*ROシドクスクエストにつきネタばれ有り、ご注意願います。---4謎の鉱石と謎の老人
「お帰りなさいませ、お客様」
シイナがフロントに顔を見せると、チェックインした時に受付を担当した従業員が、その時と同様にうやうやしく頭を下げた。
「シイナ様、203号室ですね……おや?」
ふと首をかしげた従業員は、不思議そうにシイナを見つめる。
「シイナ様は確か、お出かけの時には間違いなくこちらに鍵を預けられましたよね?」
「ええ」
それは間違いない。一度部屋には入ったが、ろくに荷物もないし、すぐに出かけなければならなかったので、今目の前にいる従業員その人に、鍵を預けて外に出た。よく憶えている。
「鍵がないんですか?」
シイナの質問に、従業員は慌てたように首を振ってゴソゴソとカウンターの下をあさった。
「いえいえ、予備の鍵はございますので問題はありません。私が確かに鍵をおあずかりしたのですし……」
つまりやはり、鍵がないのではないか。
しかし従業員はさっさと予備の鍵を取り出し、何事もなかったかのようにシイナに向かって頭を下げた。
「お待たせいたしまして、申し訳ございません。こちらがお部屋の鍵になります。ごゆっくりくつろがれますよう」
「ありがとう」
まあいいか、と、シイナはその鍵を受け取った。
別に部屋に貴重品を置いていた訳ではないし、部屋に入れないわけでもない。シイナはあまり小さなことにはこだわらない性格だ。大雑把とも言う。
二階にあがり、アインベフに出掛ける前にも一度入った部屋のドアを開ける。
「え……ッ」
思わずシイナは目を見張ってしまった。
シイナの視線の先。
見たことのない老人が、室内のベッドに横たわっていたのである。
「失礼しました!」
慌てて部屋のドアを閉じてしまってから、シイナはそんなバカな、と思い返した。
いくら彼でも、一度入った部屋を間違えるほど間抜けではないはずだ。そのドアに記された部屋番号を確認すれば、確かにそこは203号室。シイナが取った部屋の番号であるし、今その手に握られているのもその番号の鍵で、シイナは確かにその鍵で、ドアを開けた。
しかしつまり、内側から鍵をかけた状態で、老人はシイナの部屋のベッドに横たわっていたのだ。
シイナはその足で、フロントに直行した。
「あの……」
「あ、はい、いかがなさいましたか?」
シイナの気配と声に反応した従業員は、瞬時に戸惑いの色をその顔に浮かばせた。やはり何か不都合があったのだろうかと直感したのかもしれない。
部屋に見知らぬ老人がいた事を、従業員に告げる。
「え、そのような事が……」
一体誰がどうやってそんな勝手な事を、と呟きながら、従業員はふと思い出したように伝票や帳面を漁る。
「一応確認を……あ」
ああ、と、彼は沈痛な面持ちで頭を抱えた。
「どうかしましたか?」
「…………」
無言の従業員。なんだ、どうした。
「……まことに、まことに申し訳ございません」
「は?」
「シイナ様が外出されました後に、一度フロント担当が入れ替わったのですが……その……その時に、私のかわりに入った者が……シイナ様のお部屋に、別のお客様を入れてしまったようでして、私も今までその事にまったく気付きませんで……」
「え?」
「申し訳ございません!!」
「はあ……」
鍵が見当たらなかったワケだ。ダブルブッキングとは。実際そんな事があるのかと、そんな場合ではないような気がするが、シイナは妙な部分に感心してしまう。
「私は他の部屋でも構いませんが?」
「それがその……ただいま満室になっておりまして……」
ああ。なるほどそれは、少々困ったことになってしまう。
「こちらの不手際で……なんと申し上げてよいか」
「うーん……」
「……ですが、先にお部屋を取られたのはシイナ様ですので……シノータス様、ああいえ、後からいらっしゃった客様には、私のほうから謝罪と交渉をさせていただきますので」
いかんともし難い状況だが、それがホテル側としても最善の策といえるだろう。しかし、シイナは少し考えた。
部屋で横たわっていた老人。上掛けもかけずにぐったりとうつぶせになっていた背中からは、相当の疲れが見て取れた。その老人を無理やり起こして追い出すのは、少々気が引けてしまう。
早く宿で休みたいと思っていたのは事実だが、絶対にどうしても、そうしなければならないというわけでもない。モンスター討伐の際に野宿をするなんて、これまで当たり前のようにやってきた事だし、だからシイナは、そういう状況に慣れている。
だから自然と、あの老人に部屋を譲ってもいいかという思考にたどり着く。
「あの、私はかまいませんから、そのお客さんに部屋を譲ってやってください」
「え、ですが」
シイナの言葉に戸惑う従業員。
だが、その顔からは、あからさまに安堵の表情が見て取れた。こういう商売をやっているだけに、頭の回転が速いのだろう。故に、シイナの言葉に速攻で反応してしまったのがハッキリとわかり、申し訳ないが、内心笑いを誘われてしまった。
「私は大丈夫ですから。部屋で休んでいるご老人は、そのままそっとしておいてあげてください」
普段からシイナはどこでも眠れる質の人間だし、必要ならば一日や二日は眠らないでもいられる。この街の場合、警報が出たときのモンスターの出現は心配だが、安全を考えるなら空港のロビーにでも陣取っていれば問題ないだろう。
「そうおっしゃっていただけるのでしたら……はい、重ね重ね、心よりお詫びと感謝申し上げます」
深々と頭を下げながら、晴れ晴れとした笑顔を見せる従業員。そうと決まった時の対応も素早い。
現金なものだ。
「荷物だけ、取りに行ってきますね」
繰り返し頭を下げる従業員を尻目に、シイナは再び二階への階段を登った。
==椎名の呟き==
どうでもいい事ですが、煤けた街のホテルの割に、全室天蓋つきベッドなのですよ。
ゴージャスです。
一時期シイナは、このホテルの会食場のような場所で、豪勢な食べ物に囲まれながら座ってボーっとしていたものです(何
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