オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2008.05.28

*RO恋人クエストにつきネタばれ有り、ご注意願います。

 アインベフでの人探しは、造作もない。

 人口の少ない小さな村だから、数人に名前を言って回れば大抵の人間の居場所はつかめる。クルトもすぐに見つかった。今まで意識をしたことがないから顔をつき合わせた事はないが、シイナが良く行く酒場の比較的近所の長屋に、彼は住んでいた。
 今日は家の方にいるんじゃないかね、と指し示されて訪ねてみれば、警戒心のなさそうな人懐こい笑顔がシイナを迎えた。
 もしかして見た事くらいはあるのではないか、とも考えていたが、シイナの記憶の中に、この青年の姿はなかった。

「そうですか……カーラが、僕によろしくと……」

「ええ」
 あちこち汚れて擦り切れた作業着に身と包んだクルトは、覇気のない瞳を床に向けて彷徨わせた。人は良さそうだが気の弱そうでもある彼は、確かにあの母親が好みそうな男性ではないようだ。第一印象だけで判断しろと言われるなら、もしもシイナが親だったとしても少し考えてしまう。
 人の好みはそれぞれだし、カーラが彼を好きだというのには、他に理由があるのかもしれないが。
「彼女は本当に優しい人なんです。こんな情け無い貧乏な僕のことを、そんな風に気遣ってくれる……美しくてしとやかで、優しくて……カーラ……」
「……」
 クルトは涙ぐんで目を伏せる。
 しかし、男が女を手に入れるのに、しなければならないのはそんな事ではない。
「君は、このままでいいの?」
「え?」
「カーラさんは、私には何も言わなかったけど、きっと君が来てくれるのを待っていると思うんだけど」
 クルトに無茶をして欲しくないと、優しい彼女は言った。彼女のもとを訪れたクルトが酷い目に遭うのを懸念してそう言ったのだろうが、本当は彼女だって、クルトに会いたいはずだ。
「簡単に言わないで下さい……。いえ、わかっています。僕がダメなんです。こんな村に住むこんな男では、あの家に許されるはずもないんです。カーラにだってふさわしいわけがない」
 すっかり諦めモードか。
 根本的に、悪いのは財力がないことではない。いや、クルトにそんな風に思わせてしまうカペルタやアインブロックにも問題はあるわけだが。根の深いふたつの都市村の歴史を鑑みれば、無理のないことかもしれない。けれど、身分の差に捕らわれているのは、カペルタ家だけではないということは確かなようだ。
 しかしここで諦めていたら、状況は何も変化しない。ほんの少しの行動で、変わるかもしれない可能性があるというのに。
「彼女のお母さんだけど……」
 シイナは、カーラの母親の言っていたことを、クルトにそのまま伝えてみた。

「……カペルタでは、今材料が不足しているんですか?」
 クルトは首をかしげる。
 そういう反応が返ってくるとは思わなかった。純朴なのかもしれないが、多少天然気味なのではないだろうか。
「いや、そういう話ではないと思うけど」
「材料が必要なら、少しは揃っているんですよ」
「え?」
 これもまた予想外の言葉。
「もちろんそんな状況を望んでいるわけではありませんが……もしもカペルタ家で、カーラの家で何かあったり困った事態になったときに使えればと……少しずつ貯めてきたので」
 クルトは言いながら、ゴソゴソと棚を漁った。
 取り出されたのは、小さな鍵だ。

 長屋のはずれ、案内された保存庫で、シイナは呆然とするしかなかった。
 量が半端ではない。さほど大きくない保存庫ではあるが、そこに所狭しと積み上げられた鉱石や石炭の数々。勿論工場で扱うのはもっともっと桁違いに膨大な量だが、それらは各所から集約されたものだ。個人でこれだけ集めるのに、どれだけの時間を費やすのか。
 貴重な財源であるはずのこれらを、金にも換えずにずっと置いておくなんて。
 カペルタ家の、ひいてはカーラのために。
 もちろん、それが本当にカペルタ家が困窮した時に役に立つかと問われれば、答えはノーだろう。けれど、重要なのはそこではない。
 今ここに用意されている鉱石たちが直接役に立つ事はほぼないと言ってしまってもいいだろう。けれど、クルトのこんな、相手を思う気持ちと長い時間を掛けての積み重ね。持久力。それだけは、本物だ。
 彼も、何の努力もしていないわけではなかったのだ。

 驚きの眼差しで見つめるシイナの視線を、クルトはただニコニコと、屈託のない笑顔で受け止めるだけだった。





==椎名の呟き==
自分でも思っていた以上に、クルトが天然です。

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2008.05.21

*RO恋人クエストにつきネタばれ有り、ご注意願います。

 少しだけ沈んだ空気を払うように、カーラは明るい笑顔をシイナに向けた。
「シイナさんは、こちらへはお仕事でいらっしゃったの?」
「え? ……ああ、うん、そうだね。仕事ついでに、気に入ったからこの街に住み着いてる」
 シイナの答えに、カーラはクスクスと笑った。
「同居人の方とは、仲良くできてますか?」
 カーラの口から意外な言葉を聞いて、シイナは一瞬だけ目を丸くする。
「そんな事まで知られてるのか……まあね、ケンカはあまりしないなあ。色々世話になってるから、助かってる」
 アインブロックの住人のもとで世話になっている事実すら知れ渡っていることに舌を巻きつつも、まあ別に隠していることでもないから普通に答えると、カーラの表情がほんの少し曇った。
「こんな風に他人を受け入れがたい地域にも、そうやって溶け込むことの出来る人はいる……本当はとてもとても、難しいことだと思うけれど。むしろ彼がアインベフではなく、他の国の人だったら、今と同じ財力でも受け入れてもらえたのかしら」
 クルトの話題になってから、ついつい彼を思い出しては思考に沈んでしまうようだ。彼のことが、とても気になっているのだろう。
「カーラさん?」
 シイナが顔色を伺うように覗き込むと、カーラはハッとしたように明るく笑って首を振った。
「なんでもないです。アインベフへ行かれることってあるんですか?」
「あるよ。仕事でも行っていたけど、今は専らプライベートかな」
 アインブロック周辺の調査という大聖堂からの使命でこの地を訪れたシイナだったが、その調査は殆ど終えていて、派遣されていたルーンミッドガッツの人間は、その大部分が役目を終えて国に帰っているはずだ。シイナのようにこの地に居ついている人間は殆どいない。最近のシイナがアインベフに向かうのは、知り合った人間の御機嫌伺いや酒場に息抜きに行くといった用事で、である。
「もしも、もしもアインベフでクルトに会うことがありましたら、カーラからよろしくとお伝えください……元気でいますから、クルトも身体にはくれぐれも気をつけるようにと」
 伏せ目がちに、カーラはそれだけを言う。きっともっと言いたいこともあるだろうし、本当なら自分が会いに行きたいのだろうけど。そればかりはシイナもどうにもしてやることはできない。
「わかった、伝えるよ。もしも彼に会ったら」
 いつアインベフに行くとも、また彼に会うとも具体的に約束したわけではなかったが、カーラはシイナのその言葉だけで、本当に嬉しそうに微笑んだ。

 玄関付近で辺りの片付けに精を出していたカーラの母親に、シイナはお邪魔しました、と声をかけた。彼女は相変わらず勢い良く振り返ると、愛想を振りまくでもなく、本当に他人を見下すように豪快に笑った。
「ああ、お帰りかい。このカペルタ家に上がってもてなしを受けたんだ。他人に自慢してもいいからね!」
 シイナは曖昧な笑みを返す。
「……アインベフが、お嫌いだそうですね」
「カーラから聞いたのかい?」
 シイナの言葉に、母親は気を悪くするでもなく、フン、と片方の眉を吊り上げる。
「私はね、貧乏に甘んじて、そんな狭い世界から抜け出そうとしようともしないような怠け者は大嫌いなんだよ。アインベフの連中はみんなそうさ。娘に熱を上げている冴えない男だって同じ。まあ、このカペルタ家に鉱石やうちの工場の加工品材料でも献上しにでも来れば、同じ下等な人間でも、少しは格が上がるってモンだがね!」
 ガハハハハ、と彼女は笑う。
 財力がないことがイコールで怠け者に結びつくわけではないだろうに。どんなに頑張ったって報われない人間はいるし、最低限の金銭だけで慎ましやかに暮らそうとする者だっている。
 というか、つまり貢物さえあれば、この家での扱いは変わるってわけか? それがこの家での人間の価値なのだろうか。単刀直入にもほどってものがあると思うのだが。
 彼女は取り付く島もない様子で、再びシイナに背中を向ける。
「……それだけの努力をする根性と行動力のある人間が多ければ、アインベフだってもっといい村になってるだろうさ……」
「……」

 気になった。

 カーラの父親がどう考えているかは知らないが、あの母親は。
 本当にお金がないという理由だけで、彼らの仲を反対しているのだろうか。いや、大筋はそうなのだろうが、彼女はクルトに、もっと違うものを求めているような気もする。
 夢を持ち、財を成そうとする者は、皆アインブロックを目指す。アインベフが、その残り物の吹き溜まりだとでも言うような理屈は極端だし、全て彼女の言うようなやりかたで上手くいくはずはないが、彼女の言う事も、まるっきり間違っているというわけではないと思う。
 シイナは街道の真ん中で立ち尽くした。
「……」
 おせっかいだとは思う。
 そこまで自分が首を突っ込む義理はないと思う、のだけれど。
 カーラの俯いた顔と、彼女の母の背中が脳裏をよぎった。
「……ハァ」
 ため息ひとつ。
 シイナはその足で、アインベフへの汽車に乗るためのターミナルへと向かった。





==椎名の呟き==
余談ですが、カーラのお父上は実際には玄関の近くで仁王立ちなさっています。
正面から乗り込むと、ヒットポイントを削られつつ外に追い出されます(笑)。

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2008.05.14

*RO恋人クエストにつきネタばれ有り、ご注意願います。

「お邪魔します……」

 広く間取られた居間に通されて、こちらに背を向けている女性にシイナが声をかけると、その女性は思いのほか豪快に振り返った。
 居間とほぼ一体型となっている台所で洗い物をしている姿は雇い人のように見えなくもなかったが、その眼光の力強さは人並みはずれている。
「ああ、いらっしゃい! アンタが最近アインブロックに住みついてるっていう冒険者かい? まあ誰であろうとこのカペルタ家より下等ってことに変わりはないがね、私は主人と違って心が広いからね。ゆっくりしていくといいさ。ただし、娘に妙なことをしたらその場で叩き出すからね!」
 主人、娘という事は。この人が、あのお嬢さんの母親なのか。
 富豪の奥さんという割に働き者に見えなくもないが、この土地柄ゆえか。
 良く見れば、雇い人のような女性は他にもいて、この母親よりももっといそいそと家事に精を出しているようだった。
「……どうも……」
 シイナが家に入る前にお嬢さんから話はされていたようで、確かにすぐに追い出されるようなことはなかった。が、これは少し、対応に難ありと言えそうだ。これがこの、控えめなお嬢さんの母親なのか。

「ごめんなさい、シイナさん……母がいきなり失礼な事を」
「ああ、かまわないよ。別に気にしてない」
 これでもシイナは、旅が多い生活上、こういった手合いは見慣れている。今は一緒に暮らしているララクセルズですら、初対面の時には随分な扱いを受けたものだ。この母親もハッキリとものを言うタイプではあるらしいが、心底悪い人間とは限らない。地域特有の差別意識は色濃いようだが。
 侍女らしき女性が茶と菓子を置いて去るのを待って、少女は口を開いた。
「自己紹介がまだでしたね。私はカーラといいます。シイナさん、どうぞお好きに姿勢を崩してくださいね」
 名前だけは、噂によく聞くから知っている。
 しかしさすがに娘にはこういう教育が行き届いているらしく、カーラの立ち居振る舞いは完璧だ。
「私が外に出られないのは、本当は空気や環境のせいなんかではないんですよ」
 世間話でもするように明るく自分の身の上話を始められて、シイナは少し驚いた。
「そうなの?」
「ええ。以前は私も自由に外を歩き回っていたんです。街の人はあまり父と交流を持ちたがらないですから、一部の方しか家には訪ねて来ないですし、街では違うお話が流れているようですけど」
 カーラは、少し俯く。

「興味本位で遊びに出かけたアインベフの村で、クルトに出会ってしまってから……」

「クルト?」
「クルトはアインベフで暮らしている男性です。とても優しい人なんですよ。私、クルトと一緒にいるだけで、とても幸せな気持ちでいられるんです。クルトもそう言ってくれてました」
 そう話すカーラの表情は本当に幸せそうで、彼女が本当にクルトという男性の事を好いているのだと、今知り合ったばかりのシイナでも容易に察することができた。
「恋人?」
 シイナが訊ねると、カーラは顔を朱に染めて両手で頬を押さえる。なんと初々しい反応だろう。
「……恋人なんて、そんな……私は彼のこと、とても好きですけど」
 照れていても言うことは言う。彼女も気風の良いこの街の住人ということか。
「けれど、両親は彼とのことに大反対で……。彼は、とても貧しいから」
 なるほど、ありがちな話ではある。
「彼と会っていたことがわかってしまって、両親には凄く怒られました。身分違いも甚だしいと……。両親は誰に対してもそうですが、特にアインベフが嫌いなんです」
 初めてアインブロックとアインベフを訪れてから、何度となく聞かされてきた話だ。
 もともとアインベフから独立したアインブロックは、アインベフから鉱石を運び込んで工場で加工する。工場が増えて、多くの収入を得る人間が増えてきたアインブロックには、富豪と呼ばれる人種も数多く存在する。働くだけの収入を得られない労働者も多いが、アインベフはそれ以上に貧しい。鉱石を掘り出す労働者が多いアインベフだが、その収入はたかが知れている。そうして高収入を期待してアインブロックに移り住む人間が増えているのだから、アインベフが貧しく寂れているのは当然のことだろう。
 アインブロックはアインベフを見下し、アインベフはアインブロックを嫌う。
 気風はいいが差別意識が激しいという風潮の原因だ。
「だからその日以降、私が隠れて彼に会ったりしないように、出歩くことを禁じられてしまったんです」
 それはまた、極端な話だ。

「……私、シイナさんがうらやましいです。あなたはあなたの意志と決断で、遠い国からこちらに移り住んだのでしょう? そんな勇気と行動力が私にあったなら……」
 実際のところ、そんなに一大決心をしてここに移り住んだわけではないが。
 もともと国中をほっつき歩いていた冒険者という身の上だ。シイナにとっては本拠地が変わる程度の事は、さほど抵抗を感じないだけだ。
 しかし確かに両親の反対を押し切って行動するというのは、カーラのような育ちのいいお嬢さんにはきついことだろう。女性であるなら尚更だ。
「彼……クルトの方からは、訪ねて来てはくれないの?」
 カーラはゆるりと首を振る。
「彼にそんな無茶なことはしてほしくありません。たとえ来てくれても、両親に酷い扱いを受けて追い返されてしまうだけですし……」
 たしかにそれはそうだが、だとするとこの男女は、身分違いで引き離されたまま、諦めることしかできないのだろうか。勿論そういう話は各地にごまんと転がっていそうだし、どうにもならないことだって多々ある。他人の家の事情にあまり立ち入るのもどうかとは思うが。
 しかしそれならば、このお嬢さんはいつまでここでこうしていればいいのだろう。
 両親が決めた男性と身を固めるまで?

 本当にそれでいいんだろうか。

 寂しそうに微笑むカーラに曖昧な表情しか返せないまま、シイナは出されたお茶をひと口啜った。





==椎名の呟き==
ゲーム上でのイメージをそのまま使用してしまうと、カペルタ家ってなんというか貧乏くさい富豪になってしまうんですよね。
そもそもこの家、富豪って言われてたっけ。なんだか記憶が曖昧ですが、お金持ちだったのは確かです(笑)。

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2008.05.07

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 カペルタ家のカーラ。
 もとはと言えば、シイナがその名を知ったのは、街で聞く彼女に関する噂からだった。

 外出させてもらえないらしい、カーラお嬢さん。
 いくら深窓の令嬢とはいえ、日がな一日家の中に閉じこもりきりでいたのでは、身体と心に良くないのではないか、というような話は、以前からところどころで囁かれていた。
 アインブロックは重労働者が中心の街だから、大雑把で気のいい連中が多い反面、労働で成り上がった人間の差別意識も強いきらいがある。
 その気のいい連中の話から察するに、カペルタ家の令嬢がまったく外に出なくなったのは、割合最近の話なのだという。
 空気も環境も良くない街で成り上がってしまった家のお嬢様だから、年頃になってきて、衛生上の事情やら下等な人間と交流させたくないなどという理由で急に外に出してもらえなくなったのだとしたら、それではあまりに気の毒な話だ。それならば、彼女を環境のいいどこかに住まわせた方がよほどいいのではないかというのが大半の意見である。いくら環境に問題があるとはいえ、家の中に閉じこもりきりというのは逆効果のようにも思える。
 アインブロックという街で成功を収めているのだから、家族そろって他の街に移り住むなどということは、カペルタ家の選択肢の中には存在しないだろう。だからといって一人娘だけを他のどこかに住まわせるのには抵抗があるのか。真相は誰も知らない。
 せっかくこの街で一番と言っても遜色ない器量を持っている少女なのに。可愛らしいその姿は、この街での数少ない目の保養でもあったのだ。
 確かにシイナも、カペルタ家の噂だけは良く耳にするが、そのお嬢さんの姿を目にしたことはなかった。シイナがこの街で暮らすようになってどのくらい経ったか。その間一度も外に出ていないというのは確かに……問題があるような気はする。

 そんな折に、シイナは何気なく散歩に出た先で、初めて彼女の姿を目にしたのだ。
 富豪と言われるだけはある、大きなお屋敷。ここがカペルタ家かと納得すると同時に、一階の窓の内側から外を眺める彼女の姿が目に入った。
 カペルタ家は、家は大きいが、それ以外の敷地はほとんど無い。この街の特徴なのか、庭を持っていたり、塀で建物を囲んでいるような一般家屋は皆無に等しい。カペルタ家の建物の隣接した部分には小道を挟んで隣家があり、裏手には少々大きな通りがある。
 その裏通りを歩いていたシイナからは、塀も何もない、手の届きそうな位置にあるカペルタ家の一階の窓の内側にいる少女の姿をはっきりと捉えることができた。

 ふと、目が合う。
 これが噂の絶えないお嬢さんか。

 噂にたがわずきれいな人だと、納得してその場を去りかけたシイナの目の前で、ぴったりと閉じられていた窓がそっと開いた。シイナは自然、足を止める。
「こんにちは。旅人さん」
 可愛らしいのは容姿だけではなかった。その声も歌う鳥のように高く、鈴を転がしたようなという形容がぴったりだ。
「こんにちは」
「ああ、旅人さんではないですね。最近この街で暮らすようになった他国の聖職者さんがいると、父の取引先の人が話しているのを訊きました。あなたですよね?」
 はんなりと笑う彼女に、シイナは曖昧に微笑み返す。閉じこもりきりの彼女にさえ知られてしまうほどに、自分も有名であるということか。確かにこの街で他国の人間が暮らすようになるという変化は、住人にとっては珍しい現象かもしれない。これは迂闊な事はできない。いや、するつもりがあるわけではないが。
「そうですよ。シイナといいます。ところで、窓なんか開けてしまって大丈夫ですか」
 噂から察するなら、悪い空気を吸うのは良くないのではなかったか。そう思って出た言葉だったが、少女はきょとんと目を開いたあとで、おかしそうに笑って見せた。
「ああ……それは大丈夫なんですよ。そうだわシイナさん。もしお時間がよろしければ、うちに上がってお話して行きませんか?」
「え?」
 その提案にはシイナも驚いてしまう。噂に聞く富豪のお嬢さんが、こんなに簡単に知らない人間を家にあげていいものなのか。
「今は父が出かけてていないんです。父は私の交友関係に厳しいですが、母は訪ねてきた人をいきなり追い返すようなことはしませんから、どうかお茶でも飲んでいって下さい。退屈していたところなんですよ」
 退屈していたところというか、一日中家にこもっていたら、いつでも退屈なような気がしなくもないが。
 せっかくの誘いを断わる理由もない。自分の暮らす街の人のことを知るのも、悪くはないだろう。シイナはお言葉に甘えてみることにした。
「ご迷惑でなければ」
 シイナの一言に、少女の表情はパッと明るくなる。
「ありがとう! どうぞ玄関にまわってください。美味しいお菓子もあるんですよ」
 本当に嬉しそうな少女は、すぐにその場から離れて姿を消した。玄関先へとまわるつもりなのだろう。それほどに話し相手が欲しかったのだろうかと、シイナも少しだけ歩を速めて、屋敷の表へと向かった。





==椎名の呟き==
カーラが外出させてもらえないというのは捏造でーす。
親が交友関係に厳しいだけだった気が……。

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プロフィール

椎名シイ

Author:椎名シイ
 
オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
一部微妙に腐女子向けかも!

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