オリジナル&二次創作の小説を、まったり速度でお届け。 最近ボカロ(KAITO)にハマって大変な噂です。

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あなたに幸いを。

2008.10.06

 帰宅したマスターは、ほんの少し沈んでいた。
 それもそうだろう。
 今日は遠い親戚の葬儀とかで出かけて行った。あまり近しい人ではないと言っていたけれど、だからといって笑顔全開で帰ってくるわけはない。

「おかえりなさい」

 オレのおかえり、に小さく「ただいま」と返したマスターは、それでも少し微笑んでくれた。

 黒い上着を投げ出して、ネクタイを片手で引っ張って解き、床にドスンと座り込んだマスターは、静かだけど、深い深いため息をついた。
 疲れているんだろうか。
「お疲れ様」
「うん」
 また微笑む。けれど。
「何か、あった?」
「……」
 オレの言葉に、マスターは驚いたように顔をあげた。けれど、その視線はすぐに床へと落とされる。
 訊いてはいけない事だっただろうか。
「別に……うん」
 数秒間の間。
 何かを言わんとしているマスターに、口を挟まず待ってみる。無理に聞き出したいわけじゃない。
「今日の葬儀の人な。ボーカロイド持ちなんだ」

 トクン。
 人工物であるオレの鼓動が、身体の中で少しだけ早くなった。

「まだ若いのに、事故でな。だから死ぬまでずっと、『あの子を置いていけない、置いて行くのは嫌だ』って、ずっと、ずっとそう言っていたらしい」
「……」

 ボーカロイドは、マスターを失ったら生きてはいけない。
 否、生きて行く事を許されない。それが、世界の決まり。
 この世界には、最先端の技術を誇る人工生命体が、数多く存在する。ボーカロイドだけでなく、医療系、事務系、娯楽系。
 有機物に限りなく近い細胞で培養されるその生命たちは、自己の能力で感情に似たものをも生成することができる、最も人に近いもの。血も流せば傷つきもする、思考を持った半有機生命体。
 それは至上を目指す人間の作り上げた、罪深き生命。
 そんなにも人に近い存在でありながら、オレたちは、人と同じように生きることを許されてはいない。それは、人の体内から生まれた命ではなく、人によって作られた命だから。
 オレたち人工生命体は、マスターである個人、もしくは所有する団体を失うか、もしくは不必要と判断された場合、他への譲渡や、単独で生きて行く事が禁止されている。
 個人情報の所持だとか、複雑な問題が色々ある。
 何十年と添い遂げるか、数日で捨てられるか。それは所有者にかかっている。実際、お金の余っている所有者のもとに迎えられた人工生命が数日で放り出さることも、少なくは――ない。
 オレたちは、必要がなくなったら所有者からラボに返されるか、所有者を失くした場合は、自力でラボに帰らなければならない。
 そして、そうなったら、ボディこそ使える部分は再利用されるが、核となるいわゆる脳の部分は完全破棄、跡形も残さない決まりだ。
 人間で言うなら、それは死ぬという事。
 不慮の出来事で所有者を失い、自力で出身ラボ、もしくはそれに準ずる場所に帰ることができないと判断した場合、その人工生命体は、自らの情報部分を破壊し、機能停止することを最初から義務付けられている。

「あの人のそばにいたボーカロイドは、ラボに帰ったよ。後に待つ道は、たったひとつ。それを知っているから、あの人は、こんなにも早く散る自分の命を嘆かずにはいられなかったんだろう」
 マスターの親戚だというその人は、ひとり暮らしだと聞いた。家族と共に暮らす人よりも、そのボーカロイドとの絆も深かったのかもしれない。
「あまりにも、気の毒だと思った。悲しいと思ったよ。あの人の気持ちを考えたら、どんなに悔しかったろうかと」
「うん」
 淡々と語るマスター。
 でも、それは仕方のない事だと、オレたちは知っているよ?
 置いて行くその人の悲しみは、置いて行かれる側のオレも、とてもよく理解できる。けれど、マスターがそんなに悲しまないでほしい。
「違うんだ。お前の言いたいこと、わかる。だけど、そうじゃないんだ。オレは」
 マスターは顔を上げない。
 オレの前に座ったまま俯いているから、その表情は見えない。
 どうして? 何が、ちがうの?
「遠くても、血を分けた人の悲しみを理解しながら、その気持ちを慮る顔をしながら、それでもその亡骸と残されたボーカロイドを見つめながらオレは……ッ」

 ぎゅう、と、マスターの手が床の上で握りしめられる。

「この厄災が、オレに降りかかった事でないのを、幸いと――」

 オレでなくて、良かったと、思ったんだ。

「人が亡くなった先で、最低だろ」
「マスター」
「人はいつか死ぬ。その時はお前たちも道連れだ。いつか来ることはわかってるし、こんな社会を作り上げたのも人、それに乗っかったのはオレ。わかってることだけど、そんなのはまだまだ先、最後まで生きるだけ生きられるのならいい、そうでなく途中でリアイアしたのが、オレでなくて良かったなんて」
 マスター。
「オレが死んでも、誰からも悲しまれないよな。こんな風に考えるオレが」
 マスター。
「人は勝手だ。だけど、オレはその中でも特に」
「マスター」
 床を見つめたまま上げられることのないマスターの頭を、両腕でそっと包み込んだ。

 勝手? だけどそれは、オレの事を心の底から思ってくれるが故の勝手。
 オレを残して逝きたくないが故の。

 大体、これはマスターの独り言でしょう?
 その独り言を、オレがたまたま聞いていただけ。
 人だったらみんな、心の中では色々な勝手を考えているでしょう。誰にも聞かせることのない場所で。それが許されないことなら、人は全てを許されながら生きていくことなんてできないよ。
「最低でもいい。オレに関する勝手なら、誰が許さなくても、オレは許してあげる。マスターは少しも悪くない。オレは、マスターが今日死んでしまったら、明日を生きていくことなんてできないから。だから、死にたくないと思うマスターが、オレには嬉しい」
「カイト」
「マスターが喜んだのは、その人が亡くなったことにじゃない。自分が生きていることにでしょう。それは、罪なこと?」
 死の悲しみを知っているが故の、生の喜び。
 それの何が悪いのか。
「オレも言うよ。オレは、貴方が生きていてくれることが、嬉しい」
 腕に少しだけ力を込めると、マスターの右手がオレの膝の上に乗せられた。
 マスターの体温が、そこから伝わってくる。
「ありがとう」

「あんまり悲観されると困るよ。ありのままでいい。いつでも本音でいいよ、マスター? 貴方の事なら、全部受け止めるから」

 オレが。

「うん――了解」
 顔は見えないけど、多分、マスターは笑ってくれた。
 それでいいよ。幸せでいてほしい。
 マスターがいなくなったら生きて行く事を許されないオレだけど、許されなくたっていいんだから。オレたちはみんな。

 オレは、貴方と共に、行くんだから。
 そう、約束してるんだから――ね?








====================
一発打ちで修正も施していないぶっちゃけ小説ですんません!!!
前回書いたものの微妙に続きくさいモノのくせに、前回と世界観が少し変わってます。
ボカロの存在とかいろいろ設定が。
人の欲望は天井知らず、量産を果たした有機生命体は、比較的安価で手に入っちゃいます。いやな世界だねえ。それでもまあ高いことに変わりはないんで、まあ金持ちだとか、つてがある人が所有してることが多いです。
このマスターは身内につてがあるようです。はい。

うっかりカイトの前だと本音さらけ出しなマスター、みたいな?
なんかカイマスくさいですね。すみません、好物です。
誰かこいつを殺れ。
ごめんなさいごめんなさい。

コメント
No:26|管理人のみ閲覧できます
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2008/10/09 01:12|by -| |編集
No:27|
コメントレス>
08/10/09 01:12 カギコメさま

いつも見てくれてありがとうねえ。
うん、すごく嬉しいから、またいつでもよろしくお願いします♪

うん……まあその、一応テキストエディタに打ち込んではみたんだけど、まるっと修正せずにそのままUPしちゃったんで、ホントに一発打ち込み……^^;

文章にしちゃうってのは、そこにいるキャラクターの心の内面まで丸見えってことで、その心の中ってのはまあ、対面だけでどうこうできる世界じゃないよなーとか思ったんだよね。
で、きっと心の中ではこのくらいの事、思うだろうなあって。
こういう場面の場合。
最初にこれを書くときに本当に一つのことしか考えてなくて、
「この厄災が自分のものでなかった幸い」ということだけ^^;
単にここだけが書きたかったんだけど、ちょうどいい場面だし、最近決まった設定でも固めておこうかなーなんて。

貴方の言うように、生きていることそのものが罪、なんて話も題材としてはたまに聞きますよね。
でも逆に、ならみんな罪を背負ってるんだからいーじゃんってのが、私の日頃の考えです。
それを今回はカイトが言ったようですが(笑

この二人や私の幸せを望んでくれる心優しいあなたの幸せも、椎名は心から望んでいますよ。
お互いがいつもそうあれたらいいねv
2008/10/09 22:44|by 椎名|椎名 URL|編集
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