オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。

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36 Beautiful World ~小さな恋のものがたり09

2008.06.25

*RO恋人クエストにつきネタばれ有り、ご注意願います。

 問いかけるようなシイナの視線を受けて、アークは楽しそうに瞳を伏せた。
「カーラちゃんがね。シイナをうらやましがってたのよ」
「え?」
「シイナのように、大切なもののために他のすべてを捨てることのできる勇気と強い意志が欲しいって」
「……」
 そんなようなことを、初対面の時にも言われた。特にここに移り住んだことに対して言っていたようでもあるが。
「オレは別に、そんな大層な志しがあったわけじゃ……」
 ないと言いかけて、シイナは考える。
 ……いや。
 そうでも、ないかもしれない。
「私はわかる気がするわよ。あんたにとって大切なもの。あるんでしょ、ここには」
 住み慣れた土地を離れて、この街で暮らす理由。それだけの価値があるもの。
 この地に存在する大きな謎と、愛すべき人々。
 放ってはおけなかったもの。
 捨てられずに、選んだもの。
「……あるかもね。確かに。そのためにオレは全てを飛び越えて、ここにいる」
 あまりにもたやすく選びすぎていて、自分では気付いていなかった。
 それほど親しくもないというのに、それを見抜いていたカーラはさすがと言うべきなのだろうか。女性ならではの勘の鋭さというヤツか。
「時にそれは辛いこともあるかもしれないけど、そうできる勇気があるってのは幸せなことだと思うわ」

 アークが初めて見た時のシイナは、全身血まみれで呆然と立ち尽くしていた。何かを失ったような目をして、だからこそ、まだ失っていない何かを必死で守り通そうとしていたその姿。
 アークはそんなシイナを、知っている。

 シイナがあの時何を失ったのかを。
 どうしてあの時自分の手を取ったのかを――本当はもう、アークは知ってしまっている。
 自分が、一番大切にしていたものを、永遠に失ってしまったという事を。
 シイナがずっと隠し通そうとしているから、今は言わないけれど。自分はもう失ってしまったけれど、シイナには失くして欲しくないと、アークはずっと思っていた。こんな思いをするのは、自分だけで充分だと。
 生きていく上で、悲しく辛い別れなどいくらでも経験するものかもしれないけれど。

 この街であんたが見つけた大切なものならば、私も守ってあげられるから。
 あんたがそうしようとしてくれたように。

「……あのさあ」
 野菜サンドをガブガブと胃に押し込んでいたララクセルズが、辛抱たまらんとでも言うように、眉間に皺を寄せて口を挟む。
「さっきからお前らが何の話をしてるのか、さっぱりわからない」
 ララクセルズの言葉に、アークは思わず目を見張った。
「シイナがここに移り住んだ理由って話だけど」
「だから、この街に気に入った部分があったからだろ? それが何かなんて知らないけどさ、それだけじゃダメなわけ? 何もってまわったような会話してるんだ?」
「……」
 あっきれた。
 アークのそんな呟きに、ララクセルズは何も言えずに口をつぐんでしまう。呆れられるようなことを口にした覚えはないのだが、アークの訳知り顔は、あまりララクセルズの得意とするところではない。この年長者には、これまで言葉で勝てたためしがないのだ。
「核にいる人間ほど、気付かないものね……」
「何がだよ!」
 アークに食って掛かるララクセルズに、シイナはたまらず笑い出した。
「あははは。いいんじゃない? ララクの言い分が一番明確だよ。オレが一番いたい場所にいられるのが幸せって話」
「なんだよ、シイナまで……」
 むくれるララクセルズを適当にあしらっていたシイナだが、ひとしきり雑談した後で、彼の肩に手を置いて立ち上がった。
「オレはそろそろ家に戻るよ。カーラさんに見つかる前にね」
「そうか?」
 シイナの言葉に、ララクセルズは懐中時計を取り出す。まだ時間の余裕はあるが、そろそろ頃合かもしれない。相変わらず仕事熱心なララクセルズは、自分もそろそろ戻ろうと腰を上げた。
「今日は暇だから、夕飯の支度でもしておくよ」
 シイナの言葉に、ララクセルズはうんざりと首を振る。
「今日はオレがやるからいいよ……昨日のお前の鳥肉との格闘はちょっと酷かったぞ」
 パンの焼き方は少々上達したシイナだが、相変わらず料理の腕は男前だ。
「人のこと言えないだろ……」
 今度はシイナがむくれる。どっちもどっちだ。
「あんたらねえ! たまには私のところに料理教わりに来なさいよ! あんたらの作るものって、時々ホントに見てられないんだから!」
 常時腰にぶら下げているフライパンを掲げて叫ぶアークに笑顔だけで手を振り、シイナは街道を歩き出した。
 こんな会話のひと時も、シイナが手に入れた幸せのひとつだ。
 プロンテラにいたら手に入らなかったかといえば、そうでもないかもしれない。あそこはあそこで幸せな空間だった。けれど今手に入れたこの生活は、それとはまったく異質なもの。離したいとは思えない、とても大切なもの。

 そんな幸せのために飛び立つ勇気が欲しかったのだろう。あの少女は。

 けれど彼女はひとりではない。クルトがいて、いつか彼もカーラのために一歩を踏み出してくれるなら。彼との幸せにたどり着くそのために、彼女は強くなれるだろう。
 否。彼女はもう、そこへと向かって歩き出している。
 シイナをうらやんでいなくても、もう大丈夫なはずだ。
 シイナだってひとりでここまで来たわけじゃない。ひとりで幸せになろうとしているわけじゃない。ひとりであったなら、こんな風にはなっていなかっただろう。
 共にいたいと思える人に、出会えたから。

 ――君が、オレの勇気だ。

 今は訳のわからなそうな顔をしていた彼も、どうせすぐに気付くだろう。言葉にしないことも上手に拾い上げる、繊細な気持ちを持つ人だから。
 その時に、シイナがどれほど望んでここで暮らしているのかを知ってくれればいい。
 彼女がうらやむほどに、シイナが今、どれほど幸せであるのかを。

「とりあえず今は、結婚式待ちかな」
 あのもどかしい男女の未来の夢を脳裏に描きながら。
 シイナはひとり呟くと、ゆっくりと家路を辿って行った。





==椎名の呟き==
小さな恋のものがたり編は、これにて完結です。おつかれさまでした!
次回は~、少し番外編のような短く軽いモノを書こうかなと。場所はミッドガルドのプロンテラで。ROシリーズの最初にしか出てこなかった彼らも交えて、ララクとご対面させたりなんてー、ちょっと考えています。
クエストとは関係ないので、ネタバレはナシになるかな?

★『ちいさな恋のものがたり』最初から読みたい方はこちら★
★『Beautiful World』最初から読みたい方はこちら★


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