オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
--.--.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2007.08.28
 コトリとテーブルの上に置かれた麦茶を、朝比奈は「いただきます」と口に運んだ。
 トレイの上の麦茶をかぼと巡の前にも置き、芽衣は自分もその場のソファに腰掛ける。
「ホント驚いたよぉ。部屋にいたはずのメグが、先生の車で帰ってくるんだもん」
 うん、と、朝比奈は頷いた。
「オレも驚いた。まさか木霊山から救助要請が入るとは思わなかったからな」
 巡の家付近から木霊山までは、車で移動しても30分ほど。もしも朝比奈に時間の余裕が無かったら、今頃巡の精神は朽ち果てていたかもしれない。そうなる前に、歩いてでも飛ぶ以外の方法で帰ってこようとするかもしれないが。
「ズルいなメグってば。私に内緒で木霊山まで遊びに行っちゃうなんて~」
 別に遊びに行った訳ではない。というか、一時話をしてトンボ帰りというか、ぶっちゃけ短時間の森林浴しかしていない。

「かぼちゃんは、どうしてメグにその現場を見せようと思ったの?」

 かぼの母体ともいえる少女が命を絶たれた村。
 聖域とされながらも、鬼となった物の怪に占拠されていた霊山。
 かぼは、静かな仕草で首をかしげた。
「氷村という存在に出会っていなかったら、話す気になったかどうかもわからん。それだけわちには、氷村は脅威だった。わちが連れて逃げなかったら、氷村の祖先たるあの赤子は、おそらく生きてはいなかっただろうしの」
 そんな氷村と、そして自分のルーツのようなものを。
 話すのには確かに、いい機会だったかもしれない。
 けれど、一番に思うのは。
「氷村を見たとき、人間の寿命の長さを思い知った。けどな、それでもな。同時に、間逆のことも思うの」

 少女の亡骸を目にし。
 その少女の産み落とした赤子をさらって逃げた後に、たったひとりとなって。
 誰にでもなく、見上げる空に向かって、かぼは呟いた。

 ――人の命は、なんて短い――。

 少女は年端も行かぬうちに、その命を武器によって奪われたが。もしそれが無かったとしても、人ひとりの命は、とてもとても儚い。だからこそ人は、子を残すことで命を繋いで行くのだけれど。
 それでも。
 巡だって、そうそう長くは生きられない。のんびりしていたら、気付いた時にはこの世からいなくなっているだろう。
 だから、巡がいなくなってしまう前に、話しておきたかった。
 そして、聞いておきたかった。
 かぼが、人の物の怪でも、何も変わることはないよと。

 出会った頃は、拒絶を恐れていた。
 人々に忌み嫌われた彼と同じように、かぼも巡たちから嫌われるのではないかと。だから、本当のことを言えなかったけれど。
 今は、そんな風には全然思っていない。
 巡なら、たとえ状況に理解が及んでいない結果だとしても、かぼの存在を肯定してくれるだろうと、確信が持てていた。そんな風に自信が持てるようになるまで、本当のことが言えなかったなどと、臆病者だと称されても仕方がないかもしれないが。
 突き放されたくはなかった。
 けれど、できるだけ早く、本当のことは言っておきたかった。
 だって、巡個人の寿命とは関係なく。

 多分。

「わちは、そう長いこと、メグの傍にはいられないからの」
「……!?」
 かぼの一言に、巡は目を見開く。
「……なんで?」
 そんな風にしか、問うことが出来ない。
 かぼは、そう遠くない未来に、巡の傍から消えようとしているのだろうか。
 だがかぼは、相変わらずヘラヘラとお気軽な笑みを巡に向ける。
「それは当然だろう。今はまだいいかもしれん。けどな、ぬしだっていずれは大人になる。ぬしがそうやって大人になって行く過程で、わちがずっとぬしに張り付いていたら、いつかきっと、わちのことを邪魔に思うようになるぞ」
「そんな」
「そうやって、いつか誰かと家庭を持つようになっても、かぼがずっとメグにくっついてる訳にはいかんだろ」
 コブつきならぬ、魔物つき。しかも、人間から生まれた、まるで人間のような物の怪。
 まだまだ認知度の低い物の怪と一緒のまま、人間の社会を生きていくのは難しい。本人はそれで良かったとしても、周囲がそれを受け入れてはくれないだろう。
 かぼは、そう考えている。

「……」
 そんなことを急に言われても。
 いつか大人になるなどという事実は、今の巡には、理屈でわかってはいても、心から実感することは到底出来ない。出会いがあれば、別れもあるという当然のことすらも。

 いつか来る『別れ』の予告に、巡は無言で考え込むことしか出来なかった。





==椎名の呟き==
そろそろ、逢魔が時のお話も、収束に向かいます。
こういうことを言っちゃうのはアンフェアですが、かぼがいなくなって終了、ということだけはありませんので、一応w

★『逢魔が時!』最初から読みたい方はこちら★


人気ブログランキング参加中!
よろしければポチッとお願いいたします♪
人気blogランキング



スポンサーサイト

テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

2007.08.22

 見えないものは、見ようとしなければ、見えない。
 見ようとしても見えないものならば、尚更目を凝らさねば、見えようはずもない。
 誰も同じように、そこに存在しているのに――。

「見えたら見えたで、人はそれを恐れる。直視しがたい己の姿を映す鏡なら、いっそ壊してしまいたいと願うほどに」
 何ゆえ、人が人を殺め、人でない自分が、いわれ無き別離の苦を味わわねばならないのか。
 生まれ落ちたときから、ずっと傍にいた。
 一番の理解者だったし、他に人の友人などいなかった。

「悲しむことなどない、どうせ人の寿命などたかが知れていることだ。魔物は情の薄さゆえに社会を持たないもの。それが生みの親であろうが何であろうが、関係のないこと」
 かぼは、ゆっくりと巡から視線を外し、空を眺めた。
「そう、自分に言い聞かせてみたがの――」
 かぼのために、人の物の怪の許を訪れた少女。
 顔も知らぬ物の怪の、あるかどうかもわからない心を解きほぐすために旅立った彼女を待ち受けていた悲劇。

 だからかぼは、雨が嫌いだ。
 あの時、少女の血と命を洗い流した雨を、かぼは今でも好きになることができない。

 言葉を交わした者が、一瞬にして肉塊と化したあの瞬間は、悠久の時を過ごすかぼの中では、永遠に風化してくれない。
 そして、時を越えてその傷を抱え続けている者もまた、自分以外に存在したのだ。
 あの時、禁忌の子供を生かしたがために。

 だがそれは、もういい。
 もういいというのも変な話だが、あの時に起こった一連の事件について、誰が悪いとか、自分が愚かであったとか、そんな言及や懺悔がしたいわけではない。
 あれはそういう、流れだったのだ。
 回避できる方法が無かったとは思わない。
 後悔して時が戻るのなら、誰だっていくらだって後悔するだろう。
 けれどそれでも。そうなってしまったのだから。
 過ぎ去った過去は、作り上げられてしまった運命であって、元には戻らない。
 それが世界というものだ。
 かぼを作り上げた人間という存在を、その事件のせいで忌み嫌うつもりも、ない。
 恨むのではなく、共存できる方法を。
 悲劇に胸が痛むのであれば、できるだけそれを起こさない方法を考える方が、かぼにとっては重要なことだ。
「メグをここに連れてきたのは、単に知っておいて欲しかったからだ」
 何事もなかったかのように、かぼはニヤリと笑った。
 氷村に受け継がれた悲劇の記憶の中に、かぼの存在があったことを。
 そして、どんな運命であれ、共に存在し続けていく、自分は人間の物の怪なのだということを。

「……」
 どう反応していいかわからない巡を、かぼはいつもの憎たらしい視線で見やる。
「ぬしが知りたがっていたんじゃないか。かぼが何の物の怪なのか、知れて嬉しかろ?」
 からかうような物言いに、巡は眉を寄せる。
「そりゃそうだけど……」
 事情が複雑すぎて、どんな顔をしていいのかもわからない。
 正体を明かそうとしないかぼに腹を立てたこともあったけれど、長い時を過ごす物の怪には、それ相応の経験や事情があるという事実を、今実感したばかりだ。
 途方も無く長い時間の中には、きっと他にも様々な出来事が。
 多分それは、巡の理解の範疇を超えるほどに、膨大なもの。
 自分はあまりにも、幼くて小さい。身体も――心も。
 けれどそれすらも、当たり前で、仕方のないことで。

 もちろんかぼは、そんな巡を叱咤するわけでもなく、励ますでもない。
「メグは、かぼが人間の物の怪だと知っても、恐ろしくはないかの?」
 ニコニコと問うかぼに、それだけははっきりと、巡は首を横に振った。
「そんな訳ないだろ。他の物の怪だって沢山いるし、襲いかかってきた魔物だっているわけだし。なんで人間の物の怪だからって、かぼを憎んだり怖がらなきゃならないんだよ」
 巡にしてみれば、人間の物の怪だというだけで彼を追い詰めた人々の方が理解できない。
「うん。メグが子供で良かったと、わちも思っているがの」
「なんだよ」
 確かに子供だが、かぼにサラリと言われると、何となく悔しい。
 そんな様子が目に見えたのだろう。かぼはさらに笑みを深くする。
「拗ねるな。馬鹿にしている訳じゃないぞ。ただ」
 巡が何も知らない子供だと言いたい訳ではなく。
 大人は色々と複雑なのだ。純粋で無垢な心を持ったまま、大人にはなれない。故に大人は、余計な情報や感情を持ってしか、他と接することができない。それが悪いというわけではなくて、それが、大人になるということなのだ。
 巡がそういう大人だったなら、かぼは今ここでこうしてはいないだろう。

 巡が子供であったから、かぼは彼と一緒にいられる。
 そして、共にありながら大人になっていくことも可能だろう。

 かぼは、巡に向かって両手をズイ、と差し出した。
「色々と話せることもあるが、とりあえず帰ろうかの?」
 ニコニコと差し出されるその手は、巡を再び抱え上げようとしているのだろう。
「……!!!」
 あの悪夢のような時間が、再び。
「待て、ちょっと待て!」
 巡は慌てふためきながら、胸にぶら下がる硬いものを握りしめた。
「……あ、携帯!」
 こうなるとわかっていた訳ではないが、何気なく首からぶら下げていた、自分の携帯電話。これまで意識してもいなかったが、持っていて良かったと心から思う。というか、ここに来るまでに振り落とされなかったのは幸いだ。
 巡は咄嗟に、胸の携帯をパカリと開いた。
「なんだなんだ」
「いいから黙ってろ!!」
 誰か……誰か。
 というか、ここで頼れるのはおそらく、ひとりしかいない。
 つい最近登録された番号を呼び出す。
 頼む、暇でいてくれ。

『どうしたぁ?』
 割とすぐに電話に出た相手ののんびりとした声に、巡は食って掛かるように叫んだ。
「先生、今すぐ迎えに来て!! でないと僕、多分死ぬ!!!」
『……は?』
 電話の相手――朝比奈に、巡はひたすらに、助けてくれと叫び続けたのだった。





==椎名の呟き==
帰りは車です。良かったね。
でも車で来られる場所までは、徒歩で移動せねばなりません。再びかぼに抱え上げられて、そこまで強制移動させられるのが関の山ですが。

★『逢魔が時!』最初から読みたい方はこちら★


人気ブログランキング参加中!
よろしければポチッとお願いいたします♪
人気blogランキング



テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

2007.08.15

 かぼから漏れた言葉は、巡の予想を遥かに上回るものだった。

「鬼とされた物の怪の子を産み、人間にその命を絶たれた女はな……わちの生みの親でもあった」
「……え?」

 それは一体、どういうことだろう。
 かぼは物の怪であるはずで、誰かが産んだ訳ではないはずで。でもその女性が産みの親だというなら、その女性も物の怪だった? いや、それはない。彼女は人間だったが故に、悲劇の末路を辿ったはずだ。それに物の怪は、子供を産まないものだろう。
「生みの親、と言うと誤解を生むかの。かぼは、その女から生まれ出た物の怪、ということだ」

 突然に、唐突に。
 生の刻のあらゆるものから、突如として発生する、物の怪。
 ミーシャが川から、シンが猫から発生したように。
 かぼは、人間から。
 ということは。

「かぼも、人間の、物の怪なのだよ」

 人間の、物の怪。

 確かに、人間の物の怪が複数存在しないという決まりはないかもしれない。それはまあ、いい。けれど巡が驚いたのは、そこではなくて。
「だから、今までメグには本当のことは言いにくかった。人間の物の怪が、人にどういう感情を与えるのかは良く知っていたつもりだし」
「い、いや」
 鬼と呼ばれた物の怪が、当時の人間にどう思われ、どういう扱いを受けたかを考えれば、かぼが巡に本当のことを言えなかったというのも納得は出来る。それはわかるのだが、そうではなくて。
「そんなことより、かぼ。じゃあかぼは」
 古い過去。その時、その惨劇の場で。
「かぼは自分の生みの親といえる人を、亡くしたのか?」
「そうだ」
 淡々と、微笑さえ浮かべて肯定するかぼ。
 生みの親と言っても、偶発的にその人間から生まれ出てしまったというだけで、本当の意味での親という訳ではない。それに、物の怪は人間の言うところの情というものを、あまり多くは持ち合わせてはいないらしいがそれでも。

「人なぞ、どうせ一瞬で死んでしまうものなのに、なぜ殺さねばならんのだろな」




 逢魔の力を持つその少女から、今はかぼと呼ばれる物の怪は、ポロリとこぼれおちた。
 まさにそんな感じで、彼女は生まれた。
 物の怪と呼ばれるものが、どうしてこの世に発生するのか、それはわからない。けれど。少女は言う。

「あなたは多分、私の『生きたい』っていう気持ちから生まれたんだね」

 逢魔の中でも抜きん出た力を持つ少女は、その力ゆえに、形ないものの言葉を伝える者として祭り上げられ、長い時を巫女として生きてきた。
 自由を奪われ人に利用され続けることを拒まなかったその少女は、生きていないと言っても過言ではない人生を送っていたのかもしれない。
 けれど少女は、彼女を崇める人々の隙を突き、旅立った。
「あなた以外に、人間から生まれた物の怪がいるらしいの」
 それは風の噂というか、物の怪たちの情報網から得た話だ。
「私、会いに行ってくるから、あなたはここで待っていてね。決して人前に出てはだめよ」
 人と物の怪がわかりあいにくい存在であることを、少女はその経験でもって痛感している。それが人間から発生した者であるならなおさら。だから少女は、常から彼女には人前に出ないようにと言って聞かせていた。
 物の怪にしろ人間にしろ、心ある者ばかりではないのだ。

 けれど、何故そうまでして、人の社会でいわれなき反目を買うことを承知の上で、人から生まれたその物の怪に会いに行こうというのか。
 その場から逃げ出したと知れれば、ただでは済まないだろうに。
「あなたと、友達になれるんじゃないかな。それに彼――彼女かな。も、もしかして人の物の怪であるせいで困っているかもしれないし」
 人から生まれたというのであれば。
 会っておきたい。
 逢魔の力を持つ者として、伝えておきたい。

 生と魔の存在は、真にわかり合うことは難しいかもしれないけれど、折り合いを付けていくことはできるはずだと。
 ――人を、憎んではいけないと。
 許し、妥協し、極力理解し合って行くことで、生も魔も、もっと楽に共存して行けるものなのだと。




「当時のわちは、好きにすればいいと思っていたがの」
 物の怪の生みの親であるが故に、共存しにくいことでその心を痛めているのであれば、自分の満足のいくように行動することを、止める理由はない。
 自分の一番の理解者である少女を、かぼも、理解していたかった。
 だから少女の言うとおり、大人しく待っていようと思っていたのだが。
「旅路は遠い。それに何が起こるかもわからない。一応、様子だけは見ておいたほうがいいんじゃないかと、ふと思い立ってな」
 その遠い地にある人の物の怪は。
 意識して情報を集めれば集めるほど、良い噂を聞かない。

 ふと思い立って、というのは嘘かもしれない。
 かぼは聞いたのだ。
 人間の女が、人を模した物の怪の子供を宿したことを。
 なんてことを。
 ――なんてことを。
 何故、そういうことになるのだ。

 そうして少女を追ったかぼは、手遅れを思い知ることになる。

 ぼんやりと彼女を待っていた、一年を越える時間。
 せめて、あと一日でも早く思い立っていたなら。
 むしろ、あと一時間でも早くそこにたどり着いていたなら。
 少女に向かって振り下ろされる凶器を、止めることが出来ていた。

 だが、そんな『もしも』に縋ることなど許されないほどに、時の流れは正確なのだ。
 過ぎた時間を戻すことは、悠久の時間を過ごす物の怪にだって、できはしない。

 降りしきる雨と一緒に大地に流れ落ちていく命を。
 当時のかぼは、黙って見送ることしか出来なかったのだ。





==椎名の呟き==
一話からの伏線が、こんなところに……ッ!
ていうか、今まで書こうと思ってもその隙が見つかりませんでしたって話ですが。

★『逢魔が時!』最初から読みたい方はこちら★


人気ブログランキング参加中!
よろしければポチッとお願いいたします♪
人気blogランキング



テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

2007.08.08

 旅行なんて言うから。
 かぼとふたり、向かい合って電車でガタンゴトンと揺られる旅を連想してしまった巡は、旅行番組の密かなファンだ。しかし、かぼの存在を他に知られたくないなら、傍目から見れば、巡、無言の一人旅ということになる。
 しかしそれは、巡の想像に終わった。
 大体、かぼと二人きりで小学生が旅行など、保護者に許しを得られるはずがない。いくら相手が天然の由美香であってもだ。

 実際は、もっとあり得ない『旅行』だった。

 別にいいけどどうやって、と呟いた巡を、かぼは早速とばかりにその肩に担ぎ上げた。
「……え!?」
 カラリと窓を開け、巡を担いだままのかぼは、そのまま窓の外へと飛び出した。
「あまり暴れるんじゃないぞ~」
 かぼの身長では、担いだ巡の手足を引きずる勢いだったが、空中だから心配無用。
 そう、空中だから。

「ぎゃあああああああああ!!!」

 電柱から電柱へと。木から木へ、屋根から屋根へと。
 ストーンストーンと軽やかに飛び移るかぼの速度は、道路を走る自動車と大差ない。
「…………ッッ!!!!!」
 自分の半分ほどしかない少女に担がれて空を舞う巡は、たまったものではない。むしろ、生きた心地がしなかったというか、全ての感覚を自覚している余裕すら無かったというか。
 朝比奈ですら軽々と掴んで数メートル飛び上がることの出来るかぼだから、本人はいたって平然としているのだが。

 時間にして、30分ほど。

 それだけの時間を空中アクロバットに費やした巡は、目的地に到着する頃には、既に気を失っていた。

「人間ってのは、本当に軟弱だの……」
 ビシビシと頬を叩かれて目覚めた巡にかけられた、かぼの第一声。
「軟弱ってお前なあ……あ……うえぇ」
 眩暈と吐き気を覚える巡は、反論もろくに出来ずにその場にうずくまる。
「こんな……人に見られたらどうするんだよ……」
「大丈夫だ、見られやせん。あんまりメグが騒ぐから少し心配だったが、途中からは静かだったしの~」
 かぼの無茶苦茶は今に始まったことではないが、ここにきて巡、己の認識の甘さを思い知った。かぼの本気は、想像以上だ。というか、多分まともな思考では及びもつかない。
「ほれほれ、元気を出せ。ここは空気もうまいからな。深呼吸するがいいぞ」
「……」
 そういえば、ここはどこだと。
 ゆるゆると頭を上げた巡は、辺りを見回した。
「メグのうちから、そう遠くもない。木霊山は知っておろう?」
「こだまさん……?」
 知ってはいるが、そんな方まで来ていたのか、と驚く。標高1000メートルほどの、近辺では大きい方に属する山だ。巡も何度か訪れた記憶がないでもないが、しかしこんな場所は知らない。人の手がまったく入っていないのに、木々や雑草で覆いつくされているでもない。
 かぼによれば、巡たちが観光地として知っている頂上付近とは少々離れていて、登山コースとしても開拓されていない場所らしい。
「開発しても仕方のない場所だがな。それにしてもこれまでまったく、手が付けられてこなかったというのも不思議な話だ」

 もう千年以上が経過するというのに。

 かぼの呟きに、巡は訝しげに彼女の顔を見た。
「千年?」
 かぼは笑う。
「昔はここにも小さな村があったんだがの。さすがにこれだけ時間がたつと地形も変わる。人が足を踏み入れるのも困難になっているかと思えば、案外そうでもないのだな」
 それなりに生い茂る木々間に生える草を踏みしめて、かぼは少し歩く。人の手が入っていないという割には、それほど荒れてもいないそこは、何とも不思議な空間だ。

 ここは、古い古い、小さな霊域。
 禁忌の交わりと殺生が行われたこの地を、人間は無意識に避けてきたのかもしれない。これまでずっと。
「ここって……」
 巡が眉を寄せる。
 巡の先を歩いていたかぼが、ふわりと髪を揺らして振り返った。
「ここは、氷村の祖先たる子供が産まれた場所だ」
「……!」

 人と物の怪の子供を少女が宿し、その少女が殺された後に廃村となった村があった場所。
 かつての、悲劇の場所。
「やはりメグにも聞かせておこうと思ってなぁ」
 ヘラヘラと笑いながら言うかぼの表情が、ほんの少しだけ曇って見えたのは、多分巡の気のせいではなかった。





==椎名の呟き==
結構近くにあった過去の場所。
というか巡ってどこに住んでるんだ。あ、もちろん「木霊山」というのはフィクションですw


★『逢魔が時!』最初から読みたい方はこちら★


人気ブログランキング参加中!
よろしければポチッとお願いいたします♪
人気blogランキング



テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

2007.08.02

 忙しなかった7月が過ぎ、8月となった。
 夏休みともなれば課題もあるし、普段はやらなくていい諸々の用事も言いつけられたりして、それなりに忙しいものだが、それでも夏の暑さの中、巡は割と暇を持て余していた。
「アレはないのか。ほら、良く聞く塾だの、夏期講習だの」
「なんでそういう知識はついてるかな……」
 これまた暇そうなかぼの言葉に、巡はげんなりとベッドの上でゴロリと寝返りを打つ。
 巡は塾にも通っていないし、夏期講習などというものにも縁がない。一応小学校入学の際に受験はしたが、来年の進学時には藤乃木学園グループの中学に内部入学する予定だ。この学校は持ち上がりの場合内部考査しかない。よほど酷い成績でなければ、簡単に中学校まで持ち上がりで進学できるシステムだ。そこそこの成績を保っている巡は、余計な勉強をしようとまでは考えなかった。
「氷村さんのこともあったし、少しはゆっくりしたいよ」
 暑さのせいか、若さに欠ける巡の台詞。
 実際、巡の夏休みなど、いつもこんな感じだ。父親は単身赴任で不在、暇を持て余した母は家庭の潤いのためにパートの仕事に精を出しているから、夏休みだからといって大型レジャーが待っている訳でもない。巡も芽衣も、そんな生活に慣れ切ってしまっていたから、不満が出ようはずも無かった。
 というか、要は出不精なだけか。

「氷村さん、か……」

 夏休みの前半は、色々な意味で衝撃的だった。
 魔物に襲われるなどという前代未聞な経験もそうだが、氷村のように、魔物と人間の血を分けた存在が、自分の知らないところでしっかりと存在していたなんて。
 世の中は広すぎるというか、考えていたよりも奇抜というか。
 人間と物の怪が分かり合えなかった結果が彼であると見せ付けられているようで悲しいけれど。巡だって最初は、物の怪であるかぼを素直に受け入れようとはしなかった。昔の人や物の怪のことをどうこうとは言えない。
 今の信頼関係があるのは、かぼが立ち回って巡の心を開いてくれたからだ。
「なんだ。あ奴のことが気になるか?」
 相変わらずニヤニヤと笑った表情のかぼは、グラスに注がれたオレンジジュースの中に浮かんでいた氷をボリボリと噛んでいる。最近のお気に入りらしい。
「ん~……」
 氷村そのものが、という訳ではなく、氷村にまつわる過去の事件と、これから自分が進んでいく未来のことが気になる、と言った方が正しいかもしれない。
 過去のことを、言葉で聞いただけでは到底理解など及ぼうはずもない。そうでなくとも通常なら、おとぎ話としてでも語られそうな、突拍子もない話だ。
 それでも魔の刻というものが、これから訪れるのは確実で。
 以前かぼは、本格的な魔の刻が訪れる頃にはもう巡は生きてはいないと言っていたけれど。それでも時代は変わりつつあるのだ。
 他人よりも一歩先を進んでいる自分は、これからどうやって生きていくのだろうと。
 自分にどんな未来が待っているのかなどと、具体的に考えたことなどこれまでも無かったが、だからこそ、自分の未来に不安を覚えるようなことも無かった。
 魔物との対立とか共存とか。
 考えるというか、思いつきもしなかったのは、当然のことだ。

「ふ~む」

 何事かを考えるような素振りを見せるかぼ。
 飄々と、どうでもいいようなことを考えているようにも見えるが、その表情は、良く見れば存外に真摯なものに満ち溢れている。
「そんなに力むほどのことではないと、わちから見れば思えるのだがの……でもまあ、馴染めと言われても、素直にはいそうですかと言うことが出来ないのも、人間の特徴だからの~」
「……悪かったな」
 その手のグチやら説教やらは、これまで散々聞いてきた。
 人間は、正体不明のものを恐れ、排除するようにできている。もちろん例外だってあるが、それは単なる個人差で、実際人は、自分と違うもの、ましてやその根本を知ることの出来ない物の怪の存在を、そう容易く受け入れられるような社会は出来上がっていない。
 いくら代を重ねたところで、そうそう変わったりなど出来ないものだ。
「今回改めて思い知ったが、人間の寿命は長い。他を招き入れないからこその長さなのだとしたら、このままでいた方がいいのかもしれんが、わちら物の怪にとっては寂しいものだの」
 しみじみとしたかぼの言葉に、ゴロ寝していた巡はベッドの上で上半身を起こす。
「人間の寿命が長い? 100年足らずなんて、かぼにとってはあっという間のことだろ?」
 しかしかぼは、首を横に振る。
「それは、例えばメグひとりの寿命を考えれば、その通りだがの。だが人間は、短い命だからこそ次世代を残す。もちろん人間以外の生の刻の住人も、皆そうだがの。わちが言っているのは、その長さの話だ」
 人は子を生し世代を繋ぐ。歴史を作る。そうして古からこれまで、人間というものの存在を存続させてきた。かぼが言うのは、その人間全体の寿命の話だ。
 人間全体の生きてきた時間は、とても長い。

「わちがこれまで存在し続けてきたのが、何よりの証拠だ……」
「……え?」

 一瞬眉を寄せた巡に向かい、かぼはニッコリと笑顔を向けた。
「メグ、暇ならわちと旅行せんか」
「……はあ?」
 突然のかぼの言葉にぽかんと口を開いた巡だったが、そんな彼を見つめるかぼは、ただニコニコと笑って返事を待っていた。





==椎名の呟き==
どこへ行くつもりですか……。

★『逢魔が時!』最初から読みたい方はこちら★


人気ブログランキング参加中!
よろしければポチッとお願いいたします♪
人気blogランキング



テーマ : 自作連載小説

ジャンル : 小説・文学

プロフィール

Author:椎名シイ
 
オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
一部微妙に腐女子向けかも!

インフォメーション

Twitter

管理人へのメールフォーム

pixiv
pixivは二次創作腐向け小説と絵。ジャンルは雑多。

カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

07月 | 2007年08月 | 09月
 日  月  火  水  木  金  土
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


訪問者数
ラグナロクTV

このブログ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。 © Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved. © GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。
ブログ全記事表示
ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。