オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。
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2008.08.13

「楽しかったか?」
 シイナの問いかけに、ララクセルズは素直に頷く。
 収穫感謝祭は二日にわたって開催された。ララクセルズも一晩プロンテラに滞在して、その二日間を大いに満喫した。シイナは二日目も大聖堂の出し物である舞台に出演していたから、それも再び見に行った。シイナは来るなと言っていたが、準備に追われている隙に客席に潜り込まれてしまうのだから、止めようもない。もちろんソルダムとコーラスも一緒だった。
「まあ……もういいや」
 見られてしまったものはしょうがないと、シイナは諦めのため息をつく。
 これはこれで楽しかったと言えなくも……ない。
 シイナは広場のベンチを見つけて、そこに腰かけた。ララクセルズもそれに続く。
「ララク、ほら」
 シイナは、ララクセルズの目の前に、小さな青い箱を差し出した。幅20cmほどの、宝箱のような古めかしい箱。
「なんだ?」
「これは一部のモンスターが時々持っている箱でね。彼らは自分で気に入りのものをこういう箱に入れて取っておいてるらしいんだ。彼らの感性もそれぞれでさ、まあ大抵、箱の中身はガラクタだったりするんだけど、まれに、凄まじく高価な物が入ってるときもあって、討伐でこの箱を手に入れると、結構な高値で取引されるんだ」
「ええー?」
 箱は、開けてみなければ中身がわからない。
 高い金を出して、ガラクタを掴まされたとしたら損ではあるが、もしも高価なものが入っていた場合に、買値の何倍もの儲けが出ることもある。もちろん、自分で使用するという手もあるだろう。
 つまりが、当たりが出たらラッキーというギャンブル感覚なのだ。
「感謝祭だからね。それは、一応感謝の印。いつも色々、ありがとう」
「え、色々って……」
 ララクセルズは、キョトキョトと箱とシイナを見比べる。
「色々は色々だよ。それはオレが修道院跡地で拾ってきたやつだからさ。遠慮せずに受け取っておきなよ」

 いつも色々、なんて。
 感謝なんてされるような事をやっているかな、と、ララクセルズは思う。
 それに。

「あ、あのさ」
「うん?」
 あのさ、と言ってしまってから、後悔する。
 でも今一番、聞いておきたいことでもあった。
「シイナはその、オレと一緒にいて窮屈だったりしないのか?」
「窮屈?」
「えーと、ソルダムとコーラスが、シイナはひとりでいたがってた、みたいなこと言ってたから」
 遠慮がちなララクセルズの言葉に、シイナはああ、と苦笑する。
 またあいつらは余計な事を、とでも思っているのかもしれない。
「ま、あいつらの言ったそれは間違いではないけどさ。……ん、前に、修道院跡に単独出かける理由ってのは、言ったことがあったかもしれないけど」
 それ以外にも理由はあってね、と、シイナはララクセルズから視線をはずして、賑わう広場へと目を向けた。
「ちょうど君と出会った頃。あの時は、オレも自分の存在意義みたいなのを模索しているときだったから」
「存在意義?」
「うん。オレにも以前は、一緒にモンスター討伐に出かける相棒みたいなヤツはいたんだよ」
 ソルダムとコーラスに、そのことは聞いた。
 その詳細を、隠すこともなく話してくれようとするシイナに、ララクセルズは黙って頷いた。


 彼は、魔法を得意とするウィザードで。
 大魔法も平然と駆使する素晴らしい技の持ち主ではあったけれど。
 それ故にか、個性的かつ繊細な精神の持ち主でもあって。
 あまり他と馴染めないというか、極端を言ってしまえば、この世の中自体と馴染めないような、そんな印象を他に与える人でもあった。
 偏屈で、我儘で、でも正義感は強くて、けれどわが道を行くその精神は、多くの者には理解され難い。我儘であるがゆえに、理解されようと努力もしない彼の心は、どんどん世界から置いて行かれる事となり。
 それでも理解し合っていると思っていたシイナに、彼は別れを告げた。
「多分、今度オレが傷を負ったり死にかけたりしたとしても、お前の魔法では治癒することができない」
 彼はシイナに、そう言った。

 モンスター討伐は、命懸けだ。
 危険と隣り合わせだからこそ、プリーストの治癒能力は必要不可欠である。

 けれどそれは、生きようとする意志があればの話。

 シイナがアインブロックでシドクスを助けることができなかったように、生きる気のない者、生きる力のない者に、聖職者の治癒魔法は効かない。

 彼は、自分がいつ死んでしまってもかまわないと、シイナにそう言ったのだ。
 世界も自分も、もうどうでもいいのだと。
 彼は、全てを棄ててしまっていた。
 だから、そんな自分の姿を見せるのも、そんな自分にシイナが巻き込まれるのも本意ではないからと。
 シイナは「そうか」とだけ言った。止めようもなかった。

 その日を境に、彼はシイナの前から姿を消した。
 その後、彼を見たという噂すらも、一度も聞くことはなかった。


「今ではもう、どこかで死んでいてもおかしくはないよね」
 クスクスと困ったように笑うシイナ。
「……」
 ララクセルズは言葉がみつからない。
「オレはずっと一緒にいながら、彼が世界に絶望していくのを止めることができなかった。すべてを捨て去ることを留まらせる、足枷にすらなれなかった。――その程度の、相棒だった」
 彼が一番心を許していたはずのシイナ。そのシイナですら、彼を止めることはできなかった。
 自分がどんなに強く誰かを思ったとしても、何も変えることができないなら。
 足枷どころか、邪魔にしかならないのではないか。
 そんな自分が、誰かと共にあることに、意味なんかないんじゃないのか。
「シイナ!」
 思わず叫ぶララクセルズに、シイナは笑いかける。
「わかってるよ。極論だ。どうしようもないことって、誰にでもある。そしてそれが、自分の価値にすべて繋がるわけじゃない。生きていくのに理由なんてないかもしれないけど、理由を見出すことだって、絶対にできないってことじゃない。今は、そう言える」
 そう、言えるようになった。
 ララクセルズに会って。
 だから、その出会いに、シイナはとても感謝しているのだ。

「それ、開けてごらんよ」
 シイナは、ララクセルズが手に持つ箱を指差して促した。
 ガラクタがほとんどだけどね、と笑うシイナに、ララクセルズも笑みをこぼし、箱の蓋に手をかける。
 どんなものが出てくるのかとほんの少しわくわくしてしまい、なるほど高値で取引されるわけだと納得する。

 開いた箱の中には、一輪の花が入っていた。

「……うわ」
「ははは。本当に見事にハズレだ」
 何の変哲もない小さな花に、シイナは笑う。
「でも、結構かわいい花だぜ?」
 ララクセルズも笑いながら、その花を箱から出す。根もないたった一輪の小さな花が、この箱の中で今まで生きていたのは不思議だ。
 視界を彩る、明るいオレンジ色の花。
 大した価値もなくてゴメンな、と、さして申し訳なさそうでもなく言うシイナに、しかしララクセルズはありがとう、と返した。
「帰るまで枯れないといいな。ちゃんと活けてやろうぜ」
 律儀なヤツだな、と、シイナはまた笑う。
 生きていくうちには色々とあるけれど、この笑顔は本物なんだよな、と、ララクセルズは、そう思った。
 それが自分と出会ったせいであると、シイナが言ってくれるのなら。
 その思いにこそ、感謝を。
 そしてこれからもずっとそう思ってもらえる自分であり続けようと、そんな風に、思った。


 しかし、ララクセルズが持ち帰ったこの花。
 これが、意外なほどの生命力だった。
 一輪だけ差した花瓶の中で、いくつかの花をつけ。茎の半ばから、小さな根までもが姿を現した。
 それを見たララクセルズが鉢に植え替えると、それはしっかりと土に根付き、数を増やして。
 アインブロックの、決してきれいではない空気の中でもすくすくと育つ強い花を、もう少し増やしたら、街の人にも分けてあげようと、ララクセルズは考えていた。

 それは、シイナがララクセルズに感謝する気持ちのように。
 アインブロックという街を愛する気持ちのように。
 少しずつ街の中へと広がって行き。


 埃と煙に包まれるこの街に、いずれ、たくさんの花を咲かせるのだろう。





==椎名の呟き==
長いわ!
いつもの倍だわ!
途中で切ろうかとも思いましたが、なんか半端なので、一挙掲載と相成りました。
というわけで『感謝祭』もこれで最終話となります。なんつうか、半端感が否めませんが、終わりです! お付き合いありがとうございました。
青い箱はねー。本当に花が出た時の実際のガッカリ感ときたら(笑)。
小さな箱の中から、時折槍だの鎧だのが出てくる不思議(笑)。

次回作は、ROはお休みしてオリジナルに戻ろうかなとか考えてたんですけどね。
予定は未定というか、ある程度の骨組みはあるんですけど。
ちょっと、お休みをいただくかもしれません。ちょっとだけね。

★『感謝祭』最初から読みたい方はこちら★
★『Beautiful World』最初から読みたい方はこちら★


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