オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2007.04.29

 多分、お前さんも憶えているだろうな。

 荘二郎は、ミズに向かってそんな風に話し出した。
「水盤のあるこの部屋では騒ぐことが出来ずに、私はいつも不満に思っていた」
 荘二郎がまだ幼かった頃の話だろうか。
 ミズの水盤のあるこの部屋は、中庭に続いている和室で、水盤のほかにも年季の入っていそうな掛け軸やら用途の良くわからない調度品やらが置いてあって、確かに子供が遊ぶには向かない場所のようにも思える。
「私は兄と違って乱暴者だったし、暴れたい盛りだったからな。兄が入っても怒られないこの部屋に、自分だけが入るのを許されないことに腹を立てていたな」
 意外な過去だ。
 物腰静かな荘二郎にも、子供時代はあったという訳だ。
 元気のないミズも、それにはうんうんと頷いた。
「あの時は驚いたんだよぉ。ミズ、こわされちゃうかと思ったんだもん」
 にゃは、と笑うミズ。けれど当時、笑い事では済まされない事態が起こっていた。
「兄ばかりが可愛がられていると思いこんでいた私は、役にも立たない古いものがこの部屋にあるのが悪いのだと、この部屋にある装飾品を次々と壊してまわったな」
「うわ……」
 ついつい声を上げてしまう巡。
 荘二郎、かなりの悪たれ坊主だったらしい。

 床の間に掛けてあった掛け軸を外して放り、壷は中庭に投げて壊した。使いもしない日本刀は池に投げ込み、薬箱や茶器も散らかしまくって、そのいくつかを使い物にならなくした。
 そのどれも、法外に値段の張るものではなかったが、どれも年季の入ったそれなりに高価なものであることは間違いなかった。
「そして水盤に手を掛けたときに父親に見つかって、大目玉を食らったな」
 ミズが命拾いした瞬間だ。

 閻魔か鬼神かのように怒った父親は、散らかり放題のその部屋に、荘二郎を丸一日閉じ込めた。つまりこの部屋だ。
 この部屋には鍵はついていない。襖を開ければ隣の部屋だし、脱出する気になれば、中庭にも出られた。けれど、当時の荘二郎にそれはできなかった。それほどまでに、父の存在は脅威だったのだ。この部屋を抜け出そうものなら、今度はどんな厳罰が待っていることか。
 そんな風に、どれほどの処遇が待っているかも最初から想像できたのに、荘二郎は衝動を抑えることが出来なかった。結果、予想通りに父を怒らせた。
「この世に存在する全てのものは、いつかは壊れて無くなる。いつかは消えてゆかねばならぬ物を、お前が途中で壊す権利などあるのかと、相当絞られたな」
 そして、時代を越えて残せるものを大切にする精神。それがいかに尊いものであるか。そんな説教も時間をかけてされた。当時の荘二郎には、到底心から納得できるものではなかったが。
 そうして暗い部屋にただ押し込められて。
 荘二郎はその間、唯一壊れていないミズの水盤と向き合っていた。
 荘二郎が壊し、散らかした部屋の中で、唯一無事であった水盤。そこには、いつも通り淡い色の水蓮の花が、活けられていた。
 水に浮かび、けれど揺れることも無く、ただ静かに。
 はかない時間を咲き誇る花と、それを抱える、藍色の水盤。
 長いことただそれを眺めなければならかなった荘二郎は、物言わぬそれに、確かに慰められたのだ。その、静かな美しさに。

「ミズはそのときずっと、いいこいいこっておじいさんの頭なでてたんだよぉ」

 ニコニコと笑うミズ。
 もちろん当時の荘二郎には、ミズのそんな姿は見えていない。
 けれど、人や動物のように動かない彼らが与えてくれる潤いのようなものに、初めて気付いたのだ。彼らのそんな恩恵はあまりにも密やかすぎて、じっと静かに感じようとしなければ、気付けるはずもなかった。
 それがとても大切なことであるのだと、荘二郎はその時初めて感じた。

「それからだよねぇ。おじいさんが、自分でミズに花を活けてくれるようになったのは」
 ミズは嬉しそうに言う。
 荘二郎はまだ子供だったから、時には手折ってきた桜の枝を無理やり飾るなどという無茶をしたこともあったが。
「それ以来、水盤は私にとってとても身近なものになっていたし、きっとミズにとっても、私が一番身近な人間であったろうと、自負はしているよ」
 うん、とミズは頷く。

「私はつい最近までミズの存在に気付かなかったが、随分長い時間を共に過ごしてきた。だから、ミズ、その私が言うことを、しっかりと聞きなさい」
「なぁに?」

 荘二郎の言葉に、巡だけがそっと目を伏せた。





==椎名の呟き==
あれー、話が進まなーい。
どうもこのくどい表現は、直りようのない椎名の特徴らしいですね。

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2007.04.27

 ミズが、急に弱くなった。

 この一日二日で、ミズの姿を見なくなったと思っていたら、ミズは水盤の前でじっとしたきり、ほとんど動かなくなっていた。
 今にも死にそうという訳ではないが、水盤の縁に腰掛けたまま、ただぼんやりと一日を過ごしているらしい。その表情も、明らかに精彩を欠いている。
 天笠家に様子を見に来た巡は、我知らずに緊張を覚えた。
 隣に立つかぼは、表情ひとつ変えていないように見える。どんなことを考えているのかも、巡には読み取ることはできない。
 巡とかぼの姿を見て、ミズはその来訪を喜んだが、すぐにとても悲しそうな表情を見せて俯く。
「もうずっと、ミズ美味しいお水入れてもらってないよぉ。どんどん元気じゃなくなっていくんだよ。どうしてなのかなあ?」
 荘二郎の体調を気にしていたミズだが、ここへ来てそんな余裕も無くなって来ているらしい。それに、体調が悪いはずの荘二郎は、いたって普段通りの毎日を送っている。
「なんでかなあ? おじいさん、そんなにミズのこと嫌いなのかな。嫌われて、放っておかれて消えちゃうなんてことないよね? おじいさん、どうしてる? 元気なのかな?」
 荘二郎のことを気に掛けているというよりは、自分のことに必死になっているように見える、今のミズだ。
 巡は、どうすればいいのかわからない。
 このままでは、ミズは本当に、自分は嫌われていると誤解したままこの世から消えてしまうことになるのではないか。そんな風に思った。
 本当のことを、言ってやるべきなのではないかと。
 けれど、それを知らせてどうなる?
 キミは荘二郎のせいではなく、自分の寿命が尽きて消えていくのだと。
 ミズにしてみれば、同じことではないか。
 それにこれはおそらく荘二郎とミズの問題であって、巡が口出しすることでも無い様に思える。けれど。このままミズを黙って見ていることしか出来ないなんて。ミズがいなくなってしまうかもしれないという事実も悲しいが、それをこうやって傍観するしかないことも、悲しい。かぼの言う『嫌な思い』が、こんなところにも形を成している。

 スルリと音を立てて、巡の背後の襖が開いた。
 そこに、荘二郎が立っている。

「天笠さん……」
「おじいさぁん」
 荘二郎の顔を見ると同時にその名を呟いた巡の声に被るように、ミズの呼びかけが部屋に響いた。
「おじいさん、そこにあるのは新鮮な、綺麗なお水? ミズに持ってきてくれたの? もうおじいさんは元気になった? ミズのこと嫌いで、いじわるになったんじゃないよねえ?」
 矢継ぎ早に問いかけるミズ。
 いじわるなどと言われなければならないことを荘二郎がしていた訳ではないが、そう言われても荘二郎はもちろん怒り出すこともなく、その手に持つ水筒を水の目前に掲げて見せた。
「これは、今日そこの坊主と嬢ちゃんがミズのためにと持ってきてくれた、小川の清流の水だ。この前、お前が私にと持ってきたものと同じな」
 正確に言えば、あの時運んできたのは巡だが。
「今朝、水盤に入れてやったのはこの水だ。どうだ?」
 そう言われて、ミズはわからなそうな顔で首を傾げる。
「……?」
 言われている意味がわからない。
 だってミズが元気をなくしているのは、荘二郎がミズのために綺麗な水を用意してくれなくなったからであって。すなわちそれは、ミズの水盤が大事にされなくなったからであって。そうでなければいけないはずだ。
 他に、ミズが元気をなくす原因の心当たりが、あってはいけない。
 本当は、水が綺麗かどうかが最終的な問題ではない。この家の水盤が、魂というものを形作るほどに大切にされているかどうかが問題なのだ。
 愛で生まれた魔物は、愛が無ければ存在し続けられない。
 だから逆に、大切にさえされていれば、ミズはずっとここにいられるはずなのに。
 ちゃんと綺麗な水を与えられてもミズが元気にならないのは。
 本当は水盤なんてもうどうでもいいのに、仕方なくやったことだから?
 そんな風に、思いたくない。
 けれど、そんな風に思いたくないけれど、じゃあそうでなかったとしたら、どうしてミズは、どんどん弱くなってきているのか。
 ミズがたどり着く結論は、ひとつしかありえない。

「ミズ……認めなさい」

 荘二郎の一言に、ミズは両目を大きく見開いた。
「出ていた方がいいかの?」
 かぼが小さく呟く。
 だが、荘二郎は緩やかに首を振った。
「お前さんがたが嫌なのでなければ、構わん」

 小さな声で言う荘二郎は、ミズに本当のことを話すつもりでいるらしかった。





==椎名の呟き==
ここまで書いてきて、まだ導入部分から抜け切れていない気がする今日この頃な作者!
完全なキャパ不足だな、これは……;;

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2007.04.25

そういえば、各所でサイト運営だのブログだのとやってまいりましたが、最近ほとんど椎名のことについて新しく更新してませんでしたね。
別に小説書いてる人の実態なんて、知りたいって人も少ないんじゃないかとも思いますが!
というわけで、一息ついてこのブログの管理人、椎名シイについて色々。

●HNとその由来
椎名シイ
このブログと過去記事サイトだけで使っているHNですね。
もともとは、某ネトゲーで使用していたキャラ名なんです。
シイナって名前でそのネトゲ内をウロウロしてまして、その時にはもちろん、ずっとこの名前で呼ばれていたものですから、それに慣れてしまいまして。それで自分のHNとして使用してしまったという。
何故椎名シイなのかというと、語呂的なものもありますけど、ゲームの中で「シイナ」以外に「シイさん」と呼んでくれていた人もいたので、どちらで呼ばれても違和感がないので。

●普段は
普通に販売業(小売)で仕事してます。
って書くとよくわかりませんが、本屋さんで本売ってます。
最近のリニューアルのあおりを食らって、仕事が結構きつくなりつつある今日この頃。でも勤続年数、ここに書けない位なっがいです。

●趣味
多趣味は無趣味。
本屋の割に買う本の数は少ないし。お金ないから。
何にでも興味を持つ分、広く浅くしか経験してません。
最近はゲームばっかだね。

●では、オタクらしく好きな漫画アニメは?
漫画もアニメもヒカ碁。ヒカルの碁。これが現在の一番。
終わって久しいけど、この上を行く作品には巡り会えておりません。
最近好きなのはまあ、君に届け、とか?
エアギアも最近どうよと思っていたのですが、また面白くなってきてるかも。リボーンとかもいいよね。ワイルドライフも再燃かも。少年漫画ばっかか。
漫画はかなりの数の作品内容知ってるよ。買ってないけど。職業柄。立ち読みで済ませたり。

●じゃあゲームは。
一番を誇るのはMOTHER三部作でしょう。これより上もまた、ありません。
ホントは全ての人にオススメしたい逸品です。
普通に好きなのは、ドラクエ8とか、昔のだけどピノッチアの見る夢とか。腐乙女らしくアンジェリークなんかもやってましたよ。
b_worksはなんだかんだでおっかけやってますね。この会社、設立前からクリエイターさんのファンでしたから。
現在プレイしているのはサモンナイト3。
やっと一週目クリアして、怒涛の勢いで二周目プレイ中。
二周目ボーナスと、ブレイブクリアをやめたのもあって、進むのが早い早い。

●一番好きな二次元キャラは。
進藤ヒカル。
長いオタ歴史の中で、ロディ・シャッフル、秋せつらを経て、一位に躍り出ていらい不動。

●三次元人で好きな人いないの?
三次元人は色々変わるんだもん……。
個人的にではなくて芸能人とかになっちゃうと、ずっと好きでいるのは難しい。
でも好きなのは糸井重里。ロンブーのアツシも、見た目が好き。
あ、見た目だけの話なら椎名桔平とかね。

●好きな音楽とか
クラシックが好きなのね。主にベトベンね。
ポップスはアーティストではなく曲単位で好き嫌いを決めるので、好きなアーティストってのは特にいない。
スカパラは聴いててウキウキする。
チェッカーズとBOOWYはすげえ好きだった。
ゲーム音楽もかなり好きだよ。

●じゃあ映画。
映画はほとんど見ないけど、ダントツ皇帝ペンギン。
泣けるのはディープインパクト。
最近深夜というか朝方に見た男たちの挽歌はかっこよかった。

●小説
ほとんど読む暇が……。
○マシリーズがいい。
みんなにオススメしたいのは、最近書籍化もされたブログ小説。
ぼくたちと駐在さんの700日戦争。
このブログでもリンクさせていただいてます。
笑っちゃうし泣いちゃうし、大変だよ。もうホントにすごくてオススメ。

●生まれ変わったら何になりたい?
生まれ変わりってのがあるのかどうかも謎ですが、ナマケモノか深海魚。
椎名はこの人生、色々な事を考えて探索するのが大好きな生活を送っています。興味のあることはなんでも調べて実践してみたいタイプです。
だから、のんびりなにも考えずに過ごす一生なんてのも、よさげな気がして。


他になにかあったっけ……さして面白い事も書けなかったな……。
面白おかしい文章を書ける人を尊敬します。
とりあえず、今回はこんなところでw
また何か思いついたら書こうかななんて!
(小説書きなよ……)


2007.04.24

 巡は今日初めて、ミズの元となっている水盤の姿を見た。
 それは深い深い藍色で。絵柄は入っていないが、意識して作られた色むらが目を楽しませる、上品な雰囲気を持つ水盤だ。荘二郎は何の銘もないと言っていたが、大量生産とはいえひとつひとつ手で作られただけの事はある。
 そこには、薄いピンク色の水蓮が活けられていた。

「おじいさんはいつも、お庭の蓮の池から、このお花を持ってきてくれるんだよぉ」
 その水盤に腰掛けながら、ミズはニコニコと笑っている。
 今のミズを水盤からあまり離してしまうのは良くないんじゃないかと考えて、天笠家まで足を運んだ巡だったが、一見してミズに、弱っているような変化は見えない。
 水盤自体も、巡の目から見てどこが良くないのか判断することは出来なかったが、荘二郎の話によると、もう全体的に弱っていて、目には見えにくい亀裂もあちこちに生じているらしい。いつ真っ二つになってもおかしくないから、おいそれと動かすことも出来ない状態なのだ、と、少し悲しそうに見える表情で言っていた。
 それでもこうやって、ちゃんと水を張って花を活けている。

「ミズはさ、どうしてこうやって、物の怪になったんだと思う?」
 何とはなしに、巡はミズに訪ねてみた。その言葉に、ついて来たかぼも巡に視線を向ける。
 ミズは、いきなりの巡の質問に、うーんと首をかしげて困った顔を作る。
「わかんない。でもぉ、この水盤を大事にしてくれる人と、お話が出来るかもしれない存在になれたのは、嬉しいよぉ」
 物の怪になったからといって、全ての人間と会話できる訳ではない。ミズはまだ生まれてから百年しか経っていないという話だが、その間に、ミズの存在に気付いたのは、荘二郎が初めてであったらしい。
 なにもこんな今わの際になってと思わなくもないが、こういう時だからこそ、ミズの存在力が強くなったのだと考えられなくもない。
 命の、最後の灯し火のように。
「そうだよな。物の怪と人間は、会話が出来る。……なあ、かぼ」
 巡は、今度はかぼの方に話を振った。
「物の怪はどうして、人間の姿で生まれてくるんだ?」
 巡の言葉に、かぼはキョトンと目を見開く。
 数秒そうしたあと、かぼはあからさまに呆れた表情で巡を見た。
「別に全ての物の怪が人間の格好をしている訳じゃないぞ。人間であるぬしが、人間の形をした物の怪しか認識できていないだけだ」
 物の怪の総数で言ったら、人間と話の出来る物の怪のほうが、出来ない物の怪よりも数は少ないかもしれない。話す機会がないからこそ、人間である巡には認識しにくいだけで、本当はそこかしこに物の怪は存在しているのだ。
「だとしてもだ。じゃあなんで、かぼやミーシャやシンや、ミズみたいな物の怪は、人間みたいな姿で生まれてきたんだ? 元は人間じゃないだろう?」
 かぼは何だかわからないが、ミーシャは川で、シンは猫で、ミズは水盤だ。人間でないものから魂を独立させて生まれてきた彼らが、どうして人間の姿でいるのかが、巡にはわからない。
 かぼは、どこか遠くを見つめるような表情で、巡から視線を外した。
「正直、そこのところの真実は、わちら物の怪にもわからんよ。だが……」
「だが?」
「人間の姿に転じる物の怪の多くは、人間と関わりの深い環境にいることが多い。だから、人間の姿になって生まれてくるのかもしれん」
 かぼは再び、巡を見た。
「人間と、話がしたいのかもしれんの」
 人間の使う言語を用いなければ、人間と交流を図るのは難しい。
 人間を含む、全ての生物の力が弱まる魔の刻でしか大手を振って存在できない魔物たち。けれど、それでも、いつの世もその生命力で大股闊歩で生きる人間に。
 憧れて、いるのかもしれない。
「己らを生物の代表のように勘違いしている種族だがの。それをまるごと否定できない魂の強さを持っているのが人間だ」
 憎まれ口も忘れないかぼ。だが、別にそんな人間を責めている様子でもない。
「人間と、何らかの形で関わりたい願望の表れなのかもしれんの」
 もちろんかぼにも、真実はわからないけれど。

「ミズはぁ、おじいさんと話がしたかったよぉ、ずっと~。やっとそれが叶ったんだもん、すごく嬉しいさぁ~」
 これまで生きてきた百年間のうちの、まだほんの一ヶ月ほど。
「ミズの水盤をこの家に置いてくれた人のことは、ミズも憶えてないけどねぇ」
 物の怪として魂を得る前のことは、ミズもさすがにわからないらしい。
「だから他の物の怪のことはわからないけどぉ、ミズは絶対、人とお話したくて、お礼言いたくて物の怪になったんじゃないかなあって、そう思うよぉ。この水盤で心を癒されてる人たちに、ちゃんとその気持ちを、水盤も受け止めてるよって、そう教えてあげたくて……」
 嬉しそうにそこまで言って、ミズはふと俯いた。
「でもぉ……おじいさん、まだミズに美味しい水くれないんだよ。どうしてなのかなあ。ミズのこと、嫌いになっちゃったのかなあ」
 それでもそんなはずはないとでも言いたそうに、ミズは言葉にしてしまった後で、フルフルと首を振った。

 そうではないのだと、巡はミズに言えなかった。

 水が変わったのではない。ミズが変わったのだ。
 巡があの小川の水を持ち帰った日だって、荘二郎はその水を、水盤に張ったらしい。けれどその時ですら、ミズは水が綺麗になったと喜ぶ気配はなかったそうだから。

 どう言えばいいのかわからない。
 自分が言っていいのかどうかも。

 荘二郎はこれから、どうするつもりでいるのだろう。





==椎名の呟き==
最近、仕事からの帰りが遅くて……更新飛び飛びになってしまって申しわけありませんです。
昨日も早くからグッスリ寝込んでしまいましたあ~;;
あ、一応もう一度確認しておきますね~。
物の怪の存在定義は、もちろん椎名のこのお話でのことですから!
もしも読んで下さる方との見解の違いがあっても、そこはご容赦下さいませね~。

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2007.04.22

 荘二郎から聞いた話を、巡はそのままかぼに伝えたが、やはりかぼは、さして驚いた様子は見せなかった。
「そんな感じはしていたよ。魂の消えかけてる物の怪は、案外とわかるものだ。だが……」
「だが?」
 思案顔になるかぼに、巡はその表情を覗き込む。
「大抵、物の怪なんてのはその運命を甘受するようにできているというか、それが常なんだがの。ミズがそれを受け入れようといていないというのが、気になるところではあるな」
 荘二郎も、そんなようなことを言っていた。
 人間の姿になっているシンが、巡のベッドの上でゴロリと寝転がる。
「オレらみたいなのは、正直寿命なんて存在しないようなものだけどな。だから、付喪神的な物の怪の考え方ってのは、根本からは理解できねえけど……」
 かぼやシンは、元となるそのものの存在が消えて無くならない限りは、その魂は消えることはない。かぼが何の物の怪であるのかは聞かされていないが、これまでの言を鑑みれば、シンやミーシャと同じ存在なのだろう。だがミズは、荘二郎の持っている水盤の寿命が尽きれば一緒に消えてしまう。
 けれど。
「もともと『生きている』者たちと違って、わちらには存在するという事に関しての執着はあまりない。聞き分けのない人間と違って、運命を受け入れるのがたやすくできているからな」
 聞き分けのない人間で悪かったな。
 心の中だけで悪態をつく巡だが、ここで毒づいても始まらないので黙っている。今話しているのはそんなことではないし。
「人間に愛されて生まれた存在だから、ということかもしれんが、ミズのような物の怪など、他にも星の数ほどいるからの。もっともわちらも、その全てを掌握している訳ではないから、実際はどうなのかは、わかりかねるところだが」
 もっとも、存在し続けることへの執着があろうがなかろうが、それは必ず受け入れなければならない運命なのは変わりのないことで、だからどうだという話でもないのだが、何故ミズは、それを認めようとしていないのだろう。
「薄々わかっているはずだって、天笠さんも言ってたけど」
「人間だってそうだしな。巡にはまだわからんだろうが、事故や病気で突発的に死んで行く者以外、大抵は自分の命が終わりかけていることくらいはわかるものだ。だがミズは、それを受け入れようとしていない。理由はあるんだろうが……」
 未練とか、そういうものだろうか。それとも何か別の。
「なんにせよ、それがあるなら聞いてやること位はできなくはないが、運命は変わらん」
 だからな、と、かぼは巡を見た。
「ぬしはどうする。ミズとはあまり関わらない方がいいのではないか?」
 巡はえ、と表情を変える。
「なんで」
「別にぬしがそれでいいのなら、わちは構わんが……ミズと関わっていれば、必ず、ミズの死に目に遭うことになるぞ」
「!」
 ミズと関わった時に、かぼが言っていたことの意味が、今わかった。
 場合によっては、嫌な思いをすることになると。
 ミズは人間ではないが、人間のように会話のできる存在だ。だから、もう話をして、ひとりの人間のように、その存在を認めてしまった。ものの死は全て等しいとはいえ、やはり名も知らぬ存在の死を伝えられるのと、知っている者が死んでいくのは、全然違うものだ。
 だが巡は、まだ本当の意味で「死」というものを知らない。
 まだ誰のことも、失ったことはないのだ。
「それでもまあ、人間の死と物の怪の死は、まったく違うものだがの」
 ほんの少し、巡に気を遣ってるのだろうか、かぼは軽い調子でそんなことを言う。
「違うって?」
 幾度もの死と向かい合ってきたであろうかぼは、フウ、とため息をつく。
「物の怪は、その魂が消えるときに、器もあとかたも残らない。だが生の刻の生き物は……死体というものが、残る」
 そんなことはわかっている。わかってはいるが、それがどれほどの差であるのか、巡にはよくわからない。
「身体が残っているからこそ、その喪失感は、恐ろしくでかいぞ。……まあ、こんなことは口で言ってもわかるものではないし、本当は、その時になって初めてわかるものなんだがな」
 これまで動いてしゃべって息をしていたものが、その機能を一切停止する。
 例えば病気で、もう心臓が動いているだけのような状態になっていたとしても、それはまだ、生きている。
 それがすべて止まったときに。
 その身体は、嘘のように、違うものに、なる。
 もう二度と動かないし、しゃべらない。まるでこれまでのことが、夢であったかのように。
 流れていた血が止まり、体温が無くなった身体は、とてもとても冷たい。
 何年も動いてきたものなのに、そうなった瞬間から、腐敗が始まる。
 生と死の、境界線。

 それを知らない巡には、やはり言われても、心から理解することは難しい。

「話が逸れたな。とにかく、そういう『生物』よりは、物の怪の消失はあっという間だということだ。それでもな、そこにいた者が消えてなくなるという事実に変わりはない」
 だから、それが嫌なら回避することもできるのだぞ、と、かぼは言う。
 ミズと関わるのをやめればいいのだと。
「ミズは、もうそんなにすぐに、消えてしまうの?」
 巡の質問に、かぼは頷く。
「水盤次第だからの。今日消えてもおかしくはないのだよ」
 水盤が壊れたら、どうしてもダメなのだろうか。
 水盤を大事にする気持ちから生まれた物の怪なのに。その大事にしていた人の気持ちが、残ったりはしないのだろうか。
 いや、こんな風に往生際が悪いのが、人間なのかもしれないが。
 かぼがダメだと言っているのだから、そうなのだろう。
「それでも」
 巡は俯きがちになっていた顔を上げた。
「だからって僕は、逃げたりはしないよ。誰も逃げられないのに」
 ミズも、荘二郎も。
 巡が直接の当事者という訳ではないが、そのことを知ってしまったからには、まるで無関係という状態には戻れない。
「天笠さんだってきっと、辛くない訳はない。ミズだって」
 荘二郎やミズが、今どういう風に考えているのかも、ちゃんとはわからない。けれど、それを知っていてやる存在は、多い方がいいような、そんな気がしたのだ。
「もっと、天笠さんにもミズにも話を聞きたい。僕だけ無関係を決め込みたくない」
 一大決心をするような感じでもなく、淡々と言う巡。
「そうか」
 そんな巡に、かぼはただ頷いた。

 巡がそういう気でいるのなら、かぼはもう、何も言うつもりもなかった。





==椎名の呟き==
重いのかな? そうでもないのかな?
行かなければいけない側の気持ちがわからないってのが、書き手にはきついんですよねー。
だって本当のところは、死ぬ瞬間までわからない訳ですし^^;

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2007.04.20

 二人きりの和室で、巡と荘二郎は、しばし無言で向き合っていた。

 再び天笠和菓子店を訪ねた巡だが、今日はかぼはつれてきていない。というよりは、かぼ自身がついて来ることを辞退した。
「どうせ、黙って聞いていることしかできないからの」
 というのは、かぼの談。おそらく、これから巡が荘二郎から聞きだそうとしている話の大筋を、かぼはもう理解しているのだろう。そしてそれがどんな内容であれ、かぼは反抗する気も意見する気もない。ならば、巡が自分で聞いて、自分で判断した方がいいだろうと、そう考えたのかもしれない。
 巡の方にも、確信できていることが少なくともひとつはあった。

「なんで、嘘をついたの?」
 巡の言葉に、荘二郎は無言のまま見返してくる。
 ミズは今、巡の家でかぼたちと遊んでいて、ここにはいないから直球での会話が出来る。正確には、巡が心置きなく話を進められるように、かぼがミズを家に呼び出したのだが。
「天笠さんがミズを良く思ってなくて、それで水盤をいい加減に扱っているなんて、嘘だ」
 だって、ミズはシュークリームが好きだと言っていた。
 天笠和菓子店が、洋菓子であるシュークリームを店頭に置き始めたのはいつだ。巡の考えが間違っていないなら、それはちょうど、荘二郎がミズと出会った頃ではないのか。
 巡がシュークリームをもらったとき、荘二郎は言った。シュークリームが食べたいと言っている子がいると。それはミズのことだろう。だから、いつでも彼女に食べさせてやれるようにと、むしろそれが一番の目的ではなかったのか。
 ミズは、シュークリームの存在をテレビで知ったとも言っていた。どんな形でかは知らないが、ちゃんとテレビだって見させていたということだ。
 ミズのことを、その魂ですらどうでもいいと思うくらいにうとましく思っているのなら、そんなことをするだろうか。
「なんで、そんな嘘をつくのかが知りたい」
 荘二郎の言を嘘だと決め付けて、巡は話を進めた。
 多分、間違いではないだろうと。
「……」
 荘二郎は、一瞬だけ目を閉じる。
「あまり深入りをさせて、嫌な思いをさせるのもどうかと思っていたのだがな……あれから考えたが、お前さんも物の怪と共にある身、あまり子供扱いして隠すのも良くないのだろうな」
 物の怪というものの性質を知っておくのも悪くないだろう、と、荘二郎は前置きした。
「私の水盤の扱いは、以前も今も変わってはおらん」
「……え?」
「変わったのは、ミズの方だ」
 言いながら、荘二郎はほんの少しだけ、ため息をついたように見えた。
「どういうこと?」
「水盤に張る水も、活ける花も、これまでとなんら変わってはおらん。水盤で花を活けるのに最良であるはずの水を、そうでないように感じるようになったのは、ミズの方だ」
 荘二郎は、再び目を伏せた。
「寿命なのだよ。ミズのな」
 荘二郎の率直な一言に、巡は目を見張った。
「……寿命?」
 荘二郎が本当のことを言っていないというのはわかってはいたが、今のその言葉は予想外だった。というか、巡にはその言葉のちゃんとした意味が、上手く頭の中に浸透してこない。
「我が家に伝わる水盤はな、随分長いこと大切に扱われてきたが、これといった名品ではない。銘もない数物のひとつだ。これまで良くもったものだとさえ思える」
 それは、つまり?
「もう限界なのだよ。ミズの本体である水盤は、もう壊れかけておる」
 つまり。
「本体である水盤が壊れたら、ミズの魂も、保ってはいられまい」
「……」
 人間が年を取っていくのと同じように。
 そしていつかはその生涯を終えるのと同じように。
 形のある物はいつかは朽ち、その役割を終えるときが来る。
「知っての通りであろうが、ミズは水盤そのものの物の怪ではなく、うちにある水盤のそれだ。その水盤が壊れれば、ミズはミズとして生きてはいられないということだ」
「……そんな」
 ミズは、年老いて生涯を閉じようとしている存在なのだと。
 荘二郎は、そう言っている。
「物には必ず寿命がある。今が、ミズのその時なのだ。だから、どんなに大切に扱ってやろうが、朽ちかけているミズの身体は、それを正常には感じ取れなくなっているのだよ」
 美味しいと言っていた水を、美味しく感じられなくなってしまったのは。
 ミズの魂そのものが、老いて消えかけているから。
「それを薄々感じ取ってはいるはずなのだがな。ミズは表面上認めようとはしていない。だから、多くを言えないでいたのだが……うちの水盤は、もういつ壊れてもおかしくはない状態だ」
「ミズが……」
 消えようとしている。
 そして彼女は、それを認めようとはしていない。
 だから、美味しくなくなった水を、おじいさんの体調不良のせいにしようとしている。

 語られたことの意味を悟るのに、頭が追いついてこなくて。
 どう反応していいのかもわからないまま。

 巡は、俯いた視界に広がる畳を、ただ意味も無く見つめていた。





==椎名の呟き==
でも、テレビでシュークリームを見るっていうのは……。
シューのCMとかってあまりなさそうだし、食べてるシーンのあるドラマでも見てたのか?

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2007.04.18

「ただいまぁ~」
 それまでかぼの肩にとまっていたミズは、元気に跳ね上がって天笠和菓子店の正面まで飛んでいってしまった。重力に反した飛行能力だが、背中の羽がまったく動いていないところを見ると、やはりそれはただの飾りであるらしい。

 かぼが、ぼそりと呟いた。
「ミズのいうおじいさんとやらが、天笠のじいさまだとするなら、やはりもうひとつの可能性の方が高くなってきたの……」
「もうひとつの可能性?」
 かぼの小さな声は、巡にだけ聞こえる。オウム返しで聞き返した巡に、かぼは苦笑とも取れる微妙な表情をして見せた。
「場合によっては、メグがちょっと嫌な思いをするかもしれん」
「僕が?」
「わちは慣れておるからの。構わないが……」
 いちいち歯切れ悪く、しかしあまり歓迎したくないようなことを言うかぼ。しかし「慣れている」というのだから、巡だけでなく、かぼにとってもあまり良くない状況が待っている、ということなのだろう。
 嫌な予言をしてくれる。
「まあ、なるようにしかならんものだ。様子を見てみるかの」
「……」
 巡とかぼは、そろって天笠和菓子店ののれんの前に立った。

 店の前に姿を現した和菓子店の主人は、巡とかぼの姿を見とめて、いささか目を見開いたようだった。
「綺麗なお水持って~、ここまでついてきてくれたのぉ」
 クルクルと飛び回りながら歌うように話すミズの姿を追うでもなく、店の主人は巡とかぼだけを、数秒眺めていた。
「……入りなさい」
 それだけ言って、主人は店の奥へ引っ込んでしまう。
 厳格そうに見えるが、商売をやっているだけに、普段はそれなりに愛想の良い主人だが、今日のこの様子は、歓迎されているのかどうかも微妙だ。だが入れと言ったのだから、門前払いという訳ではないし。というか、門前払いされるいわれもないのだが、先ほどの主人の表情の硬さが、予想外の来訪者を拒んでいるようにも見えたのだ。

 巡がこの店の奥まで通されるのは、初めてのことだった。
 普段は用事もないのだから当然かもしれないが。
 店の主人――天笠荘二郎(あまがさ・そうじろう)は、決して人付き合いの嫌いなタイプではないが、いかんせん巡は子供だから、個人的に荘二郎と親しくなる機会など、これまでには無かった。

「店先であまり大きな声を出すものではない」
 荘二郎は、ミズに対して言う。
「はあ~い」
 年寄りに説教されてもおののくこともないミズだ。もっとも、荘二郎が生まれた時からミズは彼を知っているのだから、恐れる必要などないのかもしれないが。
「少し遊んで来なさい。私はこの子達と話がある」
「えぇ~、だって、ミズが連れてきたんだよぉ」
 自分だけ追い出されることに納得のいかない様子のミズだが、荘二郎の性格を知っているのか、一度反論しても聞き入れてもらえないと見るや、仕方ないといった体で部屋から出て行ってしまった。
 荘二郎、頑固親父の部類なのかもしれない。

 静かな和室の中で、かぼが口火を切った。
「姿が、見えておるのだの」
「ああ」
 かぼの言葉に、短い言葉だけで頷く荘二郎。
「じゃあ聞くが、あの子は最近、水盤に綺麗な水を入れてもらえないせいで元気が無いとか言っていたが、本当なのかの」
「……」
「物の怪や、付喪神といった存在のことを、ぬしはどれだけ知っているのかの?」
「……」
 かぼが何を言っても、荘二郎は黙ったままだ。
「もしもぬしが、己の持ち物である水盤を邪険に扱っているのだとすれば、その水盤の物の怪であるあの子はいずれ消えてしまうだろう。それを知っているか?」
 直球で物を言い続けるかぼの言葉をずっと黙って聞いていた荘二郎だが、ややあって一言だけ、そうなのだろうな、と呟いた。
「わちは別にそれについて説教する気はないがの。人が人に対してそうであるように、物の怪に対してだって、個人が個人をどう思おうが勝手だ。ただミズは、ぬしが水盤を大切にしないのは、主の身体が悪いからなのではないかと心配しておる。実際そうなのだとしたら、そっちの問題もあるでな。こうして出向いてきた訳だが」
 荘二郎は、巡とかぼを交互に見つめた後で、口を開いた。
「その物言いから察するに、お前さんは人間ではないようだな。あの子以外にも、そういう存在があったのだな」
 荘二郎は立ち上がった。
「私があの子の存在を知ったのは、つい最近だ。まだひと月と経っておらん。ただ大切にしてきた水盤に、あんな幽霊のようなものが取り憑いているのだと知って、平静でいられる人間はそうはおらん。そうだろうが」
「……だから、その元である水盤を放って、あの子を追い出しにかかっているというのか?」
「だとしたらどうだというのだ?」
 言い捨てる荘二郎に、かぼも立ち上がった。
「別に、ならこちらも何も言うことはない。物の怪は常に受身でしかないのだからな。例えそれが己の魂の存続に関わることであっても、ミズだって納得せざるを得まいよ」
 畳の上に座ったまま黙り込んでいた巡の袖を、かぼはくいくいと引いた。
「帰るぞ、メグ。これ以上話すことはない」
 淡々と話を進行させるかぼだが、巡は黙って立ち上がった。
「期待に添えなくて済まんな」
 二人に背中を向けたまま、荘二郎は呟く。さっさと帰れと言わんばかりの態度だ。
 立ち上がった二人は、挨拶もないまま奥の和室から出た。

「どうしたメグ。やけに大人しいの」
 かぼと荘二郎のやり取りの間、黙って聞いていた巡の顔を、かぼは覗き込んだ。何事かの意見でも言いそうなものなのに。
「いや……」
 和室から店先に出て、そこでフワフワと飛び回っているミズを見つけた。ただ黙って飛んでいる分には、誰かに発見されることはまずないだろう。
 巡は、そのミズに対して一言だけ質した。
「ミズ、シュークリームは好き?」
 巡たちの姿を見て飛んできたミズは、いきなりの質問にキョトンと目を見開いた。
「うん? 好きだよぉ。初めて食べたのは最近なんだけどぉ。テレビとかで見て、ずっと憧れてたからぁ。あれ、ホントおいしいよねえ」
 ほんわかと顔をほころばせるミズに、巡はそう、とただ頷いた。
「また来るよ」
 多くは語らずに、巡とかぼは店を後にした。
 きっと何事か話し合ったのだろうと単純に考えているらしいミズは、にこやかに手を振って巡たちを送り出す。

「どうした、メグ」
 良くわからない行動を取る巡に、かぼはゆっくり歩きながら、彼の顔を見上げる。
「うそだよ」
 一言だけ、呟く巡。
「なんで、うそなんかつくんだ」
 足許に視線を落とす巡に、かぼはうんうん、と頷いてみせる。
「さあな……でも、わちらのためかもしれん」
 巡が何を言わないでも、かぼはわかっているようだった。

 多分また、天笠和菓子店には出向くことになるだろう。





==椎名の呟き==
何がうそなんでしょうか。
とりあえずちょっとシリアス展開が予想される第三話なのですが……とにかく和菓子店、客少なそうですね。

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2007.04.17

 綺麗な水を入れてもらえないと、どうして元気がなくなるのか。
 結局かぼは、全て忘れ去ってしまったかのようなノリで、まったく巡にその話を聞かせる気配が見えない。黙っていても教えてくれそうなミーシャはついて来なかったから、知りたければかぼかミズに聞くしかない。かぼの肩に座って道案内をするミズを眺めながら、巡はそれをかぼに訊ねてみた。
「ん~」
 珍しくかぼが、言葉を選ぶような素振りを見せる。
 もしかして、聞いてはいけないような類のことなのだろうか。それにしては、あまり深刻な様子でもない。
「メグがこれまで出会ってきた物の怪はな、全部、そのカテゴリ全体の物の怪なんだな」
 急に難しい言い回しをするかぼ。
「ミーシャは、川から生まれた物の怪。シンは猫から。それは知っておろう?」
「うん」
「ぶっちゃけた話をすれば、彼らはその存在が無くならない限り、魂が消えることはない。わかりやすく言えば、ミーシャは『川』から生じた物の怪だから、川そのものが無くならない限りは、この世界に存在し続ける物の怪なんだ」
 もしもミーシャの傍から川という存在が消えてしまった場合、ミーシャがこの世界に存在し続けるためには、川のある場所に移動しなければならない。逆に、近くに川さえあれば、よほどの不具合が生じない限り、ミーシャはそこで生き続けることになる。
 シンもしかりだ。
 猫から生まれた存在であるシンは、この世界から猫そのものがいなくならない限り、生き続ける。
 彼ら物の怪は、その元となるものの象徴か守り神であるかのように、そのものの傍で存在し続けるのだ。
「だが、ミズは違う」
「……?」
「さっきこやつは、ここから少し離れた場所にある、家の中にある水盤の物の怪だと言ったな。つまりミズは、水盤という存在そのものの物の怪という訳ではなくて、どこぞの家にある、ひとつの水盤から生まれた物の怪ということなのだ」
 種類としての『水盤』の物の怪ではなくて。
 どこかの家の、たったひとつの『水盤』の物の怪。
「それって、ぜんぜん違う存在なのよぉ」
 かぼの肩から、ミズの声が跳ね上がった。
「私は~。人間に大事にされなかったら、生まれなかった存在なのね」
「大事にされなかったら?」
 物の怪たちの言葉は、巡にはいちいち難しい。
「ミズはの、人間の言葉で言うなら、付喪神のようなものだ。付喪神ってのはつまり、道具や器物も永い時間が経つと魂が宿る、と言われている、その精霊のことなんだがの。ミズが生まれたのは、その家にある水盤が、永い時間をかけてとてもとても大切にされたからだ。そうだろう?」
 かぼの言葉に、ミズはうんうんと頷く。
「物の怪は~、偶発的に生まれるのも多いんだけど~。ミズはね、人に、うんと大事にされたから宿った、ひとつの水盤の魂なのね。だから」
 だから、人間に大事にされなくなったら、ミズの魂は力を失くしてしまう。
 かぼやミーシャやシンと、ミズとの決定的な違いはそこにある。
 多くの物の怪は、母体となる物体が魂を持ち、形を成した、独立した存在だ。だからその母体さえあれば、弱点を衝かれるような事故が起こらない限りは、ほとんど消えることはない。
 けれどミズのように、人間から注がれた情によって魂を得た存在は、もちろん母体である物体そのものが壊れたりするのも困りものだが、それとは別に。
 人から愛されなくなったら、その存在は消えてしまう。
「ミズの水盤はね~、もう二百年位前からあのおうちにあるのよ。凄いでしょ。で、ミズは百年位前に生まれたのね。二百年ずっと大事にされてきたんだから。いまのおじいさんだって、生まれたときからあの水盤の近くで生きてて、長い間大事にしてくれてたのよ。だもの、そのおじいさんがミズに美味しいお水をくれなくなったのには~、絶対に何か理由があるはずなのね」
 別にどうでもよくなったとか、面倒くさくなったという可能性は微塵も考えずに、ミズはただ、おじいさんが体調不良を起こしているのではないかと心配をしている。
 人に情を注がれることによって生まれた存在なのだから、当然かもしれないが。
 彼女が、人間を疑うことなど無いのかもしれない。
 だから、巡も余計なことは言わなかった。
 それに、本当にそのおじいさんの体調が良くないのかもしれないし。だとしたら、ミズではなく人間からの意見として、おじいさんは病院に行った方が良い。巡が肩からぶら下げている水筒の中の水は、ただ綺麗な水というだけで、万病に効く魔法の薬ではない。

 事情を知ってしまえば、それなりに気にはなるものだ。
 あまり面倒事には関わりたくない巡でも、そのおじいさんとやらに会って、事実関係を確認したくなってしまった。
 結局は、お人よしなのかもしれない。
 それとも単に、かぼの勢いにつられているだけなのか。それはわからないけれど。

「ほら、あそこの家がそうだよぉ~」

「ぬ?」
「あれ?」
 道案内をするミズの指し示す方角の通りに歩くしかなかった巡とかぼだが、やけに巡の家の近所に近付いていると思えば。
 示されたのは、天笠和菓子店だった。
 なんてこった。
 それならそうと、もっと早く言ってくれれば良かったのに。
 ミズがフラフラと飛び回った軌跡をきっちり逆戻りしていた一行。目的地が天笠和菓子店だったのなら、雑木林からここまで、最短距離の三倍ほどの距離を歩き回っていたことになる。

 巡はがっくりと肩を落とした。
 この気持ちは、体力バカの物の怪たちにはわかるまい。





==椎名の呟き==
第一話から名前が出ている天笠和菓子店、実は伏線でした。
というか、この名前を出してから伏線にしてしまいました。当初の第三話は、全然違う舞台の話のはずだったのになあw

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2007.04.15

日記って言っても、椎名は基本的に仕事をしてて、仕事のない日は母の家でゲームをプレイ、仕事の後家にいる時はこのブログの更新かやっぱりゲーム、みたいな、仕事以外はかなり引きこもった人生なのですけどね。
いや、ちゃんと用事があれば出かけますが。
でもつまり、家で大人しくしてるのが好きなんですね。
そうでなくとも、最近仕事忙しくて良く眠れるし……(´Д`;)

母がちょっと色々体調がよろしくないんで、休みの度に家に出向いているのですけど(椎名自身は父と二人暮らし)、体調悪いといってもただ一緒にいてご飯とか作ったりするだけで、見舞いや介護が必要という状況ではないので、行ったら行ったでやることはないので。
自然出来ている暇な時間を使ってゲームをやる、と。
母の家にはPC環境がないので、PS2を持ち込んであります。

なので、最近はずっとサモンナイト3……。
遅いよ!
でも椎名はこれまでずっと、シミュレーションRPGを大の苦手としてきたので……。
FFTではステージ2から先に進めないし、昔のバハムートラグーンでも、いわゆるハマリに捕まって前進不能に陥り、早い話が将棋のようにコマを進めて戦略を立てる類のものとは死ぬほど相性が合わなかったという……。

でも最近、DSのルミナスアークというゲームをどうしてもやってみたくてですね。これもいわゆるSRPGなのですけど。キャラクターが好みだったもので。
で、苦手なSRPGでも、DSだったらあまり難しいシステムは導入できないだろうってんで、ちょっと頭のリハビリみたいな感じでプレイを始めて。
で……これでそこそこ手ごたえはあったんだけど、つまり。
あまり面白くなかったんだな。椎名的に;;
これ、男性なら面白いのかな。
いや、女性でもヒロインが好きなら面白いのかもしれない。
どうもその、色々な面が椎名の好みとは違った……と。

だって、せっかく各キャラと仲良くなって、多少イベントスチルとかあっても、エンディングの分岐とかないしさあーーー(この辺が本音か)。

だったらもう、少し頭がこなれたところで、ずーっとやってみたかったサモンナイトを始めちゃえばいいじゃん! と。
あ、サモンナイト1も、途中でできなくなったんだっけ。昔。
とりあえず、一番設定的に好きな3を速攻始めようと。
だって、先生って。先生ってーーー(萌)。
あ、すいません、椎名は基本が腐女子なんで。
多分一生、アティさん(女主人公)ではプレイしないのではないかと。

そんでずっとコレをプレイしてたんですけどね。
基本的にあまり時間がないので、プレイできるのは週に二回、数時間。何日もかけて、やっと今14章なのですが、何しろ戦闘がシビアで、一回のイベント戦闘で5~6時間は当たり前、みたいな(リセット含む)。
なんでこんなに進まないのかと思ったら、毎回ブレイブクリアを目指していたから、なのですね。
ブレイブクリアするとパーティポイントというもののボーナスがついて、パーティポイントを消費して利用できるパーティ能力というのを活用したかったのですよ。
でもこのブレイブクリアというのが……大変で……。

戦闘要員のレベルが一定以下でなくてはいけない。
回復アイテムの使用数も一定以下でなくてはいけない。
その戦闘における戦闘不能者を出してはいけない。

というもので。
これがホントに大変で。
一時間近く戦闘しても、終わらない。あげくに後半で戦闘不能者が出たら最初からやり直し。そりゃ時間もかかりますって。

で、最近気付いたのですけどね。
パーティ能力で椎名が重宝している、戦闘時のMPやHPの割増、特殊能力における消費MPの節約。これって、レベルさえ上げちゃえば、割増されてるのと同じ状況じゃん。
敵の魔法の被ダメ軽減なんてのもあるんだけど、これだって強くなれば問題ないし。どうしても使いたいパーティ能力は、ブレイブクリア無しのパーティポイントでも充分まかなえる。
なにも、一定以下のレベルでヒイヒイいってなくたって、レベル上げちゃってパーティ能力使えなくたって、全然楽なんじゃないかな?
と……。

今更気付きましたよ。

という訳で、13章からブレイブクリア無しで、レベルをガンガン上げちゃってからイベントバトルに挑んでおります。
精神衛生上、非常によろしい。
なんだ、もっと早くに気付いてればよかったよ。あはははは。

一回転目は主人公レックスで、ナップ君と仲良しなので、これのEDをとっとと見て、次はキュウマさんに行きたい椎名です。
キュウマさん、アウトオブ眼中だったのですけど、どうしても、声が……声が!
藤原さんの声でしゃべられると……!!
ヒカ碁で緒方に骨抜きになって以来、藤原さんのファンでもある椎名です。
ホントはカイルやスカーレルもいいんだけどなあ。
ていうか、いい人いっぱいいるんだよなあ~。
地道に頑張ってます。

でも念のため、たまに更新遅れるのは、ゲームのせいではないですよお~!
更新遅れている時は、大抵爆睡してます。ゲームすらやる元気がありません。

どっちも無理のない程度に頑張りますからねー。
(年取ると、無理がきかないのがハッキリ自覚できますな……)


2007.04.14

 川の水に浸かって身体の汚れを落とした彼女は、フウ、と深いため息をついた。
「まさかこんなところにプリンがあるなんて、思わなかったよぉ~」
 川の端でタプタプと腰まで水に浸かりながら、足をばたつかせる物の怪。
「こっちだって、こんなところでプリンを台無しにされるとは夢にも思わんかった」
 巡の分のプリンを分けてもらってなお、かぼは不機嫌極まりないといった体で頬を膨らませる。食べ物の恨みは怖いのだ。本来、何を食べる必要もないはずの物の怪なのだが。
「ゴメンねぇ。最近ミズ、元気がなくて~、新鮮なお水を求めてたら、こんなところに辿り着いちゃったんだけどぉ」
 掌大の少女、名前はミズというらしい。
「ぬし、水蓮の精か何かか?」
 身にまとうフレアのワンピースのようなピンクの着衣と背中についている羽が、水蓮の花びらに酷似している。もっとも、背中の羽は実際に身体から生えているわけではなさそうだから、ただの飾りなのだろうが。物の怪は物の怪なりの洒落っ気があるらしい。
「いんやぁ、そういうわけじゃないんだけどねぇ。水蓮には何かと縁があるんでぇ。この花って可愛いでしょ~?」
 全身で水蓮をアピールしているのだが、彼女は水蓮の精というわけではないらしい。
「で、なんでこんなところに来たんだ。お前、どこの子だ?」
 ミーシャがミズの身体をつまみあげる。ピタピタと水を跳ねていた足が、何度か空を切った。
「つままないでぇ。だから~、ミズ最近元気なくてね」
「それは聞いた」
 回りくどい表現を一蹴するミーシャ。顔が顔だけに迫力があるが、同じ物の怪同士だからだろうか、ミズは悪びれない様子でミーシャを見返す。
「ん~、ミズはねぇ、こう見えても水盤の物の怪なのね」
「……すいばん?」
 その単語を初めて聞く巡が、眉を寄せる。
「花器の一種だの。少し深い皿のような陶器での、そこに水を張って、花を活けたりするものだ。なるほど、それで水蓮か」
 水盤のような花器には、水蓮を生けることも多い。ミズが水蓮に縁があるというのは、その花器に水蓮が生けられることが多いということなのだろう。
「また思いもよらない無機物の物の怪だな。で?」
 川から生まれたというミーシャも大差ないような気もしないでもない巡である。川だとか水盤だとか、もともと動物のような命を持っていないものが、こんな風に人間とも話せる物の怪になるという事実が、今いちピンとこない。
 どういった拍子で、彼らが意志を持つようになるのだろう?
「ミズは~、ここから少し離れたところにあるおうちの水盤の物の怪なんだけどね。最近そこのおじいさんがぁ、ミズの水盤に、きれいなお水を入れてくれなくなっちゃったのね」
 ちょっと前まで、ちゃんと塩素を抜いた美味しい水をいつも張ってくれて、そこに綺麗な花を活けてくれていたのに、最近の水は、美味しくないらしい。ここで言う「美味しい」という表現は、そのままの意味ではないかもしれないが。
「だからミズ、どんどん元気なくなっちゃって……」
「それはそうだの」
 シュンとするミズに、かぼはうんうんと頷いてみせる。
「それはそうだって、どうしてだよ」
 どうも話の流れが掴めない巡。水盤は、綺麗な水を入れてもらえないだけでダメになってしまうものなのだろうかと思う。
「それはの、うーん、面倒くさいの。後で説明してやるから待ってろ。で、ミズ。つまりぬしは、そのじいさんが最近手抜きしているおかげで元気がなくなってしまって、それで綺麗な水を求めるうちにここに来てしまった、ということなのだな?」
 巡からあっさりとミズに視線を移してしまうかぼ。巡は意味がわからないままだが、今ここでかぼを問い詰めたところで、まともな答えが返ってくるとも思えなくて、だんまりを決め込んだ。
 ミズはブンブンと小さな手と頭を振った。
「違うのよ。おじいさんは悪くないのね。だって今までずっとミズのこと、ホントに可愛がってくれたんだもん。だからね、もしかして、最近おじいさんの体調が良くないんじゃないかって思ってねぇ。だから、おじいさんも綺麗な水を飲めば、きっと身体も良くなるのよ。それで持って帰れる綺麗な水を探してたんだぁ」
「そのちっさい身体で、どうやって水を持って帰るつもりなんだ……」
「気持ちの問題だよぉ」
 気持ちの問題では、身体は治せないことが多い。大体、新鮮な水をひとくちやふたくち飲んだところで、人間はそうそう元気になったりしないものだが。
 そのおじいさんというのが、本当に体調不良なのかどうかも怪しい。今ここで聞いている話は、すべてミズの主観でしかない。
「ぬしひとりの考えと行動では、解決にならんのではないかの。ぬし、どこから来たのだ。帰り道はわかるのか?」
 微妙に嫌な予感のする巡。
 かぼが、何やら首を突っ込もうとしている気配。ドライに思われるかもしれないが、他人の問題にいちいち介入していたらキリがないのだが。
 ――かぼは物の怪だから、時間だけはたっぷりあるのか。
 巡は得心する。
「帰り道はわかるよぉ。もと来た道を帰ればいいんだもんね」
 ニコニコと返事するミズに、かぼは頷いた。
「ここの水は、人間にはあまり知られてないだろうが、街の河川に合流するまでは、確かに人間でも飲める位綺麗なのだよ。ぬしじゃ無理だろうから、そのじいさんにはかぼたちが水を運んでやろうぞ」
 うええ、と顔色を変える巡。
 その行動に、何か意味なんてあるのだろうか。良い水なら、今時コンビニでも買える。それに、本当にそのおじいさんが体調不良なのだとしたら、水を飲む前に病院に行った方が良いだろうし。綺麗な水で即座に元気が出るなんて、ミズが水盤だから思いつく考え方だ。
「なあメグ。わちらに任せておけば良いよな?」
 ニッコリと巡に笑いかけるかぼ。
 最近になってわかるようになった、かぼの微妙な表情。これは何かの企みがあるというか、何事か考えを巡らせている時の表情だ。
 仕方なく、巡は頷いた。
 かぼがここまで乗り気なのなら、意地を張って放っておくのも後味が悪い。
「そぉ? 良かったぁ。おじいさんが元気なくなっちゃったらぁ、ミズ悲しくて泣いちゃうもん」
 ミズは純粋にそのおじいさんとやらに好意を抱いているらしいが、一体どんな関係なのだろうかと巡は思う。本当に、可愛がられていたのだろうか?
 そしてそれは、物言わぬ水盤として? それとも、この姿が見えていて?

 とにもかくにも、巡だけが、水を入れる容器を取りに、家まで走ることになってしまった。
 かぼの方が楽に移動できるのだが、彼女に任せておくと、どんな騒ぎを起こしてしまうかもわからなかったし。

 どうも、面倒くさい事態になりそうな予感のする巡だった。





==椎名の呟き==
まるで妖精のような物の怪、ミズ。
水盤だけに、水の味にはうるさそうです。

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2007.04.12

 7月になっても、梅雨の陽気は尾を引いて、じめじめした日が続いている。からりとした天気の日は少なく、雨天も多い今日この頃だ。
 そんな中、巡はまたも雑木林を歩く。
 うっそうとした木々の間は湿気も強く感じるが、心なしか快適に感じるのは茂る緑のせいか、流れる小川のせいか。ともかく巡は、雑木林を流れる川の上流を目指す。そこいらにいるであろう、ミーシャに会うためだ。
 歩くたびにガサガサと音を立てるのは、スーパーの袋。その中には、プリンがみっつ入っている。
「あまり乱暴に歩くな。プリンが崩れるではないか」
 文句を言うのは、巡の後を軽やかな足取りでついてくるかぼ。
「ならお前が持つか?」
 雑木林の中はそうでなくとも歩きにくいのだ。多少の揺れは仕方がない。どんな場所でもヒョイヒョイと越えられるかぼなのだから、文句を言うならかぼが持てばいいと巡は思ったのだが、彼女は口をへの字につぐんでそっぽを向いた。持つ気なしだ。

 川のほとりで寝そべっているミーシャは、すぐに見つかった。
「よう。どうした今日は」
 人の気配にムクリと起き上がったミーシャは、巡とかぼの姿を見止めて片手を挙げた。相変わらずのフレンドリーさだ。
「プリン持ってきた」
 用件だけを直球で口にする巡。
 本当は、プリンがあるからミーシャも連れて来いと母がうるさかったのだが、ミーシャのような特殊な姿の物の怪を、そうそう家に呼ぶのはあまり都合がよろしくない。いつ誰にバレてしまうやもしれないのだ。巡という逢魔の力を持った人間が存在しているのだから、他に力を持つ人間がいないとも限らないし、そうでなくたって、ミーシャを相手にしている光景を見られただけでも、力のない人間にだってこの姿は見えてしまう可能性が高いのだ。
 いくら魔の刻になりつつある世の中といっても、いきなりこれは刺激が強い。
 なので、仕方なく巡はかぼも連れて雑木林まで足を運んできたのだ。
 三人で、プリンを食べるためだけに。
 とりあえず、シンは猫の姿で気持ちよく寝ていたから置いてきたが。プリンのために今起こさなくてもいいだろうし、人間にして一緒に連れてくると、多分一番やかましい。
「……プリン?」
 心なしか顔をしかめたように見えたミーシャだが、袋をあさって元気良くプリンを取り出したかぼから、彼は黙ってそれを受け取る。
 プラスチックで出来た容器からラップのフタを外して、スプーンですくい上げる。かぼや巡はともかく、ミーシャのそんな姿はやはり異様というか笑いを誘うというか。そもそも雑木林の中でプリンを食す三人組というあたりから、ありえない光景ではあるが。
「ん? なんだこりゃ。この前のと違うな」
 ひとくち口に入れて、ミーシャは不思議そうな顔をする。
「おいしくない?」
 かぼは喜んで食べているが、ミーシャが同じ趣味とは限らない。巡の質問に、ミーシャはいや、と首をかしげた。
「この前初めて食べたときは、正直甘っとろくてかなわんと思ってたんだが、今日のは全然違うな。やけに美味いぞ。これが同じものか?」
「それ母さんの手作りなんだよね。この前のは買ってきたやつ」
 へえ、と感心する仕草を見せるミーシャ。同じプリンという名を持つものが、こうも味も食感も違うものなのかと、そこが不思議でたまらないらしい。美味いと言っているのだからそれは何よりだが、正直甘すぎた前回のプリンも黙って食べていたのだから、ミーシャ、物の怪のくせに人間が出来ている。
 かぼだけが、そんな他人のことなどまるで気にもせずに、プリンに夢中だ。ひとくちふたくちと笑顔で口に運んで、みくち目をすくおうとした時。

 何かが、かぼのプリンの中に垂直落下してきた。

 ベシャッと音を立てて、飛び散るプリン。
「か、か、かぼのぷりんが!!!」
 顔中プリンまみれになりながら、しかしかぼはそれどころの話ではないらしい。
「かぼのぷりんに何かが、かぼの~ッ!!!」
 そんなに錯乱状態にならなくても。
「ちょと待て、かぼ。プリンなら僕のをやるから。ていうか、なんだそれ」
 巡はプリンよりも、落下してきた物体の方が気になる。木の実でも落ちてきたのかと思ったが、それにしては白っぽいような、むしろピンク色に見えたような。巡はかぼのプリンを凝視した。

 足が、見える。

 見間違いでなければ、掌の上に乗るくらいの小さな。人間の形をしているように見えなくもない何かの、下半身が。容器からはみ出た場所で、バタバタともがいていた。
 ミーシャが、その足をヒョイとつまんでプリンの中から引きずり出す。
 姿を現したそれは、息も絶え絶えに口をパクパクとさせていた。
「な、なんでこんなところに、かすた~どのうみがぁ~?」
 ボロボロと涙をこぼしながら訴えるその物体は、掌大ではあるが、人間の女の子のようにも見える。が、いかんせんプリンでぐちゃぐちゃになっているので、何が何だかわからない。

 また、物の怪か……。
 逆さ吊り状態でわめく少女を見て、巡はハア、と、深くため息をついた。





==椎名の呟き==
家に来られると困るから現地に出向いて一緒にプリンって、巡の行動回路も愉快。
かぼがうるさかったのかもしれないけど。
とにもかくにも、第三話開始です。

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2007.04.10

第一話よりも短めな第二話です。
出番が多い少ないは別として、多分レギュラーになるであろう二人の物の怪を紹介するためのお話だったので、あんまり内容はなかったですよね~。
当初の予定では、結構巡とシンが気が合うんじゃないかとか考えてたんですけど、なんか今いちウマがあわなそうですねえ……。
むしろまだミーシャのほうがマシなようにも……。
物の怪はこれで全部ではありません。まだ出てきますよ。

最初からレギュラーであることが決定していた巡の担任、朝比奈高之ですが、これも昔PBMのゲームで使用していたキャラクターです。
このお話と設定が似てるんですけど、妖魔の出てくるお話でね。やっぱり魔の刻みたいな千年紀のお話だったりして(正直、これ系の設定はゴロゴロしてますよね)、朝比奈は妖魔と戦うエクソシストでした……。
といっても、エクソシストはそのPBMのお話の中の職位だったので、彼自体は普通の会社員で、父親が牧師だったんですけどね。
この連載ではまだ髪型の描写とかしてないと思うんですけど、彼も一応教師なので短くまとめているのですが、PBMで使用していた頃は腰まである髪を後ろでひとくくりにしてました。妖魔との戦いで瀕死の重症を負って、その時に髪も焼けて短くなってしまいましたけど……(そういう事もPBMではままある)。
そのPBMのお話の中で、髪が短くなった後「伸ばしてるんだよ! シムラーみたいに後ろで尻尾にしてただろうが!」という台詞を言っている時があって、椎名的に「担当マスター、朝比奈の事シムラーみたいとか思ってたのか……」なんて思ったりもして。

とりあえず、第三話は第二話よりはストーリー重視の話になるかと思われます。第二話の最後でかぼが考えていたことはとりあえず置いておいて、別のテーマのお話になります。
新しい物の怪も出てきますよ。
あんまり物の怪の数増やすと、かぼの出番がなくなるんだけどね……。一応、かぼ中心のお話もこれから出てくると思うので。
というか、かぼよりも主人公であるはずの巡の影が薄いような気がしてならないんですけど。もう少しバイタリティーあふれ出させてくれんものか、少年よ。お姉ちゃんも出番ないし。ヤバイ、姉ちゃん予想以上に母ちゃんに食われてる。
頑張れ人間たち。

ミーシャも頑張れ。

2007.04.09

 土曜日の夕方、かぼは、珍しくひとりで近所の公園に遊びに来ていた。
 公園と言ってもそこは結構大きな敷地で、遊歩道や池や売店などが完備されている、地域の憩いの場だ。スポーツに趣味にと、この公園を活用する人も多い。
 そこをトコトコと歩くかぼを、誰も目に留めない。彼女からアクションをかけなければ、その存在に気付かない人間がほとんどだろう。
 菓子や飲み物を置いている売店を横目で見ながら、かぼはその誘惑を断ち切るように足早に歩く。
 ふと、売店の近くのベンチに見知った顔を見つけた。
 巡のクラスの担任、朝比奈だ。
 無言のまま歩み寄り、ベンチで足を組んで煙草をふかしている朝比奈の隣にちょこんと腰掛ける。かぼの存在は、大抵に人間には気付かれないが、かぼの座る場所には誰も後から腰掛けようとはしない。そこに誰かがいることを認識している訳ではないのに、実に自然に、人々はその場を避ける。物の怪とは、そういうものだ。

「こんな時間までひとりで出歩いてて大丈夫なのか? 嬢ちゃん」

 頭上から降ってきた声に、かぼは隣に座る朝比奈を見る。
「心配は無用だ」
 ニパッと笑って見せたら、朝比奈もそうかと頷き、ポケットをあさった。
「キャラメル、食うか?」
 そう言って出された、前にも一度目にしたことのある小さな包みに向かって、かぼは何の抵抗も無く手を差し出す。
「おくれ」
 両の手を上に向かって差し出したかぼに苦笑しながら、朝比奈は指でつまんだキャラメルを、彼女の手にポトリと落とした。
 早速包みを開いて、キャラメルを口に放り込むかぼ。
「知らない人から物をもらったりして、怒られないか?」
 片眉を吊り上げて笑う朝比奈に、かぼはむぐむぐと答える。
「わちには説教する親はいないから大丈夫だ」
 それに一応、かぼにとっては知らない人間ではない。
「いや、親じゃなくてもいるじゃん。うるさそうなのがひとりさ」
 かぼは、うんうんと頷く。
「確かにうるさいの。けど今メグは宿題をやっているでな。邪魔になるから追い出されてる最中なのだ。そうでなくとも一昨日の夜、わちらが騒いだせいで寝不足になって、えらく不機嫌だからの。これ以上怒らせるのも面倒だから、こうしてブラブラしてる訳だが」
 朝比奈は、合点がいったように頷いた。
「それで昨日、ダルそうだったのか……」
 てっきりこのところの蒸し暑さで眠れていないのかと思っていたが、別の理由があるらしいことを悟って、朝比奈はまた苦笑する。
 かぼは、そんな朝比奈を眺めた。その視線に気付いて、朝比奈はかぼの口許を指差す。
「前に作ったのよりも砂糖の量を減らしてみたんだよ。うまいか?」
 かぼは、素直にこくりと頷く。
「前のもこれもうまいぞ。ぬし、器用だの」
「それはどうも。ちゃんとわけてもらえたなら良かったな」
 ハハハと笑う朝比奈を、さらに眺める。
「ぬしは、最初からわちのこと見えておったよな」
 真っ直ぐなかぼの視線を受けて、朝比奈は短くなった煙草をベンチ横の灰皿に押し付けた。
「うん。成瀬は気付いてなかったろうけどな」
 かぼが何気なく教室後部の戸を開けて入ってきた時から、朝比奈はかぼの存在に気付いていた。そのかぼが隣まで来た時に、初めて仰天して叫んだ巡に、噴き出しそうになるのをこらえるのが大変だった。
 朝比奈が巡にキャラメルをふたつ渡したのは、最初からかぼにも分けることを想定していたからだ。だからかぼは巡に「かぼに飴をくれた」と言ったのだが、それでも巡は気付かなかった。もっとも、それだけで気付く訳もないが。
「ぬしは自覚のある逢魔だの」
 朝比奈の様子から、物の怪に出会ったのはかぼが最初ではないことを察して、かぼは言う。朝比奈は頷いた。
「逢魔が時だからな。オレはその仕組みも知ってる。だから、近いうちに話をしたいとは思ってたんだ」
「そうか?」
 かぼに向かって小首をかしげる朝比奈に、かぼも同じように首をかしげて問いかけた。
「時代が進めば人間も進むんでさ。昔と違う点も、いくつかある」
 朝比奈は、フウ、と軽くため息をつく。
「今のこの時代はさ、逢魔が時に関する研究機関もあるんだ」
「そうなのか! それは初耳だの」
 この世界の何事も理解しているような素振りを見せるかぼだが、実は知らないことも多々ある。
「完全水面下の話で、一般人はまったく知らないけどさ。これから来る魔の刻への対策として、対魔物用の公的機関を、これから何十年かかけて作り上げようとしているんだよ、人間も」
 それは本当に、誰も知らない。
 知っているのは、その機関に属している人間のみだ。そんな漫画のような団体の話など、口で言われても誰も信用すらしないだろう。
「オレは機関の人間じゃないっていうか、その機関すらまだ正式には動いてないんだけどさ。その機関と色々と関わりもあったりしてさ。だから言っておくんだけど」
 朝比奈は、一呼吸おいてから、再び口を開いた。
「一応、気をつけときなよ。変なのに目を付けられないようにさ。彼らの中には、物の怪に悪印象を抱いている人間もいるから」
 朝比奈の言葉に、かぼは軽くため息をつく。
「それは仕方がないの」
 研究機関というからには。魔の刻についての情報も持っているということなのだろう。
 すなわち。
 今の逢魔が時はまだいいが、時が進んで本格的な魔の刻が訪れれば、生の刻の住人、つまり人間を中心とする生物に、危害を加える魔物が出現してくるという事実を。
「対抗策を打ち立てているのだな。人間も」
「何か困ったことがあれば、呼んでくれていいから。多分、キミの知らないことも結構知ってると思うぜ、オレは。人間の側のことならな」
 意外なところに、意外な人間もいたものだ。
 これも、この地ならではということか。
 かぼは思う。

 この街に存在する、生の刻と魔の刻を繋ぐゲートの存在を。
 いつか、巡にも知らせなければならないのだろう。





==椎名の呟き==
秘密その2、朝比奈先生の謎。
ただの脇役ではなかった模様。ていうかただの街ではないらしい。あらら。
でもその話はまあ置いといて、第二話はこれにて終了。第三話はまたちょっと違うお話になります。

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2007.04.08

 6月といえば、梅雨だ。
 夏休みまであとひと月というこの時期、雨はもちろん多いのだが、それよりも暑さが勝る日もある。しかも、初夏特有の湿気も加わっているから始末におえない。
 今日の巡は、かなり寝苦しい夜を過ごしていた。
 本格的な夏を迎える頃には、そこそこ暑さにも慣れてくるものだが、夏の入り口というこの時期は、なんだかんだ言って身体にこたえるものかもしれない。
 暑い。というか息苦しい。
 なのに。
 それなのに、ベッドに横たわる巡の腹の上には、黒い猫がどっかりと乗っている。
 暑苦しくてかなわない。
 何度か下ろしてみたのだが、巡の腹の何が気に入っているのか、すぐにまた乗りあがってくる。彼も物の怪とはいえ、猫でいる時は猫そのものだから、人間に良く懐いているのは納得できなくはないが、それにしたって、普通の猫だって、暑い日には人肌に寄り付かないものなのに。そうでなくとも猫は暑がりなのではないのか。
 いっそかぼの寝る部屋にでも行ってくれれば楽なのだが、どうもこの猫は、寝る時は巡のことがお気に入りらしい。かぼは寝相が悪いのかもしれない。
 寝る時まで一緒ではさすがに落ち着かないからと、せっかく余っていた部屋をかぼに使わせているというのに、これでは状況が変わらない。冬なら歓迎するが。
 ガマンできなくなった巡は、再び猫を掴んでベッドの隅に放った後、間髪入れずに呟いた。
「シン……変化……」
 その瞬間、その小さな身体が大きく歪み、黒猫は巡よりも数cm身長の高い少年に変化した。
 ベッドの上に尻をついて座り込んだ姿勢で、シンはキョトンと巡を見る。
 5秒ほどの無言の間の後。
「……う暑っちいぃぃ!!」
 バタバタと手を使って自分の顔を仰ぎだす。
 だから暑いと言っているではないか(言ってはいないが)。
「何だよ何だよメグ、なんでこんなムシムシした部屋の中で、狭い場所に固まって寝てなきゃならないんだ!?」
 その言葉をそっくりお返ししたい巡だ。
「だから人間に変わってもらったんだよ……。できれば離れてそこいらで寝てよ」
 巡はゴロリと寝返りを打ってシンに背中を向けた。
「え? オレ床で寝なきゃいけないの? ていうか目覚めちゃったんだけど。こんな寝苦しい日に呑気に寝てられないよ」
 さっきまで爆睡していなかっただろうか。
「なあ、アンタ今小学生なんだっけ。あれか? 宿題とかやっぱりあるわけ? そろそろ勉強難しくない?」
「……」
 人間にしたらしたで寝苦しい。これならいっそ猫の方がマシだったかとげんなりしてしまう巡だが、生憎と人間から猫にする方法は聞いていない。というか他人には不可能かもしれない。
「あのな、僕は明日学校あるんだから……」
「学校かあ。人間てさー、あんなとこ毎日通ってて疲れないわけ? でも時々顔出すと、子供が給食の残りくれたりするんだよな。今の子って結構いいもの食べてるよなー。本当は人間の食べ物は猫にとっては良くないものが多いっての、ほとんどのヤツがまだ知らないんだよな。まあオレは物の怪だから関係ないんだけど~」
 ……本当にうるさい。
「ホントに頼むから、お前かぼのところにでも行って……」
「呼んだかのー」
 ガチャリ。
 かぼ登場。巡はベッドの上に撃沈した。
「なんだシン、人間の姿になどなって、メグと楽しく世間話か。ならかぼも仲間に入れてくれなければ寂しいじゃないか」
 プウ、とふくれるかぼ。しかしその愛らしい? 姿は、枕に突っ伏す巡には見えていない。
「いや、仲間はずれになんてしてないよ。メグの学校の話をしててさー」
 かなり一方的にだが。
「そうかそうか、かぼは一度だけ、メグの教室に行ったことがあるがな、最近の学校というのはなかなかモダンだの」
「え、マジ? おれ建物の中には入ったことないんだよ。ここより涼しいのかな?」
 問題がずれてきている。というか。
 多分、ここで起き上がって怒鳴り散らすのは簡単だ。近所迷惑など知ったことか。しかし、それをやったところで、おそらく状況がこじれる一方であることを、巡もそろそろ学習してきている。
 ここは、黙殺した方が得策ではないだろうか。
 しかし、ここで上掛けをかぶる訳にもいかない(暑い)し、どうしたものか。巡はうつぶせたまま思考を走らせた。
 そんなことを考えれば考えるだけ睡眠が遠のいて行くだけなのだが。
「なあメグ、今日の給食ってなんだ? 美味いものか?」
 ゆさゆさ。
「……」
「猫もいいけど、あれ人間で食べたらどんな味なのかな。やっぱ違うかな」
 多分、人間の姿でうちのものを食べるのと大差ないと思うよ。
 心の中だけで呟く巡。
「メグ、今度変わったもの出てきたら、持って帰ってくれよ」
 巡は、むくりと起きだした。
「……給食は、食べられる限り残しちゃいけないんだ」
 ベッドから降りて、巡は自分の机の引き出しをガタガタとあさり出す。母が買っておいた猫用のジャーキーが、この中に仕舞ってある。
 引き出しをかき回しながら、巡は少々顔をしかめた。
 しまった。引き出しの中がジャーキーくさい。場所を考え直さないと。
 そこからジャーキーの袋を取り出すと、巡はクルリと振り返り、シンにその袋を手渡した。
「お腹すいてたんだな。給食はあんまり持ってこられないけど、とりあえずこれ食べてガマンしててくれないかな。うまいぞ」
 ニッコリ笑って渡すと、別に今腹減ってる訳じゃないけど~、などと言いながらも、シンは素直にそれを受け取った。
 かぼだけが、微妙な顔つきでシンを見る。
「のお、シン。どうせ眠れんのなら、たまにはかぼの部屋に来て話をせんか。話せることは山ほどあるぞ~」
「え? なんで? ここでもいいじゃん」
「かぼの部屋の方が面白いぞ」
 シンにジャーキーを渡したあと、静かな仕草で再びベッドに横たわった巡に視線を流すかぼ。さっきから極端に口数の少ない巡だが。この状況で笑顔で話す彼の、目は笑っていなかった。
 そろそろかぼも、巡のことを学習しつつある。

 マジで爆発、5秒前。

 悪気があるわけではない。
 しかし、巡に悪いと思っている訳でもない(何しろ悪気はないから)。
 ただ、悪気は無くても怒られることはある。悪いと思っている訳ではないのに、そのことで怒られるのは、逆にシャクでもあったりするわけで。
 かぼはシンを連れて、いそいそと巡の部屋を出た。

 静かになった部屋で、巡はゴロリと寝返りを打って仰向けになった。そうでなくとも寝苦しいのに、あの騒ぎのあとスラリと眠れる訳がない。
 どうすればいいのか。
 人間にしてうるさいくらいなら、猫のままで暑苦しいのがまだマシなのか。
 巡は二者択一にせまられる。

 遠慮しないで猫の姿のシンを締め出してしまえば良いということに気付かない巡、彼が安眠できる日は遠い。





==椎名の呟き==
寝苦しい話を書いている途中で爆睡してしまった椎名です。申し訳ないです。
前日コレクションキングで根を詰めたのがいけなかったのか。反省。

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2007.04.05

 巡の目の前であぐらをかく少年は、さっきまで確かに黒猫だったはず。
 巡は、マジマジとその少年を眺めてしまった。
「……ホントに、あの黒猫?」
 目の前で変身した姿を見ても、にわかには信じがたい。かぼやミーシャを散々見た後でも、こうもありえない光景を見せ付けられてしまうと、やはり頭は追いついてこないものだ。
「そだよ。しっかしなー、いつまたこの姿になれるかわからなかったから、ミーシャがいてくれて助かったわ」
 地面にあぐらをかいたまま、両手を後ろについてリラックスする元黒猫。
「あらあ……人なら、プリン食べても大丈夫かしら……」
 そして、相変わらず天然な発言をかます母。
「あ、おかまいなくー。いちいちこの人数分おやつ用意してたらキリがないでしょ、ママさん」
 猫のくせに、お気遣い君。
「ま、いい子ね。心配しなくても大丈夫よ」
 そして母はいそいそとプリンを取りに台所に向かってしまった。
「どうなってんだ……」
 そんな母と確かに血は繋がっているはずなのだが、この事態にひとりついていけない巡。それが普通の感覚というものだが、すべからく状況は、多数決で動いて行くものだ。この光景に疑問を抱く巡に同調してくれる存在は、今ここには無い。
「なんだ、ぬしは人型になれたのか。なぜ今まで隠しておったのだ?」
 かぼが呆れたように腕を組んで見せたが、もちろんこの状況そのものはすっかり受け入れてしまっている。まあ、彼女も人間ではないのだから仕方がない。
 シンと呼ばれた元黒猫の少年は、疲れたように首を振った。
「いや、隠してた訳じゃないんだけどな……」
 見ての通り、彼は猫が変化した物の怪だ。猫と人と、ふたつの姿を持ち合わせる。が、その仕組みに問題があった。
「一応オレ、基本形は猫なんだよ。人でいるよりは猫でいるほうが楽は楽なんだけど、困ったことに、猫でいる時のオレは、マジで猫なんだよなあ」
 言われている意味が、巡にだけはわからない。

 つまり、彼は。
 人でいる時は、人の言葉も解するし、人と同じ行動パターンを持つ。故に、人としての常識や理性も持つ。猫でいたときの自分の行動も憶えている。
 が、ひとたび猫に戻ると。
 彼は、本当に猫なのだ。
 人の機嫌を読んだりはできるが、基本的には人の言葉を解さない。猫として生き、猫としての本能を持つ。まるっきり存在が猫。だから、自分の意志では人間型に変化することはできないし、また、しようとも思わない。彼は、猫だから。
 日向ぼっこをしたり遊んだり、犬と張り合って追いかけっこをしたり。もちろんご不浄だって人目をはばかることなく砂場でカリカリやったりする。物の怪でありながら、しつこいようだが、まるっきり本物の、猫。
「さっきミーシャが言ったキーワードで他人から命令されないと、オレは人になれないんだよ」
「キーワード?」
 巡とかぼは、同時に首をかしげる。
「変化しろ、だな」
 訳知り顔で、ミーシャが呟いた。
「こいつは先の魔の刻の終わり頃に生まれた若い物の怪でな。オレたちは馴染みがあったから、オレはこいつの性質を知ってたけど、生の刻ではまったく顔を合わせてなかったからな。久しぶりだろう、人型になったのは」
 ミーシャの言葉に、シンはうんうんと頷く。
「ミーシャ以外に知り合いがいないわけじゃないけどな。生の刻でみんな篭っちまってたし、実際人型になったのは数百年ぶりだ」
 進んで人間の姿になりたい訳ではないが、猫の姿の時は、他の誰ともコミュニケーションが取れないから、そういう意味では苦労することになる。
「不便だの……」
 げんなりするシンに向かって、かぼは同情の目を向けている。

 実際、物の怪というのは基本的に、この世に存在するありとあらゆるものの思考を理解できるものだ。動物と人間では思考形態も違うわけだが、それすらもおおよそ理解することが出来る。人間のように言葉でコミュニケーションを取る訳にはいかない動物でも、相手が今どんな気持ちでいるのかとか、その相手の立場で理解することが可能なのだ。だから、それと同じように、人間とも人間特有の言葉でのコミュニケーションを取ることができる。時代が流れて言葉や社会が変わっても、その時代に瞬時に馴染むことができる、器を持たない魂の存在。それが物の怪なのだが。
 時々、シンのような物の怪も存在する。
 人型になってさえいれば、他の物の怪と変わらない能力を有するのだが、猫の姿をしている時の彼は、本当に猫でしかない訳で。
 物の怪の中では、かぼの言うように、かなり不便な部類に入る。
 魔の刻の社会も色々複雑なようだ。

「道理でどんな名前で呼んでも反応しないはずだ。ちゃんと名前を持っていたのだな」
 かぼは妙な方向で納得している。
 しかし実際、拾ってから名前をつけようとしなかった訳ではないのだが、どんな名前をつけても、黒猫はまったく反応を示さなかったのだ。むしろ、ただ「猫」と呼んでやった方が、まだ反応があった。
 なるほど元々名前を持っていたのなら仕方がないと、かぼは合点がいったような顔をした。
 そして説明を聞くうちに少々落ち着いてきた巡、言っていいものかと悩みつつ、シンを眺めた。
「でもそれって……人型になった時、かなり恥ずかしかったりしない?」
 それでも言ってしまった巡の言葉に、シンはガックリと首を垂れる。
「恥ずかしいなんてモンじゃないぜ……」
 猫であるシンは、猫以外の何者でもないから、人間であった頃のことなど何一つ憶えてはいない。だが人型になったシンは、猫であったときの自分の状況をいちいち覚えている。
 例えば人に腹を撫でられて伸びている姿や、用を足すためにバリバリと地面を引っかく姿、追いかけているうちに切れたトカゲの尻尾にはしゃぎまくる自分。その他もろもろの、猫として過ごした時間を、全て覚えているのだ。そんな姿を、惜しげもなく他にさらしていたという事実を。
 恥ずかしくない訳がない。
「でもまあ、ずっと人の姿でいるのは正直疲れるんでさ。やっぱり猫でいることが多いんだけど、ぶっちゃけ猫でいる時は何もすることがないから、用事ができたときはいつでも変化させても構わないぜ」
 くったくなくそんなことを言うシンだが。
「そうか。では今度、母上か芽衣の膝の上でくつろいでいる時にでも、変化させてみようかの」
 楽しそうにからかい混じりで提案するかぼ。そんな彼女の一言に、シンはブルブルと首を振りまくった。
「そ、それはちょっと!!」
 由美香と芽衣の膝の上は居心地がいいだけに、一番発生しやすいシチュエーションだ。

 本当にかわいそうだから、それだけはやめてやれ。
 巡は早々に、シンに対して同情の眼差しを向けるようになっていた。





==椎名の呟き==
物の怪はありとあらゆる存在に対してコミュニケーション可です。
だから実は強力なバイリンガルなのです。世界各国どの国の言葉も、意識することなく自然に操ることが出来る。
いいなあ。

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2007.04.04

 今日も普通に学校に行って、約束通りかぼもついて来なかったおかげで平凡に一日を過ごして、そして家に帰ってきた巡は、庭での賑わいに気付いてそこを覗き込み、一気に脱力した。
 巡の家には家庭菜園くらいできる程度の小さな庭がある。そこには小さな池まであって、昔は父親が趣味で錦鯉を飼っていた。その後はその池の中身が金魚になったりしたものだが、今では水が張ってあるだけで、何もいない。
 そこに、ミーシャが浸かっていた。
「……ミーシャ……」
 ガクリとひざをつく巡に、池の中で膝を抱えるミーシャがやれやれとため息をよこす。
「かぼが、巡の家にいい水場があるっていうから来てみりゃあ、随分と小さいんで驚いた。膝丈くらいしかねえじゃねえか」
 一般家庭にある人工の池なのだから仕方がない。
 身長160cmもない巡ですら、プールの代わりにもならないささやかな池に、巡よりも頭ふたつ分はでかいミーシャが詰まっている光景は、滑稽ですらある。
「かぼの言うこと鵜呑みにしちゃ……」
 彼らは付き合いが長いのではないか。かぼの言うことなんて案外適当で大雑把であるなんて、ミーシャにもわかりそうなものだが。
「なんだ失礼だな。別にかぼは嘘は言っておらん。なかなかハマッているじゃないか」
 池の傍で座り込んでいたかぼが、心外とばかりに頬を膨らませながら巡を見上げる。
 確かに、嵌まっているが。物理的な意味で。
「あらメグ、帰ってたの? それなら声かけてよ。メグの分もおやつ用意するから、手を洗ってらっしゃい」
 家の中から顔を出す母、由美香。
 一瞬ドキリとした巡だが、その手に持っているトレーには、すでに二人分の紅茶のグラスとプリンが乗っていた。
 かぼと、ミーシャの分か。
「ミーシャさん、ストローで大丈夫かしら? でもグラスで直によりは飲みやすいかなあ」
 くちばしの形状を気にする母。
「おいこら、かぼ!!」
 巡は、小さな声でかぼを招きよせた。
「なんだ」
「お前な、不可抗力で見えるものは仕方ないけど、わざわざうちの連中に物の怪を紹介することはないだろ」
 そんな巡に、かぼはいやいやと首を振る。
「これからは、このくらい慣れておいた方が生きやすい世になるぞ。それに別に、わちが母上にあらためて紹介した訳ではないんだが、うっかり庭で話しているのを見られてしまったわ」
「……」
 うっかりというか、そりゃあ庭で話なんかしてれば気付かれるのは当然だろう。
 しかし本当に母、この河童を見て何とも思わないのか。かぼのことは普通の子供ではないと認識していたとしても、実際かぼは普通の人間と同じようにしか見えないし、あの驚異的な身体能力を見た訳でもないのに。
 どこでそんな免疫が出来ているのだ。
「母上も芽衣も確かにおおらかな性質だのー。猫と天井星取りゲームをして遊んでたら、飛んだり跳ねたりしても全然物音がしないと感心しきりで喜んで観戦くれたしの」
「……て、天井星取りゲーム……?」
「天井に沢山星を張ってな、それをジャンプして取って、どっちが早く集められるかのゲームだ。しかし相手は猫だでの。意味がわかっておらんから、かぼの圧勝だったが」
 かぼ巡の見ていないところで既に様々な猛威を振るってくれているらしい。
 巡の知らないうちに、母や姉は人外に飛んだり跳ねたりしているかぼや、その相手をしている猫を日常で眺めていたということか。
「……少しは加減してくれ……」
 学校に来ないからと安心していたが、来ないなら来ないで別の場所で心配の種を増やしていそうだ。
「メグ、わちを誰だと思っているのだ。ぬしよりもずっと長く生きておるのだぞ。人生の先輩に心配は無用だ」
 人じゃないだろう。
 言えばこじれるから、巡は黙っていたが。
「ほらほらメグ、早く手を洗ってらっしゃい。でもプリン多めに買っておいて良かったわ~」
 別段気にかかることのある様子でもない母。
 そうだ。かぼよりも、こんな神経でこれまで生きてきた母のほうが脅威だ。これまで気付きもしなかったが。

 巡の家の飼い猫になってしまった二股尻尾の黒猫が、母の足に擦り寄ってきた。

「あら……猫ちゃんプリン欲しいの? でも猫にプリンは良くないわよねえ。今度別のおやつ買ってきてあげるから、今日はガマンしてもらえないかしら」
 律儀に猫に話しかける由美香を見て、池の中で座り込んでいるミーシャが細い目を見開いた。
「何だ、シンじゃねえか」
「え!?」
 知り合いか!?
「こんなところにいたのか。久しぶりだな。っつっても、それじゃ話も出来ねえな。シン、変化しろよ」
 親しそうに一方的にしゃべるミーシャの言葉の直後に、シンと呼ばれた黒猫は突然グワッと、その姿を歪ませた。
 一瞬にして、その容積が数倍に膨れ上がる。
「!!??」
 目の前の光景をうまく把握できない巡の目の前に、ひとりの少年が、現れた。

「はー、助かった……」

 庭に尻をつき脱力するその少年、バサバサの黒い髪を掻きあげて、巡に向かって「よう」と片手を挙げてみせた。

 今度はまた、何が起こったのか。





==椎名の呟き==
秘密そのイチ、黒猫の正体。
やはり彼? も立派な物の怪です。

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2007.04.03

 それにしても。
 どうしても、気になる。
「なんでミーシャなんだ?」
 この河童のどこがミーシャなのかと、巡は考えに考えた。眼光鋭くいかつい見た目のこの河童に、何ゆえミーシャ。それに昔名付けたという昔は、一体いつの昔なのか。おそらく外国との国交の少ない時代に、なぜ外国っぽい名前。
「物の怪に国境はないぞ。だが、別に外国人を意識した名前ではないんだがな。最初は『みーちゃん』と呼んでおったのだが、それが幼子に呼びかけるように『みーしゃん』になり、そしてみーしゃ、と……」
「なんで幼子……」
 巡の当然の疑問に、かぼは大げさにため息をついてみせた。
「ミーシャはこれでも生まれた時は本当にかわいかったのだぞ。まるで人間の赤子のようにな。それが今ではこの有様だ」
 かわいかった?
 赤子のよう?
 それが真実なら、今では見る影もない。
 というか、物の怪でも成長したりするのだろうか。なら何故、かぼは長い時代、子供の姿のままなのか。大体、物の怪の身体は人間と違って形だけの器でしかないみたいな話をしていなかったか。
 ミーシャに対し、疑問大爆発。
「物の怪は、様々なものから変化した者だという話はしただろう。このミーシャは『川』という存在から生まれたわけだがな、常に川というものの変化を受け止めながら、暮らしていかねばならん。……昔はどこの川も本当にきれいだったんだがの。今では水質も落ちて、その鏡であるミーシャも、こんな姿になってしまった」
 そういえば、感知したくない変化さえも、取り入れなければならない例もある、なんてことを以前にかぼが言ってはいたが。
 母体である川がどんどん美しくなくなってしまったせいで、ミーシャはこんな風に衰え乱れ、何気に現代ナイズされてしまったのか。
 これはこれで味があるような気もするが。
「ミーシャ。ぬしはあくまで『川』が転じた物の怪であって、どこか特定の川の傍でしか暮らしていけないわけじゃなかろう。世界には、いや、日本の中にだって未だ美しい川はいくらでもあるぞ。そこに引越せば、そんな姿には……」
 そういうものなのか。
「別にオレはこれでかまわねえよ。なかなか気に入ってるぜ? 別にこの程度で済むんなら、わざわざ遠くに引越しする方が面倒くせェ」
 この辺りのどの川で生まれたのかはわからないが。
 巡はミーシャを見ていて、何となく感じた。面倒くさいなんて言い方をしているけれど、きっとミーシャはここの土地や川が好きなんだろうなと。だから、そんな姿になっても離れないんだなと。
 そんな姿でも、なんとなくミーシャが幸せに満足しているように見えたのだ。
 もちろん、本当は幸せで満足、なんてことはないはずだ。ミーシャが生まれた頃の川というのがそれほど美しいものであったか、巡には到底想像もつかないが。本当だったら、そんな環境で暮らせたらもっといいんだろう。
 環境問題とかになると、巡が自分ひとりでどうにかできる次元ではないし。
 いまここにあるこの小川は、魚もいるというし、巡からしてみれば随分きれいな環境に見えるのだが、色々と複雑な問題もあるのだろう。
「まあな。結局今そこにあるものを、あるがままに受け止める。それがわちらにとっては当たり前のことだからの」
 うんうんとうなずくかぼ。
 難しい問題だが、巡も自分なりに考えてみる。

 人間でも物の怪でもきっと変わらない。
 好きなものについては、案外何でもガマンできてしまうものだし、受け入れてしまうものだ。
 好きなもの、という言い方でいいのかはわからないが。

「ミーシャはつまり、ここが好きなんだな」
 そう言ってみたら、人相の悪いミーシャは巡に向かって破顔した。
「その通りだな。ぶっちゃけ言っちまえば、ここが故郷というわけじゃねえが、流れて流れ着いたこの場所は、これでなかなか住み心地のいいものだぜ」
 ボンボンと、ミーシャはその大きな手で巡の頭を優しく叩く。
 爪が食い込んだら痛いでは済まなそうなカギ爪だが、きちんと加減してくれている。
 かぼが、ああそうだな、と思い出したように手を打った。
「そういえば、わちがぬしに名前をつけてやったのは、この土地ではなかったな。あれはどこだったか……」
 かぼ、物忘れが激しいにも程ってものがある。
 彼らがいつどこで知り合ったのかは知らないが。
 それぞれに違う土地から流れ着いたのだとしたら、今ここで二人が再会するというのは、とてつもない確率の偶然ではないのか。
「まあ、わちらには縁というものが生まれているからの。こうして再会するのもそうおかしいことでもない」
 巡の疑問を、縁という一言で一蹴してしまうかぼ。
 しかしかぼの様子から察するに、かぼよりもこの河童のほうが、後に生まれているということなのか。本当に物の怪というのは、見た目では語れない。
「ていうか、今引っ越すのが面倒って話、してなかった?」
 ここが故郷でないなら、どこかから引っ越してきたということではないのかと、巡は自然にそう考える。
「徐々に、流れてきたんだよ。気の向くままにな。そして大分前にここにたどり着いて、そのまま居着いちまったわけだが、ここもその頃から考えたら、随分変わっちまったな」
 まあその姿を見れば、そうなのだろうが。
 それでも環境のいい場所を見つけて、あらためて住み直すという考えはないということか。
 この街この場所に、どんな思い入れがあるのかはわからないけど。

「わちは今、こいつの家にいるからの。いつでも遊びに来るといいぞ」
 サラリと言うかぼに、巡は内心仰天した。
 家主の許可もなしに、なんてことを。
 まあ、ミーシャは悪いヤツではないというか、実際話してみれば、かぼよりもずっと話のわかるタイプなのかもしれないが。何しろその外見を、巡の家族に見られるのは。
 かぼを認識した時のように、平然としていてくれるものだろうか。
「おい、かぼ!」
「なんだ、メグ?」
 まるで罪のなさそうな顔。
 外見云々の話は、かぼにはきっと通じないだろう。

「その、家に来るときには極力厚着で来るようにしてくれ……」
 それだけを言うのが精一杯の、土壇場に弱い巡だった。





==椎名の呟き==
これからの季節(この話の中では現在6月)、あまり厚着をさせるのも気味悪いというか。
そういう問題でもないというか。
あまり出歩かない方がいいんじゃないかとか。<作者が突っ込むな

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2007.04.01

 実習で採ったユスラウメは、けっこう美味かった。
 苺だのバナナだの、店で売っている果物に比べて大味で青臭かったけど、野生であんな風に食べられる木の実があるというのは、巡にとっては初めての経験だった。母や姉にも見せてやったら、喜ぶかもしれない。

 そんな訳で、巡は学校裏の雑木林まで足を運んできた。

「メグは雑木林が好きだのー」
 何気についてくるかぼ。
 これは本当にどうかと思う巡なのだが。
 こう外についてこられては、街中に存在を認知されてしまうのも時間の問題なのだ。実際、天笠の主人もかぼのことは知っていた。成瀬家にも来客が無い訳ではないし、隠し通すのは至難の業だ。見た目普通の人間と変わらないから、かまわないのかもしれないが、クラスメイトとかに見られてしまうと、もう学校にかぼがやってきてしまっても、存在を隠せなくなる。
 それならそれで、学校に来なければ良いだけの話だが。一応かぼは、もう学校に不用意には行かないと言ってはいる。実際どうなるかはわかったものではないが。
 だがそういう話をしても、かぼは「メグよりはずっとうまいことやるから大丈夫だ」と、呑気なものだ。
 まあ、それはともかく。
 この雑木林には、確か小さな川も流れていた。あれは新発見だ。辿ってみれば、街中の河川に繋がっているのかもしれないが、今まで存在も知らなかったのだから、もっとじっくり見てみたい。
 歳相応に冒険心旺盛な巡だ。
 一応は私有地である場所で好き勝手な巡だが、この辺は立ち入り禁止と区切られている場所ではないので、暗黙の了解で時々近所の人間がヨモギや栗を採りに来たりしている。持ち主である藤乃木学園グループの理事長は、それと知っていて開放したままにしている、案外おおらかな人間だ。だから学校での企画の場合には一応許可を取ったりもするが、実際はそれが通らなかったことはない。

 記憶の場所に、巡は小さな川を発見した。
「魚とかいるのかな……」
 背の低い草の中に忽然と姿を見せる水の流れを、巡はしげしげと眺める。
「魚もいるぞ。ここは中央付近はそこそこ深くなっているから気をつけたほうがいいのー。流れがきつい訳ではないが、ぬしの身長なら腰までは浸かってしまうぞ」
 かぼは言いながら、早速川の端に足をつけてバシャバシャと遊びだす。
 とりあえずそのまま上流を目指しだして、巡は一瞬足を止めた。
「!!?」
 上流の方向に、何かいる。
「かぼ、ちょっと待て。あそこ」
 目で良く確認できない。というか、見たこともない造形をしているせいで、その形が上手く頭に入ってこない。
 巡はそれを、凝視した。
「ん? おお、なんだ、ミーシャではないか」
「は、なんだって!?」
 駆け出すかぼを追いかけながら、その何かを見極める。足許がおろそかになっているが、そんな場合じゃない。アレは一体、なんだ。

「ミーシャ! ぬしも目覚めておったのかの~」

 大声で呼びかけるかぼに、何だか良くわからないものは、ゆっくりとこっちを見た。つまり、動いた黒っぽい部分が頭部だと目で確認する巡。
「ミーシャ……?」
 あれは、ミーシャと呼ばれる類の見た目だろうか。
「なんだ、オメエも目覚めりゃ相変わらず元気だな。オメエよりはオレは頻繁に動いてたぞ」
 その何かが、しゃべる。今更だが、生き物だったのか。
 というか。
 近付いてよく見てみれば、それは形だけは、人とよく似ていた。
 真っ黒に見えた頭部は、伸びっぱなしの髪がドレッドのように、しかし中途半端に絡みついたものだ。不思議とボサボサな感じがしない。
 そして決してつぶらとはいえない細い瞳。眼光が鋭い。
 なにやら柄物のTシャツとハーフパンツをズタっと着こなしたその身体は妙に浅黒く、裸足のままの足と骨ばった手の指の先にある爪はカギ爪だ。引っ掻かれたら、多分致命傷になる。そして指の間にあるそれは、もしかして、水かきか。
 何よりも、その顔は。
 口があるべき場所に見えるそれは、唇ではなく、くちばしだ。空を飛ぶ鳥ではなく、水辺にいるタイプの平べったいアレ。

 そんな物体が、ゆったりと川辺の岩に、腰掛けている。
「こやつは水というか『川』から生まれた物の怪でな。人間で言うところの河童みたいなものかの」
「河童ぁ!?」
 言われてみれば、そう見えなくもないが、何しろ巡は河童の実物を見たことがない。しかし本に出てくる河童は、もうちょっとこう、子供っぽいというか可愛いタイプが多かったような気もする。
「もちろん人間の知っている河童は、人間が想像で作り出した河童だ。だがおそらく、こやつのような物の怪がもとになっているのだろうな。だからまあ、河童という種類で呼んで構わんと、そういうことだ」
 そういえば、河童には付き物のいくつかが足りない。
「皿と甲羅……」
 その河童の姿に見入ってしまっていた巡が、それだけを呟いた。
 それを聞いた河童が、ゲタゲタと笑い出す。
「皿も甲羅も持ってねえ訳じゃねえぞ。別に普段は出さなくてもいいだけだ。ある意味人間の観察力も鋭いからなぁ。オレにそういうアイテムがあるってのを、昔の人間どもは見逃さなかったんだな。一応人間の描くアレも、間違いじゃねえな」
 鋭い眼光のミーシャ、何気に豪快だがとっつきやすい好印象だ。
「しかしアレだな。もうオメエが人間とツルんでるってことは、いよいよ魔の刻も本領発揮ってことか」
 かぼに対して気さくに笑いかけるミーシャに、かぼは「まだまだだがな」と返事をしてから、何気に胸を張った。
「今は『かぼ』だ。そう呼ぶがいいぞ」
「なんだ、また名前変わってんのか」
 また?
 巡はかぼを見る。確か、名前はないとかそんなことを言ってなかったか。
「昔人間につけられた名前なぞ、もう憶えておらんわ。わちらは本当はこれといった名前は持っておらんものよ」
「でも……」
 昔つけられた名前があるなら、それでも良かったんだろうに。
 憶えてないというのは、本当だろうか。
「名なぞ、何でも良いわ。ミーシャは、その昔わちがつけてやった名前だからの。こやつもずっとそれを使ってはいるが」
 何をどう感じて、この河童にミーシャなどと名付けたのだ、この少女は。

 しかしつまりまた、巡は物の怪を発見してしまったということか。

 かぼは、自分との出会いがきっかけで、これから次々と物の怪に出会うことになる、とは言っていたが。ここ数日で、黒猫と河童。確かにこれまで、こんな連中を見たことなんてなかったのに。

 ただ少なくとも言えるのは。
 初めて出会ったのが、この河童ではなくかぼだったのは、巡にとっては幸運だったということだ。
 コレと最初に出会っていたとしたら、巡は未だに夜眠れぬ生活だったかも、しれない。





==椎名の呟き==
第二話開始です。
二話では、登場済みの誰かの秘密が、明らかになるかもしれません。
もちろん、誰とはここでは申し上げませんがw 複数いるかも……だし(ぇー

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オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
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