オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
--.--.--
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2007.07.28

「生かしておくべきではなかったかな……」
 かぼが、ぽつりと物騒なことを呟いた。
「え?」
 何を、と、巡がかぼを見つめる。
「情に流されて、わちはあの時、子供を連れて逃げたがな……」
 その結果、どれだけの永い間、その子供たちは過去の悲しみと矛盾を背負って生きてきたのか。
 ほんの気まぐれと同情。それが、時代を越え連なる悲劇を生み出したのではないか。

 だが、かぼのその言葉には、氷村は軽く首を振った。

「そうでもないさ。確かにその事件、その当時に居合わせた人々と魔物には悲劇だったかもしれないが、我々子孫にとっては、あくまで過去の記憶でしかない」
 けれど、その過去の悲しみを自分のことのように記憶し、胸を痛めたのも事実で。だからこそ、同じ場所に存在する生と魔のあり方を変えたいと、氷村は考えた。
 悲しい過去があるからこそ、それを背負わなくていい未来を作れたならと。
 悲しみの中にあって、それは前向きな考え方だった。
「もっとも……私が子供を作りさえしなければ、人の中にある魔物の血は、私で終わるはずだがな」
 何故祖先たちは、ずっと血を繋いできたのだろうと、氷村も考えたことはある。
 しかもこれまでずっと、一代に、たったひとりだけ。
 二人以上の子供を持たず、けれどその血を絶やすことなく。
 そこには何がしかの意味も、あったのか。
 人の中の魔物の血を、木の根のように増やすことを恐れたのかのかもしれない。けれども、それを消滅させないようにと。
「本当のところは私にもわからんがね。だから私は無責任でも、私でこの血を終わらせてもいいと考えている。だからこそ、この時代において、自分に出来ることは全部してから終わろうと」
 無責任というか、血を残すことを強制された記憶は一度もないし、強制された祖先もいなかっただろうと思う。けれどそれでも血を残してきたことに、意味があるのは間違いないのだろうが。
「確かに少し、悲しかったかもしれないな。この血をここで終わらせてもいいと思うくらいには。だがだからこそ、生と魔を近づけようなどと考えもした。これは私だけではなく、連綿たる祖先全ての願いだ」
 君は歴史を変えたのかもしれないよ、と氷村は言った。
 しかしかぼは、苦笑しながらため息を漏らす。
「だが、わちはぬしのやり方には口も出せないが、感心もしないぞ」
 理由もわからず襲われた立場としては、当然だろう。氷村の出した魔物によって消滅の危機ですらあったのだ。
 それについては、氷村は否定もせずに唇の端をつりあげた。
 たしかに加減はしていたが、もしもという事態が絶対に起こらない訳ではないのだ。
 だがだからこそ、最初から覚悟もしている。

 魔物や人類の、敵となることも。

 氷村がそういうつもりであったから、藤乃木も氷村にそれを求めた。
 それで、いいのだ。
「別に、問題ないわよ~」
 それまで黙っていた少女が、陽気に口を開いた。
「だからセンセには、私がついているの。ひとりで悪者にならないで済むようにね」
 藤乃木高校に通うこの少女は、自身の力ゆえに氷村の本質と行動を知るに至り、高校に入学して以来ずっと氷村の手伝いをしてきた。藤乃木たちの作り上げた機関に属する若手であり、藤乃木が氷村につけた助手のようなものだ。
 彼女だけは、何があっても氷村の味方だ。例え世界が敵に回っても。
 ゆえに彼は、ひとりではない。

「そろそろ行くか……鳳」
 鳳と呼ばれた少女は、かぼに向けていた視線を歩き出した氷村に移した。
「は~い」
 やるだけやって、多くを語らずに飄々とそこから立ち去ろうとする氷村だったが、ふと足を止めて巡たちの方へと振り返った。
「ああそういえば、あのシュークリーム屋の主人にも、探りを入れるような真似をして済まなかったと伝えてくれ」
 彼がミズと接触していたのは確認済みだったが、それ以外の物の怪の影は、彼の周りにはまるで無かった。年齢のせいもあるかもしれないが、性格的にも落ち着いて安定しているようだったから、もしもこの先再び物の怪と接触するような事態が起こったとしても、彼なら上手く対応できるだろう。
 探りを入れられていることに気付いていたのだろうに、脅えるでもなく怒るでもなく、それこそ、水面のような人物だった。
「わかった……」
 シュークリーム屋にされてしまった荘二郎を気の毒に思いつつ、巡は否定せずに苦笑した。よほどシュークリームが、広くない店内で目立っていたのだろう。

 騒がすだけ騒がせて、あっという間にその場を去ってしまった氷村を見送りながら、地面に尻をついたままの朝比奈は盛大なため息をついた。
「疑問も文句も何もかも、藤乃木の爺さんが引き受けてくれるんだろうなあ……」
「……あ……」
 良く見れば朝比奈は、その肩を血で染めたまま座り込んでいる。
 ぶっちゃけ、その場にいた皆、忘れていた。
「痛いか? 担任」
 オロオロと、どうやって傷を手当していいかわからずに逡巡する成瀬姉弟と対照的に、しげしげとその傷を眺めるかぼとミーシャ。
「これが痛くなかったら、オレがおかしいよな。……まあ、いいさ」
 予想済みの傷だ。
 朝比奈に死の危機が訪れた時に、巡やかぼたちがどう出るか。その賭けのようなものだったのだから。
 それにこれからは、こんな傷が増える時代になる。確実に。

「しかし、悲しいもんだね。人間から出来た物の怪ってのも」
「……そうだな……」
 神妙になって呟く朝比奈の言葉に、かぼはどこか、遠い場所を思い馳せるような眼差しで、静かに頷いた。





==椎名の呟き==
一応、これにて第四話終了でございます~。
次回からの第五話で、このお話も収束に向かう予定です。大きな事件とかは起きずに、のんびりとラストを迎えそうですけどねw

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2007.07.22

 千年以上の長い時を、その血を絶やさずに生き続けてきた魔の子供たち。
 その末裔である氷村が、身をもって知っている事実。

 母体である人間に受け入れられなかった物の怪は、意趣返しのようにふたつの血を分けた子供を作り上げた。そうしてもなお、彼の居場所がどこかに出来るでもなく。更なる仕返しのように、人間は彼もその血を受けた子供も少女も、受け入れなかった。
 そして彼は。
 積み重なった怒りと屈辱を突き崩すかのように、一帯の人間を残さず滅ぼし。
 結果、その集落は廃村となった。

 その後彼は、自分と同じ物の怪たちによって、その魂を消された。

 物の怪たちが一丸となって、彼に向かってきた訳ではない。
 けれど、どこでどの物の怪と遭遇しても。怒りに満ちた目が、彼に襲い掛かった。
 自分たちの立場をも危うくする彼の行動を許す者は、ひとりとしていない。社会を持たない物の怪たちの中でさえ、まるでそうと示し合わせているかのように。彼を生かしていて良い存在だと認識する者は、誰もいなかったのだ。
 彼は自分の所業によって、物の怪の中でも、居場所を失った。

 彼はこの世から消えて無くなり。
 ひとつの集落が滅びた。
 これが、互いに歩み寄れなかった生と魔が招いた、当然の結果だった。

「生は魔に、魔は生に裏切られる。それはもともと、相容れることのない道を行く者同士だからなのだろう。だから」
 だから。
 どうせ傷つけあうくらいなら、最初から共に歩むことなど考えなければいい。
 だから問うた。
 どういうつもりで、お前たちは共にいるのかと。

 そして、もしも。

 もしも、それでも共に行こうとするならば。そこに、何者にも引き裂かれることのない絆を、しっかりと作り上げて。
 それが、彼と、彼の前を生きていた先達の、本当の願いだ。
 そんな絆が、本当に存在するのなら。
 違う存在である者同士が、それでも同じ時を過ごす時代は、必ずやってくるのだから。
「それを実現するために、私たちは命を繋いできたのかもしれないと、そう思うこともある。だからこそ、私は私の手が届くごく僅かな範囲だけでも、干渉して生きて行きたいと考えた」
 生と魔が、傷つけ合うことなく、できれば共に、ひとつの時代を過ごして行けるように。

 そうでなければ、ふたつの血を持つ自分たちが悲しすぎる。

 魔の刻が進めば、生の刻の住人たちは、じわじわと危機的立場に追われて行く。そうした時に、憤りを向けるとすればその先は、魔の刻の住人たちだろう。お互いを侵食し合ってしか繁栄できない対の存在なのだから、仕方がない。
 そうあってもなお、築ける信頼が。
 確かにあるはずと信じたい氷村の思いは、ただの感傷だろうか。
 もとより、誰も理解することの出来ない思いではある。けれどそれでも、人も物の怪も、長い時間の中にあって変わって行くものなのだと信じていたいのだ。

 そして、次に来る魔の刻は、これまでとは違う。
 魔物たちと、良くも悪くもちゃんと対峙していけるよう、土台を作り上げようとしている人間がいる。藤乃木たちのように。
 生も魔も、昔のままではないのだ。
 そんな組織からのバックアップを受けて、氷村は生と魔の絆に関わりながら生きて行ける。ひとりでは、到底出来ないことだった。

「社会を変えたい訳じゃない。私はそんな大それたことをやり遂げられる力などは持ち合わせていない。だが、放っておけば起こりうる悲しみを、ひとつでも減らせるようにと願うことは出来る」
 氷村は願い、その願いに則ってこれまで行動してきた。
 そんな彼に、巡やかぼが見せた姿は、救いとも希望とも言えるかもしれない。
「君たちのその絆が、永く続くものであることを願うよ。裏切られる回数は、少ない方がいい」
「……」
 ずっと以前からこんなことを繰り返してきたのであろう氷村は、おそらく何度も裏切られてきたのだろう。裏切られるとはすなわち、信じているということだ。
 真の絆を確かめるために、危機的状況を、その手で作り上げて。
 それでも揺るがないものを、見せつけてほしくて。

 理由もわからず襲い掛かられる恐ろしさは、巡たちも痛感している。

「これからも続けるの?」
「ああ」
 巡の質問に、氷村は即答する。
「相容れない存在と馴れ合うのもそれを避けるのも、それは個々の自由だ。だが共存を選ぶのであれば、それ相応の覚悟が必要であることを、知ってもらわなければ困る」
 個人の問題で済まなくなる前に。
「今年度いっぱいは藤乃木で教鞭はとる。だがその後は、各地を歩き回ることになるだろう。それは藤乃木からの打診でもある」
 当然のように言う氷村に、朝比奈は肩をすくめた。
「大胆なことをするモンだな、あの爺さまも……」
 本当の本気で、生と魔のバランスを保つために、全力を注ぐ気でいるのだ。
 その組織というヤツは。
「反感も恨みもあるだろう? 過激派の存在もある。せいぜいへし折られないように、気をつけてくださいよ」
 皮肉めいた朝比奈の言葉だが、彼は本気で言っている。彼なりの気遣いであることは、氷村にも理解できているだろう。
「心配ない。とうに覚悟は出来ているし、自分で望んだことだ」
 物の怪の血を引く数少ない人間である氷村が、自分に出来ることを。
 それが、背負ってきた自分のものですらない悲しみを軽減できる術ならば。

 そう言って氷村が見せる微かな笑みは、決意も悲壮さも内包させていながらも、余裕のある力強いものだった。





==椎名の呟き==
数少ないって言うか、現存していてわかっているのは氷村とその父親だけなんですけどねー。
各地をほっつき歩いて、今回みたいな意地の悪い事件を起こすつもりらしいです、彼。

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2007.07.16

 自分の母体となる人間を傷つけ、命を奪う物の怪。
 そんな彼とは逆に、少女は生まれた子供を心から慈しんだ。

 神域とされるその場所に捕らわれ、奪われてその身に宿した禁忌の子供。
 その子供や自分に対し、物の怪である彼が、何がしかの情のようなものを傾けることはない。けれど少女は、人間と物の怪の魂を分けたその子供を愛した。
 己の中から生まれ来る命を愛さない理由が、彼女にはなかったのだ。

 子供が生まれるまでの間、ずっと物の怪の傍で半ば監禁されながら過ごしてきた少女だったが、子供のために、人の里へ下りなくてはならない。何もない山の中で身ひとつで、物の怪に投げ与えられるだけの糧では子供を育てることは出来ない。けれど。
 鬼と呼ばれる物の怪は、それでも自分が人と同じように作り出した子供というものに、興味のようなものは抱いていた。だから、子供を育てるために人の里へ帰ろうとする少女を、繋ぎ止めようとした。
 否、子供を連れ去るというなら、殺してしまおうとすら考えていたかもしれない。
 育てる親が無ければ子供も生きてはいられないと、彼はもう憶えてもいないのだろう。
 別に、その子供を愛しているという訳でもない。

 分かり合えない物の怪の傍から、少女は逃げ出した。

 鬼と呼ばれた物の怪は、今や本当の鬼のようだった。人々を殺め続けたその身体には鋭い牙と爪を持ち、その刃は容赦なく振るわれる。子供を庇いながら山を下る少女は、何度もその刃に傷を付けられた。

 木々が分かたれる。
 人家が見え隠れする。

 人里まで降りることができれば、少女は助かるはずだった。

 何とか彼の目から逃れて家々の狭間に隠れ、息を潜める少女。
 しかし彼女の命を絶ったのは。
 鬼の爪ではなく、人間の持つ武器だった。

 鍬か、鉈か。それが何かは、背後だったからわからない。
 後頭部に受けた衝撃を、地面に倒れ伏す少女が自覚していたかどうか。

 これが、鬼の子を宿した女だ。
 この赤子が鬼の子だ。


 人は。なんて。
 ――人は、悲しい。
 何かと交わっては生きて行けない、彼らが悲しい。
 結局逃げることしか出来なかった、自分が――悲しい。


 いつの間にか降り出した雨に地面は湿り、広がる赤の血が、土の色と混ざり合う。
 目を閉じることも叶わなかった少女が最後に見つめていたのは、その赤に染まった土の色と、自分の目の前に立つ、小さな少女の姿だった。




「その時に、わちがその赤子をさらって逃げたのだよ」
 かぼは、ため息のような言葉で締めくくった。
「……」
 僅かな間、その場の面々には言葉もない。
「……どうして、かぼが? その子をどうしたの?」
 巡が口を開いた。
「ヤツの所業は、風に乗って物の怪たちの間に広まっていたからな。人間と、あってはならぬ接触のしかたを繰り返すヤツを制裁しようと、多くの物の怪がその場に集結していた。わちも様子を見に行ったひとりだった訳だがな、いたたまれなくなって、子供だけは救い出そうと、そう思っただけだ」
 そうでなければ、子供の命もその場で奪われていただろう。
「禁忌の子だ。だがその子供は、何も知らん。せいぜい運を天に任せる程度の権利はあっても良かろうよ」
 だからかぼは、その子供を遠く離れた集落の、人間の家の前に捨て置いた。
「物の怪では、人間の子は育てられん。誰かに拾われなければ自然に消え行く運命の命だったろうが……生きる力が、あったようだな」
 こんなに永い間、その血を絶やさずにいたとは。
 そして何より。
 何も知らないはずの赤子。
 誰がそれを育てたかは知らないが、その里親ですら、その子供の出生は知らなかったはずだ。
 なのに、代々その末裔にまで、その出生が語られているということは。
 それを最初に伝えることが出来たのは、ただひとりだ。
「やはり、ただの子供ではなかったということだな……」
 その赤子は、生まれたばかりの己に起きた出来事を、記憶していたのだろう。
 自分がどうやって生まれ、どうやって生かされたのかを。
 自分の父親が何者で、母親がどんな末路を辿ったのかも。
 物の怪は、そのほとんどが自分がどうやって生まれてきたのかを記憶しているものだが、その力が、その子供にも受け継がれていたということか。

「そして、その血を受け継ぐ代々の子供たちは皆、己のルーツとなる鬼――物の怪の記憶を、多かれ少なかれ持っている」

 氷村の口から伝えられる真実。
 だから彼らは、話としてだけ知っているのではなく、己と深く関わる過去の出来事として、そのことを知っているのだ。欠片でしかないその記憶は、随分と曖昧なものではあったが。
 己の身体を構成する物の怪の細胞は。偽物であるが故に、どれだけ代を重ねても、消えて無くなることはない。
 偽物の遺伝子。
 けれどそれは、確かに受け継がれていた。

「人を憎んでいた物の怪の記憶と細胞を継ぎ、しかし魔を受け入れられない人間として、私たちは長い時代、命を繋いできたのさ……」

 その末裔である氷村の表情は、苦渋に満ちたものだった。





==椎名の呟き==
台風の影響か、ここ二日間回線が死んでおりました……;;
この辺の過去物語は、もっともっちりと長くできちゃうんですけど、ちょっとうるさいので控えめにしておきました^^;
実は第五話にも引っかかってるんで、ここではさわりだけ、みたいな?

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2007.07.11

 その物の怪は、もっとも人間に近かった。

 一滴の水からも、一本の木からも、生きている動物からも。果てには人間の作り出した無機物からも生まれ出でる物の怪。
 それが『人間』から生まれたとしても、何の不思議もない。

 彼は、人間から生まれた物の怪だった。

 物質が何故物の怪としての魂を持つのかは、はっきりとはわかっていない。だから、魂を持ち生きて動く人間から、何故物の怪としての存在が独立してしまったのかも、わからない。
 けれどその存在は、鬼として人間から忌み嫌われることになる。
 人間の姿を模倣した、魔の世界の住人。
 人ではないのに人と同じ姿を持つ彼は、魔物の存在が多く認められている時代ですら、受け入れられることは無かった。
 総じて生の刻の人間は、魔の刻の住人を好意的に捉えてはいない。だが、実害がない限り放置しておくというのが定石で、人間の方から攻撃的になるようなことはなかった。
 闘わずして、その存在を締め出す。
 それが、人間が常に選ぶやり方だった。
 けれど、彼だけは違う。彼の姿を見れば追い、その存在を許さずに攻撃を仕掛ける。

 人が、彼を許せないのは。
 彼が、人を表す存在だからかもしれない。

 川が汚れれば川の物の怪が衰弱するように。
 菖蒲が枯れれば、その精が精悍さを失うように。
 人の物の怪である彼は、人のリアルな変化を、その身体、その存在で常に表す。

 まるでそれは、鏡のような存在。

 そんな彼の存在を畏怖する人間は傲慢かもしれないが、感情を持つ者としては自然と言えるかもしれない。


 人の物の怪として存在しているにも関わらず、人に近付くことも許されない彼が。
 人間の虐殺を始めたことも、自然の流れとして片付けられることかどうか。


 彼が掴む子供の髪も、女の柔らかな皮膚も、飛び散る血潮も。
 全て自分は自分の身ひとつで作り出すことが出来るというのに。
 なのに彼は、人としても物の怪としても存在できない。それは何故だ。この身で作り出せる全てのものが、所詮は偽物だからか。どんなに模倣しても、生まれて生きて成長していく人間とは違うからか。
 真似をしているから、存在すらも許されないのか。

 その手にこびりつく、人の血潮。
 その手で掴み取る、人間の臓物。
 なにもかも、なにもかも、なにもかも!
 細胞のひとつひとつまでも、自分は模倣で作り出すことができる。
 人間の全てを、この身で再現することが出来るというのに!


「模倣するしか、できないの」


 誰かが、そう言った。

 神域とされ、人の近付くことのない山の頂で、さらってきた人間を引きちぎっていた時に、彼はひとりの少女に出会った。
「物の怪であるあなたは、人間を模倣するしか出来ないの。人間よりも優れた能力を持ちながら、それでも究極に人間になることは出来ない。それはあなたが物の怪だから。人間が、物の怪にはなれないように」
 それでも、鏡のような彼の存在を許さない人間が彼を追い詰めたことを思い、少女は泣いた。
 謝罪の涙ではない。
 どうしようもない存在の食い違いに対する、悲しみの涙だ。
 どうすることも出来ないふたつの世界への。

 その時に生まれたのが、ある意味彼にとって一番人間に近いもの、だったのかもしれない。


 彼は、その少女の身体に、小さな命を宿した。
 まるで人がそうするように。

 それは、何がしかの感情によるものではなく、つきあがった衝動で。

 人を殺し、暴き、憶えてきた人の全て。その細胞のひとつひとつを。遺伝子のレベルまで、彼は『模倣』に成功していたのだ。
 それは、忌むべき行為。
 そういったルールが物の怪の間で存在していた訳ではない。ルールの前に、前例が無かったのだから。それが起こってしまったのは、彼が『人間から生まれた物の怪』であったからかもしれない。
 人から生まれた物の怪という存在自体が希少なのだ。
 だが、魔の刻の住人と生の刻の住人が誕生の時点で交わるなどという事態が、好印象であるはずはない。相容れない世界の魂の融合。しかも片方は、精巧に出来た偽のものでしかない。
 それがふたつの世界において、どんな存在になるのか。
 基本的に物の怪たちは社会を持たない。だから、そうやって生まれた者がどんな存在になろうとも、関係無いと言ってしまえばそれまでだったが。
 相容れないはずの世界をまたいで混乱を招きかねない彼の存在だけは、禁忌として扱われ。

 彼は、物の怪の間でも、歓迎されない存在となってしまった。
 彼は、魔の刻の住人であるという枠を越えてしまったのだ。





==椎名の呟き==
過去のお話はまだ続きます。
ちょいと重く感じる方がいるかもだけど、極力ソフトに行こうと思いますので~~!

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2007.07.07

 そんなばかな、と、朝比奈が呟いた。
「魔の刻の住人に、遺伝子なんてあるわけがないじゃないか……」
 朝比奈の言う理屈は、その通りだ。
 基本的に、魔物と呼ばれる種族は遺伝子を持たない。この世に存在する物質から、それが魂と呼ばれるものとなって偶発的に生まれるか、魔の力によって生み出されるかのどちらかだ。
 何らかの形を持ってはいても、それは細胞によって形作られるものではなく、縁ある物質に近しい形をとっているだけで、成長したり老いたりはしない。魂自体が形を作っているから、その魂が消えれば姿も残らないし、かぼのように人間離れした能力を発揮できたりもする。
 魔の刻の住人が普段見せている姿というのは、それゆえに幻と同じような存在なのだ。

 朝比奈と同じように、かぼとミーシャも驚いていたが、理由はまったく違った。
 禁忌とされた命が。
 未だにその血を絶やさずに繋ぎ続けてきたなんて。

「その様子だと、物の怪諸君は事情を良く知っているようだな」
 氷村の言葉に、しかしミーシャは首を振った。
「いや。オレが生まれる前の話だ。オレは噂でしか知らん」
「そうだの……」
 かぼも頷く。
 その話は、ミーシャが生まれた頃には、すでに物の怪の間でもおとぎ話のように語られるだけのものだったはずだ。物の怪の間でおとぎ話、というのも妙な話かもしれないが。
「わちは良く知っているよ……」
 かぼの表情が曇る。

「ちょっと……」
 ただひとり話についていけない巡が、かぼをつついた。
「どういうことだよ。話の意味がわからないんだけど」
「ん……うむ……」
 頷きながらも、かぼは考え込んでしまう。どこからどのように話せばいいのか考えあぐねているのだ。
「メグ~」
 芽衣が、おっとりと巡の顔を眺める。
「私はつい最近魔の刻のことを聞いたばかりだから良く憶えてるんだけど~、魔物って、遺伝子は存在しないはずなんだよねぇ」
 それは先程も朝比奈が言った。
 しかし、巡には言葉の意味が難しすぎて、何のことかよくわからない。
「つまりね、魔の刻の住人は遺伝子を持っていなくて、魂だけの存在なのね。例えば身体を持ってて動いてたとしても、それは私たちのように成長したりはしない、つまりはただの物質に過ぎないってわけね」
「……」
「人間や動物は、遺伝子を分け合って子供を作ったりする訳なのよ。私は巡は、お父さんやお母さんから遺伝子を分けてもらって生まれてきたって訳」
 巡にもわかるような説明のしかたをする芽衣に、巡は曖昧に頷く。
「もっと砕いて話すとな。つまりメグたち人間は子供を作るが、魔物には子供が作れない。子供を作るための遺伝子など持ち合わせておらんのだからな。勝手に生まれて勝手に消え行く」
 遺伝子のことを言い始めればキリがない。だからかぼは、子供を作るという点に焦点を絞って話した。それでも巡が話を完全に理解するまでには至らなかったのだが。
 だが、つまり。
 わかったこともある。

 氷村が「物の怪の遺伝子を持っている」というのは、話としておかしいという訳だ。
 魔物には、遺伝子がない。そういうこと。

「じゃあ、物の怪の遺伝子を持っているってのは、どういうこと?」
「……」
 氷村も、かぼも無言のまま。
 言いたくないのか、それともどう言えばいいのかと逡巡しているのか。

「こやつの言うことが本当だとして、それでも、その時代、その場に存在していたわちの方が、詳しい話はできるだろうな」
 かぼが、ため息をつく。
 氷村がかぼを見た。
「話だけでなく、事実を現実として知っている、ということだね。私はもちろん当時のことは話でしか知らないが」
「まあの……」
 巡には、どんな事件が起こったのかは想像もできないが。
 ミーシャまだ生まれていなかったせいで、その話を知らなくて、かぼはそれを、事実として知っている。
 つまりはそれほどに時間を遡った先に、氷村が今回起こした騒ぎの原因があるらしい。
 おそらくはかぼが、氷村に代わってその内容を語ってくれるつもりなのだろう。

 巡は、先を促すようにかぼを見つめた。





==椎名の呟き==
ん~、少女の出番がない。
一応そこに突っ立っているはずなんだけどなあw

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2007.07.04

 一体どういうことなのか、巡たちにはまるで事情が飲み込めなかった。
「……どういうこと?」
 巡の疑問に、朝比奈はため息を漏らす。
「さっき、あのでかい魔物を止めに入る直前にな、氷村さんに言われたんだよ。オレが死にそうになったら、絶対にお前らが全力で止めてくれるだろうって。オレたちが命を懸けてもお互いを護ることができたなら……それをこの目で確かめることが出来たなら、自分の――氷村さんの仕事も終わると」
「……」
 それは本当に、どういうことだ。
 わけがわからない。
「氷村さんが、説明してくれるんだろう?」
 朝比奈の視線を受けて、氷村はほんの少し肩をすくめて、頷いた。


 これから来る魔の刻のために。
 やっておかなければならないことが、氷村にはあった。
 正確には、やっておかなければならない、というのは氷村の個人的事情であって、誰かに課せられていることではない。

「私は別に、過激派でも魔狩人でもないよ」

 飄々と、氷村は言った。
「な……」
 絶句する朝比奈に、氷村はおかしそうに笑いかける。
「そうだとは、一言も言ってないがな?」
「そんな……」
 言われてみれば、そうかもしれない。だが、これまでの氷村の態度は、魔物を敵対視する彼らと同じにしか見えなかった。
「彼らの存在を利用はさせてもらったがな。連中に寝返ったと思われた方が、やりやすかった」
 かぼや巡にとって、敵とみなされる。
 その状況が、氷村には必要だった。
「魔の刻と生の刻。ふたつの時代の住人同士が本当にわかり合えるケースは、非常に少ない。だから、生の刻において、魔の刻の住人は時代の片隅へと追いやられるし、魔の刻においての生の刻の住人は、心無き魔物に命を奪われる」
 理想論を言ってしまえば、確かにふたつの時代の住人たちは、互いを認め共存することで、ふたつの時代を共に乗り越えていけると、氷村は考えていた。
 けれどそれは、とても難しい。
「魔の連中は情に乏しく自己中心的で、時を越え行く存在。生の連中は、逆に有り余る情によって他者を縛する刹那の存在。この共存は、本当に難しい」
 相容れないふたつの時代だからこそ、この世界は均衡を保っているのかもしれない。
 けれど、そうだとしても。

 同じ世界に存在しているのなら。
 こうやって、意志を通じ合わせることが出来るなら。
 不可能なことではないと、そう思いたかった。

「わちらを試したのか?」
 かぼの言葉に、氷村は頷く。
「引き離そうとしたのも、半分は嘘ではないよ。もしも最後にはどちらかが裏切るくらいなら、最初から共にいない方がいい。お互いに余計な傷を作ることになる」
 氷村の脅しと魔物に屈してかぼたちが巡を捨てて逃げ出すか、巡がかぼたちを引き離すか。もしもそうなったなら、それはそれで良かった。もう二度とお互いに近付かないようにするなら、それでも。
 曖昧な信頼関係を築き上げたあとで拒絶しあうくらいなら、その方がよほどマシだった。
 結果的に巡たちは、理想的な結果を返してくれたのだが。
 けれど。
 飄々と、氷村はそんな風に言うけれど。
「そんなことをして何になる? ぬしひとりで」
 世界にどれだけの生物と魔物がいるか、わかっているのか。
 逢魔の力を持った者だけに限定するとしたって、その全てに対してこんな風に試すようなことを、ひとりで出来るわけがない。
「同じ考えを持って行動している者がいない訳じゃない。だがそれでも、世界そのものを変えるのは不可能だろうな」
 そんなことは先刻承知、と言いたいのだろうが。
「自己満足だと思ってくれても構わないが……それでも、自分の手の届くところだけでも確かめたかった」
 そんなちっぽけな存在こそが、世界を動かすきっかけにだってなり得る。
 かぼたち然り。
 生と魔の絆を作り上げようとする氷村然り。
 魔の刻を乗り越えるべく機関をたちあげた藤乃木しかり。

 大きな実りの大元は、すべてちっぽけなひとつの種子だ。

「藤乃木は知っていたのか……」
「ああ」
 こともなげに肯定する氷村に、朝比奈は嘆息する。
 何もかも知っていたから、藤乃木は氷村を放置していたという訳だ。過激派に寝返ったという誤解もそのままに。人が悪い。

 だが。
 巡には、おそらくかぼも、わからないことがあった。
「氷村……さん」
 おずおずと呼びかける巡に、氷村は視線を向けた。不敵に見えるのは装いではなく、生まれ持ったものだろうか。
「どうしてそんなに、一生懸命なんですか」
 こんなことに、氷村は一生を捧げるつもりでいるのかもしれない。
 だとしたら、氷村がこう生きていこうと決めた裏には、何がしかの理由があるはずだ。きっかけとなる、理由が。
「……」
 氷村は無言のまま、小さく肩をすくめた。
 よほど、言いたくないことなのだろうか。

「他言無用でお願いしたいがね……」
 氷村は、小さく息を吸う。
「私が、物の怪の遺伝子を持っているから――なのだよ」

 彼の一言に、巡と少女以外の全員が、驚愕に息を呑んだ。





==椎名の呟き==
ちょっと複雑なお話になる?
そうでもないか。
今回20話で収まらないだろうなあ……。またまた予想外orz

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テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

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Author:椎名シイ
 
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