オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
--.--.--
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2008.07.30

 街道を埋め尽くす露店を冷やかしながら歩いていたソルダムが、一点を指差した。
「ほら、あそこ」
 指さした先を、ララクセルズは仰ぎ見る。
「あそこがプロンテラ大聖堂」
 あそこの礼拝堂で、劇の発表をするんだよと、ソルダムは笑う。
 礼拝堂で劇の発表とは。プロンテラ大聖堂が個性的なのか、それともどこの教会もそんなものなのだろうか。ララクセルズには判断できかねるところだったが。
 しかし。

 荘厳な大聖堂の佇まい。
 大聖堂に限ったことではないが、この国のこんな神聖な建物群を見ていると、この国に溢れ返る法力だとか、シイナの振るう魔法の力の源となる『何か』の存在も、感じ取ることができるような気がする。

 大聖堂の入り口で、柔らかな笑顔のシスターから劇のパンフレットとかいうものを受け取る。
 コーラスが、それを見て首をかしげた。
「神聖なる地、ミッドガルドの神の御許で繰り広げられる、愛と正義あふれる大逆転劇……だって」
「やけにスペクタクル活劇っぽいコピーだなあ」
 ソルダムも覗き込むが、ククク、と含み笑いをする。
「ま、なんだかんだで大聖堂の連中って、変わってるからなあ」
 ……そうなのか。
 何であれ、この出し物にシイナが関わっているということで、それがどんな風であるのかは、三人とも大変に興味がある。
 礼拝堂に設えられている椅子に腰かけて、劇の始まるのを待つ。まだ幾分か時間はあるようだった。


 客席側の明かりは落とされ、臨時で作られた壇上に光が射して舞台が始まった。

「……え」
「ぶ……ッ」

 一瞬、何が始まったのか、わからなかった。
 何やら魔物の脅威に怯える村のエピソードがナレーターの声で告げられ、それに合わせてぞろぞろと登場してきた、村人役の人々。
 そこに、違和感があった。
「えーと」
 村の女性役と男性役。全てが、逆だった。
 つまり、男性の役を女性が、女性の役を男性がやっていたのだ。
「なんだこれ……」
 ララクセルズは思わず口を半開きにしてしまったが、会場のあちこちからも、笑い声が聞こえてきた。
 男性役をこなす女性の方はともかく、女性役をこなす男の方はどうしても違和感を隠せないというか、すでに滑稽でしかないのだ。
 これは……どうしたものか。
 大聖堂がまさかこんな、お笑いを目指していたとは。
 大逆転劇とは、まさにそういう意味だったのか。
 笑い声が、おお、と、感嘆の声に変わる。もちろん笑いを含んだものではあるが。

『聖騎士の名において、私が指揮を執る者となろう!』

 長い黒髪を揺らして登場した、騎士の正装をまとった人物の、高いながらも精悍な声。
 その騎士の役をこなしているのも、女性だった。その細い身体と高い声は女性特有のものだが、もともと美人なのだろう、身長も高くて男装が似合い、格好良いと言ってよかった。
 この騎士役の女性を中心に、話は進んで行くようだ。きっと彼女扮するこの騎士が主人公なのだろう。
「これって……もしかして」
 呟くララクセルズの声に、頷くコーラス。
「このノリでいくと……」
「そうだなー」
 ソルダムの声がやけに楽しそうだ。

『私も、共に行きます!』

 どわっはっはっは!
 ひと際高くなる客席の笑い声。
「……………………」
「……クッ」
「し、シイ……」
 女物の聖職者のドレスをまとい、登場したシイナ。
 展開は予想できていたが、まさか、ヒロインで登場してくるとは。
 呆気にとられたララクセルズも、自然と身体が震えるのを止めることができない。笑いたい。しかし笑っていいものか。でも笑わせるのが目的なのだろうし。そうでなければこの滑稽な配役の意味がわからない。
 会場での笑い声も、他よりも豪快な反応を見せている一角は、どうやら舞台では仕事のない聖職者の集団らしい。
 なるほど……シイナが見せたがっていなかった理由がわかった。

 身長は、シイナは確か170cmほどはあるはずだが、主人公の女性との釣り合いは取れている。女性側が、高いヒールの靴で底上げしているのだろう。素で165cmくらいあればなんとでもなる。
 見た目は悪くないが、あくまでシイナは男だから、それを知ってしまっていると違和感は隠せない。が、確かシイナは以前、度々女に間違われるというようなことを言っていたような気もする。なるほど納得だ。
 それから、それで……。
「だ、だめだ」
 どんなに考え事で気を紛らわそうとしても、舞台上のシイナの姿を視界に入れてしまうと、集中が途切れてしまう。
「笑ってもいいんじゃねーのー?」
 ソルダムに肩を叩かれた。
 コーラスは、すでに腹を抱えている。

「はは……はははははは」
 遠慮なく楽しんでいる二人に挟まれて、ララクセルズもとうとう、こみあげる笑いに身を任せることになってしまうのだった。





==椎名の呟き==
今再放送している鬼嫁日記が気の毒すぎて、集中できませんでした……(´Д`;)
そして某新聞屋に「いらないって言ってんの。わかんない? 聞こえない? しつっこいよ?」と断りを入れるのにいらん労力を使いました……。
そして注釈ですが、シイナの女ものの衣装はオリジナルです。決して女プリーストの衣装ではございません。
いくらなんでもあの巨大なスリットとガーターベルトは 無 理 です。
(ていうかROの女プリーストって一体)

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2008.07.23

「ああ~、君かあ」
 ララクセルズが二人の男に声をかけると、そのうちのひとり、シイナと同じハニーブロンドの男が陽気に笑った。
 君か、と言われたララクセルズの方は、何の事かと目を丸くするしかない。
「シイナがアインブロックに引っ越して、誰かと同居してるって聞いてたからさ。いつもひとりで飄々とどこでもほっつき歩くシイナには珍しいなと思ってたんだけど」
 にこにこと笑う金髪に、黒髪の騎士らしい格好をした少年がうんうんと頷く。そしてずい、とララクセルズに迫ってきた。
「お前、シイナと暮らしてて大丈夫か? 遊ばれたりいじめられたりしてないか?」
「いや、それはないよ……どっちかというと優しいヤツだと……」
「ええー!?」

 なんだ。なんなんだ。

 シイナを知っているらしい二人組がいたから声をかけたララクセルズだが、この二人は想像以上にシイナと関係の深い人間なんだろうか。
「シイナにそんな扱いを受けてるのはお前だけだよ……と、ごめんな。オレはソルダム。こっちがコーラス」
 金髪の、この人は、鍛冶屋か何かだろうか、アインブロックのブラックスミスギルドの連中と似たような雰囲気を持っている男が、自分と騎士を交互に指さす。
 彼がソルダムで、こっちの騎士がコーラス。
 ララクセルズも自己紹介をすると、双方から同時に握手を求められ、両手が塞がった。面白い連中だ。
「オレたちは幼馴染……ってほどでもないが、結構昔からツルんでてね。一緒に旅することも少ない、たまに街で顔を合わせたりするだけなんだけど、なんか腐れ縁。つかず離れずで仲良くやってるよ」
「オレはあんまり仲良くないぞ! あいつはオレの顔を見れば小突くかいじめるかばっかりでさ! なんでソルダムはいじめられないわけ? ズルいじゃん!」
「お前のそういうところがな~」
 テンポのいい会話。
 確かに、この打てば響くような反応の良さは、なんとなくいじめ甲斐がありそうというか。しかし、シイナが誰かをからかったりいじめたりなんて、あんまり見たことがないから、ララクセルズには意外だ。
「お互いひよっこの頃、プロンテラで知り合って以来だから、本当に長いよ」
 そう言った後で、ソルダムはじっとララクセルズを見つめる。
「……?」
「君が、ね。ふうん……」
 なんだ。何が言いたい?
 ララクセルズは、ソルダムの瞳を見つめ返すしかできない。
「怖いもの知らずなんだな。それと、勇気と行動力を持つ人。きっと、シイナの拒絶もものともしないで、シイナの前に立ちはだかったんだろう」
 ソルダムの言葉に、シドクスの一件を思い出す。
 あの時、シイナの言うとおりにその関係を断ち切っていたなら、今の自分たちはなかったかもしれない。ソルダムの言っているのは、そういう事だろうか?
「感謝しているんだよ。相棒だったヤツと離れて以来、シイナはあんまり人と深く関わりたがっていなかったから」

 相棒?

「オレたちは腐れ縁だけど、なんかそういうのは別問題だもんなー。生活していく上での相棒とか仲間とか、お互いそういう風にはなろうとしてないっていうか」
 首を傾げて考えながら言うコーラス。
 はた目から見てこの三人の関係というのは、一見ではわかりにくいが、当人たちも良くわかっていないのかもしれない。
「相棒だったヤツと離れてって?」
 先ほどの言葉をそのまま反芻するララクセルズに、ソルダムは一瞬目を見開いた。
「聞いてないのか」
 頷くと、ソルダムは顎に手を当てて考えるしぐさをする。
「……まあ、聞いて面白い話でもないし、あいつ自分からはそういう話しないからなあ。オレもあいつ自身からは、かいつまんでしか聞いてないし」
「オレがソルダムからその話聞いたのも、シイナが初めてアインブロックに出かける少し前くらいだったけど、実際は結構前の話みたいだしな。オレたちそんなに頻繁に会うわけでもないし」
 オレにはそんな話振る素振りもないし、とむくれるコーラス。
 何か、のっぴきならない事情があって離れた相棒がいた、ということだろうか。それ以来、誰かと関わることを避けてきた?
 あの時シイナに拒絶されたのは、事件が事件だったしと納得していたが、それ以外の理由もあったのかもしれない。
「まあいいじゃん。シイナ自身、別にその話隠したいと思ってるわけじゃないみたいだぜ? そういう嫌な話はさー、どんどんさせちゃえばいいんだよ。よっぽど口外できない話じゃない限り、どんどん口に出して昇華しちまった方がいいに決まってるじゃん」
 あっけらかんと言うコーラス。
 暢気そうに見えるが、色々考えてるんだな、と思う。なんだかんだと文句は言っているようだが、やはり仲はいいのだろう。
「まあその内聞いてみるといいよ」
 その言葉には、ただ頷いて見せるララクセルズ。
 そんな折があれば。話せるのであれば、聞いておくのも悪くないとは思う。

 と、それよりは。
 この二人に声をかけた目的を忘れそうになっていた事に気づいて、ララクセルズはそうだ、と呟いた。
「大聖堂って、どこにあるのかな。オレシイナの劇見たいんだけど」
「ああ……場所、聞いてないのか?」
「ていうか、シイナがオレには見せたくないらしくて、話題に出さなかったから。こっそり見ちまえばいいかなと思って」
 ララクセルズの言葉に、二人はアハハハ、と軽快に笑う。
「やっぱりか! あいつ、オレたちにも何も言わないんだよ。大聖堂の連中から噂には聞いてたけど、やっぱ気になるよなあ」
 ソルダムの言葉に、コーラスも乗っかってくる。
「オレたちも、こっそり見ちまおうかなって、これから向かおうと思ってたところ。どうせだから一緒に行こうぜ!」
 考えることは皆一緒らしい。
 これは確かに、渡りに舟だったらしい。

 心強い仲間を得て、ララクセルズも笑顔で頷くのだった。





==椎名の呟き==
シイナとソルダムとコーラスの描き分けが上手くできない……。
中身が同一人物なんだから仕方がない……。
IDが一緒の三人だから、同時に世界に存在できません(ひとりずつしかログインすることができない)。
そもそも一緒に狩りなんてできるわけがないんじゃー(どんがらがしゃーん)。

三人どころか、ララクも含めて、誰がしゃべってるんだかわからないですよねー。あらためて。
要修行だあ……。

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2008.07.16

 収穫感謝祭当日。

 アインブロックからプロンテラへの移動は、シイナのワープポータルでの移動も可能だったが、二人はあえてそれは使わず、シュバルツバルドとルーンミッドガッツを繋ぐ飛行船を使った。
 時間も金もかかるが、その方が観光気分を満喫できるというものだ。
 主に飛行船のターミナルで仕事をしているララクセルズは、しかし自分は実際に飛行船に乗ったことはなかった。他の街や他国に移動する用事が無かったのだから仕方がない。
 空を飛ぶ乗り物の珍しさに、ララクセルズはあちこち眺めて回る。
「凄いよなー、これ。落ちたりしないのかなー」
「ターミナルの案内員とは思えない言葉だな」
 ララクセルズの言葉にシイナは苦笑し、まあ落ちる時は落ちるんだろうけどね、などと意地悪な事も言ってみる。それでララクセルズが動揺して騒ぎ立てるようなこともなかったが。

 飛行船を国内線から国際線へと乗り換え、その国際線が降り立つのが、プロンテラの衛星都市となる、イズルードだ。海沿いにある小ぢんまりとした都市だが、ここも感謝祭の賑わいで、いつもよりも人出も多く華やいでいた。
 首都プロンテラへの交通手段はないが、歩いてすぐの、隣接した都市だ。イズルード自体がそんなに巨大な都市ではない。隣町、といった感覚だ。
 以前訪れたゲフェンとは趣が違うが、相変わらずの自然豊かな景色と空気のよさに、ララクセルズは感嘆した。
 吹き抜ける潮風の匂いも、はためく万国旗のような祭り用の派手な飾りつけも、アインブロックでは感じたことも見たこともない。色とりどりの新鮮な収穫物も、目に鮮やか過ぎて眩しいほどだ。
「プロンテラはもっと派手だぜ」
 苦笑するシイナが、なぜ苦笑しているのか一瞬わかりかねたララクセルズだが、すぐに眉根を寄せてシイナを睨みつけた。
「田舎者とか思ってるんだろ」
「そんなことはないよ。シュバルツバルドのリヒタルゼンなんかと比べれば、プロンテラだって充分に田舎の域に入るんだろうし」
 リヒタルゼンを訪れたことはないが、近代文化の象徴であるような華やかな都市だと、シイナも聞いている。
 ただ、シイナのようにあちこちを旅してまわっている訳ではないララクセルズの反応が新鮮すぎて、面白かっただけなのだ。
「ほら、もうすぐプロンテラだ」
 シイナの言葉通り、その景色は徐々に、彩りを増してきていた。

 そこは首都の名にふさわしい、荘厳で華やかな都市だった。

 計算しつくされた幾何学的な模様の石畳や、煉瓦を基調とする街並み。シュバルツバルドの大統領制とは違い、ルーンミッドガッツは王制であるから、街の北側には巨大な王の城も鎮座している。人も建物も数はアインブロックの比ではないが、排煙もないから、空気は全然悪くない。甘い果物や花の匂いで溢れかえる、美しい街だ。
 普段はそうでもないらしいが、今日はお祭真っ只中という事で、あちこちで臨時のバザーがひらかれ、大道芸人の姿も見えた。それぞれの団体が、それぞれの個性を駆使してさまざまなイベントを用意しているらしい。
「綺麗な街だな、ここは……」
「うん、そうだね」
 ララクセルズの感嘆の言葉に、シイナもいらぬ謙遜をすることもなく頷く。
 誰が暮らすどこの街にも、それぞれの良さがある事がわかっているから、それを素直に認めているだけだ。

 シイナに案内されて見た、騎士団の模擬戦も、臨場感たっぷりで白熱した。
 弓手村主催という的当てや、商人組合の渡来品バザーも楽しかった。
 これが、祭というものか。

 個人の出す収穫物の臨時販売を眺めている時に、シイナがチラリとララクセルズを見て切り出した。
「そろそろ、オレ行かなくちゃ」
 できるだけ無難に切り出したシイナに、ララクセルズも戸惑うことなく頷く。
「ああ、そろそろイベントの時間なのか」
 追求されることなく頷いてくれたララクセルズに安堵したシイナが、大きな噴水を指差す。
「あれがこの街で一番の目印だから。あそこで二時間後に待ち合わせな。あそこなら、もしどこかで迷っても誰でも知ってる場所だから、誰かに声をかければ連れてきてもらえる」
 劇の所要時間は一時間ほどらしいが、色々準備があるらしく、シイナは二時間と指定した。
 わかったと頷くララクセルズに手を振って、それ以上の追求を許さないように、シイナは走り去ってしまった。
 感心するほどに早い。

 ――さて。

 あの様子では、シイナは本当にララクセルズの企みに気付いていないのだろう。
 あれほどシイナが隠したがるほどに楽しいイベントが待ち構えているというのに、ララクセルズが素直にシイナの言う事を聞いて大人しく待っていると思っているのだろうか。
 そこがシイナの敗因だ。

 ララクセルズは、誰かに大聖堂の場所を尋ねようと、辺りを見回した。
 地元なら誰でもおそらくは大聖堂の場所くらい知っているだろうが、この地に慣れない観光客も多いだろう。
 逡巡してうろうろしていると、雑踏の中からはっきりと聞こえる声があった。
「シイナ、大聖堂の劇に出るんだってな」
「うん、本人から聞いたわけじゃないけど」

 シイナの知り合いか!

 渡りに船というべきか。運がいい。
 シイナという名前は多いだろうが、大聖堂のイベントに参加するシイナというのはおそらくひとりしかいないはずだ。

「あの、ちょっと!」
 ララクセルズは、シイナの名前を出した二人の男に向かって駆け出した。





==椎名の呟き==
彼らと彼の邂逅です。やっと出番がまわってきた彼らです。
(Beautiful Worldの最初にしか出てない気の毒な彼ら)

個人的にクリティカルヒットな出来事があって茫然自失であった椎名ですが、なんとか頑張ってます。ははははは。
いえ、諸兄にご心配をかけるような出来事があったわけではないのでご安心を、と申しておきますが。

ただ単に、半年しか使っていないPCのマザーボードがオシャカになっただけですから。ええ、ええ。
(死)

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2008.07.09

 アインブロック、ララクセルズとシイナの暮らす家。
 ソファに深く座ったシイナがついた微かなため息に、ララクセルズは振り返った。
「どうした?」
 うっかりした。ため息をついているつもりはなかった。お茶をひと口すすって軽く吐いたつもりの息が、ララクセルズにはきっちりため息と認識されてしまったらしい。
 シイナは両手で持っていたお茶のカップを、さりげない仕草でテーブルに置く。
「ああ、いや」
 笑顔で返すも、シイナは困惑を隠せない。
 頭にあったのは、収穫感謝祭の事だ。
 まさか、あんな展開になるとは思っていなかったから。
 自分から誘っておいて、今更収穫感謝祭の話を無かった事に、なんてあまり言いたくはない。言いたくはないのだが。
「ララク、感謝祭の事だけど……」
「ああ、それならちゃんと休みとれたぜ!」
 ララクセルズ、笑顔全開。

 ……ああ……。

 やっぱり今更無かった事に、なんて言えない。
 そもそも、感謝祭自体が駄目になったわけではないのだ。案内するのも、さして問題はない。今更取りやめにする理由なんて、実はあまりない。
 ただ、どうしても。
「あ、あのさ。当日オレ、大聖堂の方のイベントがひとつ入っててさ、それの手伝いで、どうしても二時間くらい、時間取られちゃうんだよ」
「へえ?」
「その間、ひとりにしちまって平気かなって……」
 大聖堂の出し物、それは、劇の公演。
 そう、シイナが大聖堂で室長に打診されたのは、その劇への出演だった。トリーシアが主演となることだけが決まっていた、劇の出し物。そのトリーシアの助演として。まさか、自分が指名されるなどと、思ってもいなかった。
 あの内容を、ララクセルズには見せたくない。シイナが避けたいのは、その一点だけだった。要はそのイベントさえ、ララクセルズをやり過ごせれば、それでいいのだ。
 そう、他は何の問題もない。
「イベントって? 何だ?」
「ああ、ちょっと……劇を……」
「劇? シイナも出るのか?」
 劇と聞いて、ララクセルズは嬉しそうに食いつく。
「え、いや、そういうわけじゃ、……」
 シイナの返事は歯切れが悪く、ついでに表情にも出ている。
「……? でもなら別に、お前が劇の手伝いやってる間、オレはその大聖堂の劇を見てればいいだけじゃないか?」
「そ……ッ!」
 それが、困るのだ。

 とにかく、ララクセルズにその劇を見せたくないのだ。

 だったら劇をやるなどと言わなければいいのだが、何をやるのだと聞かれて、具体的な嘘はつきにくい。それに、その嘘がもしもバレた時に、多分ララクセルズは怒るだろうし。
 大体、普段の収穫祭は皆で育てた農作物や衣料品をバザーにだしたりとか、そんなことばかりやっていた大聖堂のくせに、何で今年に限って劇なのか。
 ここに至って心の中でだけ悪態をついてもはじまらない。
「劇なんか見たって面白くないぜ? 神様の恵みがどうとかいうつまらないものだし、大聖堂の有志だから、本物の舞台とはレベルが違うし」
 シイナ、必死だ。
「で、お前出るのか?」
「え、や、いや……少し、かな……」
「へ~」
 大体のところを、ララクセルズは理解した。
 おそらくシイナは、その劇にがっつりと出るのだろうと。そして、それはとてもララクセルズに見せたくないような内容なのだろう、と。
「大聖堂が劇をやってる間、他が何もやってないわけじゃないんだろ?」
 ララクセルズの言葉に、シイナはうんうんと頷く。
「だったら別に、その時間くらいその辺を見ててもかまわないけどさ。オレはプロンテラの街をよく知らないから、待ち合わせの場所だけちゃんと決めててくれれば」
「そうか……そうだな」
 あからさまに、ほっとした表情を見せるシイナに、ララクセルズは悪びれない笑顔で返す。

 何も、どうしても劇のことをごまかしたいらしいシイナに、ララクセルズが気遣って優しさを見せたわけではない。
 要は、黙って見てしまえばいいだけなのだ。
 これほどに見せたくないものを見たい見たいと連呼しても、シイナはどんどん深みにはまってしまうだけだろうし、そこから喧嘩に発展してもつまらない。あげくに、土壇場にきて病欠でもされた日には。もっとも、ララクセルズに見せたくないという一心だけで、そんな無責任な事をする男ではないと思ってはいるが。

 これはちょっと、楽しみかもしれない。

 この話は打ち切りとばかりに再びお茶に手を伸ばすシイナを尻目に、ララクセルズは隠し切れない笑顔を覗かせるのだった。





==椎名の呟き==
騙しあいですか、あなたがた。
シイナの、演技力とかはどうなんでしょうねー。舞台なんて懐かしいなあ。
(椎名さん、はるか昔の高校時代は演劇やってました)

それと、全然関係ないお話。
某友人との会話を受けて、ひぐらし数話とデスノの最終話をアニメで見たりしました。
(ちょっとそんな話題が出たので)
ふ~む~~。やっぱり、アニメよりも原作のが遥かに き っ つ い なあ(笑)。
凄惨シーンがあるってわけじゃなくてねー、心理的にきっつい作りになっていると。やっぱり、この辺全部アニメにしちゃうと、色々と問題があるんだろうなあ。時間の調整も難しいだろうし。
ひぐらしの滅菌作戦時の隊員の心情あたりと、デスノの月死亡後の松田たちの後日談とか、あの辺は入れてほしかったな~とか。月の死に様も、アニメも悪くは無かったけど、原作のほうが納得はできたかも。あまりにも無様で。
大分今更な話ですが(笑)。

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2008.07.02

「休み?」
 自分の言葉をオウム返しにしたララクセルズに、シイナは頷いた。
「うん、今すぐじゃないけど、週末に二日くらいまとめて取れないかなって」
「それは調整すれば何とでもなるけど……」
 ララクセルズの仕事は交代制だ。そこそこ定期的に休みは回ってくるが、必ず同じパターンでシフトが回るという事はない。が、最近はそれほど忙しくない事もあって、休みを取るのは難しくない。
「けどなんでだ?」
 当然の質問に、シイナも淀むことなく答える。
「ふた月先に、プロンテラで収穫感謝祭があるんだよ。それで色々な出し物もあって、結構なお祭り騒ぎになるからさ、たまには観光してみるのもいいかと思ったんだけど」
 シイナの言葉に、ララクセルズはへえ、と目を丸くする。
 シイナの出身であるルーンミッドガッツの国には、シイナのワープポータルに乗って一瞬足を踏み入れた事しかない。確かそこはゲフェンとかいう土地だったっけと思う。あの時は一時話をしただけで、どこを見て回るでもなく帰ってきてしまった。
 今更だが外国からひとっ飛びなんて、魔法の力は偉大だ。
 あの都市も随分華やかで、豊かなイメージがあったが、あそこはシイナの生まれた首都よりも、随分静かなんだと言う。
 雑音的なうるささで言えばアインブロックも負けてはいないが、人が賑わい昼も夜も活力に満ちているという首都プロンテラに、いつかは訪れてみたいと思ってはいた。
 シイナの生まれ故郷でもあるし。
「それなら別に大丈夫だよ。二日や三日くらいの休みなら、すぐに取れる」
 収穫感謝祭とはどんなものなんだろう。ララクセルズには経験がない。
 楽しみだなと笑うと、シイナも同様の笑みを返してきた。

 今から一番近いお祭りである収穫祭。プロンテラを観光として巡るなら、ちょうどいい時期だとシイナも思っていたのだ。
 賑やかなあの街を一緒に歩いて案内できそうだと、シイナも嬉しく思っていた。


 が、現実はなかなかそうは上手くいかないのである。


「シスター・テルーザ、それは……」
 シイナは苦虫を噛み潰したような顔で室長の顔を見つめる。
 プロンテラ大聖堂、室長室。
 収穫感謝祭ではそれなりにどこも何がしかのイベントを用意しているもので、大聖堂も例外ではない。だから、そこに所属しているシイナも、そのイベントでは協力を余儀なくされる。
 それはいい。
 それだけなら、予想のうちというか、多少の仕事はあるだろうなと漠然と思ってはいた。
「しかし室長、それは私ではなく、だれか別の人間のほうが……」
 心底嫌がっている素振りを隠そうともしないシイナの言葉を、室長テルーザはぴしゃりと遮った。
「このイベントを担ってくださるプリースト・トリーシアの指名です。ですからこれは、大聖堂の総意でもあります」

(総意って、みんなここぞとばかりに難を逃れてるだけじゃないか!)

 それにしても、トリーシアの指名とは。
 油断した。
 彼女をイベントの中心人物に置く事に、何の異議もなかった。むしろふさわしいとすら思っていた。まさかそれが、こんな結果になって返ってこようとは。

 トリーシアも、生まれた時から大聖堂にいる。同世代であるシイナとは、だから幼馴染で、まるで兄弟のようにして育ってきた。勿論トリーシアだけでなく、大聖堂にはそういう人間が沢山いる。家族のように育った人間は多い。
 厳格な大聖堂にあって、一般的な家族と同じ意味での家族になる事は出来ないかもしれないが、ずっと共にいる慣れ親しんだ間柄の人間が多いというのは事実だ。
 その中でも、シイナとトリーシアは、本当の兄弟のように仲が良かったのだ。
 こんな事になるなら、トリーシアの役目に断固反対しておくんだった。
 が、今更何を言っても遅い。

 反論の余地もなく室長室を追い出されたシイナを、廊下で佇んでいたトリーシアの笑顔が迎えた。
「よろしくね、シイナ♪」
 聡明な美しさを持つプリースト・トリーシアは、腰まである長い黒髪を、優雅に揺らしてお辞儀して見せた。
「トリーシア! 君は私に何の恨みが」
「あら心外。私は私のパートナーとして、もっともふさわしい人物の名を挙げただけだわ。違うと思うのなら、相応の誰かをここに連れてきてちょうだいな」
 そんな事を言って、誰を指名しようがトリーシアは断固として受け入れないに違いない。のみならず、誰を指名しようが、指名された本人が首を縦に振らないだろう。
 すでにシイナは人身御供なのだ。
「人聞きの悪い事言わないでよ……感謝祭は皆で楽しむものよ。協力して頂戴ね」
 にっこり。
 シイナに逆らいようがないのは、テルーザから話を出された時点でわかっていたことではあったが。
 しかし。これは。

「はああ……」

 今更ララクセルズに、感謝祭の観光はなかったことに、なんて。
 言える訳もないよなあ……。

 シイナは心底困った面持ちで、プロンテラの高い空を見上げるのだった。





==椎名の呟き==
今回は初の、クエストとは関係のないオリジナルのお話です。
あ、プロンテラに収穫感謝祭なんてイベントは本当はございませんが(笑)。
クリスマスとかはあるんだけどねー。

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プロフィール

Author:椎名シイ
 
オリジナル&二次小説、ボカロKAITOやゲーム感想や普通の日記をとめどなく。
一部微妙に腐女子向けかも!

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