレイクという場所とケティさんの魂とエルフの力。全ての要素があって、行使できる技だ。
「さあ、エルフたち。モーラの力を」
 姿を隠していたエルフたちが数人、そこに姿を現した。ミリネと共にエルベルンへと手をかざし、その奥に眠るケティさんの魂を内包したモーラの力を探る。
 捕まえた、と、ミリネが小さく呟いた。
「モーラの力と、我らの力で」
 ケティさんの魂を、外へと引き出す。
「ケティ、目を覚ませ。お前の意志で動き、お前の意志で感じる、それはお前の身体だ!!」
 シイナが叫んだ。
「行くよ。悪いが最期の言葉を聞いてやる余裕はない」
 せめてモーラと同じところに行けるといいな。
 魂の行方は、もちろんオレには計り知れないけどね。

 力を蓄えた精霊石の剣を、オレは真っ直ぐに振り下ろした。
 剣がまとっていた光が、エルベルンへと一直線に向かい、その身体を輝きで切り裂く。

「バカな……バカな!! 貴様ァ……ッ!!」

 それが最後。
 それ以外の時間の猶予は、彼には与えられない。
 その言葉を絞り出して、エルベルンの、ケティさんの身体はガクリと膝をついた。
 意識を失って前のめりになった身体が瓦礫の山から一枚の葉っぱのように崩れ落ちる。それをやんわりと受け止めたのは、その場にいた数人のエルフたちだ。
 そこへシイナがゆっくりと歩み寄った。オレもそれに続く。
「終わったか?」
「うん」
 エルフたちが支えるケティさんの身体を、その場に膝をついたシイナが受け取る。
「あっさりしたもんだな」
「そう言うなよ。結構大変なんだぜ」
 ほんの少しでも力が揺らいだら、ケティさんの身体ごと粉砕しかねない強大な力だ。それを操れるように、オレはずっと昔から、国の四隅にある精霊石にオレの名を憶えさせてきた。
 毎日のようにそこに通って精霊石に自分の名を刻み込む。それはサンレイクの王位継承者の仕事のひとつだ。
 つまり、四方にある要石ってのは、オレの銘入りの精霊石なんだよね。
 もちろんそれ以外に、祖父や父の銘入りの要石も存在するんだけど。本来それは主が逝去すると共に相応の処分をするものなんだけど、それは出来ないままになっている。後でちゃんとやっておかないとなあ。

「もういいよ。協力感謝する」
 オレが囁くと同時に、俺の愛用の剣からエルフがひとり抜け出してきた。
 エルベルンが見たのは、このエルフの姿だ。
 モーラの姿となって、この剣に宿ってもらった。エルベルンがこの剣に意識を傾け、この剣の力を真っ直ぐに受け止める状況を作るために。
 モーラがこの剣に宿っているなんて、ウソっぱちだ。
「それでもまだ信じてたんだなあ。モーラが何がしかの形で生きてるって」
 自分自身の、その手で奪った命を。だからこそ、認めることができなかったんだろうけど。

「……シイナ、さま?」
「!!」
 シイナが支えるケティさんが、緩やかに目を開けていた。
「ケティ!!」
「ケティさん!!」
 目を覚ましてくれた。
 あああ、良かった。自信が無かった訳じゃないけど、ちゃんと目を覚ますまでは、実際ケティさんの魂がどうなってるのかわからなかったもんなあ。ここだけの話だけど。
「シイナ様……」
「なんだ」
 か細い声に、シイナが耳を傾ける。
「何だか……死んでしまいそうに、身体中が痛いんですけど……」
「あ、悪い」
 そういえばケティさんの身体、満身創痍なんでした。
 とりあえず、シイナが治癒の魔法を施す。そうした後で、ケティさんは本当にゆっくりと、その身体を起こしてその場に座り込んだ。
「コーラスさん……ありがとうございます」
 多分これまでのことを全て記憶として持っているであろうケティさんは、オレに向かって深々と頭を下げた。
「いや。お礼ならオレの方が山のように言いたい。キミが頑張ってくれたから、どうにかすることが出来たんだ。本当に」
 シイナの身体が奪われた時から今まで、本当に良く頑張ってくれた。

 皆がいてくれたから、今のこの瞬間がある。
 オレも、シイナも、ケティさんも。ひとりきりだったら、絶対に、どうにもできなかった。

「終わったかーあ?」
 ソルダムとディク先生が、それぞれハンターたちとエルフを引き連れてやってきた。あの光が、合図となったはずだ。
 これで終わってなかったらどうするつもりだったんだろうね。まあ遠目から見ても、わかって頂ける状況だとは思うけど。
 オレは、ふたりに向かってグッと親指を立てた。
「ご協力感謝!!」
 それだけで、そこに集った全員の顔が、笑みに変わった。
「3年は長かったけど、土壇場は一瞬だったなー」
 ソルダムまで、シイナと似た様なことを言わないでくれ。こちとら精霊石の育成、およそ20年越しなんだぞ。それこそ生まれた頃から。
 まあ、いいや。
「無事終了。さて、これからどうしようかね」
 大きな仕事を終えて、だけどそれぞれが何だか、感慨の中でやけに静かに佇む。
 理由は多分簡単。
「とりあえず、眠いな……」
 同感です。
 今ここで全員で寝転がりたい気分だけど、港組やポーラスに報告もしなきゃならないしな。もう一仕事やり終えないと。
 それにもう、夜が明ける。

 夜の闇に沈んでいたサンレイクに、太陽の光が差し込んだ。
 朝だ。

 明けない夜はないよ。今がその時だって、強く実感する。
 いつも通り、毎日、繰り返し。
 必ず闇の中に光は差す。

 それが、オレの生きるこの世界だ。





==椎名の呟き==
サンレイクの王族って、めっちゃ出歩いてるんですよ。暇があれば、精霊石のご機嫌うかがい。国土が狭かったからいいけどね。
さーて。次回、最終回となります。
彼らの20年後の姿がそこに!! なんて大嘘ですけど!!

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2007.03.07

 城に近付くにつれて、草の丈もどんどん低くなってきて。
 焼けたままの大地がむき出しになっているそこは、ただの岩場にしか見えないけど。
 これまでも続いてきた勾配が少し急になってきて、目指す場所が見え始めた。遮るものもなくて見晴らしの良すぎるその景色。もう城があった場所まで見えているけど、そこにエルベルンの姿はまだ確認できない。
 見えるのは、元は城だった瓦礫の山だけだ。
 建材に殆ど精霊石は使ってなかったとはいえ、あれだけ強固な造りだった巨大な城を、こうもたやすく石の屑に変えてくれたエルベルンの魔法力ってのは、どれほど大きなものだったんだろう。
 だけど城そのものを破壊してくれたおかげで、エルベルン自身もここからすぐに逃げ出すことは出来ない。
 王座があった場所にはその場の結界を解くための鍵となる場所があって、そこからオレは外に放り出されたんだけど、もうその鍵は存在しない。瓦礫の向こうは断崖絶壁、はるか下には海が広がっているけど、結界が解けない限り、エルベルンがそこから脱出するのは不可能だ。

「何故……貴様らがここにいる……」

 その瓦礫の山の頂上付近に、エルベルンはいた。
 無造作に積みあがった岩の上で、その岩に全身をもたせ掛けるような格好でいたから、遠目では判別できなかったんだな。
「結界の中なら安全だと思った?」
 まさか昨日の今日くらいの勢いで、攻めて来られるとは思ってもみなかったんだろうな。理論上、精霊石で出来た結界を外から解くのは不可能。だからこれまでの3年間、誰にもジャマされずに力を蓄えて来られたんだろうから。
 今度は何年かけて、力を回復させるつもりだったのかな。
「サンレイクの子せがれが生きていることを知ったくせに、それを放置してたお前が迂闊なんだよ、エルベルン」
 あの状況で、そこまで考えて、さらにどうにかする余裕なんて無かったかもしれないけど。
「まさか……貴様が結界を」
 エルベルン、岩場からゆるゆると頭を持ち上げる。
 おっくうそうだなあ。
「サンレイクの跡取りは、結界についてぜーんぶ学習済みなんだよね。オレは誰とも継承権争ってなかったし」
 祖父の後は父。その後はオレ。わかりやすい図式の下で、継承権のあるオレたちは、国の結界についても精霊石についても、門外不出の扱い方について全て受け継いできた。
「お前を招き入れたヴェルネッティからは、何も聞かされてないだろうけどね。彼女自身も知らない話だから」
「……」
 否定の言葉は返ってこない。
 ということは。やっぱりエルベルンに加担したのは、彼女だった訳か。ヴェルネッティというのは、オレの母親の名前だ。
「もったいない話だな。父親の身体から他の身体へ、そしてその身体で力を使いきったらすぐシイナの身体へ。そこでも派手に力を使い尽くしてとりあえず篭城。それだけ無茶苦茶な力の使い方が出来るほど大きな魔法力を持ってたんだから、上手く使いさえすればホントにこの世界だって手に入れられたかもしれないのに」
 そう上手くは行かないのが世の中ってものかもしれないけど。シイナの身体でどこまで保てるかも謎な訳だしね。でも結構イイ線までは行けたと思うんだよね。エルベルンほど、激情に走ったりしなければ。
 そもそも他人の身体を渡り歩いてって計画自体が、破綻してるって話もあるけど。それすらもものともしない何かがあるんじゃないかって思ってたけど、そういうことでもなさそうだよなあ。本当に計画性がない。
 まあそんなヤツだったおかげで、オレたちにもそれを止める道が開けたんだけど。
「今のお前に勝ち目はないよ。お前はここから逃げられない」
「……黙れ」
 エルベルンはゆるゆると立ち上がった。
 あまり無理をしてはいかんよ。腹に穴は開いてるし、左手骨折してるし。ケティさんの身体、大事に扱って下さいな。
「この身体が人質だということを、忘れるな……」
 まあ、確かに。
「人質を傷つけることができない甘ちゃん集団だって読みは当たってるけどね」
 でも何の対策もないまま、ここにいる訳じゃないよ。オレたちは。

 人が人を裁くには、本来それ相応の手続きが必要なものだとは思うんだけどね。
 殺された多くの人のためだとか、この世界を壊させないために、なんて。そんな大それたことを口上に出来るほど、オレは人間の代表みたいな立場じゃないんだけどさ。本当は。
 だから、まあ。
「私怨だと思っておいてくれていいけどさ」
 それでもオレは、お前を許すことはできない。
「お前ももう、愛した人のいない世界で無理して生きることもないよ」
 モーラはもういない。
 お前が手にかけたんだよ。
 この世で一番愛したはずの人をさ。
「黙れ……黙れ黙れ!!」
 怒りの形相に変わったエルベルンは、右手の先に赤い炎を生み出すと、瞬時にしてそれをオレに向かって放った。
「無駄だ」
 オレの前に立ちはだかったシイナが、ゆるりとした仕草で槍を横にひと振りしただけで、その炎の球は弾き飛ばされて、瓦礫の一部に小さな穴あけた。
 どうしてそんな風に力を使っちゃうかなあ。

「見なよ、エルベルン。ここに映し出されているものが、何なのかさ」
 オレは、腰に差していた愛用の剣を、目の高さくらいで空に向かって突き立ててみせた。

 エルベルン。これがお前を導く、精霊石の剣だよ。





==椎名の呟き==
書いてて一番ヴィジュアルで想像できちゃったのは、おっくうそうなエルベルン……。
こんな時がありますよ、椎名にだって(笑)。
次回決着ですかね~。どうですかね~。
まだ最終話にはなりませんけど!

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2007.03.06

現在、コーラス・ブレイドのまとめ作業に頭ぐるぐるしています。
終わり方ってのは決まっているんですけど、細かい表現をどうするか、とかね。一日ずつぶっつけで書いている小説ってのは、この辺に苦労しますねえ。そうでなくとも椎名、重要な事以外はほぼメモ書きとかナシで、頭の中だけで構築してストックしておくクセがあるので……^^;
おかげでたまに何かの拍子にそれが爆発崩壊して、組み立て不能になって、笑いが止まらなくなったり泣きが入ったり。うひゃひゃ。
あと3~4話くらいなんじゃないかと思いますけど、実際どうなんだろ?
でもおおよそ、物語がどういう方向に向かって行くのかは予想できる展開ですよね。多分、その予想を裏切ることはないんじゃないかという、小説としてはかなりのダメっぷりですが、もともとが呑気に楽しむための物語ですので……w

同時に、次回作の練りこみ、なんてのもあるのです。
これについても大分絞り込んではいますけど、まあこの話題はまた後で……って感じでw
どうせまたドタバタしてるんじゃないの?
少なくとも、ダーク路線はないですよね。このブログの場合。
コメディにしようと頑張っても、何気にシリアス傾向に行きやすいヘタレさんですけどね。椎名。

これからも、のんびりご覧になっていただければと思います。
よ、よろしくお願いいたします……。

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2007.03.05

「面白い話してるんじゃん。オレも仲間に入れなよ」
 うおっと。
 草の陰からいきなり顔を出したソルダムに、マジで驚いた。
「サンレイクで鍛冶屋やれたら、仕事少なそうでいいじゃん」
 さっきの話、聞いてたのか。まあデカい声で言い合ってたから、近くまで来てたのなら聞こえても不思議はないけど。
 でもな、ソルダム。仕事少ないって言うより、仕事なさすぎて食いっぱぐれるんじゃないのか、サンレイクで鍛冶屋って。本来モンスターも少ない土地だしハンターギルドもないから、副収入もアテにはできないぞ。ていうか現在国自体が無一文なんですが。
「抜け駆けはズルいな。ソルダム」
 うわ、ソルダムの逆側から、ディク先生まで。
「私が王家付きの薬師になってやってもいいぞ。キミが望むのならな。もっとも、今すぐには無理だが」
 この人までどうした。ていうか、その王家ってオレひとりだし、その王様が多分ほったて小屋住まいなんじゃないですか、最初は。もうこの状況で、昔みたいな城なんてちょっと考えが及ばない。
 ていうか、なんでこのふたり、ここにいるんだ?
「こっちは殆ど片付いたぞ。ディクもか?」
「ああ。エルフの協力があったからな。こっちにモンスターは殆ど来なかったろう?」
 うわ、仕事速いなあ。城までまだ結構距離あるのにな。いくら少しばかり先行してたって、スタートはものの数分しか違わなかったはずなのに。
「どうやってこんなに早くモンスター片付けたんだ?」
 オレの質問には、ディク先生が答えてくれた。
「エルフが高速で移動できるからな。モンスターの嫌う匂いを出す煙玉を城付近まで運んでもらって、風を操っていぶし出したんだ。エルベルンがこの島に持ち込んだモンスターの種類は少ないみたいだからな。簡単なものさ。島中のモンスターを私とソルダムの二手にかき集めて、一気に片付けた。戦闘も無いことは無かったが、殆どのモンスターはエルフが沈静化させてくれたからな」
 召喚師さまさまだな……。
 そしてその煙玉というのは、もしかしてディク先生のお手製だったりするのかね。
「さすがだなあ」
 素直に感心すると、ディク先生はまんざらでもなさそうな様子で笑う。
「力になると言っただろう? 少しは役に立ってると思うが」
 少しなんてもんじゃないって。ソルダムもディク先生も、殆ど初対面のハンターたちを束ねてくれて、彼らを率いてモンスターをおびき出してくれて。ヤツらの相手をしながら城に向かわなければならなかったとしたら、オレたち滅茶苦茶苦労してたはずだよ。
「本当に助かってるよ。マジ凄いよな、ディク先生って」
 初めて会った時も、笑い死にしそうだったオレたちを簡単に助けてくれたしね。最初から今まで、感謝してばかりだ。
「そうか、凄いか」
 ディク先生、ニッコリと笑うと、そのまま踵を返して歩き出した。腰まである長い髪がフワリと揺れて、一度振り返る。
「ならばその信頼にお答えして、もうひと働きしてくるとしよう。キミの見据える未来を、私も共に歩けるようにな。……なんなら、嫁にもらってくれても良いぞ」
「…………はい?」
 ハハハハハ、と軽快に笑いながら、その場を去ってしまうディク先生。
 ……えーと。いつの間にそんなにサラリと冗談を言うようになったんだ。
「おめでとう、コーラス……。ヤツは本気だぞ……」
 全然めでたくなさそうな様子で、ソルダムが呟く。
 って。え? 本気って何が。
「惚れられたなあ、お前……。どこがツボだったのかな。実は一目惚れか? まあ、どんなことになっても、オレはお前の味方だからな。くじけるなよ」
 くじけるって何!! 一体これからどんな目に遭う訳? オレ!!
 ていうかマジなんですか、それ!!
「まああいつは無理強いをするヤツじゃないから大丈夫だよ。多分。……さて、ディクの部隊に遅れる訳にもいかないから、オレも行くかな。残りのモンスターも城周辺の包囲も任せとけよ」
 言うだけ言って、ソルダムもさっさと走り去ってしまう。

 一体、オレの身に何が起こっているんだ。

 呆然とするしかないオレの横で、シイナの肩が震えている。
 何笑ってんだ、お前。

「オレの言った通りだろう。お前の周りには人が集まる」
 震えるほど笑いを噛み殺しながら言われても。
「だが、案外ケティもお前みたいなの好みそうだからな。助けてやれたら……かなり面白くなりそうだ」
 面白がるな!!!
 ケティさんを助けるのはそりゃあ大前提だけど、その後で変な入れ知恵でもしてくれるんじゃないだろうな、この男は。
「私も参戦してもいいですか……」
 ぶは!!
 しゃべるのも珍しいミリネ、この子の冗談を初めて聞いた。
 まあ、エルフには恋愛感情が存在しないらしいから、これは本当に冗談だろう。サウロが黙ったままなのが、何よりの証拠だ。きっと、怒る気も起きない位にありえない話なんだな。
「集まるのはいいが、また濃い連中が揃ったもんだよなあ」
 お前が言うか、シイナ。
「しかし本気なのかな、ふたりとも……」
 いくら今すぐじゃないって言っても、こんなに何もない島国で。オレと一緒に精霊石を守ってくれるっていうのか? こんな、閉鎖的な世界になることが決まりきっているこの場所で。
「好きにさせてやれよ。嫌々やるような連中じゃないだろ」
 そうかもしれないけど。
「きっと上手くやれる。お前は自分とその周りにいる連中を信じろ。そしてそのための第一歩が、すぐそこにある」

 歩いて行くその先に、サンレイクの城跡がある。
 そこに、エルベルンがいる。
 そこを越えた先に、オレの道は、あるんだな。





==椎名の呟き==
実はディク、Vol.34あたりで既にコーラスに惚れてる行動を取っております。非常にわかりにくい女性ですが。
惚れられるとどうなるって、それはかなり謎ですけど、昔PBMで使ってた時は、物語の最後には婚約者を小脇に抱えて調教の旅に出てましたがね。
さて、そろそろこの物語も終盤です。70話になるまでには収束に向かうと思いますので、あと少しお付き合いくださいませ!

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2007.03.04

 背の高い草ばかりの中を延々と歩く。
 エルベルンに焼かれてから3年、草ばっかり伸び放題だな。それでも植物が育ってくれてただけまだいいのか。懐かしき我が国の大地。
 でもほとんどモンスターと出遭わないところを見ると、ソルダムたちのモンスター陽動は上手く行ってるんだなあ。さすがのふたりだ。後でコンビ名考えてやった方がいいかな。

 一日近く歩きっぱなしの予定だから、時々は数分の小休止。サウロはやれ軟弱だだの時間の無駄だの言うけど。お前はいいよ。ミリネの肩に乗って移動してればいいんだから。そのミリネも顔色ひとつ変えずに長距離移動できてるけど、このか弱そうに見える小さな身体のどこにそんな体力があるのか。それとも、体力使わない方法でもあるのかな。あれば伝授して欲しいものだけど。何しろこの長距離、ひたすらのんびり歩いてるのは、オレたち人間の体力温存のためなんだから。
 燃費悪くてすみませんねえ。

「あのな、コーラス」
 背の高い草を倒してその上に腰掛けて休憩中、ふいにシイナがこっちを見る。
「たとえ血のつながりがあったとしたって、お前の母親のやったことは、お前には関係ないんだからな」
 …………。
 シイナ、ずっとそんなこと考えてたのか。
 オレはソルダムとディク先生のコンビ名をどうするかばかり、悩みに悩み抜いてたっていうのに。
「そりゃそうだよ。オレと母親はこれで案外ドライな関係だぜ? あの人がやったことで、オレが責任を感じなきゃならないことなんて全然ないじゃん」
 そう言ってみても。む、何だか冷たそうなその視線。
「そうは見えねえんだよ」
 何でお前が不機嫌になるかな。
「これまで、何の責任も重圧も感じてなかった訳はないよな。たったひとり残ったサンレイクの生き残りのお前が」
「……」
「その、お前がひとり生き残った事件の原因を、間接的に作ったのが誰か。それがわかったのは、たった今さっきだ。そしてそもそも、なぜサンレイクがそんな目に遭わなければならなかったのか。この地が、どんな場所であったのか」
 責任がどうとか、被害者か加害者か、そんなことが言いたいんじゃないんだろうな、シイナも。

 モーラへの叶わぬ想いから狂気に走ったエルベルン。
 自由を求めその狂気に国を差し出した母。
 再び踏むことは無いとさえ思えた、サンレイクの地。

 それら全てを踏みしめて、生きていくはずのオレ。
 その混沌を、どうやって昇華して行けばいいのか。

 確かに、行くべき道を見出すのに、苦心してはいるんだけどね。

「例えば、償いたくても、その相手はもうどこにもいない。国を再建しようにも、残っているものは何もない。だからオレはさ、サンレイクという、王の名さえも無意味なものだと、そう考えてたんだけどね、これまで」
 国を滅ぼしたその犯人を探し出して。これからも繰り返されるかもしれないその脅威をどうにか食い止めて。そのことに一生を捧げられるなら、それもまた良し。もしも早いうちに解決を見ることが出来たなら、その後にはハンターとしてポーラスで暮らしていくか。漠然とそんなことを考えたりもしてたんだけど。
 サンレイクという国の成り立ちを、サウロから聞かされた。
 エルフから託されたこの地を。オレは守っていかなければいけないんじゃないのかな。そのために栄えてきたはずなんじゃないか。サンレイクという国は。
 だけど、残されたオレひとりで、どうやって?
 そんな風に思い始めていたのも、確かだ。
「坊主。念のために言っておくがな」
 サウロが呟いた後で、エヘンと咳払いした。その後、さらにもうひとつ。なんだよ、言いにくいことならわざわざ言わなくてもいいぞ。って、それはそれで気になるんだけど。
「確かにエルフは人間にこの地を託した。だが、今こうなったこの土地をどうするか。それはお前の自由だ。国を再建するもよし、ここを捨てるもよし。一度離れてじっくり検討するのも悪くは無かろう。我々は、この地を守れと誓いを立てさせはしたが、結局のところ、どうしていくかは人間次第だ。そうでなくとも寿命の少ない人間、代が変わっていくごとに状況が変わるのも仕方のないこと。それはエルフも承知の上だ。託すというのは、そういうことなのだぞ」
 噛んで含ませるような長台詞をしゃべるサウロというのも珍しい。
 でもだからー、別にその現場にお前がいた訳じゃないだろうって、何度心の中で言ってみても無意味ですがね、ええ。
「サウロは……コーラスさんがひとりで背負うことはないと、言いたいんですよ」
 うお、びっくりしたあ!
 久々のミリネの声だ。
「そんな風には言っておらんわ!!」
 サウロの言葉をフォローするミリネってのも初めて見たぞ。いつもなら逆なのになあ。って、なんですか、サウロのくせに、オレのこと心配なんてしてくれちゃってた訳?
「なんだサウロ、オレのこと結構好きなんじゃん?」
 ちょっと調子に乗って鳥頭をゴシゴシなでまわしてみたら、その手に向かって速攻のくちばし攻撃。やばいですって、手首刺されたらオレここで死んじゃうってば。
「オレ様を侮辱するか、人間風情が!!」
 ひどい、サウロがオレを好きになるのって、侮辱レベルなんですか。
 うんまあ、いいけどさあ。
「色々考えなくもないけど、大丈夫だよ。何とかなるんじゃないかって、そういう風に思うことにしたから」
 責任も重圧も、迷いも。目の前に山のように積み重なってはいるけどさ。
「オレは王様なんて器でもないんじゃないかなって思ってたけどさ。だからここに戻ってきても、何もできることなんてないんじゃないかってそう考えてたけど。逆に何にも残されてないこの国を、たったひとりで守っていくなら、王でなくともできるよな」
 せめてオレの生きている間だけでも、なんて。オレがそんなちっぽけな責任を果たしたところで、世界の時間の流れの中では、瞬きほどの長さもないのはわかってるけど。
 それでも、一度でも授かった、この名があるなら。
 その名の許に、この国を預けられたのなら。
 それを捨てた時に、オレはオレの誇りすらも、捨てることになるんじゃないのかな。
 何にもないこの地を、なんて、途方も無いことのようにも思えるけど。もっと途方も無いことを、先代たちはやってきた。国を守るってのはそういうことだよな。
 全てを破壊されて、行き場を無くしたこの土地を、それでもオレは愛してるんだよ。
 捨てることが出来ない程度にはね。
 ここに戻ってきた時に、そう感じた。オレが作っていくなんて大それたことは言えないけど。オレがこれまで生きてきた、これから生きていく国だ。すぐに、ここで暮らすのは無理でもさ。

 シイナと雨の中話してた時、降り続く雨が鬱陶しくて、気分もどんどん沈みっぱなしで、だから尚更陰鬱になっちまうんだ、なんて。いつになったら止むんだろうなんて、そんな風に考えてたけどね。
「止まない雨はないよ。明けない夜もない。少なくとも、オレが暮らすこの世界で、そんなことは許されない」
 あの時の雨だって、ちゃんと止んだだろう?
 シイナを見てみれば、やれやれと肩をすくめてため息をつかれた。
 オレ、何か呆れられるようなこと言ったか。
「お前はやっぱり王をやれよ」
 急に何を言う。
 たったひとりしかいない国で、しかも何も残ってない場所で、王だとかそういう地位って無意味じゃないのかな。
「何度も言うけど、オレがそういう器だとも思えないんだけどね?」
 シイナ、立ち上がる。つられてオレも立ち上がった。
「だったらお前はオレの王になれ。オレの籍はお前にくれてやる。お前はお前の手が届く小さな国の王であればいい」
 そのまま歩き出したシイナに、慌ててついていく。ミリネも立ち上がって何食わぬ顔で歩き出した。
「ひとりじゃないんだよ、お前は。オレがいてやる。そして必ず、お前の周りには人が集まる。お前はその国の王になる。器かどうかなんてのは、自分ではなく他人が認めるものだぜ」
 そうなのかな。それでいいのかな?
 少なくとも、オレはここで、シイナの生きて行く場所くらいにはなれるのかな。どうやって生きて行こうなんて、考えあぐねていたこいつの。
 もしもそこに、生きて行く道を見出してくれたのなら。
 それでも、いいのかな。
 そしてオレは、ひとりじゃなくてもいいのかな。
「だって、それならそれで大変なんだぜ、これからさ。この土地に、植林したり住む場所作るところから始めなくちゃならないんだぜ。大量の肥料を、船で運ぶことなんて出来るのかな」
「肥料の心配かよ!! だったら動物でも放せばいいだろうが。自然に肥料を出してくれるぞ」
「動物の輸送だって大変だよ! 第一こんな背ばっかり高い草食ってくれる動物なんている訳? それならやっぱり牧場作るための種まきから始めなきゃならなくなるし」
「どちらにせよ時間だけはかかるって話だろうが!! 大体お前はそれを、本当にひとりでやるつもりでいたのかよ!」
「言ってるうちに無理っぽいなとは思い始めてたけどさ!!」
 いかん。どんどん話題がずれてきた。気がする。
「確かに、お前が自分の器について悩むのもわかる気がするな……」
 あ、いきなり前言撤回かこのヤロウ。自分だって家畜の下ネタ振ったくせに。

「貴様ら、その話の前に、エルベルンのことを考えんか――――!!」
 サウロ、キレた。
 そうだね。そうでした。
 全てのことはその後だよ、シイナさん。
「先に言い出したのはお前だ」
 またそうやって、なんで簡単に人の考えを読むかなぁ、こいつ……。





==椎名の呟き==
このままいくと、草刈りから始めることになりそうです。この国の王様。

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2007.03.03

 いつまでも立ち止まってる訳にもいかないから、オレは歩きながら話した。
「外交官だったんだよね……彼女は。結界を操る権利を持った、数少ない人間だった」
 思い出すのはいつも、何の罪もなさそうな、くったくのない笑顔。
「そそのかされたんだろうなあ、エルベルンに。彼女は長いこと、本気で国を出たがってたから」
「そそのかされた?」
 シイナの言葉に、オレはただ頷く。
 サンレイクは唯一ハンターギルドを除いて、他の国との交流を持っていなかった。それはつまり精霊石を守るためで、そのために、国民が無闇に他の国へ移り住むことも禁じられていた。サンレイクがどういう国であるのか、無節操に広める訳にはいかなかったからだ。もちろん様々な事情で、移住が皆無、という訳ではなかったけど。
 長い歴史の中、サンレイクは殆ど国を開くことがなかったから、国民もそれで当然と思っている人間が多かった。けど、時折そういう風に外の世界に憧れる者も出てくる。オレだって外交の際に何度か中央ギルドにだけは足を運んだことがあるけど、やっぱり他国に興味はあったもんな。

「この前ね、もしも可能であるなら、ぜひサンレイクを訪れてみたいって人に会ったわ」
 その人は、サンレイクが精霊石の大量産出国であることに興味があったみたい、と彼女は言った。
 国交は殆どないけど、地理や歴史を学んでいる人間ならサンレイクが精霊石の産出国であること位は知っている。
「だけどもちろん許されないわよね、そんなことは。私が国を出ることだって許されないのに……」
 ため息をつく彼女に、そんなことは当然だ、とオレはその場で言葉を返したけど。
 エルベルンがサンレイクを襲ったのは、それからおよそ一年後。もしもその時彼女に声をかけていたのがエルベルンなのだとしたら。その後一年をかけて、彼女を懐柔していたのだとしたら。

「コーラスはその外交官と親しかったのか?」
「うん」
 オレが頷くと、シイナは思い出したように納得する。外交官なんだから王家と直接関わってるのも当たり前か、という解釈をしたらしい。
 親しいというか、なんというかね。
「オレの、母親」
「……は?」
 うん、さすがにシイナも驚いたっぽい。
「母親って、だって、なんで。お前の母親っていえば、つまり」
「そうだよ」
 後に王妃となるはずだった、王太子妃殿下だ。正確には、王太子妃、だった。
「前代未聞の騒ぎを起こしてくれたんだ、彼女は。オレがまだ10歳にもならない頃に、城から逃げ出したんだよ」
「逃げた!?」
 そう、文字通り、逃げた。

 オレの父と母は、幼い頃から結婚が決定していた間柄だったらしい。ありがちな設定だ。
 王家と、それに近しい由緒ある家柄の婚姻関係。勿論そこに、当人同士の意志の尊重はない。それも仕方のないこととして、ふたりは婚儀まで済ませた訳だけど。
 もともとオレの母というのは、大変に奔放な性格の人だった。
 本当なら、普通の国民がそうするように、自由でのびのびとした生活を渇望していて。成り行き上跡継ぎまで産んでしまって、いよいよ窮屈な生活となって。
 それに耐え切れずに、城から逃亡してしまった。
 望んでもいない場所での望んでもいない形の生活ではなくて、もっと自由に。できることなら、閉鎖されたこんな小さな国ではなく、外の世界で、広い世界で。
 そんな場所で、暮らしたかった。
 このままでは心が死んでしまうと、オレを産んだ時に、痛感したらしい。何度も何度も、そんな話を聞かされた。

「……」
 あ、シイナ、すっごく考え込んでる。
 まあそりゃあ、無理もないというか。オレだっていきなりこの手の話聞かされたら、返す言葉がなくて悩むだろうなあ。
「まあそんな騒動があってね。オレの祖父、王様も考えちゃった訳だよ」
 もちろん、母はすぐに捕まった。国外逃亡ができる訳でもないし、密かに身を寄せる場所もない。実家になんて絶対に帰れなかっただろうし。
 だけど、城での生活を嫌がって逃亡までしたような人間を、無理やり連れ戻したとして、いずれ王となる夫と共に、国を導いていけるのか。いつまた問題を起こすやもしれない。かといって、妃殿下が城外逃亡など、王家にあってはならない不祥事だ。
 だから王は、王太子妃の葬儀を行った。
 母を死んだことにして、国葬をあげて。彼女には別の名を名乗らせ、王家の人間ではなく、それに近しい貴族としての戸籍を与えた。
 一度でも王家の人間として生きた人間をおいそれと自由にすることは出来なかったから、せめてもの温情として、彼女を外交官に任命し、ハンターギルドとの国交を任せた。
 そうすれば、ほんの少しでも、国の外に出ることも出来るだろうと。
 甘かったんだな、王も、父も。
 オレには許婚が用意されていなかったんだけど、この辺の事情があったせいなのかもしれない。

 だけど、国の外と言ってもハンターギルドとの往復くらいしかない。必ず別の人間が傍に控えて目を光らせているから、出先での逃亡も敵わない。結界を解ける権利を有していても、ひとりでは海の向こうに渡ることはできない。
 外はこんなにも広いのに。
 わが国サンレイクは、ポーラス中央地区程度の広さしか持たない。
 多分、彼女の心が晴れることはなかったろう。

 オレを産んで自由を失った、なんてはっきりと口に出す人だったけど、オレのことを嫌っていた訳じゃないから、ハンターギルドに一緒に出かけるような時にも、そうでない普通の日にも、普通に交流は持っていた。
 城の外で、母親だと名乗ることはなかったけど。
 普通に愛情は注いでくれたから、その奇妙な関係に特に疑問も持たなかったんだけどね、オレは。
 でも彼女が話すのはいつでも、外への憧ればかりだったっけ。

「どうしても国を出たかったんじゃないかなあ。それで、エルベルンに加担した」
 結界を解いて国に入れてあげる代わりに、自分を国の外に連れ出してくれるようにと。そういう交換条件を取り交わしてたんじゃないのかな。
 エルベルンの目的を知っていたかどうかは知らない。
 でもきっと、彼の目的を知っていたとしても、彼女はそれをやっただろう。オレの母は、そういう人だ。
 誰も何も大事なものがなかったわけじゃないけど。
 彼女が一番大事に思っていたのは、他の何者でもない、自分自身だ。
 だから、エルベルンの姿が最後に違っていても、気にもしなかったんだろう。これから何が起こっても、自分が国を出られるのなら、どんなことになっても構わないと。

 けれど、自由にしてもらえる約束があったとして、それは叶わなかったんだろうな。
 このブローチが、物語っている。
 多分、エルベルンの最初の犠牲者は、彼女だ。
 サンレイクの生き残りの存在を、エルベルンが許す訳がないんだから。

「しょーもない人だよな」
 オレが苦笑まじりに言っても、シイナは無言のまま。ミリネもサウロもただ黙って歩いていた。いや、サウロはミリネの肩にとまってたんだけどね。
「最初に死んじまってどうするんだか。どんなに許されない重い罪を犯しても、これじゃ償うこともできやしない」
 まあね、全部オレの予想でしかないけど。
 多分、違ってはいないと思うんだよね。

 あの人――だったんだなあ。きっと、多分、本当に。

 何よりも自分の自由を望んだ母。その血を受け継いでいるオレ。
 オレはこれから、どうやって生きていくのがいいのかな。





==椎名の呟き==
想像以上に小さなサンレイク。しかも城の背面は断崖絶壁だし。
何しろ土台が天然石だから仕方ないですねえ。
人口はポーラスよりも多かったんです。なお狭いわ。

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2007.03.01

 ポーラスからエンデリックまでの道のりは、馬で移動させてもらえたおかげであっという間だった。実際は、オレが走らせる馬の後を数十台の馬車が追いかけてくるという大行脚だった訳だけど。こんなにいたんだな、ハンターって。
 エンデリックから船へと乗り換えて、一路サンレイクへ。
 サンレイク近海(正確には港付近)のモンスターは、先着したハンターたちが殆ど片付けていてくれた。素晴らしいチームワークに感謝感激。そしてありがとう、ウェルバーさんと召喚師たち。

 海に突き出している船着場は、精霊石の結界の外にある。
 わずかばかりしかない外交でも、島全体を結界で覆ってしまうのは色々不便だったからね。ここだけは今も、結界のうちには入ってないみたいだ。
 港付近の結界に穴をあける計画、多分これにはエルベルンは気付かない。自分で張った結界ならともかく、もとからサンレイクにあった精霊石の結界をそのまま使ってるんだろうからね。精霊石による結界に関しては、いくら魔法師でもその有無が殆ど判別できないくらいなんだ。よほど近くにいれば、さすがに切った張ったはわかるけど。

 サンレイクの景色は夜の闇に沈んでいる。
 予定通りだ。隠密行動は夜のうちがいいってね。とはいえ、オレたちが城に着くのは、次の夜になる予定だけど。
「伝達。これからオレとシイナでサンレイクの結界の一部を切る。合図を出したら、総員速やかに結界の内側へ侵入してくれ。その後は各部隊の代表の指示に従うように。よろしく頼む」
 ハンターにはエルフがそれぞれに結界を施しているから、よほど騒がない限りエルベルンはその存在に気付かない。彼らがモンスターをひきつけてくれている間に、オレたちは城跡へと近付くって寸法だ。
 もし騒ぎに気付いても、とても動くどころの話じゃないと思うけどね。彼も。

「というわけでだ。シイナ、その槍の出番だ」
 説明済みにも関わらず、いぶかしげなシイナの顔。だからそれ鍵石になるって言ったじゃんよ。
「これ、槍に加工してあって大丈夫なのか?」
「だいじょーぶ。形の問題じゃないから」
 これはいわゆるマスターキー。サンレイクの結界がいつどんな風に張られても切られても、これがあれば必ず開閉できる、王と父とオレしか存在を知らされていなかった鍵だ。
 だから王は、この石を持たせてオレを逃がした。
 いつか、ここに戻ってくる日が訪れても大丈夫なように。
 これは普通の鍵とは違うから、形が合うとかそういう問題じゃないんだよね。鍵となる石さえ存在すれば、どんな形になっていても大丈夫。
「ここが結界の壁」
 オレは指差してみせる。
 結界って言っても、普通に壁があるみたいな感じじゃなくて、その先に進もうとしても、足が進まないというか何気に押し戻されるというか。柔らかく拒絶される。これは魔法師が普通に張る結界と変わらないらしいけどね。
 でも前の戦闘でミリネが張ってたみたいなホントの壁もあるから、このジャンルは奥が深いね。
「このポイントだな。間違いない。ここにその槍を刺して。あとは打ち合わせどおりにな」
 どこから見ても、何の変哲もない港付近の路上。だけどオレはその場所をしっかりと記憶している。3年前のエルベルンのおかげで、この場所も見るも無残な大災害の跡、だけどね。
シイナが槍を固定したのを確認して、オレはそこから離れた。
 50メートルほど離れた場所まで来て、オレはシイナに向き直る。手で合図して、その地上の一点に、オレは自分の精霊石の剣を突き刺した。

 このふたつの石が、結界の鍵。
 オレは生まれたその時から、鍵のひとつを預けられていた。

 これで、結界の一部が切れる。
 そうだなあ、半円形のゼリーの端に、スッとナイフを入れる感じかな?

 オレが手を挙げるのと同時に、一斉にハンターたちが港の路上を駆け抜けた。
 うん、ソルダムとディク先生が指揮してくれてるから、彼らは安心だな。
 時折、行ってくるぜーだの、後で奢れーだの声を掛けて行く連中がいる。普段ツルんでる連中だ。彼らも参加してくれてたんだな。きっと、詳しいいきさつなんて説明されてないだろうに、ここにオレがいることを、詮索もせずに。ありがたい話だ……ホントに。
 全員が結界の内側に入って、立ち止まることなくそれぞれの持ち場へと駆け出していく。彼らと共に、おそらくは姿を見せない召喚師たちも。そして最後にミリネとサウロ。これで全員だ。
 オレとシイナは鍵石を固定したまま、身体を結界の内側に入れた。そして、せーので剣と槍を引き抜く。
 これでまた結界は元通り。
 この仕組みのせいで、オレひとりだと、どうにもならなかったんだよなあ。
 海で手を振るハンターたちに手を振り返して、オレは普段港の結界を開けるのに使われていた施設の跡へと向かった。まあ、目と鼻の先だけどね。

 何かが残されているかもしれないなんて、毛の先ほどの可能性を考えてその小さな施設の跡を探ってみたけれど。

 本当に、残ってるなんてなあ。

 小さな小屋のような造りだった建物の跡の、元は床だった地面に半分ほど埋もれた精霊石のブローチ。正確にはその装飾部分。
 人間なんて微塵も残さず焼き払ってくれたエルベルンの魔法でも、これだけは残ったんだなあ。決定的な証拠として。
「なんだ、それは?」
 シイナがそれを覗き込む。
「エルベルンが結界の中に入り込んだ時に、ここにいた人間のものだよ」
 そのタイミングでここにいた人物。エルベルンが国を襲撃したあの時、この場にいる必要はなかったはずの、人物の。
 あの人はいつも、これを付けてたよな。
「これの持ち主が、エルベルンを招き入れるために、結界を開いたんだ」
「……!」
 結界を開くことの出来る人間は、ほんの僅か。

 そして、その中でこのブローチを身に付けていたのは。
 間違いなく、たったひとりだ。





==椎名の呟き==
ゼリー以外に例えられるものはなかったのか。

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