オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2007.06.29

「先生!!」
 全身塩まみれで駆け寄ってくる巡と芽衣に、朝比奈は渋い顔を見せた。
「お前らまで来るなよなあ……危ないぞ」
 呑気に呟くが、魔物の爪が食い込んでいるその肩からは、血が滲みはじめている。
「一番危ないのは先生だろ!」
 巡の叫びは的を射ている。が、いまこの場面で、誰が一番とか言い合うのも、既に空しい。
 巡と芽衣は、先程やったように、塩まみれの全身で魔物に抱きついた。朝比奈に負担をかけないように、そして踏みつけないようにするのは至難の業だ。
 もちろん、身体の大きいこの魔物は、巡たちの体重を受けても重みで潰れるようなことはない。が、やはり塩は効いているようだ。全身をブルブルと振って、彼らを引き剥がそうとする。
 振り回される巡たちも必至だが、下にいる朝比奈はそれどころの騒ぎではない。

 さらにそこに、かぼが飛び上がって魔物の背であろう部分に取り付いた。

「まったく、どいつもこいつも無茶をする……!」
 そこまでやったのだから、最後まで責任を持って押さえつけていろと命令を飛ばして、かぼは魔物の背をギュウ、と押さえつけた。その背後に、ミーシャがまわる。
「潰れる~……死ぬ~」
「今さら文句を言うな!」
 下でうめく朝比奈と、上から押さえつけるかぼ。巡と芽衣とミーシャと、誰かひとりの力が欠けても危険だ。5人がかりで精一杯だった。
「オレがここで逃げ出したら、みんな死ぬよなあ……」
 朝比奈が呟いた。
「ぬしがそうする人間だったら、はじめから命なんて懸けさせずに逃がしておるわ!!」
 朝比奈も、巡も芽衣も、言ってわからないのだから仕方がない。
 彼らがそうやって身体を張ろうとするなら、かぼだってそうしなければ皆の手痛い末路を目にすることになる。
「氷村さん……オレマジで死ぬって……」
 朝比奈が、頭上に位置する場所に立っている氷村へと視線を向けた。
 氷村は微笑で応える。
「まだ余裕そうじゃないか。逃げても死んでも皆無事では済まないのなら、生きて力を発揮するしかないよな? お前が一番はじめにリタイアするか?」
「オレは今、4人分以上の重量を支えてるってーの!!」
 吼える朝比奈を、巡は困ったように見下ろす。
「もうちょっと……耐えられる? 先生、辛い?」
「あー、気にするな。愚痴は言うが死にゃしないって……」
「そう簡単に死なせてたまるか、ボケ!!」
 怒鳴るかぼの身体の下で、魔物の身体がジワリと溶け始めた。
 あと少し。
 しかし、魔物のほうも大人しく浄化されるのを待ったりはしない。ブンブンと激しく身体を振って、かぼたちを振り落としにかかった。
「……クッ……離さんからな!!」
 全身の力を使って魔物を押さえるかぼ。ミーシャも、芽衣も、巡も、それぞれが全力で魔物を押さえつけた。

 ブン。

「のわ!?」
 ボタリと、かぼは朝比奈のみぞおちの辺りに落下した。
「ぐえ……ッ」
 うめく朝比奈。
「……な……」
 なぜ、かぼが朝比奈の上に落下したのか。
 魔物が、一瞬にしてその場から姿を消したからだ。
「なん……、どこだ?」
 状況がつかめない。かぼはキョロキョロと辺りを見回した。
 魔物が消えたのは、かぼの力によるものではない。本当に急に、その姿が消え去ったのだ。かぼだけでなく、魔物に張り付いていた面々が全員、あちこちに視線をめぐらせた。
 まさか、どこかに瞬間移動したのか。
 それほどの力を持っているなんて。

「そろそろ降りてやったらどうかな」
 氷村が、歩み寄ってきた。
「ぬ……」
 言われてとりあえず、かぼは朝比奈の腹の上から降りる。悪いなどと、実はこれっぽっちも思っていないところがかぼだ。
「魔物をどこへやった!!」
 かぼは、氷村に向かって怒鳴りつける。降魔の力で魔物を出していたのは氷村なのだから、その問いが彼に行くのは当然だ。
「私が消した」
 氷村はあっさりと言った。
「……消した……?」
 何故、なんのために。

「キミたちは、大丈夫なようだからね」
 氷村は、そう言って笑う。

「大丈夫って……」
 わけがわからない。
 大丈夫って、何が大丈夫なんだ。
 巡たちは混乱した。
 今の段階で、巡とかぼを引き剥がしたがっていた氷村の計画は、少しも達成されていない。なのに何故、彼は笑っているのか。何故、魔物を消したりする?
「もともと、オレたちを殺すつもりなんて無かったってことさ」
 朝比奈が、ムクリと起き上がった。
 眉間にしわを寄せるかぼたちには、朝比奈の言葉の意味もよくわからない。
「どういうことだ……?」
 そんなことしか言えないかぼに、朝比奈は苦笑を返した。そして、ジワリとにじみを大きくする肩の傷を気にもせずに、朝比奈は氷村を見る。
「説明、してくれるんでしょうね?」

 豆鉄砲を喰らった鳩のような状況の面々に向かって、氷村はただ、頷いて見せた。





==椎名の呟き==
じつにあっさりと、クライマックスは通り過ぎましたか。
しかし朝比奈の体力が凄い。しみじみ。

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2007.06.25

 かぼを囲っていた数体の魔物のうちの一体に、景気良く塩が撒かれた。

「な……!」
 一番驚いたのは、応戦していたかぼだった。
 ググと妙な音を立てて一瞬縮こまった魔物が、塩の飛んできた方向へと振り返る。一応動物と同じように、視界というものはあるらしい。
「何をやってる、メグ、芽衣!!」
 塩をたたきつけた張本人である巡と芽衣に、かぼは怒鳴りつける。
 一瞬手の止まったかぼの正面の魔物を、ミーシャの爪が切り裂いた。
「止まってる暇はねえぞ、かぼ。数が増えてる」
「すまん。けどな」
 塩を撒かれた魔物は一瞬ひるんだが、攻撃対象をかぼから二人へと移した。ズルズルと、しかし歩くよりも速い速度で巡たちの方へと向かう。魔物は塩の浄化能力に弱いが、それを撒いたり盛ったりしても、それは忌避剤にしかならない。塩のある場所で、魔物は留まったりはしないからだ。
「メグ、芽衣!!」
 しかし巡と芽衣は、その魔物を、二人がかりで全身で受け止めた。
 押さえつける角度的に、魔物は巡たちに牙を剥くことも爪を振るうこともできなかったが、一歩間違えれば大惨事だ。
「グ、グ、グ」
 どこから出ているかも定かでない、唸るような音。
 巡と芽衣が全身で締め付けている部分から、魔物がグズグズと崩れ始めた。
「!?」
 魔物は砂のように崩れ落ちて、影のように地上を這いずった後で、消滅した。
「メグ……!?」
 魔物の一体を握りつぶしながら、かぼは二人に驚愕の視線を向ける。
「塩」
 全身塩だらけなんだ、と巡は呟いた。
 巡と芽衣は、小川で全身を湿らせた後に、塩をその身体に振るっていたのだ。
「半ば塩水みたいになっても効くんだねぇ……」
 妙な部分に感心している芽衣。
「僕たちだって力にはなれるから、こっちのことは気にしないでいいよ」
 さらに、紙袋の中から塩を掴み出す巡に、新たな魔物と向き合うかぼはそれでも鋭い視線を向ける。
「危険なことに変わりはないだろうが! 一歩間違えば死ぬぞ、メグ!」
「それでも、何も出来なきゃ後悔する!」
 これからだって、こんなことがないとは限らないのだ。今日、今だけの話ではない。逢魔が時において、魔物の増加に伴い、人間の悪意だって、絶対に生まれる。今の氷村たちに限ることなく。
 それに対応できる力をつけなければならないと、巡は思う。少なくとも、自分たちは今、時代の移り変わりという事実をもう知っているのだから。

「美しい自己犠牲の精神かな?」
 氷村は笑った。
「別にそれでも構わないが、命を粗末にするのはどうなのだろうな。逃げて永らえた方が得策という場合もあるんだよ、少年」
 バカバカしい、と氷村は呟く。
「命を張ることの意味すらまだわかっていないだろうに。そうやって安易に命を投げ出した挙句に、君はいつか裏切られる」
 安易なんかじゃない。
 そう言いたかった巡だが、多分、死ぬということを本当に理解していないという点では間違いではないだろう。けれどそんなの、関係ない。だって、命を捨てるつもりなんかない。ただ、全力でぶつからなければならない時があって、今がまさにその時だ、というだけだ。
「物の怪諸君にしたってそうだ。君らは何度、人間に裏切られたかな。襲われ、追いやられ、生きていく場所を奪われて。それでも生の刻の住人を信じた挙句に消された者も多いだろう。所詮」
 人間と魔物は、相容れることなど出来ないのだよ。
「それはそうだろうな」
 かぼは呟く。
「頭の固い者は、人間にも魔物にもいるものだ。だがわちは、メグを裏切らん。裏切る理由がない。裏切らない理由があるとすれば、信頼されているから、それだけだ」
「そのために、自分が消えるのも構わないと?」
「消える気など、さらさらない」
 危機的立場で命を捨てるのは簡単だ。
 けれどそれでは、相手の信頼を受け止めていることにはならない。
 生きていたいし、生きていて欲しいから、今この場で彼らは誰かを信じるし、頼る。そして頼りにしろと身体を張る。それは、自己犠牲なんかではない。

 そうやって、浄化の手段を持たないはずの巡と芽衣だって、魔物をやっつけて見せた。
 もしも自分たちが倒れたら、何の意味もないことを、彼らは知っていたのだ。

「フン……」
 まだ足りないらしいな、と、氷村は呟いた。
「これで最後にしたいものだが」
 ズズズ、と、これまでに無いほどの巨大な影が、氷村の足許から生まれる。
「まだ出るか……」
「ありゃあ、単体じゃちと難しいぜ」
 かぼとミーシャが、揃って舌打ちする。

「氷村さん……!!」
 氷村の後方に、朝比奈が現れた。全速力で駆けつけたらしく、肩が上下している。
「もうやめろ!!」
 氷村の脇をすり抜けてかぼたちの方へと向かおうとする朝比奈の肩を、氷村が掴んだ。
「氷村さん!!」
 朝比奈の肩を掴む、氷村の手の強さに朝比奈の動きは止められる。そんな彼の耳元で、氷村は唇の端を吊り上げて囁いた。
「なら、お前が死ぬ役を引き受けるか?」
「氷村さん、あんた……」

 二人から距離を置くかぼたちの位置では、氷村が朝比奈に何を囁いているのかは聞き取れなかったが、氷村が本気でかぼたちを消そうとしている、それだけはよくわかった。
 だからうっかりすれば、朝比奈も巡も芽衣も、死ぬ。
「担任! ぬしはメグを護ってくれ! 魔物はわちが何とかする!!」
 かぼは怒鳴ったが、朝比奈は氷村の手を振り払って駆け出した。
「悪いが聞けないな。君やそこの河童くんは、浄化が出来るんだろう? なら、そのためにこの魔物を押さえるのは、オレの役目だ」
 先程までの魔物の倍はあろうかという魔物に向かって、朝比奈は走る。彼にも浄化ができない訳ではないが、体力的に一番余裕があるのは彼だったし、あまり大きくない能力なら、魔物を閉じ込める結界の作成の方に使った方が良いと判断したからだ。
 ようやくこれまでの魔物を全て消し去った後のかぼたちに、あまり余力がないのも事実だった。

 しかしあっさりと、朝比奈は己が飛びついた魔物に組み敷かれた。
「担任!!」
「先生!!」
 地面に仰向けに倒れつつ、朝比奈はそれでも笑ってみせる。
「手早くお願いするよ……」
 押さえつけられつつも、結界によって魔物を縛る朝比奈の許へと、残りの全員が一斉に駆け出した。





==椎名の呟き==
総力戦でタコ殴りでしょうか。
ここって雑木林ですから、朝比奈さん、相当背中痛いんじゃないでしょうかねー。

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2007.06.22

 戦闘体勢に入りつつも。
 ミーシャは腑に落ちない様子で、かぼの方を見た。
「一体何がどうなってやがるんだ?」
 かぼの敵なら自分にとっても敵だろうというくらいの判断はしているのだろうが、騒ぎに気づいてこの場に現れただけのミーシャには、事情がまったく読めていない。
「物の怪を、ほ、許せないヤツが、はっ、魔物でな……と!」
「……はあ?」
 襲い掛かってくる魔物をかわしながらのかぼの言葉は、聞き取りにくいというか、意味を汲み上げにくい。
「物の怪が人間と一緒にいるのが気に入らないっていう人間が、降魔の力で魔物を操って、かぼを襲ってるんだよ!」
 代わりに、巡が答えた。
「なんだあ、そりゃあ……」
「話は後でいいから、さっさと加勢しろ!」
 いくらかぼが身軽でも、魔物の数が多くては、避け切れない。一度動きを止められたらピンチは間違いないだろう。
「……まあとにかく、こいつらは倒していいという訳だな」
 ミーシャは納得したらしい。
「簡単に言ってくれるな」
 ミーシャの出現に一瞬目を見開いた氷村だったが、それでもどこか余裕のある表情だ。まだまだ自分の方に有利であると確信しているのか。
 巡は、どうしたらいいものかと考えあぐねる。しかし、どうやっても自分は足手まといにしかならないだろうと自覚しているから、おいそれと手を出したりは出来ない。魔物の倒し方など知らない自分が加勢したところで、返り討ちにあってかぼに余計な手間をかけさせるだけだろう。
 でも、だけど。
 ジリ、と。無意識に足を動かしたところで、視界の隅に物凄い勢いで駆け寄ってくる人の姿を捉えた。

「メグ~~~!!」

「芽衣!?」
 それは、部活で家を留守にしていたはずの、姉だった。

 普段のおっとりさ加減からは想像もできないような勢いで走ってくる芽衣。塩の入った特用袋を抱えて全力疾走する姿は頼もしいというか、変というか。
「なんでこんなところに」
「朝比奈先生から連絡受けたんだよお~! メグが危ないって!」
 そういえば、朝比奈は使い魔を巡の家に置いていったのだった。ということは何か、あの西洋人形が、こっそりと巡たちの後をつけて来ていたということなのだろうか。いつの間に。
「メグ、私も加勢……」
 巡の近くまで駆け寄ろうとしていた芽衣を、そこに佇んでいた女子高生が、やんわりと押さえつけた。
「……!!」
「ジャマはダメだよぉ。んーと、お姉さん?」
 大した力も持っていなさそうな女子高生なのに、芽衣を背後から押さえつける力は、振り解こうとしても、ビクともしない。

「大丈夫」

 少女が、呟いた。
「えっ……?」
 その呟きに、一瞬動きを止めてしまった芽衣。
「センセは優しいから~、手さえ出さなければ、巡君には危害を加えないよ。絶対。だから安心しててほしいんだけどな~」
 このまま巡も芽衣も動かなければ。彼らが魔物に襲われることは無いということらしい。もちろんかぼとミーシャだけは逃れられはしないだろうが。
「彼らは物の怪だもん。人間と一緒にいたって、お互い不都合が沢山生じるだけなんだよ。センセは、それを回避したいだけ。物の怪の存在によって、いつかあなたの弟さんが傷つくことになるのを、知っているから」
 少女は、芽衣に優しく笑いかけた。
「沢山裏切られるし、沢山裏切らなければならなくなる。人間と物の怪である限り」
 少女は囁き続ける。

 巡と芽衣だけは、助かる。
 かぼとミーシャを放っておきさえすれば。

 芽衣はブルブルと首を振った。
「そういう問題じゃないのよぉ!」
 バシンと、少女の手を振り払う。
「巡に手を出したら、そりゃあ許さないよ! でもかぼちゃんだってうちの大事な家族だし、ミーシャちゃんだってお友達なんだから! 同じことだよ!!」
 裏切るとか傷つくとか、この女は何を言っているのか。
 芽衣には理解できない。
「そんなの、人間同士だって同じじゃない!」
 芽衣は、巡の方へと駆け出した。

「メグ、加勢するよ! 朝比奈先生も来てくれるからぁ!」
 駆け寄る芽衣に、巡はハッとなって頷いた。
 足手まといを恐れていたら、何も出来ない。
 自分ひとりでは無理でも、芽衣がいるなら、二人で何か小さな助けにくらいなれるかもしれない。

 少女は、そんな二人の様子にため息をついて、微笑んだ。
「……いい子だねえ」
 クスクスクス。
 小さな笑い声をもらして、トントンと片足のつま先で靴を鳴らす。
 そこからさらに、数体の魔物の影が生まれ、巡たちの許へと這い寄って行った。





==椎名の呟き==
やっぱりね、結局ね、女の方が怖いってことですかー。
女子高生、いい加減名前を出してやらないと、扱いにくいなあw

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2007.06.18

 思えば。当然かもしれなかった。
 目の前に現れた氷村と対峙しながら、巡はそんな風に考える。

 家の中の方が、かえって危ないのではないかと最初に言ったのは、巡自身だ。家という人工の結界があるにせよ、人の作り出す魔物というのが、どれほどの力を持っているのかわからない。だとすれば、他人の目のない自宅というのは、格好の的になってしまうのではないかと。
 一理ある。
 それに、そうでなくたって、結局この先ずっと家の中に篭っている訳にもいかないのだし。
 そうして、家の中で襲われた翌々日にはかぼと共に外に出た巡だったが。
 結局何の関わりもない他人に迷惑をかけてしまうのではないかと、ついつい人のいない方いない方へと向かってしまった。

 そして、学校の裏の雑木林へ。
 そりゃあ、氷村だって現れるというものだろう。
 ミーシャに会えれば事情も説明したいと思っていたが、その前に彼に会ってしまった。

「久しぶりだな。少年」
 かすかな笑みを浮かべる、その男。
「まだ何日も経ってないよ……」
 巡のそんな言葉に、氷村は「それもそうか」と肩を揺らした。
「なんでまた、こういう人気のないところに来るのかな、キミは。誘っているのかい」
 ある意味、そうなのかもしれないが。
 もしも家に魔物を放ったのが氷村だとするなら、この男は他の人間の前でも何をしでかすかわからない。被害は最小限に、なんて自己犠牲の精神で行動している訳ではないが、街中に魔物が突如出現した場合の混乱を考えるのが恐ろしい。
「おじさんは、なんで僕を狙うの」
 距離をとったままじっと見つめてくる巡の視線をうけて、氷村は片手でガリガリと頭を掻く。
「おじさんじゃないってのに……傷つくな……」
「なんで僕を狙うの?」
 答え以外の言葉は聞きたくない。
 なんだかこの男に対して油断をしていると、都合よく煙に巻かれてしまうような気がした。
 氷村は、ちらりとかぼを見る。
 そして、唇の端をあげて笑った。
「理由を話す義務はないな。そんなに時間もない。だから単刀直入に訊くが、そこにいる物の怪と決別する気は無いかな?」
「ないよ」
 何故そんなことを訊かれるのか、それでどうするのかと質したい気持ちはあったが、巡はとりあえずはっきりと答えた。
 多分、その答えによって氷村のこれからの行動がまったく変わることになるのだろうとは思ったけれど。

 魔物を否とする氷村は、巡とかぼを引き剥がしたがっている。

 質問から察するに、これは確実なのだろう。
「そうか。……なら」
 氷村は、その場に片膝をつくと、左手をピタリと地面に当てた。
「魔物には魔物だ」
 ズルズルと、その手許から黒い影が立ち上がり始めた。
 人家や人気がないとはいえ、ここは往来だというのに。
「なんで、物の怪と人を引き離そうとするんだ!」
 巡は叫んだが、氷村は微動だにせず魔物を作り上げている。
「質問している場合ではないと思うな。この魔物は君のそばの、その物の怪を倒しに行くぞ。もちろん、邪魔をするならキミも巻き込まれるだろうな」
 ズルリと、その影はうねり始める。カンガルーか恐竜かというようなシルエットのそれは、二本の足で走り始めた。
 まっすぐ、かぼに向かって。
「メグ、どいていろ」
 無表情というか、お気楽そうな表情で、かぼがそれだけを言う。
「かぼ!」
 巡は叫ぶが、かぼはひらひらと手を振る。
「魔物との戦いで、ぬしに出来ることなど何もなかろ。わちはそう簡単に倒れたりはせんぞ」
 巡には、逢魔の力はあるが、それを倒す力はない。少なくとも、今この時には。
 せめて朝比奈のように、魔物に影響する力があったなら。
「近寄ってくれるなよ。足手まといだ」
 ニヤニヤと笑うかぼ。
 ヒョイヒョイと魔物の攻撃をかわしながら飛び跳ねるその表情だけ見ていると、本当に、余裕そうには見えるけれど。

「魔物は、一体だけとは限らないんだよぉ~」
 氷村の数メートル後方からの声。
 そこには、初めて氷村と会った時に一緒にいた女子高生がいた。
「そんな!?」
 彼女の足許からも、小さな黒い影。
 大きさこそ、さほどでもなかったが、子犬程度の大きさの魔物の影が、数体地面を這ってこちらに向かってくる。彼女も降魔の力を持っているらしかった。
 いくら余裕そうに見えるかぼでも、多勢に無勢で勝てないのではないか。
 巡はその場でオロオロするしかない。
 助けなきゃ。でも、あんなのとどうやって闘えばいいのか。
 巡は、人間とだって身体を張った大喧嘩などやったことがない。けれど、かぼはそれらをかわしながら、息を乱すことも無く呟く。
「こちらとて、ひとりではないわ」
 その言葉に、巡ははっとなって目を見開く。

 そこにはいつの間にか、攻撃態勢に入っているミーシャの姿があった。





==椎名の呟き==
何気に雑木林、この物語の舞台になっているな……。
一応私有地なんだから、気をつけて~。

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2007.06.15

「氷村さんと話がしたい?」
 驚きの表情を作る朝比奈に、巡は頷いた。
 巡の入れてきた麦茶をひとくち飲んで、朝比奈は巡に向き直る。
「なんでまた」
「だって、何もわからないから」
 魔物を放ったのは、確実に氷村という訳ではない。が、おそらくは彼か、もしくはその仲間だろうとは思う。だから決して友好的な関係であるとは言えないのだが、それでも。
 何故、巡とかぼが一緒にいるのを見咎めるのか、それを彼の口から直接は聞いていない。
 わざわざ危険人物と話をするのも躊躇われるが、理由もわからないままに襲われるのも納得できるものではない。
「まあなあ……」
 困ったように呟く朝比奈。
 彼も、巡の言いたいことがわからないわけではない。が、氷村が魔狩人になっていたのだとすれば、かぼを擁護する巡の話など、聞く耳も持たないだろう。彼らは、魔物全てを人間の敵としているのだから。

「物騒な話をするけど、怒るなよ」
 朝比奈は、唸りながら両腕を組む。
「例えば彼らが、成瀬の傍にいるその子を消してしまったとしよう」
 その言葉にピクリと反応する巡。が、とりあえずは頷いた。怒るなと釘を刺されたばかりだ。
「それでも、逢魔の力を持つお前さんの前には、また違う物の怪が現れる可能性だってあるよな」
 それはそうだ。
 現に、既に巡の周りには、かぼだけでなくミーシャやシンだっている。
「そしたらヤツらは、それも消しにかかるんだろうな。でもきっとまた、別の物の怪が、成瀬の前に現れる。それが魔の刻ってもんだ」
 魔の刻において、逢魔の力を持つ人間の前には、魔物が集まってくるものだ。その人間の近くにいる物の怪をいくら消し去ったところで、別のものが次々と現れる。つまりはキリがない。
「だとしたら、だ」
 物の怪が姿を現すのは、そこに、逢魔の力を持つ人間がいるからだ、ということになる。
 実際は、目に見えていないだけでそこかしこにいる物の怪たちだが、やはり、それを目で見ることのできる人間の前に、集まりやすい。
「その人間が、物の怪を擁護する立場をとっているとなれば……」
 彼らにとって、巡自身が、魔物を庇うジャマな存在となる。
「……じゃあ……僕はどうなるの?」
 どうされるのか。
「わからない」
 朝比奈は答える。
 わからないから、怖い。逢魔の力を持つ者の中でも、巡のように、物の怪と馴れ合っているような人間を、どうするつもりでいるのかがわからないから、困るのだ。わかっているなら、それがどんなに危険を伴うものでも、対策が講じられるだけマシなように思う。
 巡のような人間を、どうするつもりでいるのかがわからないから、どう回避していいのかもわからない。
 そういう場合のマニュアルのようなものも存在しているのかもしれないが、朝比奈は蚊帳の外なわけで、実際のところはわからない。
 魔物を良しとしないのは、人間を生かそうとするからのはずで、極端な話だが、もしも魔物と馴れ合う人間を片っ端から始末して行ったとしたら、それこそ本末転倒な気もしないでもない。が、そうしてでも魔物の存在を許せない理由のようなものが、無いとも限らないし。
「成瀬をどうするつもりなのかがわからないから、あの人と話すってのは、危険な行為になると思うんだよなあ」
 うっかりかどわかされる可能性だってなくはないし、その後どうされるかなんて、皆目見当もつかない。どこまで非人道的な行動をやらかしてくれるか。
 そんなことをやったってキリがないのだということを、納得してくれる様子もないのだから。

 しかし、それでも。

 はっきりとした理由が知りたいという巡の気持ちもわからなくはないし、それに。
 どうせ、こちらから出向かなくても、すぐに会いに来てくれそうな気もするし。
「お前さんが自分から動く必要はないような気がするな。多分、氷村さんはまた来るだろうと思うよ。例えこっちが会いたくなくてもな」
「……」
 それもそうだろう。
 氷村と話をしたいという思いはあったが、多分、それは近い未来に叶う希望だろう。考えなければならないのは、どうやって会うかということよりも、いかに安全なシチュエーションで氷村と相対するかということだ。
 魔狩人という連中の規模が、どれだけのものなのかもわからない。
「藤乃木に聞いてみたんだけどなあ……過激派や氷村さんのことは放っておけの一点張りだし」
「……」
 そんな無責任な。
「機関から派生した連中相手に、何でそんな日和見発言するかな、あの爺さんは」
 機関の頂点といえる藤乃木の頭首の、考えていることがわからない。
 朝比奈は、腕を組んでため息をつくことしか出来なかった。





==椎名の呟き==
またもや三日ぶり更新ですか……。
このくらいのペースが板についてきちゃったかな、もしかして。
結構第四話って、長くなりそうな予感なのにいいい。
そろそろ氷村、再登場するかえ?

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2007.06.11

 床に下り立つ前に靴を脱ぐのに難儀していた朝比奈だが、何とか生徒の部屋に土足で踏み込まずに済んだようだ。
 何しろ、二階の窓からの訪問は、朝比奈にとって初めての経験だ。
「昨日は災難だったな~」
 こともなげに言う朝比奈。
「お気楽に言うな。ぬしが大丈夫だと言うから家でのんびりしていたというに、即座に襲われるとは思っていなかったぞ」
 のんびりしていたと言うべきかどうかはわからないが。
 というか、魔物に襲われたのを、朝比奈は知っているような口ぶりだ。
「そう言うなよ~。結構弱かったろう? この家の周りにはオレがまじないをかけといたし、使いも出しておいたからさ。君等で手こずるようならフォローを入れられるようにはしておいたんだぜ、これでも」
「……使い?」
 巡が首を傾げるのに、朝比奈は頷く。
「オレが四六時中見張ってる訳にもいかないからさ。ちょっとした魔物を作って連絡役にこの家の周りに放しておいたんだよ。そいつからいつでも情報がオレに伝わるし、多少の戦力にもなる」
 お気楽な様子で説明する朝比奈だが、巡には彼の言葉が今いち噛み砕けない。具体的にそれがどういうことなのか、さっぱりわからなかった。
 かぼが、朝比奈を見る。
「担任。ぬしも降魔の力が使えるのだな?」
「まあね」
 朝比奈は、降魔の力を使っていわゆる魔物を生み出し、巡の家の周りに放しておいたのだ。それはつまり、巡を襲った魔物と同様の作り方をされた魔物だが、だからといって人間を襲ったりしない、朝比奈の役に立つ使い魔だ。
 要は、降魔で生まれる魔物も、使い手次第、というところか。
「全然知らなかった……」
 巡だけが、呆然としている。
 つい最近までただのクラス担任だった男が、実は魔物も作れるオカルトマニアだなんて、まったく気付かなかった。というか、気付かなくて当然だ。
 いや、別に朝比奈はオカルトマニアという訳ではないが。魔物のことなら何でも知っていそうな朝比奈は、巡にはそう見えてしまう。
 もっとも、朝比奈が降魔の力を持っているのも当然というか、その程度の力がなければ、そもそも機関からお呼びがかかる訳がない。
「しかもぬし、属性的には浄化か」
「大当たり~」
 朝比奈は、降魔という魔物を作り出す力を持ちながら、もっとも得意とするのは、浄化や祓いの方面だった。作り出した魔物ですら、敵対する魔物を祓うために駆使される。そう、家の周辺にまじないをかける、すなわち結界を張るなど、誰にでもできることではない。人にはそれぞれ、得手不得手がある。朝比奈は、場を浄化することで、そこを魔の入りにくい結界とするのだ。
 だがそれも、今回は完璧ではなかったようだが。
 魔の刻が深くなるにつれ、朝比奈の力も強くなるのかもしれないが、比例して、敵対する魔の力も強くなって行く。皮肉なものだ。
「そういうことは、ちゃんと言っておいてよ……」
 巡はぼやく。
 結界や使い魔のこともそうだが、人間が作り出した魔物に襲われる可能性があるなんて、そうなるまで誰も教えてくれなかった。予備知識があったなら、少しは覚悟も出来ただろうに。
「悪かった悪かった。あんまり怖がらせても良くないと思って言わなかったんだけどなー。あ、だったらあれか。オレの使いも、目に見えるところに目に見える形でいたほうが安心できるか?」
 もともと魔物は形を存続させるのが難しいから、形のある物に詰め込んであるけどな、などと、朝比奈が呑気に話している内に、窓の外から何かがのそりと部屋に入り込んで来た。
 窓枠を乗り越え、ぼたりと部屋に落下したそれは、よいしょとでも言うように二本の足で立ち上がり、とことこと歩いて巡の前を横切る。
「…………ッ!」
 クルクル巻かれた金の髪が美しい、深紅のドレスに身を包んだ西洋人形だった。
 その人形は、すたすたと歩いて壁際までたどり着くと、そこに積んであるコミック雑誌の上に這い上がり、トスンと腰掛けて、微動だにしなくなった。
 終始、無表情。
 魔物は感情を持たないし、その器は人形であるから表情がないのは当たり前だが、壁にもたれかかったその人形は、人工的な青い瞳だけが瞬きもせずに、ただただ巡を見つめている。
「……」
「あれがオレの使いだ。家の周りを張っていたんだがな。部屋の中に置いておいてもいいぞ」
 巡は、その人形から視線を逸らしながら呟く。
「……先生」
「ん?」
「ぶっちゃけ、かなり怖いよ……」
 魔物に西洋人形という朝比奈のセンスも疑いたいところだが、それより何より、今まであんなものが家の周りを徘徊していたのかと思うと、うなだれてしまう巡だ。よく誰にも発見されなかったものだ。
 それに、今は微動だにしないから、その動かない瞳が、朝から晩まで巡を見つめているということになる。瞬きもせずに。それは怖いというか、それに見つめられたままで、夜ひとりで眠れそうにない。
「やっぱり外でいいよ。むしろ外がいい。家の裏にでも待機させててよ」
「そうかあ?」
 首を傾げる朝比奈は、西洋人形がオカルトアイテムとして名高いという事実を、失念しているようだ。巡の言葉の意味が良くわかっていない。

 黙って成り行きを見守っていたかぼは、朝比奈が少女趣味な西洋人形を所持しているという事実の方に、興味津々なようだったが。





==椎名の呟き==
ホントになぜ西洋人形なのか。
朝比奈的には、それっぽいと思って、くらいの理由なんですが。
これがクマのぬいぐるみか何かだったら、そんなに怖くもないのにねー。
……いや、それも怖いか。

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2007.06.09

 迷っていても仕方がないので、とりあえず巡は天笠和菓子店に連絡をつけることにした。
 家族は今留守にしているし、電話なら、家から出ずにすぐに行動に移せるからだ。荘二郎に直接会いに行くのは避けた方がいいような気がした。
 一階の電話のそばに置いてある、母の手書きの電話番号簿を探し出して、子機を持って部屋へと戻る。せっかくの子機が親機のすぐ隣にあるのは若干不便なこともあるが、普段は気にならないから、まあいい。

 これまでにあったことを手早く話すと、電話の向こうの荘二郎は、何事かを考えるように一瞬黙った。
『その連中のひとりが、うちにも来たかもしれんな』
「えっ?」
 巡は驚いたが、やっぱり、という思いもある。
『スーツ姿の見慣れない男がひとり、菓子を買いに来た。しきりに店の中を見回していたし、シュークリームをひとつだけ買って行ったから不思議に思っていたが』
 天笠和菓子店、シュークリームしか売れていないのではないか。いやそんなはずはないか。というか、今はそんな話をしている場合ではない。
「もしも、これからその男に何かを聞かれても、知らぬ存ぜぬを通した方がいいような気がする」
 巡のそんな言葉に、荘二郎は再び考えるように無言になる。
『……もっとも、私は何を言おうにも、ミズ以来物の怪に出遭っている訳ではないしな。何も話すようなこともないが……』
 だが、と、彼は付け加えた。
『私は年寄りだが、一応は大人だからな。私の心配などせんでいいから、何か困ったことや不安なことがあったら、相談に来なさい。力になれることがあるだろう。大概いつでもここにいるしな』
「……うん」
 荘二郎の身を案じての行動だったが、かえって気を使わせることになってしまった。けれど、正直荘二郎のその言葉は巡にとって心強かった。夏休み中、巡はひとりになることも多いし、やはり不安はつきまとう。
 けれどもやはり、無闇に甘える訳にはいかないだろうな、という思いはあるが。

 かぼが、電話を貸せとせがむ。
 巡は、隣に座るかぼに受話器を渡した。
「爺さま、かぼだ。こないだの餡子の菓子はうまかったぞ。……それでな、爺さまも一度はミズという物の怪と接触してる訳だろ? だから安全のためなんだがの、もしもこれから先、別の物の怪を発見したとしても、知らないフリをしてくれんかの」
 荘二郎にはおそらく、逢魔の力はない。少なくとも、今のところは。
 巡のように、もともと逢魔の力を持っている人間は、一度物の怪と出遭うことで、他の物の怪も発見しやすくなってしまうことが多いが、荘二郎はそうではない。ミズとは縁が深かったから姿を見るまでに至ったが、他の物の怪はそうはいかない。
 が、絶対に物の怪と遭うことはないと断言できる訳ではない。
 一年二年と時が過ぎて行くごとに強くなる魔の力で、物の怪の出現率も高くなれば、後天的に力に目覚める者も出てくる。物の怪という存在を知っている荘二郎が、他の人間よりもそういうことに敏感になるのは当然だし。
 ならば、もしも物の怪と出遭ってしまったら、見てみぬフリをした方が都合が良い。
 物の怪と暮らしているというだけで魔物を放たれた巡のことを考えると、物の怪との関係は持たない方がいい。もしも物の怪をその目で確認したとして、知らん振りをしていれば、物の怪の方から無理やり接触を持ってこようとはしない。かぼのような例外もいるが、彼女にしたって、巡とはっきり接触をしてしまったから付きまとってきたのであって。もしも巡が上手く立ち回って知らぬ振りをしていたなら、そうはならなかっただろう。
 とにかく、荘二郎は今は物の怪とは接触をしない方がいい。お互いのためにも。
 もしもそうなってしまったら、荘二郎もその物の怪も、連中に狙われることになってしまうかもしれない。

 荘二郎がどう考えているかはわからないが、とりあえずは納得したような返事をしてきた。巡たちに心配をさせないようにとの配慮かもしれない。
 とにかくこれで、身近な物の怪仲間(?)への連絡はできた訳だ。

 ピンポーン。

 子機の通話を切った瞬間、来客を告げる電子音が鳴り響いて、巡はビクンと肩を震わせた。
「……誰だ?」
 インターフォンで受け答えは出来るが、それをやることで家に人がいることを知らせて大丈夫な相手かどうか。しかし、居留守を使うのも躊躇われる。
「待っていろ」
 かぼが、するりと部屋の窓を開けて、音も立てずにそこから外へと滑り出した。
「ちょっと、かぼ……」
 客人の確認をしに行ったのであろうが、普通の人間ならそんなかぼの気配に気付くことはないだろうが、もしも連中のうちの誰かだとしたら、決して安全ではない。そんなことは承知の上なのだろうが、ハラハラせずにはいられない巡だ。

「メグ~。来客だ」
 カラカラ、どさ。
「……!! か、かぼ!!」

 持ち前の身軽さで、かぼは再び巡の部屋の窓まで飛び上がり、軽快に窓を開けて戻ってきた。
 ――その片手に、自分の三倍以上身長のある男の腰のベルトを引っ掴んで。

 急に掴まれて二階の高さまでひとっ飛びで連れてこられた揚句に、窓付近で放り出されて、その窓枠にしがみついているのは、朝比奈だ。
「せ、先生!?」
 それでも朝比奈は、引きつった笑顔を巡に向けながら律儀に挨拶してきた。
「よお。ここんちの出迎えは変わってるな……たまげた」
 足場がまったくないわけではないが、二階の窓にぶら下がっている朝比奈は、それでも這い上がるべきかどうか迷っている。
「このまま、あがってもいいものかな……?」
「……」
「担任だったから、ここまで連れてきた。手間がなくてよかろ」
 いけしゃあしゃあ。

 もっと普通の出迎え方が出来たはずだろうと、今かぼを諭しても遅いだろう。
 巡は頭を抱えつつ、担任教師を二階の窓から迎え入れるという珍妙な経験を果たしたのだった。





==椎名の呟き==
更新遅くなりました。ほんっとごめんなさい。
ブログペットなんて入れてみようかなあ、などと考えつつ、設定をしながら居眠りしてみたり。
やっぱ疲れてるのかなあ~。
格段に増えた仕事量に、三ヶ月経っても身体が慣れてないですよ。
でも給料据え置き.゚*:(ノд`)゚∴*
ゆっくりでも、頑張りますからねえ~~。気長にお待ち下さいませorz

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2007.06.05

 一度魔物に襲われてからは、その日一日は何事もなく、翌日を迎えた。
 それで巡がぐっすりと安眠できた訳ではないが、少なくとも、かぼがいるだけで一応の睡眠はとることができる。今が夏休みで良かったのかもしれない。授業中に舟をこぐという事態だけは避けられる。

 それにしても、よくわからない。

 魔物を放つことで、こちらを倒すなり脅すなりの何がしかの目的があるのなら、一息にやってしまえばいいのに、と巡は思う。もちろん、それを実際にやられて困るのはこちらなのだが、出会って別れた途端に魔物を放ってきたくせに、やることが中途半端というか。それとも、そうできない事情でもあるのか。
「事情、か。ないでもないかもしれんが」
 かぼ、もってまわった言い方をする。
「降魔などという行為を、ホイホイとやって消耗しない人間などいないからの。そう一度には魔物は作れまい」
 まだ魔の刻の空気も薄いから尚更だ。
 しかし、その温存期間の長さがわからない。一日なのか、一週間なのか。
 それも、あの魔物が力の限界だったとしての話だ。実は全然力など余っていて、様子を見ている可能性だってある。かなり低い可能性だが。
 巡は唸る。
「あの氷村って人、話できないかな……?」
「……」
 話し合いでどうにかなる人種なのかどうかはかなり謎だが。
 正直なところ、あの氷村という男が巡とかぼをどうしたいのか、はっきりとした目的がまだわからない。あまり友好的な雰囲気でなかったのは確かだが、一体彼は、巡たちをどうしたかったのか。氷村が魔物を放ったという証拠もない。
 どうしたいのか、なんて、それを聞いて、巡の望むような事態になるかどうかもわからないし、むしろそうでない可能性が高いわけだが。
 このまま一生、逃げ隠れしながら生きて行けるわけもない。

 どういうつもりでかぼと一緒にいるのかと、氷村はそんなようなことを巡に質した。
 ということは、かぼさえ巡から離れれば、巡をつけ狙うことをやめるというのか。
 それで全てが丸く収まるなら、かぼは躊躇なく巡から離れるだろう。けれど、この逢魔が時から魔の刻において、生の刻の住人と魔の刻の住人、攻撃的でない者同士であるなら、共に暮らすに越したことはないのだ。共存を選ぶことで、生の刻の住人は、魔の刻でも少しは過ごしやすくなるというのに。
 もっとも、魔物ではなく、かぼたちのような物の怪も、全てが友好的というわけでもないのだが。その見極めは、正直難しい。それは生の刻の住人にも言えることであるから、これは永遠のテーマかもしれない。

「まあ、あの時ヤツは、朝比奈の妨害を受けて後退したからの。そのうち頼まんでも姿を現してくるとは思うが」
 すぐにまた、接触することになるだろう。
 その前に、理解者をひとりでも多く確保した方がいいかもしれない。
 他人を巻き込むのは本意ではないが、黙っていても危険にさらされそうな人間には、逆に事態を把握してもらっておいた方がいいだろう。
 すなわち、母と姉には。
 昨日の魔物を芽衣だけは目撃しているが、結局のところ、逢魔が時のことについて、詳しい話はまったくしていないのだ。
 理解しておいてもらった方が、何かの時に素早く対応できる。

「あとは、天笠の爺にも言っておいた方がいいな」
「……なんで?」
 思いも寄らぬ名前が出て、巡は面食らう。
「爺さまにはミズがいたからの。物の怪と接触のある人物として、チェックが入っている可能性がある」
 ミズは、かぼたちのような物の怪とは少し違う。こういった付喪神的な物の怪は、ほとんど間違いなく人間に害を及ぼしたりしない。なのにどうして、そのミズと接触があるからといって荘二郎が狙われなければならないのか。
「あくまで仮定だから、本当に奴らが爺を監視しているかどうかはわからんが」
 わからないが。しかし、おそらくは。
 いくらそれが付喪神のような存在でも、一度そういったものに接触した人間は、基本的に魔の存在を察知しやすくなる。荘二郎にその傾向は現れていないように思えるが、実際はいつまた魔を見つけてしまうかわからない。連中もそれを知っているだろうから、荘二郎を監視していても、何ら不思議はない。それどころか、すでに釘を指す方向で動いている可能性だってある。

 最初にどう行動すべきか。
 巡は迷った。

 家族に話すか、荘二郎に確認を取るか。連中との接触を試みる方向で行くか、その前に朝比奈に相談すべきか。
 選択肢の多さに、巡はしばし、頭を抱えて悩むことになった。





==椎名の呟き==
どうなる巡の夏休み。
宿題も多いのに大変じゃんね。

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2007.06.02

 かぼの表情は渋い。
 一同の視線が集中する中、かぼはどすんと床に尻をついてあぐらをかいた。
「この逢魔が時に、あんな魔物がほいほいと出てくるわけがない」
 まだ、そういう時期ではない。
 かぼたちのような、拠り所のある物の怪、つまり、生の刻に近しいものから次々と動き始めるが、魔の刻の空気そのものから生まれるような、純粋な魔物は、今のこの時代にそうそう生まれるものではないはず。
 かぼの言葉に、シンだけがうんうんと頷いた。
 さっき対峙したような魔物は、魔の刻に生まれ、生の刻には消滅する。生の刻の空気では存在し続けるのは難しいからだ。時代をまたぐことは、まったくと言っていいほどに無い。そこがかぼたち物の怪との大きな差だ。
 だからまだ、生まれてくるには早いはずで。
「じゃあなんで、あんなのがうちの中にいたんだよ」
 巡の疑問に、かぼは唸る。

「降魔、しか考えられん」

「降魔?」
「奴らだろう。研究機関の過激派とかいう」
 機関と聞いて、巡は氷村という男との会話を思い出す。だが、降魔とは何だ。
「魔の刻になれば、人間の持つ力の中でも、魔に関する部分が強くなる。そういった力に長けている人種は、己の力で魔の力を魔物として形作り、生み出すことが出来る。それを、降魔という。多分奴らの中に、その力を持っている者がおるのだろ」
 力のある者といっても、その力の大きさは、時代が大きく左右する。生の刻と魔の刻では、力の大きさには歴然とした差が生まれる。だから、先程相手にした魔物は大した強さを持っておらず、苦労せずに倒すことが出来たわけだが。
「あの人かその仲間が、あれを作り出したっていうのか? それで僕の家を襲わせて……なんて、なんでそんな必要が……って」
 あれ、と巡は思う。
 彼らはどうも、物の怪と一緒にいる巡が(もしくは、巡と一緒にいるかぼが)気に入らないらしいが、その巡を脅す目的があったにしろ、いくらなんでも早急すぎるというか。
「大体、魔物を良しとしない人間が、何で魔物なんて作り出すんだよ……」
 目的と手段が相反しているというか。
「ん~、まあ、の」
 今日のかぼは、うなりがちだ。
「例えば魔の刻に、人間が己の生み出した魔物でもって、襲い掛かってくる魔物に対抗したという事例はあるな。普通に魔物を使って悪さをしようとする人間も、当然いつの世にもいる訳だが。しかしの……」
 この世界に魔物はいらない、人間が一番だと考えているような連中が、わざわざ自分で魔物を作ってまで、物の怪に向かわせる理由がわからない。
 それとも、自分で作り出したものならいいとでも言うつもりなのか。
 単純に考えれば、かぼに魔物を差し向けて、かぼが倒れたらその魔物も消し去ってしまえばいいと考えているのかもしれないが。
 正直、その行為は、トカゲの尻尾切りにすらならない。
 もともと、生の刻に属する者の力自体が弱まるのが魔の刻なのだ。
 魔の空気に当てられて、魔の力を使役できる人間は増えてくるが、それでも人間は魔の刻において圧倒的に不利。当然だ。生の刻の住人は、生の刻に繁栄する者なのだから。
 魔物を使役できる人間にしたって、力の強い者はそう多くないし、その少数の人間がどんなに頑張ったところで、せいぜい自分の身近の安全を少々確保するくらいのもので。自分の作り出した魔物を制御しきれなくて、破滅を迎える者だっている。諸刃の剣だ。
 そうとわかっていても、抗わずにはいられないのが人間なのかもしれないが。

 同じ人間である、巡の安全を脅かそうというのはいただけない。

 まさか、魔物と共にいる人間は、一緒に消し去ってしまえばいいとでも思っているのか。魔物を肯定する、人間の敵として? 短絡思考に過ぎる。
 仮にも研究機関だというのなら、魔物と物の怪の違いくらいわかっていても良さそうなものだ。まあそれに納得できない人間が、過激派となっているのだろうが。
 かぼたちを敵としているのは、機関そのものではなくその一部の過激派だ。

「話してる意味がよくわからないんだけど~」
 それまで黙っていた芽衣が、口を開いた。
 そういえば芽衣には、ちゃんとした形でかぼや逢魔が時の話をしたことはなかった。かぼが人間ではないということだけはナチュラルに受け入れてしまっていたようだが、なぜかぼが現れたのかとか、そういうことはまったく知らない。
「とにかく、これって安心して眠れないってことなんじゃないのかなあ?」
「……」
 言われてみればそうだ。
 こんな風に、いつどこで魔物に襲われるかわからない状況では、夜眠ることも難しい。
「まあ、問題なかろ」
 かぼは、サラリと言う。
「芽衣がさっき塩を投げたら効いただろう? 魔物は人間の作る結界や浄化の守りには弱いものだ。あの、お札を貼ったり塩を盛ったりする行為だな。あれで案外防げるものだ」
 魔の刻の全盛期には、人間もそうやって身を守ってきた。もともと、自然な状態であるなら、人の作った建物自体、ある程度結界の役目を果たすものなのだ。その代わり、魔物が活性化する夜に外をうろつく人間はほとんどいなかったが。
 不夜城のようなこの時代ではどうなることやら、と思わなくもないが、人間の作る喧騒も、魔物の弱点となり得る場合があるから、その辺の良し悪しは相殺といったところか。
「まあ、今回のようにわざわざ家の中に向けて魔物を放たれた場合、防ぎようがないがの。そうとわかっていれば、かぼがいるから一応は安心だぞ」
 人間の作る『建物』という領域の中では、魔の力は弱まる。が、それに加えて。
「わちは物の怪だからの。実は不眠不休で大丈夫なんだ。メグたちが寝ている間、家の中を見張っていることくらいは出来るぞ。おかしな気配があれば、すぐに叩き起こしてやれるしの」
 かぼは雨には弱いが、家の中に雨は降らないし。それに雨自体は、苦手というだけで、かぼの存在自体を危うくする弱点ではない。さっきは一瞬虚を突かれたが、そうと覚悟していれば、あんな不覚は取らないで、もっと早くに気配を察知できる。
「そっか……」
 とりあえず、巡と芽衣は納得するが。

 本当は、わかっている。
 どんな目的があるのかは知らないが、こんなことが繰り返されるのだとしたら、多分いずれは神経が参ってしまう。
 どうにか、対策が必要なのだと、この場にいる全員が考えていた。





==椎名の呟き==
ミーシャも呼べば心強いのにね。でも家の中に彼がいたら、見た目で落ち着かないけどね。

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椎名シイ

Author:椎名シイ
 
オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
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